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後日談 1-11

 「それで、結局のところはどうなったのじゃ?」

 「連合王国の構想に不満を持つ勢力が一掃されたというころじゃろうな。残された貴族は下級貴族ばかりじゃ。元々良い職を得ようと懸命に努力しておる。

 貴族制度を廃止しても、試験による官職途用精度は彼等の歓迎するものでもある。早速、王族達が会議を始めるようじゃ。」


 アルトさんの言葉にアテーナイ様が説明しています。

 それをオーロラと名付けられた赤ちゃんを抱っこしながらミズキさんがにこにこしながら見ていました。

 次ぎは私の番って顔をして、ディーが腕の中の赤ちゃんを見てます。


 「でも、もう1つが大変だ。」

 「そうでもないわ。赤ちゃん達の今後はお母さん達が考えてるわよ。

 シグさんはサマルカンドの行政官として納まり、製鉄所の管理をすることになるわ。商会の重鎮だから、アリスちゃんは将来の商会を束ねることになりそうね。

 オデットちゃんは、聞く話ではとんでもない存在になりそうよ。テーバイの東に暮す遊牧民の伝説が形になったと評判なの。

 ある意味救世主的な存在ね。遊牧民の女王とテーバイの次期女王を合わせて民衆を率いることになるわ。大テーバイ王国が誕生するのよ。

 ラミアさんのことだから、狩猟から牧畜そして農業と彼等の暮らしを変えていくでしょうけど、一番大事なことは反目しあっていた遊牧民の部族統一がオデットちゃんの誕生によって成されたという事だわ。

 これで、東の堤防の目途が立ったという事になるのかしら。」


 「我のオーロラはこのままで良い。良いハンターに仕込んでやるのじゃ!」

 「それも、無理でしょうね。たぶんサーシャちゃんが放っておかないわ。まだ赤ちゃんだけど、バビロンの科学力でとんでもない教育を受けてるのよ。連合王国の将来を考えるとどんな地位に着くか想像も出来ないわ。」


 「じゃが、我の娘でもある。武芸は後々困らぬように教えておくつもりじゃ。」


 「問題はアキトの立場よね…。どうなるのでしょう?」

 「まぁ、個人の問題じゃから、各国とも追求はせぬじゃろう。実質的には王位継承権があるのは、オデットのみじゃ。ラミアが夫を持たぬことを考えれば各国とも文句は言わぬ筈じゃが…。数倍の国力となるようじゃな。 

 ある意味、一番の問題ではあるが、父親が連合王国で暮らしていることを考えれば、あまり大きな騒ぎにもならぬじゃろう。

 そして、東の堤防と言ったミズキの言葉が役に立つ。

 テーバイ王国を連合王国に含めた時にその意味が分かるじゃろう。そして数百年後にはその堤防が機能するとな。」


 「一応、アキトの子であり、私が承知していることを形に示す必要があると思います。全て娘ですから、銀の短剣にはアキトの家紋を入れました。それを、私の家紋を使った旗で包んで渡してあげようと思います。」

 「赤地に白の花じゃな。ある意味、婿殿の家紋を持つ者は制限されておる。そして、ミズキの家紋は連合王国には未だ見ぬ旗印じゃ。皆が喜ぶじゃろう。アルトは母と娘が持つ家紋の違いを将来説明してやることじゃな。それ位は出来よう。」


 「もう1つ問題があります。今回の騒ぎに加担した貴族の婦女子達が落ち延びた先ですが、どうやらエイダス島のようです。あの島はネコ族が暮らしていますが、ちゃんと生活基盤を作れるのでしょうか?」

 「それはその者達の問題じゃ。ネコ族は穏やかな種族じゃ。まぁ、何とかなるじゃろう。島も大きいと言うではないか。意外とそこに自らの王国を築くやも知れんのう。」

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               ・

               ・


 「これは、どこにあったんだっけ?」

 「この家を出る前の映像記録に残されていません。何処でも良いのではないでしょうか?」

 

 大きなリビングだけに見える石造りの家の中では3人の娘達が、機材を片付け…、というか片付けてあったものをあちこちに運んでいます。

 修道院からモスレムの王都に寄って、アテーナイ様を拾ってきたのは良いんですが、自分達の家に入って驚いてしまいました。

 リビングが綺麗に片付けられていたのです。

 ある意味、やられた!って感じなんですが、キチンと片付けられているのですから、抗議する訳にもいきません。

 フラウの出掛ける前の部屋の映像記録を参考にしながら3人で荷物を元に戻しているんですが…。


 「このデスクにこの書類はありませんでした!」

 「コントローラは何処だ?」


 そんな感じで、もう2日もやっています。

 

