後日談 1-07
「フム…。相変わらずというか、これがユング達と納得した方が良いのか困る光景じゃのう。」
「もうちょっと、綺麗に片付けた方が良いよ。女の子が3人なんだから!」
ユング達の秘密基地を一見した2人は、手厳しい感想をもらしています。でも、そんなに2人とも片付けが得意なんでしょうか?
綺麗好きと片付け上手は必ずしも一致しませんからね。
「まぁ、これでも片付いてると思うんだけどなぁ…。でも、俺の生活を見に来たんじゃないでしょう。」
「そうじゃな。山荘の次女を5人程後ほど遣わせば少しはマシになるじゃろう。それでは早速頼むぞ。」
ひょっとして、とんでもないことになりそうでユングさんは頭を抱えてますが、アテーナイ様の言葉に、早速フラウが反応して、ラミィと一緒に今までの分析結果を大型スクリーンに展開を始めました。
レーザーポインターを使ってフラウさんが説明を始めました。
「半年前の分散と三ヶ月前の分散それに昨日での分散がこの散布図です。一見一様に分散して見えますが、これを絞り込むと約20ほどの群に纏ることが分ります。
それが3ヶ月前には大きな3つの群と小さな10個ほどの群にまとまり、更に近日ではその群れが移動していることがわかります。」
画面が変り連合王国の地図が現れる。
「この群れを地図に当てはめると大きな群れはとある地区に集中し、且つ1つの建物に集まります。」
モスレムの王都が拡大表示され、とある貴族の家2つに集約された。
「続いて、弾森林地帯の廃村に集まったハンターのその後の軌跡ですが、このように移動して、先程の2つをはじめとした貴族の館に行き着きます。
その貴族同士の人の動きを線の太さで示すとこのようになり、明らかに何らかの相談を行なっていると推定します。」
「ふむ…。問題の貴族は旧来の貴族で中々尻尾を出さぬ輩じゃ。その線の太さから見て、首班はサーミストの貴族と思って間違い無いじゃろう。何とか証拠が欲しいものじゃ。」
「書状等は読んだら直ぐに燃やしているようです。一応、録画はしてありますが、読んでみますか?」
そう言うと、画面を切り替えてとある貴族越しに読んでいる書状が映し出された。
「これって!」
「そうじゃ。反乱の同士を募った結果を報告しておる。」
「関連した貴族を割り出せるか?」
「私は貴族の名すら知りません。この貴族街の図面の該当する館を色で示してお渡しすることで宜しいでしょうか?」
「うむ。それで十分じゃ。礼は、この館の整理整頓でよかろう。」
アテーナイ様の言葉に、ユングさんがゲェ!って言ってます。
本人達が気にしないのを、片付けるというのも問題ですけどね。
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サーシャちゃんにミーアちゃん、それとリムちゃんが出来上がった石像を見上げています。
石像の前には、3人の亀兵隊としての旗がパタパタとはためいてます。5mほど離れた旗竿には風林火山と赤と白に染め上げられた旗が同じようにパタパタしています。
「やはり、ミズキの家紋も必要じゃろう。残り1つは畳んで下に置けばよい。まだ此処ではためくのは遥か先の話じゃ。」
「でも、大きいですね。これ程とは思いませんでした。」
「中に4つ入るのじゃ。小さくては窮屈じゃ。ところで、これの披露は何時になるのじゃ?」
「一月程先です。まだカラメルの工房の方の準備が途中だとか…。皆が寝静まった時に入れ替えるのは至難の技ですからね。後で、この石像の3D画像を撮影して修正を行なうと言っていました。」
「そうなると、この石像は将来どうなるんしょう?」
「カラメル族の人達が欲しがってました。この種の芸術品というのはカラメル族には無いのだそうです。」
まぁ、足しかにこのまま廃棄したんでは勿体無いですからね。
「広場の中央に飾ると言ってましたよ」
「これをか? まぁ、我等にはどうでも良いものだが、世の中は広いのう…。」
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「世話になったのう。ほれ、ローラも別れの挨拶じゃ。」
アルトさんの腕の中でキャッキャッってはしゃいでいる赤ちゃんを見て巫女たちも微笑んでいますがちょっと寂しそうですね。
半年以上一緒に暮らしていましたから情が移っているようです。ナノマシンで構成されたオートマタなんですが、高度な知能を持ってますから感情を芽生えさえたのかもしれませんね。
「アルト様、そろそろ出掛けませんと。」
「そうじゃった。また来る事もあるじゃろう。楽しみに待つのじゃ。」
地上には先行したディーがイオンクラフトで待っているようです。
沢山の荷物を積み込んで、アルトさん達を乗せたイオンクラフトはバビロンの地を去っていきました。
そして、2時間程でネウサナトラムの別荘に到着です。
そこには、連絡を受けた人達が集まっています。
イオンクラフトから降りたアルトさんはジュリーさんに先導されて別荘のリビングへと入りました。
ディーはイオンクラフトを小屋へと運んでいます。1t位の荷物もありますから、ディーの方は中々忙しそうですね。
「ほう、我に貸してみよ。」
アテーナイ様が両腕を伸ばしてきたので、仕方なくアルトさんは赤ちゃんを渡してます。
「中々美人ですね。やはりアテーナイ様の血を引くだけの事はあります。」
