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#495 あっちはどうなってる?

 


 初夏になるとちょっとした狩りの依頼も増えてくる。

 アルトさん達は、王都から来た2人のハンターの指導をまだしているようだ。あれからレベルが上がって赤5つになっているのだが、アルトさん曰く、「もうちょっと上げておきたいのじゃ。」という事だった。

 秋が訪れれば、この村を去る。マケトマムを紹介すると言っていたが、そうなるとカンザスさんに誰に狩りを教えられたかを知られる事になる。

 恥を掻きたくないという事らしいが、本音はハンターとして大成して貰いたいという思いがあるのは皆が知っている事だ。


 そんな事からルクセム君達も赤の高レベルの狩りは手控えているようだ。

 そして俺達は、ミク達を引き連れ薬草採取に励んでいる。

 アテーナイ様にミケランさんと双子の兄妹、スロットにローリィちゃん、俺と姉貴にディーさらにはマリンちゃんまでが一緒だ。

 俺とアテーナイ様のガルパスに子供達を乗せて、大型の籠をそれに括り付ける。

 総勢10人になる大パーティだが、何かあれば子供達を素早くガルパスで避難させる事ができる。そして、残った連中はグライザムが相手でもひけをとらない連中だ。

  

 だけど、他人から見れば、初夏の草原に繰り出すピクニックに見えるよな。

 確かにやってる事は、それ程変わらないけどね。


 「やはり、平和は良いのう。こうして子供達と薬草を積みながら過ごせるのが何よりじゃ。」

 「それは否定しませんが、たまにはを狩りたいですね。」

 「俺とルクセムでだいぶ狩りましたからね。今年のガトルの目撃例も少ないですよ。」

 

 俺の言葉にスロットが事情を教えてくれた。

 2人とも熟練クラスだな。スロットが黒の5つ。ルクセム君は黒3つと聞いた。スロットはハンター稼業は山荘の管理の合間にするくらいだが、ルクセム君の場合はそれが本業だ。銀クラスまで伸びるんじゃないかな。黒5つになったら、カラメルの試練を受けさせても良いと思う。あの試練は試合の他にもう一つ、参加者の人間性を見るという場でもある。

 幾ら、強くても人間的に劣っている場合は勝利を得る事が出来ないようだ。そして、単に人が良いという事でもダメだ。自らの信念と公平性を重視しているようにも思える。


 南の畑を過ぎた辺りで、休憩用の木陰にガルパスを停めると、俺達は薬草採取を始めた。

 子供達の面倒は、ミク達が見てくれるし、大人達も焚火の番をしながら2人は木陰で休んでいるから、本当にピクニックと変わりない光景だ。


 ミケランさん達と交代して俺と姉貴が焚火の番を始める。

 喉が渇いた子供達にジュースを飲ませて、俺達は久しぶりのコーヒーだ。早速、タバコを取りだすと一服を始めた。


 「のどかだね。こんな暮らしが一番よね。」

 「あぁ、そうだね。命の遣り取りもなく、子供達が獣に脅かされる事もなく草原で遊べるのが一番だと思うよ。」


 危険な肉食獣を狩る事もなく、日々の糧を得る為に、子供達を連れて安全に依頼を達成出来るならそれが一番良いに決まってる。

 戦場で電鍵を叩くミト達だったが、母親と笑いながら薬草を積む方が俺達の望む姿だ。

 俺達がなすべき事は後一つ。それが終ればこのような日々がずっと続くのだろう。

 俺と姉貴が望んだ慎ましい暮らしはもう直ぐだな。


 「ところで、あれから哲也からの連絡はないの?」

 「そういえば、しばらくメールを見てなかったわ。ちょっと待ってね。」


 姉貴なりに忙しかったようだが、それはないと思うぞ。情報端末を起動したときにチェックくらいはしておかないと。


 「来てる来てる!…2つあるわね。画像が沢山付いてるわ。」

 

 楽しそうに、情報端末を操作して仮想スクリーンを展開する。

 どれ、どんな内容だ?


 『町を作っているそうだが、あまり趣味に走るなよ。俺達の方は障壁を作っている4つの砦の内、2つを破壊した。後2つはそれ程先にはならないだろう。』


 残念ながら、趣味の町作りをしてしまった後だ。俺も、姉貴に任せたのを反省している。

 そして、添付された画像は破壊された砦の跡が生々しく映っていた。


 「ちょっと、不思議な光景だね。科学文明とは違うけど、何故か見慣れた光景に見えるの。」

 「自然科学から発生したんじゃ無さそうだ。魔法を学問として発達させたんじゃないかな。魔導科学といった感じに見えるよ。中世の錬金術の装置にも見えるけどね。」

 機械と生体、それに不思議な球体が太いパイプで連結されており、それとは別に蜘蛛の糸のようにも見える細いケーブルが複雑に絡み合っている。


 別な画面には電極を刺された20個程の悪魔の頭部が並んでいた。

 更に数枚、おぞましい画面があり、最後の画像はカメラに向かってVサインを出している哲也達の写真だ。

 2人とも6輪装甲車の上で胡坐をかいている。

 黒色のコンバットスーツはだいぶ埃まみれのようだ。手元にあるのは自動小銃のようだが見た事がないしろものだ。

 MP3はもう使わないのか、壊れたか…。結構激戦みたいだが、元気で何よりだ。


 姉貴が次のメールを開く。


 『4つ目の砦を攻略中だが、奴ら最初の砦を再建しているようだ。残念ながら、ここで一旦、後退する。攻略資材が底をついた。次の攻略は秋になりそうだな。それで、この戦を終わりにしたい。だが、奴らを根絶やしには出来かねる。将来は覚悟しておいた方が良さそうだぞ。』

