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後日談 2-06

 

 兄様のお使いで会社に出掛ける。

 ユリシーさんはチェルシーさんと結婚したけど、村の雇用を一手に引き受けている。昔は、村の若者達が村を離れて働きに出掛けたらしいけど、今はそんな事が無くなった。若者の適正に合わせて色々な仕事を斡旋しているらしい。


 小さなログハウスが会社の事務所だ。その裏手に3棟の細長い建物がある。2つが機織工場でもう1つが細工物を作っている。機織場ではパッタンパッタンと規則的な音が響いている。10人以上の娘さん達が交代で機を織っているのだ。


 事務所の扉を開くと、オリビーが私に片手を上げる。ルーミーとオリビーは私の大の仲良しだ。

 

 「社長! お客さんですよ」

 

 暖炉際長椅子で誰かと話していたユリシーさんがこちらを向く。どうやら隣はシュタインお爺ちゃんのようだ。


 片手でおいでおいでをしているので傍に寄ると椅子の1つを指差す。坐れと言うのだろう。私がちょこんと座ると、2人が私の顔を覗き込むように見つめた。


 「アキトからの伝言か? ちゃんとアキトの出し物の場所は確保してあると言っておけ」

 

 どうやら、2人で屋台の品物の配置を考えていたらしい。テーブルの上には簡単な配置図があった。


 「それも伝えますけど、別の用件もあるんです」

 「ん……何じゃ?」


 私は、自分の長所を探している事を伝えた。今までの経緯を話し始めたのだが、そんな私の話を2人はジッと聞いてくれる。


 「リムちゃんも大人になったわね」


 私の話を折るように言葉が入った。

 チェルシーさんがお茶のセットを載せたトレイを持ってユリシーさんの隣に座ると、暖炉のポットをユリシーさんがお茶のポットに注いでいる。


 「チェルシーよ、リムが一生懸命に話しておるのを、途中で止めさせるのは良くないぞ」

 

 ちょっと渋い顔をしてチェルシーさんに注意している。シュタインさんも立派なパイプを咥えて頷いていた。


 「出来れば私がいる時に話して欲しかったわ。乙女心を貴方達に理解するのは困難というか無理な話でしょう?」

 「だが、少しは相談に乗れるやもしれん。それで、チェルシーはどうなんじゃ? ずっと聞いていたんじゃろう」


 確かにこの事務所は小さいから、私の話し声は聞こえていたのかも知れない。


 「私にはちゃんと分るわよ。でも貴方達にリムちゃんの今までの話で分ったかしら?」


 チェルシーさんの言葉に、シュタインお爺ちゃんとユリシーさんが首をひねり出した。


 「ね。分らないでしょう。リムちゃんの疑問は簡単なんだけど奥が深いのよ。それに、リムちゃんのような娘を持ったことが2人には無いでしょう。そこに気が付けば答えは簡単に出るの。たぶんオリビーも気が付いてるわよ。でも、これは確かに本人に気が付いてもらわないといけない気がするわ」


 チラリと入口のオリビーを見ると、私に気が付いて小さく頷いている。

 う~ん……。困ったな。分らないのがシュタインお爺ちゃん達と私だけになってしまう。


 「チェルシーさん。ヒントを下さい!」

 「良いわよ。アテーナイ様とセリウスさんにアキトさんの3人。この2人とユングさんの3人。後は、アルトさんとミーアちゃんにサーシャちゃん。これがヒントかな?」


 今度はお爺ちゃん達が考え込んでしまった。たぶんその括りで何かがあるんだろう。

 オリビーに目を向けると、やはり頷いている。

 

 「伴侶とワシとアルトを比べるのか? 違いがありすぎて返って分らなくなるぞ?」

 「ワシとアキトとミーアでも同じじゃ。共通項は悪人じゃないのは分るが、違い言えばありすぎるんじゃないか?」


 「別に狩りや器用さではないのよ。普段の何気ないところで、この3つに別れるの」

 「そうですよ。確かにその3つですね。ミクちゃん達はミーアちゃん達の中に入るのかな?」


 ん! 更にヒントが増えた。となると、ミケランさんはどれに入るんだろう?

