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後日談 2-07


 狩猟期の始まる3日前になると私達は忙しくなる。

 兄様達は屋台の準備に朝から走り回っているし、私は小さな赤ちゃんを抱いてミケランさんの家のリビングで、ひさしぶりに集まったサーシャちゃんやミーアちゃん達とアクトラス山脈のどこで、何を狩るのかを話し合う。


 でも、私達は皆小さな赤ちゃんを抱いている。私が抱いているのはミーアちゃんの双子の赤ちゃんの片方だ。だいぶ大きくなって、今では普通に食事をさせられると言っていた。

 旦那様達は、アキト兄様達の手伝いをしているらしい。優しい旦那様達だから、ちょっと羨ましくなる。


 「では、ここで良いな。かつてリザル族とアキト達との連携で倒した事はあるが、今回は我等だけじゃ。我等の技量と頭脳を最大限に使えば倒せるじゃろう」


 サーシャちゃんは相変わらずだ。

 そう前置きをして、今回の獲物と場所、それに作戦を私達に教えてくれる。

 雰囲気は、まるでかつての作戦指揮所そのものだ。でも、腕に抱いたミキネムちゃんの重さで現実に戻される。


 今回の獲物はグライザムの群れだ。群れと言っても4頭らしいのだが、サーシャちゃんは狩れると言っている。

 だけど、その狩り方はまるで戦と同じだ。

 サーシャちゃんの告げる準備品をリストに纏めて、明日はあちこち回らねばなるまい。それに兄様達には絶対内緒だ。絶対に止めさせられるに違いない。お婆ちゃんなら一緒に来てくれるかも知れないけどね。


 「こんな感じじゃな。我等の連携が重要じゃ。明日にはクローネもやってくるじゃろう。荷物が多くなるが、魔法の袋があるし、我等にはシルバー達がいる。これで今年はリザル族のハンターを抑えて我等が一番じゃ!」


 ミケランさんに別れを言って3人で赤ちゃんを抱きながら、私達の家に戻る。サーシャちゃん達は山荘に宿泊しているのだが、今夜の夕食は家で取るのだ。久しぶりに全員が揃うし、赤ちゃんが3人だから嬉しくなるな。旦那様達は今夜やってくるクオークさん達と夕食を取るのだそうだ。クオークさん達次ぎの世代の国王達もこの季節には村を訪れる。

 そう言えば、テーバイ女王のラミアさんも村に小さな別荘を作ったと姉様が教えてくれた。

 国王達の集まりもあるんだよね。サーシャちゃん達もいつまで狩猟期に参加できるか分からなくなってきた。ひょっとして来年は私とミケランさんなんてことにはならないよね。


 家の扉を開けると、テーブルに坐っていた人達の顔が一斉に笑顔になる。

 直ぐに、ミズキ姉様が私から赤ちゃんを抱きとると、腕の中の赤ちゃんを覗き込む。


 「やはり、ミーアちゃんに似てるよね。この辺りは私に似てるかな?」


 そんな事を言って皆の失笑をかっているが、当の本人はヨシヨシと赤ちゃんをあやすのに忙しそうだ。

 連合王国随一の作戦立案能力を持ってるんだけど、何時もはあの調子だから困ってしまう時もある。でも、それだからかな? 皆がミズキ姉様がスキなのは……。


 「それで、今年もリスティンを狩るの?」

 「ちょっと違います。でも上手く狩れれば上位間違い無しですよ」


 今までと同じで狩りの獲物を教える事は無い。

 

 「でもね、この子達がいるのよ。ユングには話してあるわ。フラウを連れて行きなさい!」


 私達は思わず顔を見合わせる。

 姉様には私達が何を狩ろうとしているか分かったみたいだ。


 「やむ得まい。じゃが……」

 「介入はフラウの判断って事にしてあるわ。全力を出しなさい。私は出来ると思ってるけど、アキトが知ったら、そのまま飛んで行きかねないから、一応念のため。貴方達の邪魔にはならないと思うわ」


