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#052 町での出来事そして村への帰還

 ガトルの襲撃を何とか切り抜けて、荷馬車を1時間程走らせると、街道に出ることができた。

 怪我人がいるとはいえ、空荷の馬車は意外と速度がはやい。早足程度の速度でガラガラと石畳の道を進んでいる。

 山の森が尽きた所からは潅木等が疎らに生えている荒地になる。此処にある小さな広場に、荷馬車を止めて小休止を取ることにした。


 村にやってきたときに野宿した小さな広場だが、数台の荷馬車なら十分止めることが出来る。ここで、簡単な食事を取り、再び荷馬車を走らせる。


 だいぶ日が傾いてきたが、町はまだ見えてこない。

 ここで、ちょっと気になることをヘリオスさんに尋ねることにした。


 「ヘリオスさん。怪我人なんですけど……、傷薬や【サフロ】の魔法ではダメなんですか?」


 前を見ていたヘリオスさんが吃驚したように俺をチラっと見た。


 「怪我人の傷口は【サフロ】で塞がっておるわい。問題は、内臓だ。サフロではどうしようもなくての。……町の神殿にすがろうと思っておる。神殿の神官が【サフロナ】を使えれば何とかできるじゃろう」


 「【サフロナ】は【サフロ】の上位魔法じゃ。効果は高いが魔法力を多く使う事から、ハンターで使う者おるまい。かろうじて神官職に就く者の一部が使用できる技なのじゃよ」


 ということは、町の神殿に【サフロナ】を使える神官がいなければ、更に王都に怪我人を運ぶという事になりそうだ。


 「何、心配は無用じゃ。お前達への依頼は次の町まで、町の門に入れば、そこで役目は終わる」


 そんな話を聞いている内に、日がだいぶ傾いてきた。そして、何時の間にか周囲は取入れが終わった畑になっており、遠くには町の姿が小さく見えてきた。

 あと、1時間程度で町に付く事が出来るだろう。


 町に着いた時にはすっかり夜になっていた。片門が閉じられた門に飛び込むように荷馬車を乗り入れ、門番に「怪我人だ!」とヘリオスさんが怒鳴っている。

 俺達はここで馬車を下り、ヘリオスさんから依頼の完了証を受取ると、ひとまずギルドに向かって歩く。

 1万人が住むというこの町には、夜になっても街角に明かりが点き、通りには人通りも多い。だが、俺やアルトさんの服の汚れが血であることを知ると人は自然に離れていく。

 

 程なくギルドに着き、扉を開けて中に進んでいく。

 交渉を姉貴達に任せて、俺は嬢ちゃんずとホールのテーブル席に座った。係員にお茶を頼むと、やがてやってきたお茶をチビチビ飲みながら、他の席の顔ぶれを眺める。


 俺位の連中が10人程テーブルに着いている。

 俺達の姿が珍しいのか、じろじろと俺達を見ていたが、その内1人の男が立ち上がると俺達の方にやってきた。

 

 「嬢ちゃん。俺達と……」


 たぶん、アルトさんの肩を叩こうとしたんだと思う。最後まで言えなかったのは、アルトさんがグルカナイフを男の首に添えているからだ。

 

 「何処に赤と組む銀がおる。それ程に組みたいのなら、せめて奴のように虹色真珠を見せてみよ」


 アルトさんが凄んでいるけど……それって、見る人によっては可愛いく見えるよ。

 

 「すまん。ちょっとした、挨拶のつもりだったんだ」


 男のいたテーブルから別の男がやってきて、アルトさんに頭を下げる。


 「ふん。軟弱者が……」


 はきすてるように呟くと、アルトさんはグルカナイフを男の首から離した。

 「しかし、この片手剣は具合が良いのう。特に首を狩るには最高じゃ」


 恐ろしい事を話し始めたけど、グルカナイフって確かにそんな使い方だったような気がする。

 そして、姉貴達が帰ってきた。


 「宿は近くにあるそうよ。今の季節、旅人は少ないから大丈夫って言ってたわ」

 「それと、ガトル18匹の牙を換金しました。450Lになります」


 宿代には十分だろう。早速、宿に出かけて今日は早く寝ることにする。


 次の朝、朝食が終わると早速女性達はお出かけだ。

 何でも、冬用の服や小物類を買い込むつもりらしい。まあ、俺のは姉貴に任せておけばいいから、今日はこの町で細工用の道具を買おうと思っている。

 船も造りたいし、セリウスさんの家の隙間風も何とかしなければミケランさんがかわいそうだ。


 宿のおばさんに場所を聞いて、道具屋に行ってみると、いろんな道具が置いてある。

 悩んでいると、主人らしいおじさんが出てきた。


 「何をお探しで?」

 「実は、この冬に船を造りたいので使えそうな道具を探しているんです」


 おじさんはしばらく考えていたが、棚の上のほうから木箱を取り出した。


 「丸く削るというなら、こんな刃物が重宝しますよ。桶等も作れます。それと、ノミカンナでしょうな」


 進められるままに数本の鑿と鉋を2種類購入した。

 

