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#006 ハンターになるために

 

 次の朝、コーヒーの香りで目が覚めた。

 コーヒーを入れたシェラカップを「はい!」って姉貴から渡される。

 苦い味が、ぼんやりとしていた俺の頭を覚醒させる。


 俺が寝ている内に、出掛ける準備は終わったようだ。


 ミーアちゃんは昨日と違って、足首までのパンツと長袖のシャツを薄い皮のワンピースの下に着ている。昨夜、姉貴が縫っていた成果だと思う。

 足に履いているモカシンモドキは、俺が作ったものだ。とりあえず作ったものにしては、我ながらよく出来ていると思う。


 腰には、紐をつけたバックを肩から提げている。あまり出来はよくないが、物を入れるには問題ないはずだ。

 そして、背には……サミエルが持っていた短剣を背負っている。

 ジッと見ていた俺にミーアちゃんが気付いたようだ。


 「ありがと。お兄ちゃん!」


 と言って、姉貴の後ろに隠れた。

 ずっと、年下の兄弟が欲しかったが此処に来てようやく叶ったわけだ。


 嬉しくなって思わず、ミーアちゃんの頭をガシガシって撫でたら、姉貴に山菜鎌の柄でポコンって叩かれた。


 「虐めちゃだめでしょ!」


 メッ!って顔をしている。

 触らぬ……何とかで、こんな時は話題を変えるに限る。


 「もう、出かけるの?」

 「そうよ。丸1日掛かるみたいだから、急いで準備してね」


 準備と言っても、特にない。

 昨夜借りたクナイを姉貴に返しておく。ザックを担ぎ、山菜鎌を持てば準備完了だ。

 携帯食料をコーヒーで流し込むと、ポットの残り湯を炉に注いで火を消す。


 家を出て、先ずは長老の家に行く。

 まだ日も出ていない早朝だが、長老は家の前に佇んでいた。


 「出かけるんかいの。この時間に発てば、夕暮れには着くはずじゃ。

 南の道を真っ直ぐに行くんじゃぞ。……それと、ミーアをよろしくな」

 「はい。では行ってきます」


 姉貴はそう言って、集落の南に向いた道を歩き出した。

 出口の柵にはまだ番人もいなかったが、柵をずらして出た後は柵を元に戻しておいた。


 道と言っても、丁度荷車が通れる程度の踏み固めた道だ。

 周りは畑が広がっており、名前の知らない野菜類が育っている。

 そんな畑の中をウネリながら緩やかな下り道が続いていた。

 

 姉貴はミーアちゃんと手をつなぎながら俺の前を歩いている。ミーアちゃんの長い尻尾が歩くたびに左右に振れるのが、何となくかわいらしい。

 気が着くと、揺れる尻尾に合わせて何時しかハミングしていた。


 「ご機嫌ね!……この先の草原は、ガトルがたまに出るらしいから、気を付けてね。」

 「あぁ大丈夫。後ろは任せて」


 俺のハミングに気が付いたのか、姉貴が振り返って注意してくれた。

 改めて周囲を見渡すと、道の傾斜に合わせた段々畑の造りが進むにつれて雑になってきている。村の傍と比べると歴然としている。

 村から、南に向かって少しづつ畑を切り開いてきたような感じだ。


 道の途中に大きな岩があった。数本の立木も生えている。

 岩の傍には焚火の跡があることから、長老の言っていた村への休憩所として利用されていたようだ。


 時刻も丁度昼近く。ずいぶんと歩いてきたようだが、下り坂のせいかそんなに疲れてはいない。

 姉貴の「食事にしよう!」の一言で、この岩で休憩になった。

 枯枝を集めて、焚火の跡を利用して火を焚いた。


 ザックを探して、食料が無いことを姉貴に告げると、ザックから紙包みを取出して渡してくれた。

 中には、アルファ米とチューブ入りの味噌汁の素、それにビーフジャーキーみたいな乾燥肉だ。3人で食べても2日程は持つ量だけど……あのザックの機能から、これだけでは無いと思う。