 そんな言葉にサーシャちゃんが舌打ちしている。ちょっと行儀が悪いよ。

 

 「まあ、邪魔になれねば問題ないじゃろう。それで、屋台の方は何時も通りなのじゃな?」

 「何時も通りよ。今年は手伝ってくれる人が多いから助かるわ」


 サーシャちゃんやミーアちゃんの旦那様達も手伝うみたい。「直に国民と触れ合うのは良いことじゃ」とお婆ちゃんも賛成していた。私も、いつかはやってみたいな。

 

 あっという間に、狩猟期の朝が来た。

 私が起きた時には既に皆が出払っている。ディー姉様が作ってくれた朝食を食べると、身支度を終えた私の肩をポンっと叩いてくれた。

 無口な姉様だけど、私は一番好きだな。今でも一緒にベッドで寝てくれるんだ。

 

 ミルガルドが私達のチーム名。私達3人にミケランとミクにミト。それに今回はクローネさんとフラウさんが加わる。

 5匹のガルパスに荷物を積んで庭に皆が集まっていた。

 

 「遅いぞ。ミケラン達が手続きに向かっておる。ついでにアキトの屋台で今日のお弁当を調達してくるはずじゃ。リムのクローディアにフラウを乗せて欲しいのじゃが……」


 皆のところに近付く間も無くサーシャちゃんが私に話しかけてきた。

 

 「すみません。遅くなりました。フラウさんの方は大丈夫ですよ。私の鞍は2人用ですから」


 ミーアちゃんのように敵陣に斬り込むのならば体をしっかりと固定できる鞍が良いのだろうけど、私は資材の運搬をしてきたから、ベンチのように後ろに延びた鞍を使っている。

 鞍に沢山革袋を固定できるし、誰かを乗せてあげる事も出来る。


 とはいえフラウさんの格好は、体にぴったりと密着した黒い戦闘服姿だ。ベルトを付けてはいるが、兄様よりも小さな拳銃をレッグホルスターに収め、腰には小振りな革のバッグを付けている。山岳猟兵の帽子に良く似た帽子を被って、ほっぺに緑と黒を混ぜたような絵の具で横線を3本引いている。

 そんなフラウさんの武器はディー姉様の持つ長剣に似た剣だ。普通の長剣の1.5倍程長くて片方に刃が付いている。

 そんな長剣を背負って、私の前に来ると、「よろしく」って挨拶してくれた。

 私も「こちらこそ、よろしく」って答えると、互いに笑みを浮かべる。


 ユングさんは兄様と何時も色々話しているけど、私にはちょっと近付きにくい。でもフラウさんとラミィさんは私達とおしゃべりもするし、たまに狩りもすることがある。その実力は、ディー姉様と互角だ。


 「さて、狩猟期初日の我々は移動のみだ。明日は仕掛けを施し、明後日に狩りを行なう。その後は、初心者連中の狩りの邪魔者を重点的に狩る事にするぞ。リザル族のハンターとも事前調整は済んでおる。北門の先にある森の出口から西と東で分けておる。我等は東じゃ。新鮮組の出動等が起らぬようにするのが我等の本来の役目じゃ!」


 ミズキ姉様が組織した狩猟期限定の救助組織が新鮮組だ。狩猟期に参加したハンターには2つの爆裂球が配られる。黄色い煙と白い煙を出す爆裂球なのだが、その白い煙は救難信号になる。

 これから20日間、天文台と北門の櫓でずっと監視が行なわれるのだ。10M(1.5km)以上離れた2つの場所から白煙が上がった場所の角度を測定すると地図上で正確に位置が特定される。後は、屋台を切り盛りしている兄様達が新たなイオンクラフトでお婆ちゃん達を乗せて救援に向かうのだ。

 

