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後日談 3-03

 荒地が広がっているだけかと思っていたけど、遠くには集落のようなものが見えるし、畑を耕している人の姿も微かにみられる。


 「あっちの集落は屯田兵の人達だ。俺達の村から40M(6km)程先を開墾してるんだ。大きな戦が泉の森の先で起こったけど、屯田兵の人達がだいぶ活躍したと聞いてるぞ」

 「モスレム王国の兵隊じゃないの?」


 「兵隊を止めて農業で暮らすって聞いてる。開墾した場所は自分達のものになるんだ。先は長いけど、皆一生懸命に働いてる。数年間は王国から補助が出るし、税金もほとんど掛からないらしい。でも、王国から出動命令が下れば定められた数の人員を兵士として送るって聞いたな」


 きちんと開拓をしている者達もいたんだな。父様達も粒金に目を取られずに最初の場所を開拓していれば……。

 一瞬、昔の思い出がよぎったが、全ては済んだことだ。私達はハンターとして生きていくことを選んだのだから。


 「さて、この土手が薬草の宝庫なんだ。この土手の下には小川が流れてる。俺達も薬草採取の依頼を受けてきたから、ここで探すことにするよ。たまに小川の向こうから獣がやってくる事もあるから、見張りを1人置くのが鉄則だ。今日は俺が見張ってるから、あまり遠くに行かずに薬草を採取してくれ」


 話を終えると、サラミスさんは小川の方に歩いて行った。


 「兄さんは、見張りをしながら釣りをするつもりなの。ほんとに、困った兄さんだわ。さて、始めましょうか。サフロン草は覚えたでしょう。デルトン草は……、これがそうよ!」


 話しながら歩いていると、ルーミィちゃんが立ち止って、薬草を掘り始めた。取れた薬草の球根に付いた土を落して私に見せてくれる。


 「特徴は、葉の先が丸い事ね。球根は切れやすいから丁寧に掘るのよ」

 そう言って、私に渡してくれた。

 背負いカゴを下ろして、バドリネンに採取用のカゴを渡す。もう1つは私とアリシアで使う事にした。

 

 「昨日で覚えたから、僕がサフロン草を取るよ。姉様達はデルトン草を頑張ってほしいな」

 「兄様1人でだいじょうぶなの?」

 アリシアは少し心配そうにつぶやいた。

 「いつまでも、子供じゃないさ!」


 そう言って、採取ナイフを抜くと早速サフロン草を掘り始めた。

 弟の方が良いハンターになれそうだ。でも、私達だって……。

 

 気ばかりあせって、中々薬草が見つからない。アリシアが既に6個採取したのに、私はまだ4個だけなのだ。

 とはいえ、まだまだ始めたばかり。先は長いから午後には何とか姉としてのメンツを守りたいな。


 まだ夏だから、日が高くなるとかなり暑くなってきた。それでも、アリシアは一生懸命薬草を掘っている。まだ小さくて遊びたい年頃なのに……。


 「アリシア、あの木陰で少し休んでなさい」

 「まだ、だいじょうぶよ。お水もさっき飲んだもの。それに、もうすぐお昼でしょう」


 そんな話をしていると、サラミスさんが大声で私達を呼んでいる。どうやら、本当に昼食の時間らしい。


 小川のほとりに、焚き火を作って串に刺した魚を炙ってある。

 そんな焚き火の傍に私のポンチョを広げて弟達を座らせると、お弁当を配ってあげた。ルーミィちゃんが私達が取り出したカップにお茶を注いでくれる。


 「これが、この村の名物なんだ。1本ずつ食べてみな」

 そう言ってサラミスさんが串焼きを私達に1本ずつ渡してくれた。香ばしそうな匂いがするけど、どうやって食べるのだろう?


