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#057 冬は楽しくボードゲーム

 久しぶりに、ゆっくりと寝ていたような気がする。

 隣の姉貴はまだ寝ているけど、枕元の籠に脱ぎ捨てた服を着て、梯子を下りた。

 まだ、誰も起きていないようだ。結構朝晩は冷えるようになってきたから、布団から出られないのかもしれない。

 すっかり灰に覆われてる暖炉の熾き火を掻きたてて、粗朶を乗せると勢いよく燃えだした。適当に細身の薪を投げ込んでおく。


 外に出て、井戸で顔を洗う。目の前にそびえるアクトラス山脈の峰々はすっかり白く化粧を施していた。吐く息も白い……。もう直ぐここにも雪が降り始めるのだろう。


 「あら、おはようございます」


 振り返ると、ジュリーさんがマントを羽織って立っていた。


 「おはようございます。皆はまだ寝てるんですかね」


 ジュリーさんは少し微笑んだ。


 「そうなんですよ。アルト様達も起きてはいるんですが、まだベッドの中です」


 そしてお互い笑い出す。

 井戸をジュリーさんに譲って家に入ると、まだリビングは冷えている。

 早速、暖炉の前に陣取って薪を追加すると、ポットに水を入れて暖炉に吊るした。


 「これをお願いします。」って渡された黒パンを暖炉にかざして軽く焼き始めると、ジュリーさんは、野菜スープの鍋をポットと交換して暖炉にかける。 

 家の中が温まり始め、黒パンの焼ける香ばしい匂いがリビングに漂い始めると、ゴソゴソと音が聞えてきた。


 「「「おはよう!」」」


 どうやら、起きてきたようだ。俺とジュリーさんに挨拶すると、ぞろぞろと家の外にある井戸に連立って出て行った。


 4人が帰ってくる頃には、ジュリーさんの手で、テーブルに朝食が並べられていた。

 

 ジュリーさんって意外に多彩なスキルを持っているような気がする。

 魔道師で、ハンターで、アルトさんの付き人みたいだし、料理の腕は食堂のおばさん並だし、その上メイドさんみたいにサーシャさんの世話までしてる。

 ひょっとして、元祖戦うメイドさんなのかな。なんて考えながら黒パンを千切ってスープにひたしながら朝食を頂いた。


 「アキトはこの後、どうするの?」

 「そうだな、この間の続きをするよ。大体できたから後は色を着けるんだけど、暖炉で焼いてもいいかなって考えてたんだ」


 「そうなんだ。盤のほうはどうするの?」

 「この間の木箱の蓋で作ろうと思う。暖炉の火バサミなんかをうまく使えば模様もなんとかなると思うよ」


 「だったら、私とアルトさん達で仕上げるから、アキトはセリウスさんの方を手伝ってあげて。来春には赤ちゃんも生まれるわけだし、寒いのは可哀相だよ」


 確かに、後は俺がなんて言ってたけど、人手があるわけではないしね。


 「そうだね。じゃぁ頼んだけど、火事には気をつけてね」


 そんな事で、俺は町で購入した甲虫の羽を持ってセリウスさんの家を尋ねることにした。

 マントを羽織って家を出るとアクトラス山脈から吹き降ろす風が冷たい。

 通りにも人通りがなく、村の家の煙突から暖炉の煙が出ている。こんな日には暖かい家のなかで仕事をしているんだろうなって考えながら先を急いだ。


 セリウスさんの家の軒下には、大量の薪が積んであった。家を造ったときの残材や村人から購入した薪なんだろうけど、やはりこれぐらい必要なのかな。家のほうの薪は大丈夫なんだろうかと少し心配になるほどだ。

