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#005 山裾の集落

 

 森伝いに尾根を1つ回ると、遠くに集落が見えてきた。どうやらあれが、姉貴と手を繋いで歩く女の子、ミーアちゃんの暮らす村みたいだ。


 見えても、つくまでの道のりは遠い、途中で軽く食事を取る。

 始めて見る携帯食料にミーアちゃんは興味津々……。美味しいって言いながら俺の分まで食べてしまったぞ。


 そんなことで、集落についたときには、だいぶ日も傾き始めたころだった。


 集落は、簡単なログハウス風の掘っ立て小屋が10軒程度集まって、その周囲を簡単な柵で取り囲んでいる。


 踏み固められた小道は、集落の柵の切れ目に続いており、そこには門番らしき人が槍を持って立っていた。

 俺達が門番の傍まで行くと、門番は槍を俺達に突き出した。


 「止れ!ミーアは良いとして、お前らは?……それより、サミエルは一緒じゃないのか?」

 「ご主人様は死んだ。ガトルの群れに襲われた。この人達がガトルを追い払ったけど間に合わにゃかった」


 「そうか、草原のガトルは脅威だからな。お前は直ぐに木に登れても、あいつはそうはいかんか。

 だから、今朝も止めたのに。

 すると、こちらはハンターなのか、ミーアを助けてくれて感謝する。何もないところだが、ゆっくりしてってくれ。」


 門番は勝手に判断して俺達を集落に入れてくれた。

 ミーアちゃんの後をついて集落の中を歩くと、少し大きめの家があった。

 どうやら長老の家らしい。

 姉貴が丸太を半割りにしたような板で作られた扉を開ける。


 「あのう…誰か居ませんか?」

 「誰じゃ。」


 部屋の奥まった所に布を下げて部屋を作ったようなところから、かなりのお年寄りが顔を出した。


 「貴方が、この村の長老ですか?」

 「いかにも、そうじゃ。はて?お前さん達に会うのは初めてじゃな。なんぞ理由でもあるのかの?」


 姉貴は、ガトルの一件を話し始めた。

 サミエルの死には、少し驚いたようだが、ミーアの今後について話始めると、何故ここを尋ねたか合点がいったようだ。


 「先ず、ミーアは奴隷ではない。

 サミエルが何処からか連れて来たが、奴隷の証である額の刺青はないし、消した後もない。

 衣食住を保障するとか言いおって奴隷のように働かせておったが、あまり融通は利かなかったの。

 村人からの噂も良いことは聞けなかった。昨日の旅人から森で高額な薬草を沢山見たと聞いて出かけおったのじゃな。……欲に正直な男だった」


 「すると、ミーアちゃんは?」

 「自由じゃよ。この村に暮らすも良し、村を出ても良し。出来るなら、これも縁と思って面倒を見て欲しいのじゃが……」


 「でも、私達兄弟は、生活手段がありません。仕事のあてがあると良いのですが」


 姉貴が少し困った顔を見せて言った。

 長老はその言葉に驚いたようだ。


 「何と、ガトルを倒せる者が!……それなら、ハンターとなるが良いじゃろう。

 この村では出来ぬが下の村は大きい、ハンター・ギルドがあるはずじゃ。今夜はこの村に泊り、明日出かけるがよかろう」


 丁寧に姉貴は長老に礼を言うと、俺達は家を出た。

 こっちこっちっと姉貴の手を引くミーアちゃんと連れ立って小さな家に入る。


 どうやら、ミーアちゃん達が住んでいる家のようだ。家主はもういないけどね。

 家の中は狭く、10畳位の真ん中に石で囲っただけの炉があるので、傍の薪で早速火を点ける。


 パチパチと燃え上がる火で部屋の中がよく見えるようになった。

 端にベッドと木箱。その反対側に藁が敷いてある。

 炉の反対側には木桶と古びた鍋。そして数個の木の椀。……其れだけだった。


 「ミーアちゃんは何処で寝てたの?」


 姉貴がミーアちゃんを覗き込むように尋ねると、端の藁を指差す。

 どうやら、藁に包まって寝てたらしい。姉貴はため息をつくと、ベッドの脇の木箱を開けた。


 中には、酒瓶と男物の粗末な衣類、それに小さな皮袋があった。

 皮袋を開けると、1枚の銀貨と大きさの異なる10枚程度の銅貨が出てきた。

 あの男の蓄えらしい。とすると、これはミーアちゃんのものだ。


