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後日談 2-01


 本当の名前は『リムディア・カナトール』それだけは覚えている。綺麗なお母さんと優しいお父さん、それにいつも一緒に遊んでくれたお兄さんとお姉さん……。そんな大事な家族の顔もいつの間にか思い出す事が出来なくなってしまった。

 今の私は『リム・ヨイマチ』……。優しいお兄さんと、勇ましいお姉さん達と一緒に暮らしている。

 あの王都が燃える中を私はどうやって脱出出来たのか……。

 それを疑問に思った時もあるけど、聞く事は出来なかった。聞けばお兄さんなら答えてくれるだろう。でも、私だけが助かったのは、きっと今はいない家族の望んだ事なんだろうと思う。

 何時も一緒だと思っていたサーシャちゃんとミーアちゃんが嫁いでしまったから、今ではこの石の家が広く感じる時もある。

 でも、4人で暮らすこの生活も退屈には縁遠い。何時も誰かが訪れるし、私はアルト姉様と狩りもしなければいけないのだ。

 

 「山村の農民の暮らしは貧しいものじゃ。だいぶ暮らし良くはなってきたが、冬越しの食料を奪う渡りバタムは、報酬は僅かでも受けるのが我等の役目ぞ!」

 

 そんなアルト姉様の言葉で、今日もクローディアと一緒に狩りに出かける。


 林の小道を抜けると村を東西に繋ぐ通りに出る。少し通りを東に進んで三叉路に出ると、今度は南に向かう。この通りも昔から比べると道幅も広くなったし、両脇には花壇まで作られている。

 そんな花壇の手入れをしている老人に挨拶をすると、「がんばるだよ」と手を振ってくれた。お兄さんから挨拶はキチンとするんだよと言われてるし、お祖母ちゃんも人に貴賎の違いはありはせぬと何時も言われている。

 ある意味、王政を否定するような言い方だけど、お祖母ちゃんは元モスレム王妃でもある。

 全ての人は平等と言う考え方は、民衆には歓迎されそうだが一部の貴族からは問題視されてもいるようだ。

 私は、そんなお祖母ちゃんの考え方が眩しく思える。いつの日にか、王国の皆が揃って互いに挨拶できる日が来るんじゃないかとは思っているけど、それはまだまだ先になるんじゃないかな?


 南門の門番さんに挨拶をしたところで、アルト姉様が鞍の脇にある弓を手にする。そんな姉様の姿に、私も慌てて弓を手にした。鞍の矢筒には12本の矢が納められている。畑の小道を走りながら左右の渡りバタムを弓で射るのだ。 

 まだ刈り入れが終っていない畑は小道から狙う外に手はない。刈り入れが終れば畑の中を縦横に走り回れるのだけど……。


 直ぐに畑に出た。先頭のアルト姉様が矢を弓につがえると満月に引き絞って10D(3m)ほど先を狙って放った。直ぐに次ぎの矢を取り出して同じように引き絞る。

 私も、その後を追いかけながら畑に向かって矢を放った。


 1.5M(約200m)ほど駆け抜けたところで、クローディアを降りると矢を回収しながら渡りバタムの触角を切り取っていく。

 12本の矢で私が捕らえたのは9匹だった。アルト姉様は?と見ると全て命中させたようだ。さすがは私達のリーダーたる剣姫の名を辱しめない。


 「9匹を捉えたのじゃな。だいぶ腕を上げたのう。さすがは我等が妹じゃ!」


 「まだまだです。ミーアちゃんなら全て命中させます」

 

 「じゃが、サーシャでは半数が良いところじゃろう。誰にも向き不向きがある。リムも得意とするものを見つけるがよいぞ」


 アルタイルに寄りかかりながら、水筒の水をゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいるアルト姉様の言葉が私の胸に滲みる。

 どれをとっても姉様や兄様には敵わない。ミーアちゃんやサーシャちゃんにもだ。

 確かに、サーシャちゃんの弓の腕は私よりも劣っているかも知れないが、上には上がいるのだ。ミーアちゃんなら更に距離が伸びても狙ったものを外さないし、ディー姉様は殆ど投槍のような矢を射ることが出来る。

 剣技ではアルト姉様が一番だし、作戦を立てるのはいつもサーシャちゃんの役割だ。

 

 私の得意なものはなんだろう?