 ふと、棚を見た時だ。半透明の板があった。


 「この板は?」


 俺が指差した板を見て、おじさんはそれを棚から下ろしてくれた。


 「甲虫の羽だよ。いろんな色があるがこれは白だな。明かり窓に使う者がおるんでここにおいてあるんだ」


 ぴったりじゃないか。早速それを3枚購入した。これで、セリウスさんの家に窓が付けられる。


 意気揚々とギルドに向かう。買い物が済んだらギルドで待ち合わせが今朝の申し合わせだ。途中のお店で駄菓子を買い込んでいく。決して嬢ちゃんずのご機嫌取りを目的にしているわけではないぞ。

 

 ギルドにはカウンターのお姉さん以外に人がいなかった。

 姉貴達はまだ買い物に時間を取られているようだし。この町のハンター達も今日の依頼をこなすため皆出払っているみたいだ。


 そんな時、カウンターのお姉さんが此方にやってきた。


 「あのう……、昨夜ネウサナトラムからいらした方ですよね?」


 お姉さんは確かめるように聞いてきた。


 「はい。商隊の護衛でここまで来ました」

 「実は、商隊の護衛をお願いしたいのです。今日この町からネウサナトラムに向かう商隊は護衛を雇う事が出来ず出発していません。あなた達なら適任なんですけど」


 「俺達も村に帰るところですから、問題ないと思います。でも、皆が揃うまで待ってもらえませんか」

 「昼過ぎに商人さんがここに来る予定なのですが……」


 「たぶんその前には、答えを出せると思います」

 

 ギルドの外から皆のはしゃいだ声が聞えてきた。どれだけ買い込んだかは不明だけど、満足するまで買い込んだに違いない。聞くのが怖い……。


 早速、テーブルから片手を上げて、皆を呼ぶと先ほどの話をした。

 

 「いいんじゃないの。でも、今からだと村には明日の朝ね」

 「それよりも、山の道を夜に通るのは危険ではありませんか?」

 

 護衛を拒否する意見は無いようだ。それよりも、俺達がガトルと遭遇した小道を通る時間帯が問題らしい。

 確かに、ガトルの群れと夜に遭遇するのは勘弁してほしい。となると…ここを夜に出れば、明日の昼頃にネウサナトラムに着けるんじゃないかな。


 とりあえず、カウンターのお姉さんに護衛の件は了承することを告げた。

 後は、午後にやってくる商人と話をつければいい。

 

 俺達が昼食から帰ってきたとき、ギルドに待っていた商人は、前に俺達を乗せてくれレイトさんだった。


 「貴方達でしたか。貴方達なら安心です」


 レイトさんはそう言って俺の手を握った。

 レイトさんともう1人の商人を交えて、テーブル席でお茶を飲みながら今後の話を始めた。


 「実は……」


 俺は、昨日村から此処まで商隊を護衛した話をした。特に村に行く途中のガトルの群れについては入念に話した。


 「分かりました。こちらも、商人仲間からその話は聞いています」

 

 ガトルの群れに接触しないにこしたことはないが、遭遇するという想定で行動すれば危険性をかなり減らす事が出来る。

 俺は、先ほど考えていたことを皆に告げた。


 「町を夜に出る。街道の分岐付近で朝を迎えればガトルの群れとの遭遇は日中に限定できると思う」

 「夜に町を出るとは考えてもみませんでしたが、馬を走らせる明かりはどうします?」


 「【シャイン】で光球を作りましょう。それで、周辺を照らすことは可能です」


 そんなことを話しながら、俺達は夕食後に町を出ることで了解しあった。


 荷馬車で揺られる事を考え、食堂で少し早い夕食を取りながら、水筒の水を補給し、お弁当を各自2個づつ頼んだ。

 お弁当をそれぞれのバックに詰め込むと、町の北門に向かって通りを歩く。

 まだ深夜には程遠い時間なので通りには大勢の人達が歩いている。

 嬢ちゃんずが迷子にならないように注意して、北門前の広場に行くとレイトさん達が荷馬車を連ねて俺達を待っていた。


 「ありがとうございます。とりあえず此方の準備は出来ました」


 荷馬車は4台ある。先頭に俺が乗り、次に嬢ちゃんず、最後尾に姉貴とジュリーさんが乗り込んだ。

 嬢ちゃんずには、駄菓子の包みを渡しておく。適当に食べていないと、たぶん寝てしまうかもしれないし……。


 片方だけ開いた門を俺達が乗った馬車が通りすぎる。

 今夜は、ゆっくりと街道を北に進む。

 

 「しかし、驚きました。まさか貴方達が護衛についてくれるとは」

 「商隊に怪我人が出てギルドから依頼されたんですよ。途中でガトルと出会いましたが、ある程度数を減らしました。それに懲りて出てこないことを祈るばかりです」


 「だが、出る可能性がないとは言えない。しかし、出るならば迎撃できるように日中がいい。なかなか出来ない考えですよ。それに、あの光球も獣避けには十分です」


 俺達の荷馬車の列には3個の光球が前後を照らしている。日中とは比ぶべくもないが、それでも十分に周囲を明るく照らしだしている。

 休むことなく荷馬車を歩かせ、森を進む途中で薄明を迎えた。

 街道の分岐路に差し掛かった時には、すっかり周囲が明るくなり、見通しもよくなる。

 途中、危惧したガトルの襲撃もなく、俺達は昼にはネウサナトラムの村に着く事が出来た。

 

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