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後日談 1-05


 「まぁ、気を落とすな。だけど程ほどにしろよ。お前がいないとこの世界はつまらないからな。…それと、少しお前に親近感が湧いたよ。お前も男だってな!」


 ユングさんは、そう言ってアキト君の背中をポンっと叩きました。

 そんなユングさんに、あはは…ってアキト君は笑って誤魔化しています。

 でも、内心は一生懸命ミズキさんに謝ってくれたユングさんに感謝の気持ちで一杯ですよね。そうでないと困ります。


 「これからもよろしく頼むよ」

 「当たり前だ。だが、こんなに緊張したのは初めてだぞ。警察に補導された時でも此処まで緊張することはなかった。威圧感が半端じゃないんだよな。」

 

 そんな話をしながら、ギルドの前でユングさんと別れました。今度はもう1つの難題。セリウスさんが待ってる筈です。

 アキト君はゴクンっとツバを飲み込むと、意を決してギルドの扉を開きました。


 「今日は…。」


 小さな、おどおどした声でアキト君が挨拶すると、ギルドに居合わせた人達が一斉にアキト君をジロリって見詰めました。


 「あのう…、お騒がせして…。」

 「ちょっと、こっちに来い!」


 しどろもどろに言い訳をしようとしたアキト君の襟首を、むんずと掴んだセリウスさんがズルズルとアキト君を引き摺ってギルドを出て行きます。

 ちょっと嬉しそうな顔をして、スロットが後を付いて行きました。

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 「どうじゃ?」

 「まだまだですね。それでは、何時まで立っても剣姫様のままですよ」


 「なんじゃと! 行くぞ!!」

 「応!」


 体育館ほどの広さの空間ではアルトさんと巫女が徒手空拳で闘っています。

 どうやら、拳法を学んでいるようですが、それだと拳姫になりそうです。

 

 ジュリーさんは角の方に用意されたテーブルで編み物しながら、たまにお茶なんか飲んでます。

 ディーは部屋にいませんね。きっとシステムのバージョンアップでもしているのでしょう。


 バシン!!

 2つの拳が激突します。

 アルトさんの体がころころと後ろに転がって行きました。


 「やはり、体格的に無理があると思います。かなり技量は上がりましたが、体重を乗せた攻撃を体格差がある相手に使うと、反動で自分が後ろに吹き飛びます。」

 「むう…。ミズキのように相手の腹を手刀で打ち抜くのは、我には無理か…。」


 「そこまでしなくとも、今までの訓練でガトル相手ならば素手で倒せると思いますが?」

 「もっと効率的に優雅に倒す方法は無いのか?」


 「そうですね…。もっと素早さを上げる特訓をして、秘孔を突く訓練をしましょうか?」

 「アキトに聞いたことがあるぞ。人体の急所じゃな。」


 なんか、とんでもない訓練が始まりそうです。

 ところで、お子さんはどっちなんでしょうね。


 そんな訓練の場所にディーが入ってきました。

 つかつかとジュリーさんのところに歩いていきます。


 「姫様にお変わりはありません。先程私がミルクを与えました。」

 「そう、ありがとう。母親があんなだから、私達が面倒をみなければね。」


 そう言って、編み物の手を休めると、ジュリーさんはアルトさんに顔を向けました。

 そんな言葉に、ディーの顔がほころびます。

 ひょっとして、自分達をお母様と呼ばせたいのかも知れませんね。

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               ・

               ・


 女王が抱く幼子に会いに、狩猟民族の族長が続々と聖地にやってきます。

 ゆったりとした椅子に腰を降ろした女王の両隣には黒豹が蹲っていました。

 天幕から入ってくる族長が少しでも殺気を持とうものなら、たちまちガブリっとやるつもりのようです。


 新たな族長が入ってきました。

 黒豹がスイっと頭をもたげます。そしてその頭を降ろすと、ホッとしたような面持ちで族長が救世主の誕生の祝賀を述べています。

 

 「まことにおめでたいことです。聖地での最初の御子であるならば、我等がその意に沿う事は紛れもなきこと。姫様のご命令のままに、この槍を掲げてシャイタンと闘うことを誉れに思う所存でございます。」

 

 そう言うと、筋骨たくましい若者が祝いの品を族長の前に持ってきました。

 

 「ささやかな祝いの品でございます。お納めくださりませ。」

 

 白テンのビロードのような毛皮に包まれたものは、宝石の原石のようです。

 

 「我は、この地に逃れてきた者。そしてこの娘は故あって父の名を明かせぬ者。それでも貴方は娘の誕生を祝ってくださるのですか?」

 「もちろんでござります。名を出さずとも、誰もが姫君の父を知っておりますれば…。そして、聖地での御子誕生は誰もが待ち望んだこと。かつて幾多の者がこの聖地で出産を試みましたが、いずれも誕生は致しませんだした。

 聖地でお生まれになった御子様が我等を豊饒の大地へと導く救世主となられる。

 何時その御子が生まれるのかを我等は待ち望んでおりました。まさか、私目の代でそれが叶うとは…。どうぞ、我等を導いて下さりますよう…。」


 頭を天幕の床に擦る付けるようにして族長が拝んでいました。

 このままでは、広大な領土を持つ女王様になってしまいそうですね。

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 おくるみに包んだ幼子を、シグさんが両手に抱えて果樹園を散歩しています。