 それが分れば更に努力して伸ばす事も出来るだろう。……でも、それが何か私には分からなかった。


 「何を悩んでおるのじゃ? まだ、依頼の数には程遠いぞ」


 アルト姉様が、私を覗き込むようにしてそう言った。

 そんな姉様に笑顔を返す。少し考えてみよう。

 私の得意なものとはなんだろう?

 意外と自分では気が付かないのかもしれない。皆に聞けばきっと答えてくれるだろう。そう思うと心も軽い。邪念のない矢は良く当たる。

 クローディアで再度渡りバタムを狩ると、今度は11匹を捉える事が出来た。喜んでいる私を微笑んで見ている姉様に気が付く。

 

 「思いが吹っ切れたようじゃな。弓を射る時は邪念があってはならん。心を無にするのじゃ。その辺りは修行が必要なのじゃが、ミーアの場合はあの歳で良くも達したものじゃと感心するぞ」


 普通なら、無理という事だろう。ミーアちゃんは辛い少女時代を過ごしていたところを兄様の妹にしてもらったと話してくれた事がある。

 そんな兄様の為に一生懸命努力したに違いない。私も努力したらミーアちゃんのようになれるかな?


 「依頼は30匹じゃから、既に達成しておるが、まだまだおるようじゃ。もう1度走らせて、終わりにするぞ!」

 「そうですね。お祖母様も農民の依頼はタダでもするものじゃ!と言っていますから」


 そんな私の答えに、笑みを浮かべるとアルタイルに乗って小道を走って行く。

 急いで私も後を追い掛けた。

                ・

                ・

                ・


 「はい。渡りバタムの依頼数確認できました。依頼報酬は20Lですが、渡りバタムの場合は1匹1Lの報奨金が王国から出されますから、それが48Lになります」


 私達の討伐証である渡りバタムの触角を数え終えたルーミーが、68Lを私達の前に置いた。

 ルーミーの本名はルミナスなんだけど、皆がルーミーちゃんと呼んでいる。何か親近感があるから私もそう呼んでいるんだけれど、歳が近いから私達は大の仲良しだ。そんなことから互いに名を呼び合うようになった。


 「ルーミー、私の良いところって何だと思う?」

 「何を改まってるの?リムの良いところって一言では言えない位に沢山あるわよ」


 「そうかな? でも、どれもが他の人には敵わないの。何か1つでも他の人より優れてるものってあるのかな?って考えてたの」


 「あまり、深く考えない方が良いわよ。まあ、それもリムの癖みたいなものだけど、そんな顔で考えてたらアキトさんが心配するわ」


 それも、問題だと思う。兄様は相手の心を読めるように思えるところがあるのだ。

 ちょっとしたことで、心配そうに聞いてくる。それをミズキ姉様が笑みを浮かべて私達を見るのだ。そんな2人を見ると、自分の心配事が小さなものに思えてしまう。

 ディー姉様は、いつも私の心配事を真面目に聞いてくれる。答えが返ってこない事が多いけど、話すことによって私の心配が小さくなる事も確かだ。


 林の小道の前でクローディアから降りると、クローディアはアルタイルと一緒に通りを歩いて行く。そんな2匹の友人に手を振って、私達は石の家に向かった。


 「ただいま!」


 扉を開けて私達が帰宅を告げる。ミズキ姉様とディー姉様がテーブルで仕事をしていた手を休めて私達を見た。


 「お帰りなさい。もうそろそろ狩猟期が始まるわね。ギルドはどうだった?」


 「まだ、ハンターは来ておらん。そろそろ薬草の依頼が増えるやも知れぬ」


 狩猟期はネウサナトラム村の晩秋のお祭り。狩猟期には、嫁いだサーシャちゃんやミーアちゃんも帰って来ると言っていた。アルト姉様達は狩りをしないで今年も屋台を出すのだろうか? いつも私は狩りに参加しているけど、屋台を手伝ったほうが良いのだろうか……。


