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#059 ギルドの依頼は灰色ガトル狩り

 ギルドの扉を開くと、かつて村に初めてきた時に出会った老いたマスターとセリウスさんがテーブルに着いていた。それに体に包帯を巻いた見慣れない男が1人、武器を持っていないところを見ると村人らしい。


 「来たか。まぁ、ここに座れ。」

 俺と姉貴をセリウスさんが手招きする。


 「夜分にすまないの…セリウスから聞いてはおるじゃろうが、雪レイムの罠を見に行った者達が灰色ガトルに襲われた。4人の内、1人が亡くなり1人が重症じゃ。残り2人も無傷とはいかずごらんの有様じゃよ。」

 マスターが改めて包帯男に顔を向ける。


 「亡くなった者には気の毒じゃが、雪レイム狩りは冬のこの村の重要な現金収入じゃ。止める訳にはいかぬじゃろう。そこでだ、御主達に灰色ガトルを退冶してもらいたい。報酬は1名銀貨5枚。…灰色ガトルの縄張りは広い。恐らく村近くの群れは1つじゃ。そして普通の群れであれば数頭を越えることはない。」

 

 「返事は最後にする。それよりも、灰色ガトルに襲われた状況を教えて欲しい。」

 セリウスさんの言葉に、それまでジッと下を向いていた包帯男が口を開いた。

 

 「森を出て西に向かうと、俺達が3本杉と呼ぶ大きな杉の木がある。その周辺はなだらかな斜面で普段から山ネズミが多いところだ。冬にはそれを狙う雪レイムが次々とやって来る。其処に俺達は罠を仕掛けた。2日程前の事だ。」

 「そして今日、罠を見回りに行ったら……雪レイムが食いちぎられていた。次の罠も同じだった…その次もそうだ。これはおかしいと、皆で相談して戻ろうとしたら……」

 包帯男は嗚咽で言葉が続かない。


 「そして、灰色ガトルに襲われたんじゃ。無我夢中で逃げたはいいが途中で転んだものには群れが襲い掛かったそうじゃ。それで、残りは助かったようなものじゃがの。」

 老人が補足してくれた。


 悲惨な話だ。雪の中で必死に逃げたんだろうけど…一生トラウマになるんだろうな。

 

 「3本杉は知っている。ではその周辺にいるということだな。」

 「そうじゃと思うがの。どうじゃやれそうか?」

 「3人で行く。ミケランは身重だ。キャサリンでは雪山は少し難しかろう。剣姫もあの姿ではな。そしてジュリーはあくまでも剣姫の供だ。」

 ミーアちゃんとサーシャちゃんも論外だよな。だけど、アルトさんと一緒に一騒ぎしそうな気がするけど大丈夫かな?

 

 俺達は早朝に村を立つ事にして、ひとまず家に帰る。

 セリウスさんは寄るところがある。なんて言っていたけど、何か必要なものでもあるのだろうか。


 家では、全員が俺達を待っていた。

 「何時出かけるのじゃ。皆の準備は出来ておるぞ。」

 アルトさんが鼻息も荒く言ってるけど、そんな姿でその言葉はちょっと可愛すぎます。

 

「それがね。セリウスさんと、私と、アキトの3人で山に行くことになったの。皆には、残って欲しいんだけど……」

 「何人やられたのじゃ。」

 「亡くなったのは1人みたいだけど、村に辿り着いた3人も怪我が酷いわ。」

 「なるほど、血を辿って村に来るやも知れぬというわけじゃな。…となれば、西門を破られる訳にはいかぬか…分った。我らが村を守り抜こう。」

 

 アルトさんが固い決意を示してるけど、置いていく事を随分と好意的に解釈してるような気がするな。それとも、ミーアちゃん達が納得するように自分から姉貴の言葉を補足して納得するように仕向けたんだろうか。


 「サーシャ、ミーア。セリウスの家に移動するぞ。此処ではイザという時に遅れを取る。毛布も無いはずだから、宿泊用具をソリに積み込め!」

 嬢ちゃんずが、たちまちの内に荷物をソリに積み込んでいく。しっかりとスゴロクも積み込んでた。

 「良かったですね。姫様の性格はアレですけど、大局を見る目は持っていて良かったと思います。」

 ジュリーさんがパタパタと荷物を運んでいる嬢ちゃんずを見て俺達に言った。

 

 俺と姉貴は冬山に備えて、耐寒用のインナーを身に着ける。迷彩シャツの上には革の上着を着て、頭にはガトルの毛皮で作られた帽子を被った。装備ベルトを革の上着の上に取り付ける。腰のバッグの中身を確かめて、これに鹿に似た獣の革で作られたマントを羽織れば出来上がりだ。

そして、足には軍用ブーツの上に麦ワラ製の雪靴を履く。雪が深ければ、枝を編んで作ったスノーシューを雪靴に履くことになる。


 皆が準備できた所で、セリウスさんの家に向かった。

 まだ朝には早く、薄暗い通りを嬢ちゃんずがソリを曳いて先行し、俺達はその後ろを歩いて行く。結構雪が深くなってきた。通りでももう20cm程積もっている。


 セリウスさんの家の扉をアルトさんがドンドンと叩く。

 扉が開いて、顔を出したのはミケランさんだった。


 「寒いから、早く入るにゃ。」

 その言葉に嬢ちゃんずがドコドコと中に入る。早速雪靴を脱いで暖炉の前を占拠した。

 家の中では、セリウスさんが身支度をしていた。猫は本来寒いのが苦手なはずなんだけど、そんなことは言っていられないのだろう。

 