「この子が嫁ぐまでは生きていたいものじゃな。ホレホレ…。」
早速高い高いってやってますが、そのやり方はアルトさんと一緒です。
そんなアテーナイ様から、ダメですよ!ってミズキさんが赤ちゃんを横取りしてます。マジマジと見詰めて、ちょっと微笑んでました。
アキト君の面影でも見つけたのかも知れませんね。
「まぁ、此処にいる限り安全じゃろう。近衛の身元はしっかりしておるし、カラメルの戦士が5人もいるのじゃ。それにディーとアキトそれにミズキがおれば城よりも安全じゃろうて。」
「それで、動きはあったのじゃな?」
「現在進行形でね。でも、成功すると思ってるのかしら?」
「それが分らぬからじゃろうな。全くもって余分な連中じゃよ。金でも掘っておれば害は無かったろうに」
「という事は、元凶を見つけたという事じゃな。…で、サーシャ達には?」
「表面上は動いておらぬ。サーシャ達は、なにやら石像を作っておると報告が来ておる。まぁ、動きを隠すには丁度良い」
そんな事を言ってますが、実際は何もしていないというのが真相ですよね。
エイオスさんとクローネさんが、頑張ってるだけのようですけど…。
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「大きくなったわね。」
「うむ。どう見ても、昔のお前を思い起こすのう…。あの頃は城も賑やかじゃった。まだ、イゾルデもいたからのう。」
そう言って、アトレイム国王はアリスちゃんを御后様から受取ってヨシヨシってやってます。
まぁ、お祖父ちゃんですから、孫は嬉しいようですね。
内心ではお持ち帰りを希望してるんでしょうけど、そうも行きません。
何せ、得体の知れないハンターが修道院の周囲をうろついていると言う報告も国王の耳に入っています。
「シグや。もうしばらくは辛抱せねばなるまい。アテーナイ様達が必死に元凶を探しておる。もうしばらくすれば、城に戻れる筈じゃ」
「それですが、城に戻らずサマルカンドで暮らそうと思います。下には製鉄所がありますし、私の仕事はまだまだ続きます」
国王夫妻は慌てて手に抱いた孫を落とすところでした。
ジッと娘を見ています。
そして、その理由にも気が付きました。ブリューさんの存在です。
どちらもかわいい娘ですが、王権の継承は長子が原則です。病弱なんてことがあれば第二継承者引継ぐ事もあるでしょうが、ブリューさんは壮健でしかも聡明です。現在、他国の王子達と大計画を着々と進行させています。
となれば、何れは二女であるシグさんを城から出すことになるわけです。
どうせ出すならば、自分達の近くが良いと思うのは親心でしょう。
それに、町の警備をは国王が直接監督できますし、西の部族や国家への備えとして屯田兵も配置出来ます。
「それはワシに任せておけ。だが、アキト殿の認知だけは得るのだぞ。」
「分ってます。」
娘の答えに満足した国王夫妻は再び小さな孫をあやし始めました。
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丸まった黒豹に寄り添うようにオデット姫がお休み中です。
もう1頭の黒豹が周囲をゆっくりと回りながら警戒をしています。
ラミア女王はそんなお花畑の中の光景を見ながら赤ちゃんの服を編んでいました。
一緒にやって来た侍女達が本来はやってくれるのですが、我がこのは自分でも編んであげたいみたいです。
「ホッホッホ…、進んでおられますかな?」
「中々に難しくて思うように進みませんわ。でも、1つ位は何とかなるかと思います。」
女王の近くの花の上に腰を下ろすのを見て、女王も編み物を中断してその傍に座りました。
「それで、どのような裁可になったのでしょうか?」
「まぁ、しばらく絶えていたドルアンの大集会じゃ。8つの部族の族長が集まり、それを聞きつけて更に3つが集まる始末。
若者の武技が競われ、そして長老達はそれを見ながらの話合いじゃ。昔は纏るのに10日も掛かったそうじゃが、今回は初日で結論がでた。問題はその後の対応じゃ。未だに続いて折る始末じゃ。全く開いた口が塞がらぬ。
結論じゃが、オデット姫の元に我等の部族は結束するそうじゃ。将来の我等が女王という事じゃな。そして、その治世をどのようにするかについての議論が纏らぬ。
とりあえずは、この聖地の警備に各部族より3人の戦士を派遣するそうじゃ。全て女であるから、気にせずとも良かろう。嵐の外を各部族より10人の戦士が守る事も決まったが、これは男に限られておる。」
そんな話を年老いた狩猟民族の老婆が教えてくれました。
どうやら、警備を任せる人間の選出を武技で競ったようですね。
砂の嵐に囲まれた別天地は鉄壁の守りとなったようです。
「そういえば、テーバイの老武人が長老を訪ねてきたそうですじゃ。長老は、女王の無事と姫の誕生を話したと言っておりましたぞ。安堵の表情を見せてかえったと言う話ですじゃ」
やはり、テーバイ王国も女王が去ったことをずっと気にしていたようです。
「我等、どのように姫が育ちましても付いて行く所存にござります。そこに我等の安寧の地がある筈ですじゃ」
ここまで来ると、伝承って罪ですよね。
でも、それを信じて今まで苦しい荒地で暮らしてきたのです。
その希望が現在進行形で形になりつつある。
狩猟民族の人達は、誰もが嬉しさで一杯でした。