 「今年は、私も手伝います!」


 私の言葉に2人がブン!っと音を立てるようにして私に顔を向ける。

 でも、その顔は当惑と言うよりも、面白そうな話を聞いたように笑みが浮かんでいる。

 

 「ありがと。でも、リムちゃんはサーシャちゃん達と楽しんでらっしゃい。屋台は私達で大丈夫だし、この頃はハンターの人達も協力してくれるから、心配はいらないわ。それにミクちゃん達も楽しみにしてるんだから!」


 私をお姉ちゃんと言って慕ってくれる双子の成長もたのしみだ。6歳だけど、通信機を扱わせれば連合国第一だから、狩りの状況が良く分かる。リザル族のハンター達と村のアルト姉様との通信でサーシャちゃんが迅速に狩りの計画を立てる。

 ちょっとずるいかも知れないけど、この通信で私達の狩猟期の成績は常に上位だ。だけど、リザル族のハンター達には敵わない。


 「サーシャ達もだいぶ狩りが上手くなってきたのじゃ。我等も別なチームをを作って参戦してはどうじゃ?」

 「それも面白そうね。でも、しばらくはこのままでいましょう。ハンターの世代交代があったみたいで黒の高レベルのハンターが少なくなってるようなの。20日間にどんな肉食獣が現れるか、油断は出来ないわよ」


 そんなミズキ姉様の言葉にアルト姉様が頷いてる。降嫁したとは言え王族の矜持は手放さないようだ。常に民衆を考えてるんだから凄いと思う。私も元は王族の筈、でもそこまで民を考える事は出来ないでいる。

 (あぁ、そうだね。そうしなければ……)

 いつも、誰かに言われてからだ。自分の事を先ずは考えてしまうんだから……。

 常にそれが出来るアルト姉様が羨ましく思える。


 コンコンっと扉を叩く音がした。

 急いで扉まで歩いて、そっと扉を開ける。そこには、お祖母ちゃんが優しく私を見つめていた。

 

 「そろそろ狩猟期じゃのう。今年も頑張らねばなるまい。ところで状況はどうなのじゃ?」


 まるで自分の家のように皆がお茶を飲んでいるテーブルに着くとディー姉様が、お祖母ちゃんにお茶のカップを渡している。

 そんなお祖母ちゃんの隣に私が戻ると、兄様が話を始める。


 「例年通りと言うところでしょうか。山岳猟兵の部隊からは大型肉食獣の話はありませんから、新鮮組の活動は低レベルで参加したハンター達への狩りの指導になるのではないかと思っています」

 

 「マケトマムからサラミスがやってくるのじゃな?」

 

 「アトレイムのトリム達もやってくるそうです。10人程ですから彼らに任せておけば十分でしょう。両方とも通信機の操作が出来ますから、グライトの谷の東にキャンプをしてもらうつもりです」


 歩けば、1.5日はかかる距離だ。それでもイオンクラフトなら20分ほどで到達できる。周囲のパトロールをしながら狩りの方法を教えるのが彼らの仕事になる。

 かつては、兄様達が行なっていたらしいが、今ではそれを代わることができるハンターに任せて、自分達は屋台を切り盛りしているのだが、兄様こそ周辺5カ国で並ぶものがいないハンターの頂点に立つハンターなのだ。

 今では、のんびりとギルドで誰も受ける事が無い依頼をこなしているんだけど、私はちょっともったいない気がしてならない。

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[気になる点]  1.5M(約200m)ほど駆け抜けたところで、クローディアを降りると矢を回収しながら渡りバタムの触角を切り取っていく。  12本の矢で私が捕らえたのは9匹だった。アルト姉様は?と…
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