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後日談 1-10


 「何故だ。何故に我等が策が漏れたんだ…。」

 「怒鳴るな。此処はただの森ではないぞ。大森林地帯の森だ。既に廃村に集まった同士が半数食われている。何時、何処から獣が襲ってくるか分らんぞ!」


 メタボな体形で森を逃げるのは骨が折れます。

 それでも、先に逃げなければ亀兵隊の攻撃を受けるのは確実です。

 明かりも持たずに先を争って森の中に逃げ込んだのはいいんですが、この森は魔の森でもあります。

 頭上から降りてきた蔦に絡め採られる者。突然割れた地面には幾つもの牙がありました。そして、無数のヒルが頭上から降ってきます。


 「何としても、この森で狩りをするハンターに合わねば…。金はあるのだ。」

 「だが、誰にも合わんぞ。かなりのハンターがこの森にはいる筈なのだが…。」


 男達は不安げに周囲を眺めました。

 やはり、誰もいないようです。逃げ出してから3時間程経つと、数人にまで仲間が減っています。

 真っ暗な中を逃げたものですから、方向はとっくに見失っていました。

 この森から抜け出すには、この森を狩場とするハンターにめぐり会わねばならないことは逃亡者には理解出来てはいるのですが…。


 走り続けてきたので、足は棒のようです。それにこの体形ですから、体中から汗が噴出してます。

 そんな彼等の直ぐ近くまで、森の生物は迫っています。

 ジッとしていれば森に食われる。そう心に言い聞かせながら、彼等は森の奥に向かって足を運んでいきました。

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               ・

               ・


 「生きながら森に送るのも、極刑の1つじゃな。」

 「ハンター意外ならそうなるじゃろう。じゃが、ある程度知識があればあの程度では戻ってこられるぞ。たとえ磁石が無かろうともじゃ。しかし、この者達は別じゃ。サーミストの貴族がおりながら同じ場所を回っておるぞ。」


 テーブルの端末の仮想ディスプレイに映し出された大森林地帯の一角を見て、アテーナイ様とアルトさんが話をしています。


 ミズキさんは通信機のレシーバーを耳に当ててどこかと連絡を取り合っているようです。

 アキト君は、テーブルの角でジュリーさんに抱かれた我が子をあやしていました。


 「リムちゃんの通信を傍受したわ。『陽動部隊殲滅』単純だけど、リムちゃんなら当たり前かな。」

 「首魁と陽動部隊は何とかなったって事だろう。残りはアトレイムなんだろうけど…。」


 「そっちも、そろそろじゃないかな。ディー、フラウと繋いでるんでしょ?」

 「現状に変化はないそうです。エイオス様の部隊が活躍しているようですが…出番がないとユングが呟いてるって言ってます。」


 「1人位回してあげれば良いんでしょうけど、エイオスさんは真面目だからね。ガッカリして帰ってくるかも知れないわね。」

 

 ジュリーさんの抱いている赤ちゃんの頭を撫でて、よしよしなんて言いながらミズキさんはお茶を飲んでいました。

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 ドス!

 男の胸にクロスボーのボルトが深く食込んでいます。

 ドサリっと前のめりに倒れた男のかすれていく視界に黒い姿が闇の中から浮かんできました。


 「夜襲部隊だ! 散開しろ。そして低い姿勢を取るんだ。」

 

 慌てて男が叫びます。。

 それでも、あちこちで…うわ!とか、…やられた!と言う声が聞こえてきます。

 

 「くっそう!、いったいどこに潜んでるんだ」

 

 身を起こして、周囲を見渡しながら呟いた時です。

 ドンっというような感じで腹を誰かに押されたような気がしました。

 何だ? 疑問を持って腹に手をやると、そこには1本のボルトが刺さっていました。思わずボルトの柄を握ってグイっと引き出します。

 一気に痛みが押し寄せてきました。そして目の前にかざしたボルトには先端の鏃がありません。

 腹の中に残ってしまったようです。

 これでは【サフロナ】すら効果がありません。


 「くっそう! 俺はエントラムズの貴族だぞ!」

 