 落としたりしないだろうか?とはらはらしながらマリアさんがその後ろについて歩いていました。

 もし、手が滑ったりしたら、脱兎のごとく身を投出して幼子を受取るに違いありません。


 「姫様、そろそろお部屋に戻った方が…?」

 「あら、もうそんな時間?…でもこの子は外が好きみたいよ。ずっとあちこちみていますから」


 そう言って、幼子に微笑みます。

 いいお母さんになってるようですね。

 そこに、ハンター姿の男がやってきました。2人がそちらに向かって微笑んでいるところをみると、既知の人物のようです。


 「これはこれは、お散歩ですかな」


 男がそう言って、おくるみの中の幼子を覗き込みました。

 そして、ベロベロバーっってやってます。


 「ほほほ、エイオス殿も子煩悩ですね。」

 「ははは…、そんなことはありません。でも、私もそろそろ身を固める歳になってきました。」

 

 「良い人が現れたんですか?」

 「それが、未だに…。まぁ、郷の母親が適当に見つけてくれると思います。」


 その言葉にまた2人が可愛らしい笑い声をもらしました。

 すると、シグさんが抱いていた幼子も笑い顔になりました。 

 

 「おや? 姫様も笑っておられますな。さては、私の妻になってくれるおつもりですかな?」

 「エイオス殿。姫が大人になるまで待っておられてはケイモス殿のようになりますよ。」


 何かツボに嵌まったようでシグさんが笑い始めた。

 思わずマリアさんがその手から幼子を抱き取っていました。

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 「やはり、サーミストの貴族か!」

 「他国の貴族もかなり参加しているみたいですね。総勢13家は予想を上回っていました。」


 「まぁ、もう、2、3家は追従するやも知れぬ。アン義姉様の方にも連絡は入れたのじゃろうな?」

 「暗号電文を送りました。ニードルを動かすと御后様が言っていたそうです。」


 「上手く尻尾を掴めるかは疑問じゃが、証拠は多いほど良い。エイオスとクローネにも連絡しておく方が無難じゃろう。」

 「それは、もう済ませました。…ところで、例の話がイゾルデ様の耳にどうやら入ったみたいなのですが…。」


 「母様は、ダメじゃ!…あれは我等の大計、母様は母様らしくカルートのお腹を考えればよい。大丈夫じゃ。我がちゃんと断わる。」

 

 サーシャちゃんは自信を持って言い放ちます。

 折角ここまでうまく進めたんですから、誰にも邪魔をされたくありませんからね。


 「それは、お任せしますが…、私達はこのままで良いのですか?」

 

 ミーアちゃんの言葉にリムちゃんも頷いています。

 何か大きな事が影で進んでいるのはおぼろげに理解できますが、それを放っておくのは何時ものサーシャちゃんらしくありません。


 「まだ、時が満ちぬ。我等亡き後の連合王国千年を保つためじゃ。今、摘み取る事も出来ようが、それでは精々2、3百年と言うところじゃろう。連合王国の内部転覆を図る者の全てを纏めて葬るのじゃ!」


 話の最後に、すくっと席を立って部屋の天井を指差しました。

 相当の自信がありそうにも見えます。


 「それでな、ちょっと近こう寄るのじゃ。」

 

 サーシャちゃんはミーアちゃんとリムちゃんを近くに呼び寄せると、ごにょごにょと内緒話を始めました。

 ミーアちゃん達は時々頷いたり、目を見開いたりして聞いているようです。

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 広い部屋に1人の男が暖炉の前で頭を抱えていました。

 そんな部屋に扉を叩く小さな音がして、初老の男が入ってきました。

 シャキっと背筋が延びてゆっくりとした歩みで男に近付くと、男の前にトレイに載った金のカップを直ぐ傍にある小さなテーブルに置きました。

 中身はワインのようですね。

 何も言わずに、男はカップを取ると一口ゴクリと飲み込みました。


 「モスレムのエルンスト家、それにアトレイムのデバイン家と旧カナトールのレビラム家の使者が先程見えられました。これが書状でございます。」


 そう言って、3通の封書を先程カップを置いて部屋を出て行きました。

 1人になったところで、おもむろに書状を取り上げます。

 そして、封を切ると中の書状を取り出して読み始めました。

 

 ふ~っと息を吐くと、その書状を後ろの暖炉に投げ込みます。そして、次の書状を取り上げます。

 

 そんな男の座る暖炉の煙突の影にカブトムシがとまっていました。ジッと書状を見ているようです。


 「これで、手駒が300を越えるぞ。一月後には500を超えるかも知れぬ。精鋭の聞こえが高い部隊であろうと、2倍を越える民衆が押し寄せれば身動きが取れまい。これで我等の世の中がやって来る。長く待ったものじゃ。上手い具合に大きな国に成っておる。我等が新王そして貴族となって治めるに不足はないのう…わっはっははは…」

 

 頭の中では戴冠式でも行なってるんでしょうか?

 静かな邸内に男の笑い声だけが響いていました。

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 小さな邸宅で若い男が今しがた戻った従者からの報告を受けていました。

 

 「そうか。直接は無理であろうな。だが、受取ってくれたのなら未だ見込みがある。少なくとも協力しさえすれば今までの暮らしよりは数段上の暮らしが望めるだろう。お前の給与も3倍位には上げてやれるぞ!」

 「その時は是非に、お願いします。それと…人集めでございますが。」


 「うむ。いかほど集まった?」

 「一月金貨1枚で、20程。前金で銀貨を5枚ずつ支払いました。」


 「まぁ、次に会う時には酒を飲ませて同じだけ払うが良い。それ位の金はまだある。それに、死人には金貨は必要ないだろうしな。」

 「はい…。」


 そう言って従者は部屋を去っていきました。

 若い男はテーブルの席を立つと、壁際のテーブルから酒をカップに注いで暖炉へと歩いていきます。

 なにやら嬉しそうですが、果たしてどうなるんでしょか?

 

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