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後日談 3-02


 サラミスと名乗った青年の後に付いて村の通りを歩いていく。

 どうやら、この村は最近東に大きく区画を伸ばしたようだ。村の家並みが一旦途切れて、小さな畑が続いても村の通りはまだ伸びている。

 しばらく歩くと、東に門が見えてきた。その門の両側から、大人の背丈よりも高い柱がずらりと並んでいるのが見える。


 「あの門の先に小川があって、その先が泉の森だ。赤1つなら小川の橋を渡らずに、村側にいれば危険な目には合わずに済むぞ。それで、住む場所だが、あの長屋だ」

 

 通りから北に向かって伸びる小道の先に長屋が数棟建っている。丸太作りの長屋はしっかりした作りに見えた。

 長屋に着くと、ギルド長から渡された鍵に付けられた番号の付いた扉のところに向かう。


 「ここらしいな。まあ、開けてみろよ」

 

 青年の言葉に、鍵を使って扉を開けて中に入った。

 15D(4.5m)四方程の板の間があった。部屋は一間らしいが、中央に囲炉裏が作ってある。部屋の天井付近に2つの煙出しが見えたから、ここで火を焚いてもだいじょうぶなんだろう。


 「今は夏だから、毛布があれば寝られるだろう。無くてもポンチョがあれば十分だ。寝具は少しずつ揃えれば良いだろう。井戸は裏にあるし、トイレは共同だからな。ここまで歩いてきたなら、明日は休めば良い。暇なら……、ちょっと来てくれ」


 彼に付いて外に出ると、少し離れた草むらで何やら探し始めた。

 

 「合った! ちょっと来てくれ。これが薬草だ。葉の形を良く覚えておくんだぞ。この薬草の球根を取るんだが、それにはこの採取ナイフを使う。こうやって、周囲を突き刺した後で、深く差して取るんだ。ほら、これが球根だ」


 私の手に、そっと薬草を乗せてくれた。


 「練習がてらに、この辺で探すと良いかも知れないな。20個以上でギルドに納めれば、1個1Lで引き取ってくれる。依頼書があれば少し上乗せして貰えるぞ。食料は村の雑貨屋で買えるし、宿屋の1階にある食堂に行けば朝食は3L、夕食は5Lで食べさせてもらえる。お弁当は3Lだったな。それじゃあ、明後日の朝、ギルドで待っていてくれ。弟達を紹介するからな」


 それだけ私に伝えると、青年は帰って行った。

 改めて、長屋に戻ると、備え付けの箱から焚き木を取って囲炉裏に火を焚いた。水筒の水をポットに注ぐと、天井からぶら下がった棒の先端に付いたフックにポットを引っ掛ける。

 

 「姉さん、この箱にこんな物が!」

 

 バドリネンが奥の棚のように見える箱の中から、平たくなったクッションのようなものを取り上げた。板の間に座るのは足が痛くなってしまう。

 薄いクッションだけど、少しはマシに違いない。クッションを人数分取り出して、囲炉裏の傍に敷いて改めて座ってみた。

 ポットのお湯が沸いたところで、お茶を飲みながら、今後の暮らしを3人で話し合う。


 「薬草採取で1日いくら稼げるか分からないから、しばらく食堂には行けないわ」


 3人で全て外食となると、33Lになってしまう。薬草が取れる時期は限られているだろうし、冬には枯れてしまうだろう。現在残っている銀貨2枚と少しのお金は万が一の時に取っておくしかないだろう。


 「まだ、携帯食料が残ってるから、それを食べればいいよ。でも、彼らと薬草採取を行うときは……」

 「お昼はお弁当を食べましょう。それ位なら何とかなるでしょうし、たまには食堂で夕食を食べたいわね。料理も覚えなくちゃならないし、色々と教えてもらわないといけないわ」


 「食べられる木の実もなるんでしょう? もうすぐ秋だから、楽しみなの!」

 アリシア、そんなことを考えてたの? でも、それもありがたい話だと思う。

 王都から見ればかなり南の地方だから、冬だってあまり雪は降らないだろう。それだけ仕事が出来るはずだ。来春からは月銀貨3枚を納めなえればならないけど、1日当たりでは銅貨1枚に過ぎない。最初は途方もなく思えたけど、かなり温情溢れた待遇なんだろうな。


 その夜は、いつものように食事を作り、早々と横になる。1人クッションが2つあるから敷布団代わりに使える。久しぶりにゆっくりと眠ることが出来た。

 

 次の早朝。バタンと閉まる扉の音で目が覚めてしまった。どうやら隣の住人達が早朝早く出掛けたらしい。たぶんハンターで、遠くまで出掛けるためなんだろう。

 弟達を起こして、裏にある井戸で顔を洗う。ポットと水筒に水を満たすと、長屋に戻って朝食を作り始める。


 「朝食が済んだら、外で薬草を探すわ。昨日教えてもらったから、その種類だけ集めておけば依頼を取る時に使えるはずよ」

 「案内してくれた人は簡単に見つけてたよね。慣れれば僕達にも出来るかな?」

 「先ずはやってみる事よ。最初から直ぐには出来ないと思うわ」


 朝食の片付けをアリシアと一緒に行うと、帽子をかぶって3人で長屋の裏手にある荒地に向かった。この辺りなら畑にするのだろうが、長屋の住人はハンターが主らしいからだろう。

薬草採取は、下草が結構あるけど、切れ目のたくさん入った葉は特徴があるから見つけるのはわけはないと思っていた。でも、いざ探すとなると似たような草が沢山あるので迷ってしまう。