 不思議そうに姉貴の顔を見た。


 「今は、これだけね。1月分位の食料は持ち込んできたけど、これから何があるか分からないから、少しは節約しないと……」


 言い聞かせられてしまった。

 確かに、そうだけど……、たまには腹いっぱい肉を食べたーーい。


 そんな中、「あれ!」ってミーアちゃんが持っていた先割れスプーンで草原を指した。もう一方の手にはシェラカップがあったので、スプーンを使ったみたいだ。


 「何?」って姉貴は小型双眼鏡でミーアちゃんの指した方を見た。


 「アキト。肉が走ってくるわ。準備して!」


 ようやく、俺にも様子が見えてきた。

 猪モドキの小さいのが数匹のガトルに追われている。


 姉貴がクロスボウを準備しているところを見ると、猪モドキを殺るつもりみたいだ。となれば、俺はガトルを退治して猪モドキを我が物にするのが役目になるな。


 猪モドキが岩の傍を横切ると同時に、山菜鎌を振り上げて追いかけてきたガトルに飛び掛った。

 着地と同時に1匹の背中を叩いて撲殺し、身を起こしながらて手近かなガトルを鎌に引っ掛けて投げ飛ばす。


 動きを止めると飛び掛って来るのは犬の習性なので、走りながら次の獲物の頭を殴る。さらに、吼えているガトルの首を横殴りに払って首を折ってやった。

 辺りを見渡して、他にガトルがいないことを確認する。


 ふうっと息を吐いていると、ミーアちゃんが岩から下りてきて猪モドキの走って行った方へ走り出した。姉貴も後に続いている。


 確か、右の牙だったよな。自分に確認しながらガトルの牙を頂戴する。貴重な換金部位だ。


 姉貴の方に歩いていくと、猪モドキの血抜きをしている最中だった。

 臓物を抜き、首と足の静脈を切って立木に吊るしている。


 「良い所に来たね。あの枝を切って簡単な橇を作って欲しいんだけど……」

 「良いよ。ちょっと待って」


 姉貴の指差した木の枝をグルカナイフで叩き切り、Yの字になるように余分な枝を切取る。

 そして、血抜きが済んだ猪モドキを橇に縛りつける。こうすれば、2本の枝が橇になり長手の枝を持って引き摺って行く事ができる。


 猪モドキをよく見ると、額に小さな角が一角獣のように出ている。

 ミーアちゃんが、短剣でガンガン叩くと基からポキンって取れた。

 大事にバックに仕舞ったことから、猪モドキの換金部位は角だったんだと気が付いた。


 それからしばらくすると、俺は平原の下り坂をズルズルと猪モドキを引き摺って歩いている。

 先を行く2人は軽快に、何を話しているのか時々笑い合いながら歩いているが、今の俺はそんな気楽さは微塵もない。


 たまに、遠くから俺を見るガトルがいるからだ。せっかく手に入れた肉を奴らに奪われないように、最大限の警戒を取りながら歩いている。


 だいぶ日が傾いてきた頃、ようやく遠くに村が見えてきた。

 ミーアちゃんの村とは、断然大きさが違う。

 百軒を越えると思われる村の家々は、丈夫そうな丸太の柵で全体が囲われており、門すらも見える。

 そして、どうやらこの道は、あの門に続いているらしい。


 近づくにつれ、大きさが実感できる。

 門も上部に櫓が付けれれている。丸太を裂いたような雑な板で作られた両開きの扉は、片方だけでも荷馬車が通れる程の横幅だ。

 皮鎧を厳つい顔の男が、2m程の槍を持って門番をしていた。


 ズルズルと猪モドキを引き摺って、門をくぐろうとした俺達の前にいきなり門番が立ち塞がった。


 「待て、見かけん奴だな……何処から来た?」

 「上の村から来ました。長老がガルトを倒せるぐらいなら、下の村へ行ってハンターに成れって」


 姉貴が丁寧に答える。


 「上の村……あぁ、あの集落か。確かにここにはギルドがある。イネガルの子供を途中で手に入れるぐらいなら、立派にハンターになれるぞ。よし、通れ!」


 門番はそう言って道を開けてくれた。


 「ありがとうございます。ついでに聞いて良いですか?ギルドの場所と、このイネガルですか、これを買ってくれる所を教えて下さい」

 「ギルドは、此処を真っ直ぐ言った先の十字路にある。盾の看板が目印だ。肉屋は途中の左側にある。骨付き肉の看板だから直ぐに判るはずだ」


 「「ありがとう」」


 門番に礼を言って、早速肉屋にイネガルという猪モドキを売りに行く。

 なるほど……骨付き肉が看板だ。

 肉屋で銀貨1枚でイネガルを売る。但し、後ろ足1本分はその場でこちらの取り分とした。それでも、皮と肉で結構な儲けを肉屋は期待出来るみたいだ。


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