 扉を叩くと、「誰にゃ。」ってミケランさんが開けてくれた。


 「アキトにゃ。外は寒いから早く入るにゃ」


 直ぐに暖炉まで追い立てられるように迎え入れられた。


 「アキトか。昨日はご苦労だった」


 セリウスさんは暖炉前でパイプを煙らせている。朝の優雅な一時にどうやらお邪魔したようだ。

 「まぁ、座れ。」と言われたが、その前に甲虫の羽をセリウスさんに渡す。


 「この間、お話した甲虫の羽です。窓に使えるんじゃないかと持ってきました」

 

 受取った羽をじっくりと見ている。


 「十分に使える。これで、この部屋と隣の窓を布で目張りしなくとも大丈夫だ」


 「ありがとう。」と言葉を添えて暖炉の脇に片付けた。


 「はいにゃ。」ってミケランさんが俺にお茶のカップを渡してくれた。

 一口飲んで俺も、タバコを1本取り出した。暖炉の薪で火を点ける。


 「甲虫の羽はありがたいが、羽に剣で付けられた傷が何箇所かあった。……アキト、意味することは判るか?」

 「いえ、…甲虫との戦いで付けられたものではないのですか?」


 「甲虫の狩りは槍か弓だ。剣は使わない。甲虫の羽は軽く丈夫で加工しやすい。このため多くが鎧や盾に使用されるのだ。しかし、この王国では使われていない。だとすれば、近隣王国で何らかの戦いが起きた可能性が高い。戦場で拾った物を商人達が流通させたと考える」

 「そこまで、判るんですか」


 「まぁな。だが、そう深刻な顔をするな。甲虫の羽の装備など遥か西方の王国だ。この国が直ぐに戦を始める可能性は無い」

 「でも、トリスタンさんはサーシャさんを俺達に一時預けてますよ。何らかの事情があるはずです」


 「隣国と政治的な駆け引きが生じる可能性については聞いている。だが、それも心配するほどのことは無かろう。隣国からの使者が春には王国に来るはずだ。これは、サーシャ様の兄、クオーク様の妃選びに関係している。使者の中には、これを機会にサーシャ様を自国の嫁にと策を廻らす者もおるので一時的にこの村に置いたのだろう。娘は重い病に……と言訳した所で、肝心の王女が走り回っていたのではトリスタン様も言訳がしづらいだろう」


 要するに、兄貴の嫁選びの最中はお転婆娘はどっかに隠れてろって訳だな。なんかサーシャちゃんが少し気の毒になってきた。


 一息入れて、セリウスさんと窓を作り始める。

 窓の寸法を測って、窓枠を作る。枠を2個作り、枠の間に甲虫の羽を差し込んで接着剤で固定する。出来た窓枠を簡単な蝶番で窓に取り付ければ完成だ。

 窓の外には跳ね上げ式の板窓、そして、内側に開く甲虫の羽窓、その内側にカーテンがあれば、寒気をかなり弱める事が出来るだろう。

 暖炉の上に設けた窓から入る柔らかい光は、それだけでリビングが暖かくなるように思えた。


 俺達が窓を作っている時にミケランさんがシチューを作っていたようだ。

 暖炉の煙突の左右に窓を作り終えて、俺達は少し遅い昼食を頂いた。

 工事中の残材の板をカーペットに敷いて、その上に木の深皿が並べられているのを見ると少し寂しく感じる。


 「セリウスさん。この位の木の箱があるんですが、テーブルの代用になりますか?」

 「ありがたい話だが、貰っていいのか?」


 「はい。大丈夫です。」


 そんな約束をして、俺は帰宅したのだが……。扉を開けても誰も俺を相手にしてくれない。ふかふかカーペットに皆で座っているようだ。


 「ただいま。」ととりあえず声を出してみる。


 「お帰り……ちょっと待って、そこは、ごにょごにょ……」


 ん? 何をしてるんだろうとテーブルを通りすぎ、皆の所に行ってみると、チェスの最中だった。

 ミーアちゃんとサーシャちゃんの対戦だが、その後に軍師が着いている。

 どれどれって覗くと、どうやら終盤戦でミーアちゃんが優勢なんだけど、なかなか良い所にナイトが利いている。深入りするとクイーンを手放さなければならないみたいだ。


 ミーアちゃんがルークを動かす、ポーンが移動し、それをナイトが取る……。


 「チェック!」


 すかさずクイーンが動きそれをミーアちゃんのクイーンが取る。


 「チェックメイト!」

 「ウゥーン…負けたのじゃ」

 