 この家もリビングの床板が半分以上張る事が出来たようだ。これなら、床に雑魚寝しても、暖炉がある限り寒くは感じないだろう。壁の丸太の隙間も詰め物をしっかりしているようで、前みたいに隙間風を感じることはない。

   

 「アキトとミズキは準備はいいのか?」

 革のマントの紐を結びながらこっちを向いてるセリウスさんに頷く。

 「では、出掛けるとしよう。…姫様。後は頼みます。」

 「あぁ、頼まれた。存分に暴れてこい。」

 

 外に出ると、一気に寒気が押し寄せてくる。

 「これを、持っていけ。」

 そう言って渡されたものは、船のかいみたいな物だった。

 「雪山ではすこぶる重宝だ。使い方はその都度教えてやる。とりあえずは杖代わりになるだろう。」

 

 雪靴で村の西門へと歩いて行く。

そして門の扉はしっかりと閉ざされていた。

急いで当番の村人を起こすと、扉の開放を頼む。

「雪レイムを狩る連中が、山から手負いで戻っている。来るとは思えぬが、よく見張っていることだ。万が一にも灰色ガトルが来た場合は俺の家に黒がたむろしている。彼女達に助けを頼め。いいな!」


 当番の村人2人は頷くだけだったが、やることは分ったようだ。俺達が門を出ると、硬く扉を閉ざし、篝火を焚き始めた。


 村を出ると、何処が道だかまるで判らない程に雪が積もっている。

 一歩毎に雪靴の半分位が埋もれてしまう。たまに、櫂で足元を差して硬い場所であることを確認しながら歩いて行く。


 「少し休むぞ。」

 セリウスさんがそう告げた時でも、遠くにまだ篝火が確認できるぐらいの距離だ。

 「何時、灰色ガトルが出るか分らん。疲れる前に休みながら行くぞ。」

 革のマントの上に体を投げ出すように休んでいる俺達に説明してくれた。


 休んでいる内に、【アクセル】を皆に掛ける。体機能2割上昇だけど、少しは歩きやすくなるだろう。

 そして、また歩き出す。森の小道は、更に歩きにくくなってきた。たまに枝から雪が落ちる音に驚かされる。

 そして、夜が明ける頃に森を抜け、左に進んでいくと、低い潅木だけの野原に出た。


 「3本杉はこの下にある。これを利用して滑りながら下りるぞ。」

 セリウスさんは櫂の柄に腰掛けるようにして櫂の平らな部分で雪面を滑り始めた。

 俺達も同じように後を追っていく。

 すると、直ぐに3本の大きな杉が見えてきた。

 

その傍で滑りを止めると、今度は雪だるまを作るように雪玉を作り始めた。

 3人で10個程度作ると、今度は杉の木の根元近くに2列に並べ始める。

 「アキト。少し下りると森になる。長さが10D位になるように枝を切ってきてくれ。…そうだな、10本位は欲しい。」

 そう言って俺にかたに担いだ片手剣を1本渡してくれた。

 早速、教えられた通りにしたの森に行き、枝を担いでくる。


 「それをこの上に並べるんだ。」

 セリウスさんは枝をしならせて、真ん中付近が高くなるようにしながら雪玉に差し込んでいく。そしてその上に雪を被せ始めた。

 中の雪をかきだし、入口にマントを1つ被せると、即席のカマクラモドキが出来上がる。


 中で4人が十分に休息できるぐらいの広さがあり、入り口近くを更に掘り下げると地面が覗いた。そこで小さな焚火を作る。

 枯枝のぬれた表皮を剥ぎ取り燃料ジェルを塗って作った小さな焚火だが、濡れた手袋を乾かして熱いお茶を飲む事は出来る。


 干し肉を炙って齧りながらお茶を飲む。

 「ミズキ、夕方までに雪レイムを狩りたいのだが、…そのクロスボーはどの程度の飛距離を持つのだ?」

 「私のは、そうですね…100m此方の単位では300Dは大丈夫ですよ。」

 「其処まで当たるのか。丁度いい、2匹程仕留めたい。」


 姉貴とセリウスさんはカマクラモドキを出て行った。

 少し早いが俺は此処で夕食の準備だ。適当に干し肉と乾燥野菜を鍋にいれて携帯コンロで煮込む。ある程度煮込めば調味料を入れて焚火の傍に置いておけば夕方には出来上がるだろう。


 だいぶ経った頃に姉貴が帰ってきた。

「日が傾くと急に冷えるね。雪レイムは4匹仕留めたわ。今、セリウスさんが何か仕掛けを作ってるわ。」

 姉貴は焚火にあたりながら教えてくれた。

 しばらくするとセリウスさんが入口で雪を掃いながら入ってきた。


 「後は、待つだけだ。レイムに枝を結んでおいたから、奴等が来たら枝が動いてガサガサと音がでるので判るはずだ。」

 そう言いながら焚火にあたる。小さな焚火だけどカマクラモドキの中は結構暖かい。

 「どの程度待つんですか?」

 「そうだな。たぶん夜中過ぎになるだろう。少し早いが夕食をとって、交替で休むとしよう。」

 

 雪の中で熱いスープと焼いた黒パン…それが夕食だ。体が温まった所で革のマントで雪の上に寝転ぶ。

 毛皮が水を弾くみたいでマントの裏は乾いているし、寒気も伝わってこない。

 小さな焚火でも結構暖かく感じる。たまに、扉代わりのマントを少し開いて周囲を確認する。

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