 「今日は、大漁みたいね」

 ルーミィちゃんがサラミスさんに話しながら、よく焼けている1本を焚き火の傍から引き抜くと、背中からパクリと食べている。なるほど、こっちから食べるのね。

 弟達に教えようと振り向いたら、既に美味しく頂いている。アリシアも嬉しそうに食べているところをみると、かなり美味しいに違いない。

 串の両端を持って、パクリ……。そのまま、どんどん食べてしまった。


 「どうだ? 美味しいだろう」

 「ええ、こんなに美味しい魚は初めてです」


 決して、お世辞ではない。塩味と淡白な魚の身が上手く調和している。昔の暮らしでもこの味の魚料理は無かったように思える。

 

 「昔はあまり捕れなかったんだけど、アキトに釣りを教えて貰ったんだ。この仕掛けも、アキトから譲られたものさ」


 私達と同じようなハムを挟んだ黒パンを食べながら、昔を懐かしむように呟いている。

 ここでハンターになったとは言っていたけど、あの若さで周辺諸国を含めたハンターの頂点に立つと言われたハンターがここでハンターを始めたのは数年ほど前の話らしい。


 「おもしろい狩りをしていたぞ。彼らなりに考えたんだろうけど、逸話には事欠かないな。俺がおもしろいと思ったのはアキトの狩りの仕方だ。アキトは剣や変わった魔道具を持ってたけど、一番多く使う武器は杖だったんだ。ガトルやタグの大群でさえ、杖で相手をしている。その一撃で、長剣よりも確実に獲物をし止めたのを俺は見ている」


 そんな話をしてパイプを楽しんでいるサラミスさんは長剣を背負っている。弟さんは短い槍だし、妹さんは弓を背中に背負っていた。

 私達は、私が片手剣を持っているだけだけど、早めに武器を揃えた方が良いのだろうか?


 「まあ、この辺りなら、まず獣はやってこない。一応念のために俺がここにいるけどな」

 「私達だけでだいじょうぶでしょうか?」

 「ほとんど危険はないけど、万が一ってこともあるからな。お前達に万が一でも起こってみろ。俺が袋叩きに遭いそうだ」

 そう言って笑っている。

 よほど親しかったんだろう。嬉しそうにアキトさんの事を話してくれた。


 食事が終われば、再び薬草採取が始まる。

 サフロン草は半分以上手に入れたらしい。デルトン草がもう少しで終わるから、そしたらアリシアと一緒にサフロン草を採取すればいい。


 日が西に傾き、少し日差しが和らいできた。

 依頼数は、とうに終わっているが採取できるときは採取しておくのがハンターだと教えてくれた。大目に取れれば、依頼数を手渡した後で再度依頼書の依頼をこなすことも出来るらしい。

 

 「さて、引き上げるぞ!」

 サラミスさんの号令で、村に向かって歩き出す。1時間程の距離だから、ギルドに着いた時も、まだ夕暮れには程遠い時間だ。


 カウンターのテーブルに出されたカゴの中にサフロン草とデルトン草の球根を入れてお姉さんに確認してもらう。

 依頼書に終了印を押して貰って、報酬を受け取る。2つの依頼書の報酬は合わせて85Lにもなった。

 

 「明日も、朝ここで待ってるからな。それと、これはお土産だ。スープに入れても美味しいぞ」

 そう言って3匹の魚を分けて貰った。

 お礼を言って、ギルドを出ようとしたところで、ルーミィちゃんが私達に【クリーネ】を掛けてくれた。

 薬草採取で汚れていた衣服が途端に綺麗になる。

 ルーミィちゃんにも改めて礼を言って今度こそギルドを後にする。直ぐに長屋に帰らずに雑貨屋に寄り道をする。


 ルーミィちゃんに教えられたとおり、乾燥野菜と干し肉、塩に干した果物を買い込んだ。30Lが無くなったけど、食事を抜くわけにはいかない。次に宿屋によって、大きなパンを2つ購入する。1つ2Lという事だから、残金は50Lということになる。今朝の残金が10Lで、お弁当代が9L……。都合、51Lが私達の収入ってことになる。

 1人分にすると17Lだから、確かに宿にはとまれない。でも、明日もこれ位の収入があるなら食堂で夕食を取るのも良いだろう。今の私達が出来るちょっとした贅沢となるのかな……。


 長屋に帰ると、やることが色々ある。

 バドリネンとアリシアにポットと水筒の水汲みを頼むと、私は囲炉裏に火を焚き始めた。部屋の中が明るくなったところで、薬草採取の合間に折り取ってきた焚き木を入口の土間の隅に重ねた。生木だと直ぐに使えないらしい。たくさん集めないといけないぞってサラミスさんが言っていたから、しばらくはこんな感じで集めなくてはならない。