 良く出来た組織だと思ってたけど、サーシャちゃんはその前に対処すべきだと私に話してくれた。白煙が昇るという事は既に危機的状況に陥っている。その前に危機的要因は削除すべきだと力説してたけど、私にもなんとなくその違いが分かる気がした。

 

 何時もなら北門の広場で上空の爆裂球の炸裂を合図に一斉に飛び出すのだが、今回はここでその時を待つ。

 ミケランさん達が大きな袋を抱えて帰ってきた。自分のガルパスに乗ると、ミクちゃん達はサーシャちゃんとミーアちゃんのガルパスに乗る。

 

 通りのざわめきがここまで聞こえてくる。

 今年も沢山の人達が狩猟期を楽しみにやってきたに違いない。

 そんな時。上空で爆裂球の炸裂音が3つ聞こえてきた。少し遅れて、一際大きなざわめきが聞こえてくる。


 「さて、いよいよじゃ! ミケラン先導を頼む。ミルガルドチーム出陣じゃ!!」

 「「オオォ!!」」


 縦列で5匹のガルパスが通りを走る。

 人が多いんだけど、その人混みを縫うようにガルパスは走り抜ける。

 兄様が私達を見て手を振ってくれた。沢山人が並んでいたから今年も沢山の儲けがあるんじゃないかな。その儲けの自分達の取分を教会に寄付しているのだ。

 王族の人達も同じように寄付しているとお婆ちゃんが言っていた。その寄付で、孤児達の冬越しの衣服が支給されるらしい。

 私達も狩猟期の報酬の半分をお婆ちゃん経由で教会に寄付している。全額でもいいのだが、お婆ちゃん達はそれ以上を受け取ってくれない。

 

 「リム達が命を掛けて得た報酬じゃ。将来に備えて持っおく方が良いぞ」


 そんな事を言っていたけど、将来ってどういう事?


 北門を抜けると一気にガルパスの速度が増す。

 狩場に急ぐハンターを次々と追い越して、森を抜ける頃には全てのハンターを追い抜いた感じだ。

 それでも、リザル族のハンターに合わなかったから、私達よりも更に先に行っている可能性がある。

 ミケランさんが森の出口の荒地を右手に向かってガルパスを駆ける。

 いよいよ私達の狩りが始まるのだ。

               ・

               ・

               ・


 20日間の狩猟期があっという間に終ってしまった。

 モスレム元国王主催のパーティが山荘で開かれる。屋台を楽しんだ王族達がその売り上げで騒ぐのが目的らしい。この残金が教会に寄付されるんだから、料理もお酒も殆どが持込だ。

 その席上で各国の屋台の売り上げが報告される。

 誇る者、悔しがる者……。それを見ている兄様の一言は「平和だね」。

 兄様達の屋台の売り上げもかなりのものだったらしい。来年にはアトレイムの王都にも元祖うどん4号店が店開きされると言っていた。

 

 「それにしてもグライザムを4頭とはね」

 「我等を越えたという事か?」


 「要は作戦じゃ。アキト達ならば問題なく狩れるじゃろう。だが、我等は非力。ならばどうすれば狩れるかと考えれば答えが出る」


 その顛末を話すサーシャちゃんの言葉を嬉しそうに聞いているミズキ姉様と、顔を青くしている兄様は対照的だ。

 とは言え、対空クロスボウでグライザムを狩るとは誰も想像しなかったに違いない。


 「じゃが、リム達は今年最大の見物を逃してしもうたのう!」

 「確かに。だがフェルミがあれ程アキト殿に迫れるとはのう」


 どうやら、フェルミさんがネリー砦よりやってきたらしい。それも兄様と試合をするためだったようだ。


 「で、どうなのじゃ? セリウスは負けておるから問題はないが、一応、婿殿が勝者じゃ」

 「彼の思いはしったつもりです。後は本人次第という事で……」


 「じゃが、あれだけ痛めつけるとはのう。まぁ、アキトではそうならざる得まいが……。まだ、唸っておるぞ」

 