 立ち上がって大声で叫び声を上げましたが、その声に応える者はおりません。

 そして、その声が夜襲部隊の隊員を集めてしまったようです。

 長剣を高く掲げた彼の体にたちまち数本のボルトが突き刺さりました。

 

 ドサリ…と男が荒地に倒れます。

 男が倒れたことを確認した夜襲部隊の隊員は次の獲物を狩りに闇とけていきました。

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               ・


 「エイオス殿、司令官殿達は既に終了したと連絡が入りましたぞ!」

 「あちらは、4人もおられるのだ。我等では足元にも及ばぬ。だが、我等の方も負けてはおられぬ、状況は?」


 「50以上を狩っております。だいぶ果樹園に入り込まれましたが、全てを狩るのは時間の問題。迎撃に徹しておれば時間が掛かるのは仕方が無いことです。」

 「そうだな。だが、敵は我等戦闘工兵が亀に乗らずとも、その真価を発揮出来ることをまるで知らぬようだな。」


 そんな呟きを最後まで聞かずに、エイオスさんの前から男は姿を消しています。

 戦闘工兵の大部分はトラ族出身です。

 トラの狩りは夜の待伏せですからね。普段、ガルパスに乗って走っていますから、彼等の真価が夜の狩りだとはあまり知られていないようです。


 そして、そんな戦闘工兵の狩りを見て、つまらなそうな顔をしている者が3人、修道院の屋根の上に腰を下ろしていました。


 「つまらないな。これでは俺達に1人も回ってこないぞ!」

 「こっちから出掛けて行きますか?」

 「また、1人やられました。修道院を中心に半径200m以内に入ってくる敵は、まだおりませんね」

 

 黒いコンバットスーツに短剣を腰に差し、ベレッタをレッグホルスターに入れた娘が2人に同じ格好をしていますが背中にMP-3短機関銃を背負った娘が1人の3人です。髪は纏めてやはり黒い帽子に隠しています。そして顔は顔料を油で溶いた物で黒や緑で塗りたくってますから、元が美人でもあまりお近づきになりたい人はいないと思います。


 「やはり、場所が悪かったかな。絶対抜かれてくるんじゃないかと思ってたんだが…。流石は明人が鍛えただけの事はあるな。あいつにはひょっとして軍隊生活の経験があるんじゃないか?」

 「それは、考えられません。少なくともマスターと同じ世界の住人です。」


 「私の記憶槽にある海兵隊の戦闘に良く似ています。特に背後からナイフで襲う姿は、人種こそ違いますが全く同じ教本で教えられたと言って過言ではありません。」

 「となると、明人は海兵隊の訓練を受けた…ということになるな。一度確認してみるか?」


 獲物が中々やってこないので、暇を持て余していますね。

 何時の間にか屋根の上で携帯コンロを使ってお茶を沸かして飲んでいます。

 ユングさんはタバコなんか吸ってますけど、隠れてるんなら絶対やってはいけないんじゃないでしょうか?

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 「クローネ様、アトレイム方面への陽動部隊は殲滅出来たにゃ。」

 「了解にゃ!、サーシャ様に報告にゃ」

  

アトレイム王都の途中の荒地で待ち伏せしていた夜襲部隊はどうやら任務を完遂出来たみたいです。


 「逃げた賊はいないのかにゃ?」

 「どうやら、全て人族にゃ。夜の闇を思い通りには動けないにゃ。」

 

 「周囲10M(1.5km)を探索してきたにゃ。気配すら無かったにゃ!」

 「こっちは終ったけど、エイオス達はちゃんとやってるかにゃ?…でも、私等はこれで終わりにゃ。朝が来たら部隊に戻るにゃ。」


 にゃぁ、にゃぁって賑やかですけど、夜襲部隊はネコ族で構成されてますからね。それに男性よりも女性の比率が何時の間にか高くなっていたようです。

 

 そして、東の空が明るくなってきました。

 