 

 「ミケランさんはユングさんと同じになりますか?」

 「そうなるのかしら? ……たぶんそれで良いわ。意外と難しいのよ」


 なるほど、分ってきた。それは性格の1つだと思う。

 今晩ゆっくりと考えてみよう!

 

 「ワシ等の暇潰しが出来たわい。今夜ゆっくりと考えてみよう。アキトやユング達も来るじゃろうから丁度良い」

 「そうだな。だが、その前にワシ等も考えておこう。アキト達に事案されたくないからな」


 相変わらずの性格だね。思わず微笑みを浮かべてしまった。

 チェルシーさんは困った人達と言う目で見ている。呆れてるのかも知れないな。

 

 2人に兄様からの伝言を伝えると、急いで家に戻る。

 

 「ただいま!」と扉を開けると、「お帰り!」とリビングから言葉が返される。

 そんなちょっとした挨拶は大事なんだと何時も兄様が言っていた。たぶんそれもチェルシーさんのヒントに関係して来るんだ思う。

 

 「兄様の言うとおり2人とも事務所にいましたよ。ちゃんと伝えて来ました」

 「ありがとう。そうなるといよいよ狩猟期の準備を始めなくちゃ」


 兄様は結構面倒くさいことが苦手なんだけど、頼まれて嫌とは言わない性格だ。あれ?あの話は、これに関係するのかな?

 お婆ちゃんも、兄様も、そしてセリウスさんもそんな性格な気がする。私はどうだろう?

 確かに頼まれた事はちゃんとするけど、それだけなら長所って言わないんじゃないかな?


 「どうしたの。考え込んじゃって?」


 ミズキ姉様が私の顔を覗き込むようにして訊ねてきた。

 ここは、姉様の戦略家としての頭脳に期待しよう。


 「実は……。」と、会社の事務所での話をする。

 話を聞くにつれ段々と顔に笑みが浮かんでくるということは……、分ったんだろうか?


 「おもしろい例えだね。確かにそうなるわ。私はミーアちゃんと同じになるのかしら?」


 そんな事を言いながら、最後は兄様に確認してる。


 「俺がセリウスさん達と同じと言うのも以外だけど、アテーナイ様と比べると姉貴はその分類だと思うよ。それで、肝心のリムちゃんはどこに入ると自分では思ってるんだい?」


 私に順番が回ってきた!

 ここは良く考えなくちゃならない。アルト姉様やディー姉様もテーブルに坐ってお茶のカップを片手に私を興味深く見ている。

 思わずテーブルに顔を付けて両手で隠してしまった。


 「中々悩んでおるようじゃな。まあ、自分の事じゃ。じっくり考えて答えを出すが良い」


 そんな言葉が聞こえてきた。

 大きく3つに分類されて、それに該当する人を入れることが出来る。私が性格ではないかと思ってミケランさんを当てはめていたら、チェルシーさんはそれを肯定してくれた。

 さらに、先程ミズキ姉様は自分の事を簡単に分類している。

 これは分類の共通項を探してみた方が良いのかもしれない。ガバっと顔を上げると自分の部屋に閉じ篭って筆記用具を取り出す。

 縦横に線を引いて3つの区分けをしながら、性格を当てはめていけば良い。

 先ずは、……性格ってどんな種類があるんだろう?

               ・

               ・

               ・


 ディー姉様が食事を告げに来た。

 部屋を出て、テーブルに付くと、質素な夕食が始まる。今夜は黒リックの姿焼きがある。兄様が釣り上げたものだろう。肉よりも魚が多いのが我が家の食事だ。


 「どうじゃ。進んでおるのか?」

 「あまり……。だんだんと分らなくなってきました。どうやら性格らしいのは分ったのですが……」


 私の言葉に4人が頷いている。ひょっとして、分らないのは私1人なの?