 「お節介な婆さんだよな。俺達が使いよければそれで良いと思うだけど…。」

 「今度は鍵を掛けましょう。場合によっては耐圧隔壁を組み込む事も考えねばなりません。」


 「確かに…。ラミィ、設計だ。カラメル族に頼めば何とかなるかもしれない。」


 疲れた体という事はユング達にはありません。

 それでも、精神的に疲れることはあるようです。

 暖炉の前に座りながら、まだまだ前の状態には戻らない部屋を長めなが溜息をついてます。

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               ・

               ・


 「どうじゃ?気付いた者はおるまいのう。」

 「大丈夫です。これで、後でお兄ちゃんが吃驚しますね。」


 昨夜は、完成式典を亀兵隊全部隊を召集して行ないました。

 よる遅くまで宴会が続いていたのですが、深夜こっそりと大型タトルーンがこの地に飛来してカラメル族が苦心して作り上げたガルパスとそっくり入れ替えが行なわれました。それを知っているのは極僅かな者達です。連合王国では、此処にいる元嬢ちゃんずの3人だけでした。


 「うむ、誰もが驚くじゃろう。だが、これは我等連合王国建国を司った者が持つ使命であるとも考えられる。末永く連合王国を見守ろうぞ。」


 サーシャちゃんの言葉にミーアちゃんとリムちゃんが頷きました。その胸には小さなキューブが首飾りのように輝いています。

 そして、3人の見詰める先には、巨大な石像のガルパスが3人を見下ろしていました。

               ・

               ・

               ・

 「ある意味、結果論じゃな。どうあがいても結果を覆せるものではない。アキトという名が、少し親しみやすくなったとワシには思えるぞ。」

 「タダの堅物と思われていたからな。それがこの始末だ。国民は驚くよりも好意的になるだろう。だが、2度目をやったら命は無いぞ。それは肝に銘じておくことだ。」

 

 「はぁ…。自戒してます。」


 長屋の男だけの秘密基地に集まって、のんびりと酒を昼間から飲んでいます。

 ある意味、男達には良くやったと褒めてやりたいところではありますが、奥さん達の手前それは出来ませんから、こんなところに集まってわいわいやっているようです。


 「でも、来年の狩猟期には皆が集まるでしょうね。1年に1度は母親達も父親の顔を見せてやりたいでしょうし。」

 「オーロラ姫の場合は村に在住だが、他の姫はそうも行くまい。狩猟期なら確かに誰も文句は出まいだろうな。」


 「こちらからたまには訪ねていきますよ。でないと、父と呼んで貰えないかも知れませんから」

 「それが良いとわしも思うぞ。チェルシーも身重じゃから、良い遊び相手になりそうじゃ」


 男達が一斉にユリシーさんを見ています。


 「なんじゃ? ワシにだって女房がいるのじゃぞ。それに、初めての子供じゃ。どんな奴に育つか分らんが、この村でなら真っ当に育つとワシは考えておる。」

 「そうだな。セリウスのところの子供刃2歳じゃったな。」


 「上が11で下が3つです。俺も歳を取ったような気がします。昔のように体を動かすのが骨になってきました。」

 「まだまだこれからですよ。来年には村の村長じゃないですか。そんな弱気にならないで下さい。」


 スロットさんがそう言って、セリウスさんを力づけています。

 きっと何時までも、このような集まりを続けていくんでしょうね。

 

 「そういえば、ルクセムとレイミルが結婚するというのは本当なのか?」

 「ルーミーがそう言っていましたよ。しばらくは長屋で暮らし、妹と弟が片付いたら家に戻ると言っていました。」


 「そうなると、ロムニーも相手を探さねばならんな。」

 

 そんな噂話で盛り上がってます。

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               ・

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               ◇

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               ・

               ・


 そして、20年後。

 

 テーバイ王国は、連合王国王国の1地方となりました。

 そして、テーバイの地方行政はオデットさんがラミアさんと束ねていました。

 円卓を囲む高官の半分は遊牧民に替わっています。

 