 「引き上げにゃ!」


 クローネサンの合図で夜襲部隊が東に向かって引き上げていきました。

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 「明るくなってきましたね。」

 「結局、誰も来ませんでしたよ。」


 「まぁ、それだけ明人の鍛えた部隊が優秀だったんだろうな。周囲の様子はどうだ?」

 「ほぼ制圧されたようです。1人隠れているのがいますね。」


 「これだな…。なるほど、動かねば戦闘工兵に気付かれないな。」


 目の前に展開された仮想スクリーンに映し出された画像を見ながらユングさんが頷いてます。


 エイオスさんは明るくなった果樹園で部隊を纏めると、総司令部と連絡を取っています。


 「どうやら、俺達が最後のようだ。だが、皆良くやってくれた。帰ったら酒盛りだ。何と言っても、元々はおめでたが3件続いていたんだからな。俺達にも無縁ではない。俺の奢りだ!」

 「「ウオオォォー!!」」


そして、戦闘工兵はガルパスと共に東へと駆けていきました。


 「行ったか?」

 「でも、動きませんね。やはり、夜を待つのでしょうか?」


 「さぁ…、だが、残ったのは1人。通常なら手強い奴と言うことになるんだが…。」

 「見えてますからね。ここはのんびりと待ちましょう。」


 屋根の上では3人がのんびりとお茶を飲んでいました。

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 男はジッと果樹の根元の藪の中で身を潜めていました。

 2つの陽動を行なえば修道院の兵も浮き足出すと思っていました。

 でも、果樹園に踏み込んでみれば、目音前にある修道院に向かうまでに仲間が次々と消えていきます。

 突然、隣にいた者が消えていくのです。

 恐ろしくなって藪に隠れていると、後ろから口を押さえられて喉を切られる同士の姿を見てしまいました。

 動けば殺される。そう思って、朝まで忍んで来ました。

 計画では修道院に火を点けることになっていましたが、未だに火の手は上がりません。

 そして、果樹園に潜んでいた兵士達が帰っていきます。


 (後、何人残ってるんだ? まさか俺1人ってことはないだろうな)

 

 計画は頓挫したのかどうかは此処では分りません。

 ひょっとして、モスレム突入部隊が王都を火の海にしている可能性だってあります。

 ここで、断念して引き上げた場合は、裏切り行為として糾弾されそうです。

 

 (兵隊は去った。今夜俺1人なら、修道院に忍び込めそうだな。火の手を上げれば隠れてるやつらも出て来るだろう。まぁ、あとから来ても恩賞は俺に決まりだが、少しはそいつ等を軍の上の方に引き上げてやろう。俺は寛大だからな。)


 そして、再び夜になりました。

 修道院の窓からは明るい光が漏れています。


 (そろそろか…。)

 

 男は腰のバッグから爆裂球を取出しました。

 修道院の玄関を爆裂球で破って突入するつもりです。


 意を決して藪から立ち上がったその時に、首に鈍い痛みが走りました。

 何だろうと思って手で首を拭うとべったりと生暖かいものが付いていました。


 「だいぶ、待たせられたぞ。お前が最後だ。」

 

 闇の中から亡霊のような姿で現れたのは、どう見ても成人前の女性です。

 でもその顔は魔物のような色で塗り込められていました。大きな目だけがこちらを見て笑っています。


 「うう…ううう(お前は、誰だ!)」


 何故か言葉が出てきません。喉の方からフューフューと息が漏れています。


 (ここまでか!)


 男が観念して爆裂球の紐を引いたときです。

 突然腹に鋭い痛みが走ると、男の体は横に飛んでいきました。

 戦闘工兵が沢山作った穴の1つに、男の体が転がり落ちると…、ドォン!っと鈍い音が当りに響きました。


 「もうちょっと、楽しみたかったな。」

 「どうでしょう。アキト様の部隊に負けない新たな部隊を創設しては?」


 「カウンター・テロの部隊は必要だな。軍ではどうしても落ちこぼれが出る。これは美月さんと相談だな。」


 ユング達は別荘のテラスに着陸したイオンクラフトへと向かいます。

 修道院の危機が去れば、長居は無用ですからね。

 

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