 乾燥野菜を使ったスープ作りは初めてだ。ルーミィちゃんが教えてくれた通りに、水の状態からカップ1杯分の乾燥野菜を入れて、干し肉をナイフで小さく刻んで入れた。沸騰したら味を見ながら塩を入れると言っていたから、しばらく待ってなけれあならない。

 アリシアがカップとお皿にスプーンを分けてくれた。バドリネンが火の勢いが一定になるように屈みこんで鍋の底を見てるのがおもしろい。

 

 「お姉さん、貰った魚はいつ入れるの?」

 アリシアの素朴な疑問に私は答えられなかった。肉が入っている鍋に魚を入れるのは聞いたことが無い。


 「もう一度焼いて食べようよ。美味しかったね」

 バドリネンの言葉に、彼を見て頷いた。良く気が付いたと褒めてあげたいくらいだ。焼き魚だからもう一度焼いても良いはずだ。

 バッグから紙包みを取り出して、串焼きをそのまま囲炉裏の灰に突き刺した。

 

 どうにか完成した野菜スープと焼き魚、それに柔らかいパン。

 弟や妹が美味しそうに食べる姿を見ながら、私もパンを千切って口に運んだ。久しぶりの柔らかいパンは、白パンではなかったけれども、姉弟3人で汗を流して得た食事だ。

盗んだパンでは決してない。これから3人で頑張れば、アキトさんのような有名なハンターにはなれずとも、誰の迷惑にもならずに暮らすことが出来るかも知れない。


 そんな暮らしが一か月も続くと、季節は秋に変わってきた。

 相変わらず薬草採取をしているけど、この頃はそれ程採れなくなってきている。草木も少しずつ枯れていく。


 「低レベルのハンターの冬の依頼は少ないんだ。後一か月もすれば薬草は採れなくなる。そうなる前に、簡単な狩りを教えるよ。狩りと言っても罠りょうだけどな。上手く行けばラッピナやラビーが捕れる。その毛皮を売ることになるんだ」


 狩りと言っても、罠猟らしい。蓄えは一か月で銀貨12枚以上になっているから、慎ましく暮らすならどうにか冬を越せそうだ。


 「昔使った、槍と弓があるから使ってみるといい。槍はサイルトが使ってた物だし、弓はルーミィが使ってた。捨てないで取っておいて良かったぞ」


 たぶん最初に買い込んだ得物なんだろう。思い出の品を私達に渡しても良いのだろうか?


 「貰って頂戴。私はミーアちゃんの弓が欲しかったけど、弓は心で引くものだと言われて練習したのよ」

 懐かしそうにルーミィちゃんが話してくれた。

 得物で狩りをするのではないという戒めなのだろうか? でも、心で引くってどういう事なんだろう?


 そんなことがあって、薬草採取の合間に私達は罠の作り方と武器の使い方を少しずつ教えて貰った。

 罠猟では、罠に掛かった小動物を狙う野犬が出るそうだから、私達も真剣になって武器の使い方を習う。

 弟は、サラミスさんの弟に槍を習い、アリシアはルーミィちゃんに弓を習う。私はサラミスさんに片手剣を習う事になったのだけれど、サラミスさんは長剣だ。

 それでも、昔の事を思い出すようにして私に片手剣の使い方を教えてくれた。その使い方は、昔屋敷にいた私兵やハンターの使い方とはまるで違った。どちらかと言うと、ダンスを教えて貰っている気がしないでもない。


 「アキトの片手剣の使い方は、真近で見たからな。それを教えてるんだけど、かなり変わってるだろ。俺も最初は戸惑ったんだが、今思い返すと理に適ってるんだよな」


 基本的には円舞に近い。突き刺すのではなく斬りつけるのだ。斬りつけた後は、足を一歩踏み出すことで後ろに振りかぶった状態になるからそのまま斬りつける事が出来る。足を止めずに、攻撃を連続的に繰り出す。

 どのような師に付いて学んだかは分からないけど、確かにこの攻撃では相手を翻弄ほんろう出来るだろう。

 


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