 どうやら、フェルミさんが兄様に挑んだらしい。兄様の強さは折り紙付だ。勝てるのはミズキ姉様ぐらいなものだろう。ユングさんも「俺のほうが実力は上だと思うけど、勝つ気がしないんだよな」何て言っていた。

 

 どんな理由か知らないけれど、まだ【サフロナ】を掛けて貰っていないのだろうか?ミズキ姉様がいるのに……。


 「そうなんだ。内臓に達してたのかな?【サフロ】は掛けたんだよね。リムちゃん様子を見てきてくれない?」

 「分かりました。直ぐに行ってきます!」


 慌てて、部屋を聞くと私はリビングを飛び出した。

 チラリとリビングの人達の顔が見えたんだけど、何故か私を見て微笑んでいたような気がする。

 階段を上って2階に上がり、2つ目の部屋をノックして開けると、包帯でぐるぐる巻きにされた人物がいる。


 「フェルミさん?」

 「リムちゃんだね。まったくみっともない格好を見せてしまって申し訳ない。もう少し上手く立ち回れると思ったんだけどね」


 ベッドから上半身を起こそうとしたけど、途中でバタンとベッドに戻ってしまった。

 かなり重症なんじゃないかな?


 「【サフロナ】!」

 

 1日、1回だけの限定魔法だけど、今夜はもう使う事も無いだろう。

 

 みるみるフェルミさんの動きが通常に戻る。ゆっくりと体を起こして、包帯を外している。

 

 「ありがとう。助かったよ」

 「でも、何で兄様に挑んだんですか? ムチャすぎます!」


 全ての包帯を取り去って立ち上がると、長身のフェルミさんが私の前に立った。

 私より5つ以上も年上だけど、金色の巻き毛が良く似合うんだよね。


 「前に聞いた事があるんだ。ディートル君達がミーアちゃんとの結婚をアキトさんに承諾させるために試合をしたってね。

 僕は、リムちゃんに告白する前に挑んだんだ。皆に祝福されて告白しようとしたけど……」


 返り討ちにされたんだ。でも、私で良いのかな?


 「兄様は兄様で私じゃないわ。でも、1つ教えてください。何故私なんですか?」


 私の言葉に唖然として、しばらく私を見ていた。

 

 「知らないのかい? リムちゃんがサーシャちゃんやミーアちゃんと違って、一番なところは……」


 今度は私が吃驚する番だった。

 フェルミさんが私に引かれたところは、即ち、ずっと考えていた私の長所って事になる。


 「リムちゃんはね。皆の意見をちゃんと聞く事が出来るんだ。僕にはそれが一番大切なことだと思う」


 それって、長所なのかな? それにあまり役に立たないような気がする。

 でも、私の事をそう思ってくれて、尚且つそれが長所って事は嬉しいな。あの例では、お婆ちゃんと兄様もその範疇になってるけど、確かに2人とも皆の意見をちゃんと聞いて自分の行動を決めている気がする。

 私も、そうすればいいんだ。特に目だった長所も無いんだから、皆の意見を聞いてみればその違いが分かるかもしれない。それを十分に考えればサーシャちゃんに迫れるかも知れない。


 「ところで、リムちゃん。僕と結婚してくれないか? ボロボロにはなったけど、アキトさんの許しは貰ったよ」


 私は返事をする代わりにフェルミさんに抱きついてしまった。

 頭の中に私が小さい頃の母様が浮かんでくる。父様と並んで笑顔を私に向けて頷いてくれた。

 

 バタン!っと扉が開かれてミク達が部屋に雪崩れ込んできた。

 吃驚して皆を見てると、アルト姉様がきまり悪そうに双子を回収して私達に笑顔を向けると扉を閉めて去っていった。


 ずっと見られてたのかな?

 でも、今日は怒らないでおこう。私を好きになってくれた人が目の前にいるのだから。



              ―end―


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