 「たぶん、ルクセム君も分るんじゃないかな? ネビアは分るかもしれないけど、スロットには荷が重そうだ」

 「フラウなら分るかもね。ラミィには少し早すぎるわ。ユングには絶対分らないわよ」


 「お爺ちゃんとユリシーさんが悩んでました」

 「今夜の集まりで教えてあげるよ。あまり悩んで変な鳥を作られたら大変だ!」


 兄様の言葉に皆が笑い出す。

 となると、お婆ちゃんにも分るのだろうか? ちょっと気になるな。


 夕食が終ってお茶を飲んでいると、扉を叩く音がする。

 兄様は急いで席を立つと扉を開けて出て行った。代わりに入ってきたのは、お婆ちゃんだ。

 

 「すまぬのう。我が君に付き合わせてしもうて」

 「良いんですよ。アキトも楽しみにしてましたから」


 お婆ちゃんが私の隣に座ると、早速先程の話が出て来た。


 「我が君が余りに悩んでおるようじゃったから、理由を聞いているとおもしろい例えの区分けじゃった。今夜の集まりの余興になるじゃろうと言って、我に教えを請うので、教えておいたが問題は無かろうの?」


 「たぶん、ユリシーさんにはチェルシーさんが教えたと思いますよ。アキトは分ったみたいですけど、ちょっとセリウスさんとユングがかわいそうですね」


 ここにも、かわいそうな人がいるんだけど……。私には教えてもらえないらしい。

 

 「なら、大丈夫じゃのう。そんな話で酒を汲みかわすのもおもしろそうじゃ」

 「お婆ちゃんは直ぐに分ったんですか?」


 私の問いにお婆ちゃんは優しそうな顔を向けてくれる。


 「我がアキトと同じ分類に入るのはちょっと信じられぬことではあったがのう。リムも我と同じじゃ。もっと自信を持った方が良いぞ」


 「えっ!」私は思わず声を上げて、お婆ちゃんの顔を見てしまった。

 私は兄様と同じという事? しかもお婆ちゃんとセリウスさんとも共通項がある!

 ミズキ姉様とアルト姉様は渋い顔をしてる。

 これって、かなりのヒントって事だよね。


 「まだ、リムは知らぬのか?」

 

 お婆ちゃんの問いに姉様達が首を振りながら頷いている。


 「それはまた、アキト並みの鈍感さよのう。……じゃが、士官には向き不向きがあるのじゃ。リムはあの大戦を潜り抜けておる自信を持つが良いぞ」


 それって、慰めてくれているのかな? 一応、頷いておこう。


 「それとじゃ。気になる話を聞いてきたぞ。アキトに尋ね人が来るらしい。一応、ミズキにも知らせておく。サーシャ達は賛成のようじゃ。じゃが、アキトとなると少し変わったところがあるからのう……」


 「それはサーシャから聞いたぞ。我も良い話だと思う」

 「私はミーアちゃんから聞いたわ。でも、確かにアキトはどう思うのか分らないわ。今度こそ返り討ちにしないとも限らないし……」


 何か物騒な話をしているけど、私には連絡が無かった。何か新しい士官のはなしなんだろうか? 私には士官の良し悪しは判断できないから、姉様に確認しているのかもしれない。でも、4人が推薦したら兄様だって賛成すると思うんだけどなぁ。


 「たぶん、狩猟期の見物を言い訳にやってくるじゃろう。楽しみなのじゃ」


 そう言ってアルト姉様が私を見つめる。早く、考えなさいって目が訴えているようだ。

 何とかして、今夜中に答えを見つけないと私だけが知らない事になってしまいそう。3人にお休みを言って部屋に下がると、先程の紙を取り出して、新に分かった事を書き出した。

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