 「待ってて、ちょっと出掛けてくる」


 そう言うと、籠を背にミーアちゃんが家を出て行った。


 「貧乏なのか、幼児虐待なのかよく解らないけど、このままではいけないわ。私達で引き取るけど良いわね?」

 「あぁ、一人暮らしはかわいそうだ。……でも、俺達だって此処で暮らしていけるか解らないよ」


 「その点は大丈夫。長老が言ってたでしょ。ハンターになれって。

 明日、下の村に行きましょう」


 そんな会話をしながら、姉貴は自分のザックの中をごそごそと何かを探し始めた。


 取出したのは裁縫セット。何でも持って来てるような気がする。

 そして、木箱の中にあった男物の衣服を切り裂いて何かを作り始める。


 暇になった俺は、ザックからポットを取出し、水筒の水を入れて炉の脇に置いた。これでコーヒーが飲める。


 「ただいま」


 ミーアちゃんが帰ってきた。

 姉貴が「お帰り!」って返事をする。

 姉貴の所にトコトコと歩いていくと「はい!」って右手を出した。

 姉貴は怪訝な顔をして右手を出すと、銀貨1枚と大小の銅貨数枚がその手にのった。


 「如何したの…。これ?」

 「さっきの牙と薬草を売ってきたの」


 「このお金ってどれ位の価値があるの?」

 「銅貨10枚でご飯が食べられるってご主人様が言ってた。銀貨は銅貨100枚分、そしてこの大きなほうは銅貨10枚分だよ」

 

 どうやら、貨幣単位は10進法らしい。10倍毎に異なる貨幣があるみたいだ。

 銅貨10枚でご飯が食べられるということは、だいたい1枚が10円程度になるのかな。

 

 ザックからアルファ米を取出してお湯が煮立った鍋に入れる。乾し肉と乾燥野菜をいれて塩で味を調整。簡単だけど、雑炊の出来上がり!

 お椀にすくうと、3人で美味しく頂いた。

 

 夕食が終わると、3人でこれからの事をもう一度確認することにした。

 先ず、これからの暮らしを如何するかだ。


 長老は、ガトルを倒せるなら下の村に行って、ハンターになればいいって言っていた。 ガトルの牙はミーアちゃんの話だと、銅貨25枚程度で売却できるらしい。……という事は、1日で、ガトルを4匹仕留めれば食事は出来るということだ。


 寝る場所については、最初は野宿。不安はあるが、ガトル程度なら心配ない。

 後は、ギルドでの依頼にどのようなものがあるかということだが、別に上を望む訳ではないので、暮らせる分に留めればそれも問題は無いだろう。


 姉貴を見ると、膝にミーアちゃんの頭を乗せて寝かしつけながら、針仕事をしていた。

 

 「姉さん。何を作ってるの?」

 「この子ね……。下着すらないのよ。とりあえず上着は今の皮服でいいとして、下に着るシャツとパンツを作ってるの。出来れば、アキトには靴を作って欲しいけど……。無理かなぁ」


 「とりあえず作ってみるけど、期待しないでね」


 早速、ザックからノートを取出し、ページを1枚を破る。

 鉛筆を持って、寝ているミーアちゃんの足から靴?を脱がせると、足の裏に紙を合わせて鉛筆でなぞり足の型紙を作った。


 次に木箱を漁ると、鹿皮のような上着を見つけた。痛んではいたが、着る訳ではない。

 木箱の蓋を利用して型紙より少し大きめに靴底を4枚切取る。

 靴の表は自分の靴の構造を見て、おおよその形で同じ形になるように2枚切取った。


 「姉さん。クナイ貸してくれる?」


 俺の注文に、姉貴は靴に取り付けたケースからクナイを抜くと、ぽんと投げてくれた。

 クナイを使って革ひもを4本切取る。

 靴底2枚と靴の表の下側を丁寧にクナイで穴開けを行う。そして、両者を革ひもで縫い合わせると、簡単なモカシンブーツだ。

 履いた後で靴の表に開けた調節用の紐を閉じれば出来上がり。我ながらよく出来た。


 ほら!って姉貴に見せようとしたが、既に姉貴は夢の中。

 火の番のついでに、バックも作ってみる。これは、1枚の革を3分の1程折って両側とベルトを通す場所を、穴開けの後に紐で閉じていけば良いので簡単だ。残った革がカバーになる。


 時計を見ると12時を回っている。

 炉に薪を放り込み、俺も寝ることにした。


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