「見つけた!」

アリシアの言葉に傍によって、彼女が指さすものをバドリネンと一緒にジッと見つめる。


「よく見つけたな! 確かにそうだ。それで取り方は……」

「こうやって、こっちにも突き刺して、最後にグイッとだよね」


そう言いながら、アリシアが土の付いた球根を引き抜いた。昨日の話をちゃんときいていたみたい。

「上手ね! 今度は私達も頑張らないとね」

 アリシアの頭をなでながら自分にも言い聞かせる。

 そんな薬草探しを昼食も忘れて続けたところで、私達に足りないものも分かってきた。

 薬草採取にはカゴが必要だ。布袋に入れて集めてたけど効率は悪いし、後でちゃんと確認する必要も出て来る。


 早めに薬草採取を終えて、長屋に帰ってくると囲炉裏で夕食を作りながら今日の反省を3人で行う。

 

 「やはりザルかカゴが必要だと思うよ。出来れば2つ欲しいな」

 「そうね。それと焚き木も必要だわ。残ってた焚き木だと後3日も持たないしね」

 「私は、柔らかなパンが食べたい!」


 スープに浸したパンは私も飽きてきたところだ。たぶん村でパンも手に入るのだろう。銀貨を残して銅貨で必要な品を買う事になるだろうな。その辺りを明日は聞いてみよう。

 

 次の日。いよいよ今日から本格的に薬草を採取することになる。

 朝食を終えて、水筒に水を汲みなおすと囲炉裏に灰をかぶせて長屋に鍵を掛ける。3人で杖を突きながらギルドに向かう。

 途中の宿屋でお弁当を買い込み、ギルドの扉を開けた。そんな私に手を振る青年がいた。テーブルに席に3人で座っている。

 

 「やってきたな。俺の姉弟達だ。弟がサイルト、妹がルーミィだ。おい、挨拶しろよ」

 少し人見知りするのかな? それでもちゃんと自己紹介してくれた。サイルト君が16歳。ルーミィちゃんが14歳になるらしい。

 私達の自己紹介が終わったところで、カゴとザルの話を切り出してみた。


 「やってみたのか? 確かに必要だと思う。ザルが5Lで背負いカゴが10Lだと思うな。出掛ける前に雑貨屋で買えるだろう。それ位は持っているんだろう?」


 私は小さく頷いた。必要なものは揃えないといけないのは分かってるけど、それだけ余裕が無くなってしまう。

 

 「それと、ギルドでチームを登録すると、一度に2つの依頼を受けられる。今から行って来い、カウンターのサンディさんに言えば直ぐに登録してくれる。ギルドカードを持って行けよ」

 「分かりました。それで、昨日これだけ集めたんですが……」


 青年が数を確認して、ルーミィちゃんに何か告げると直ぐにルーミィちゃんが席を立った。

 「あそこにたくさん張り出されているのが依頼書だ。この数に見合ったものがあれば、事後承認で処置してくれる」


 私は2人のカードを預かってカウンターに向かった。チームの話は聞いたことがある。私のチームの名は既に決めていた。『ソーハンの2つ鎌』私の家の家紋だ。辺境の村ならその名前を知るものとておらぬはず。

 私達3人のカードにその名が刻まれたのを見て、父様は笑っておいでだろうか……。


 「これをお願いします!」

 ルーミィちゃんが昨日集めた薬草を依頼書と共にカウンターに預けた。

 ギルドのお姉さん、サンディさんが渡してくれた報酬は30L。それをルーミィちゃんがそのまま私に渡してくれた。

 

 「通常価格なら1個1Lなんですけど、20個で30Lの依頼書がありました!」

 そう言って私に微笑んでくれた。

 袋にはまだ残っているけど、これは今日の採取した薬草と一緒にすればいい。

 テーブルに戻りながら、ルーミィちゃんと一緒に依頼掲示板から薬草採取の依頼書を2枚取って、再度カウンターに向かう。昨日採取した薬草はサフロン草と言うらしい。それが30個とデルトン草が20個の2枚の依頼書だ。確認印を押して貰って、その中に今日の日付がペンで書きこまれる。薬草採取の期限は5日らしい。雨で採取できない場合を想定しているのかも知れないな。


 「終わったか? それじゃあ、出発だ。お弁当はあるな? なら雑貨屋に寄っていくぞ」

 ギルドを出て、途中の雑貨屋で小ぶりの背負いカゴと持ち手が着いたカゴを手に入れた。薬草を入れる布袋はオマケして貰った。これからお得意さんですからと店員が微笑んでくれた。

 背負いカゴに薬草採取用のカゴを入れて、通りを東に歩いていく。


 「東の小川の土手にたくさん生えてるのよ」

 歩きながらルーミィちゃんが教えてくれた。どうやら東に見えた門を越えていくらしい。歩きながら、色々と教えて貰う事にしよう。


 村で一般的な食事、狩りに出掛けた時に簡単に食事を作る方法。そんな中で驚いたのは、役立つ魔法の話だった。


 「【クリーネ】は、早めに購入すべきよ。食事の後に食器をその場できれいに出来るし、体の汚れも落とせるわ。今日の帰りに私の魔法力が残っていたら、ちゃんと【クリーネ】を掛けてあげるね」


 ギルドでも、カウンターのお姉さんに頼むと1人2Lで掛けてくれるらしい。ハンター仲間では1Lが相場という事だ。3Lならば掛けてもらおう。

 門番のおじさんに挨拶をして門が開かれると、遠くに森が見えた。あれが泉の森なんだろう。

 そのまま、森に続く道を歩いて行くと、小さな木の橋が見えてきた。橋のたもとには大きな柱が2本立っている。どうやら跳ね橋らしい。

 その橋の手前で私達は右手に歩き出す。しばらく進むと、荒地が大きく広がっていた。

 


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