 どうやら、俺の作ったゲームは好意的に受け入れられたらしいけど、俺がゲームに参加するのはかなり後になりそうだ。

 

 「そうなんだ。でも良く気が着いたわね」


 姉貴にセリウスさんの家での出来事を話した。そして、木箱を1個進呈する話も。


 「あと、軒下に沢山の薪があったけど、この家は大丈夫かな?」

 「この冬は越せるみたいだけど、雪が降ったら山から薪用の木を切り出すみたいよ。それが来期の冬越しの薪になるみたいだけど」

 

 木に水分が少ない季節に薪用の木を切り出すわけだな。秋まで乾燥させて薪割りをするんだろう。

 だとしたら、運搬用のソリを作らないとまずいな。それに雪靴……。うわ~色々と必要になる。冬はこの村にハンターが少なくなる原因が少し理解できてきたぞ。

 さて、何から取り掛かろうかとテーブルで考えているとジュリーさんがお茶のカップを差し出してくれた。


 「チェスですか……。たいへん面白いゲームですが、これを広めてもよろしいでしょうか?」

 「構いませんけど、広まりますか? この国にナイトの職種はないと聞きましたが?」


 「ゲーム上の職種としておけば問題ありません。この国には娯楽があまりありません。この種の潜在的な要望は高いのです」

 

 それだったら他のゲームも作ってあげたいけど、直ぐに思いつくのはスゴロクかな。ボードゲームの定番だし、人数が多くても出来るしね。

 早速、箱の側板を使って、少し複雑なスゴロクを作りはじめる。

 板に時計回りに渦巻き状に中心に向かうような線を引くと、適当に罠を仕掛ける。罠と言っても、ガトルに出会って1回休みとか、ギルドでレベルアップ5個進む……とかそんなものを沢山盛り込んだ。

 最後に、サイコロの木片に暖炉で焼いた火箸で目を作る。

 

 「ジュリーさん。これなんかどうです。皆で遊べると思うんですけど?」


 アルトさんと姉のチェスを観戦しているジュリーさんに聞いてみた。


 「どのように遊ぶのですか?」

 

 不思議な物でも見るように板を見ている。

 早速、暖炉の前に板を置くと、嬢ちゃんずを招いて簡単な説明を行なう。

 

 「このサイコロとか言う物を転がして、上面の星の数だけ、自分の駒を進めていくのじゃな。そして、此処に早く到達したものが勝ちとなるということじゃな?」

 「そうだよ。でも、此処に駒が来た場合は、ここに書いてあるとおりにしなければならないから、そう簡単に到達できないと思うけど」

 

 とりあえず始めようって事で始まったのだが……。


 「なんで、こんな所にタグがいるのじゃ。しかも、後に3つ逃げる。とは……」

 「やった! 『ギルドに依頼を届けて2つ前進。』順調にすすみすぎて怖いくらいじゃ。アルト姉は……」


 サーシャちゃんが、アルトさんにギロって睨まれてる。


 「わ~い。レベルアップでもう一回サイコロが振れるよ!」


 ミーアちゃんも順調みたいだ。

 俺は、最後尾を進んでいる。先ほど止まったマスは、『グライザムと格闘、怪我をして一回休み』だもんな。

 

 そんな俺達を見ながら何やら熱心にメモをとっているのはジュリーさんだ。

 なんでも、遊び方の手引きを書いているようなことを言っていたけど、この世界ではじまるチェスとスゴロクってどんなものになるかちょっと楽しみになってきた。

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