 「東の防壁の進行状況は?」

 「魔物の進行はどうにか抑えられる高さになりました。アクトラス山脈から南の海岸まであと少しです。100M(15km)置きの監視所の建設を平行して行なっています。」


 「オデットの予知夢が本当か否かは判らぬ。だが、アキト殿も案じておられた。連合王国への魔物の襲来はあの壁で全て跳ね返すのじゃ!」


 ハハー…っと円卓の高官が頭を下げると、数人が部屋を出て行きます。

 早速防壁の出来具合を確認するのでしょう。

 何事も部下任せにせず、必要な時には自ら行動しているようです。

               ・

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               ・


 「次の積荷は?」

 「レントル王国への積荷です。農機具が主になります。でも、お母様。それ程海を隔てていないのに何故にこのような文化の違いが出て来たのですか?」


 「昔ね、大きな戦いがあったの。あの国の前の王国はスマトルと言うのよ。今では幾つかの国に分かれてしまったけどね。統一された一大国家として、この連合王国に挑んだけれども、敗れてしまった。そして国は荒廃して、ようやく今の王国が出来たわ。前があるから武器は輸出出来ないけど、国作りには農業でしょう。だから、格安で農機具を輸出してるの。」


 アリスさんは、そんな話を聞きながらも伝票を捲りながら算盤を弾いてます。

 

 「お父さんは厳しい人だけど、根が優しいからね。また、修道院の果実酒を持って行ってあげましょう。」

 

 そんな言葉を呟いた娘をシグさんが優しい眼差しで見つめていました。

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 カシーン!っと木刀が庭から飛んで敷石にカラカラと音を立てています。


 「未だじゃ!」

 

 そう言って、体術の構えを取りました。

 アルトさんが同じように構えています。

 少し離れたテーブルのベンチにはアキト君にミズキさんそれにアテーナイ様が座ってお茶を飲みながら2人の試合を見ています。


 「オーロラも中々やりおるのう…。さすが我の血を受けた娘じゃ。」

 「負けず嫌いは母親似ですよ、きっと。」


 「まぁ、怪我をしないようにしてくれれば良いんだけどね。」


 「じゃが、あれは婿殿の構えと一緒じゃな。教えたのか?」

 「俺がオーロラに、姉貴がアルトさんに教えました。やはり、教えの微妙な違いがこうしてみると良く分かります。」


 「ウム、確かにちょっとした相違があるようじゃ。長老殿。どのように見る?」

 「2人とも良い技量じゃ。このタトルーンにおる戦士達の技量が上がる訳じゃ。だが、この勝負、アルト姫が負けるぞ。」


 そういった次の瞬間、庭の2人が交差して1人が吹き飛んでいきました。


 「タンデム2重攻撃。何時でも使えるようじゃの。」

 

 そういって、長老はアテーナイ様の隣で笑っていました。

 何時の間に来てたんでしょうか?

 そんな疑問を持って、アキトさんが長老を見ています。

               ・

               ・

               ・


 更に、年月が流れます。

 そして、魔族と更に大きくなった連合王国が、雌雄を決しようとしていた時です。

 明日は戦場に旅立つ亀兵隊の全員が、指揮官の元に集結し、必勝を巨大なガルパスに祈っていました。


 「さて、亀兵隊生みの親であり、連合王国初代総指揮官サーシャ様、それに野戦に負けなしのミーア様、敵兵全てを一瞬で殲滅したリム様に祈りを捧げたのだ。

 我等が負ければ此処に眠る軍神達に顔向けできぬ……? どうしたのだ。」


 士気を高めるために全軍の前で訓示をしていた総指揮官は、兵士達の表情が変化して行くのを見て、怪訝な顔付で手前の亀兵隊隊員に問い掛けました。


 その亀兵隊隊員は大きく口を開けたまま、総指揮官を指差します。

 礼儀を知らぬ者だと叱責しようとすると、次々に皆が総指揮官を指差して行きます。


 そして、ようやく彼には理由が分りました。

 亀兵隊隊員が指差しているのは自分では無いようです。自分の後をどうやら指差して驚いているようでした。

 

 (これは、私も振り返って見るべきなのだろうか? だが、そこに何も無ければ笑いものだぞ……)


 「「「ウオオォォ・・・!!」」」


 その時、一斉に蛮声が上がりました。

 総指揮官は意を決して後を振り返りました。


 「なんじゃぁぁぁぁぁ・・・!!!」

 

 続けて叫びます。


 「出陣だあぁぁぁ!! 俺に続けぇぇ・・・」


 数千のガルパスが一斉に西に向かって走り出しました。

 その後ろから砲撃のような大きな音が、彼等の頭上を飛び越えていきました。


               ・

               ◇

               ・


            - END -


 後日談を終了します。

 総指揮官が見たものは想像できますよね。

 嬢ちゃんず達の寿命は有限です。でも、明人達と連合王国の国民を守りたい気持ちは何時も持っていました。

 明人が原因となる、ちょっとした騒動を利用して作ったものは末永く彼等を見守っていくことでしょう。そして、もしもの時は・・・・

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