 

 添付された画像には、どこかの山麓が映っていた。炸裂する砲弾で山が霞んで見える。

 最後の画像には葉巻を楽しんでいる哲也だけが映っていたが、土埃で真っ黒な顔は、速めに洗った方が良いぞ。

 

 「最後のメールは何時ごろなの?」

 「今年の春先ね。まだ私達が町にいた頃よ。」

 

 秋に再度攻略を始めるという事は、上手く事が運べば今年中に歪みを除去出来そうだな。

 気になるのは、相手が砦の再建を始めたという事だ。徹夜が再度攻撃を始めた時にいったい何箇所の再建が終了しているかだな。


 時限断層を作る魔導装置は、結構複雑だった。それを徹底的に破壊したようだから、砦は再建できても歪みの周囲に広がる障壁まで完成させることは難しいだろう。

 その僅かなチャンスに全ての砦を破壊できれば良いのだが。


 「哲也の方も、そろそろ何とかなりそうだ。俺達も準備だけはしておいた方が良いんじゃないか?」

 「そうね。いよいよやるのね。」


 姉貴はちょっと寂しそうな顔をする。

 まぁ、確かに上位の魔法が使えなくなる可能性はあるんだが。

 それでも、中位までの魔法があれば結構役に立ちそうな気がするけどな。


 輪になって昼食を食べると、どの顔も笑顔になる。全くハイキングと変わらないな。

 

 「明日は、ネビアがご一緒したいと言っていました。少し、お腹が大きくなってきたので無理はするなと言っているのですが…。」

 「ほう、2人目じゃな。さて、今度はどちらかのう。」

 

 スロットにそんな言葉を掛けるアテーナイ様も、ちょっと楽しみが出来た事を喜んでいるようだ。

 そして、この子達の新しい兄弟が出来る訳だな。

 

 「私の方が先になるにゃ。今度はどっちでも良いにゃ。」

 

 ミケランさんの場合はそうなるな。俺としては男の子が良いぞ。

 ジュリーさんなら生まれてくる赤ちゃんの性別が分るんだが、ネビアもミケランさんもそんな気は無いようだ。

 まぁ、それで良いような気もするけどね。


 「あれからだいぶ経つのよね。ロムニーちゃんなんて、もう年頃の娘さんよ。それにルクセム君だって、アキトより年上に見えるわ。」

 「あぁ、良い青年に育った。俺としては黒5つ位で、カラメルの試練を受けて欲しいね。彼なら大丈夫だと思うよ。」


 「確かにのう。じゃが、黒5つでなくとも我は良いと思うぞ。それに3回までは試練を受ける事が出来るのじゃ。この夏の試練に送り出してはどうじゃな。」

 「そうね。私も十分だと思うわ。」


 2人とも、今年で十分だと言う意見だ。俺としては確実にと思っていたが、確かにダメ元という考えはあるな。それに、俺達は赤で試練を受けたんだから、それを考えると無茶な事をしたものだ。

 

 「一度、話してみるよ。ルクセム君はずっとこの村にいたんだ。たまに他の土地に出向いてみるのも彼の為になるしね。」

               ・

               ・



 「話って、何でしょうか?」

 「あぁ、ルクセム君の将来の話だ。」


 ギルドのテーブルに俺とルクセム君、それにロムニーちゃん達が座って話を始めた。


 「どうだい。この夏、村を離れてラザドムの猟師町に行ってみないか?」

 「この村のギルドにも仕事が十分にあります。あえて他の村に行く必要はないと思いますが。」


 「あるんだ。そこで無ければ出来ない事がね。ルクセム君は黒3つ、アテーナイ様と姉貴、それにアルトさん達も賛成してくれた。ルクセム君なら出来るとね。…カラメルの試練。話位は聞いた事があるんじゃないかな。

 それが、ラザドム村で毎年行なわれる。それに出てみないか?」


 「あの虹色真珠が手に入るんですか?」

 

 レイミルちゃんが驚いて立ち上がった。

 直ぐに大声を上げた自分を恥じて、赤くなりながら席に着いた。

 確かに驚く話かもな。


 「僕に出来るでしょうか?」

 「皆は試練に耐えると思っている。俺もだ。」


 「ルクセム君。私達も一緒に行って応援してあげる。やってみなよ。」

 ロムニーちゃんは俺にとっての姉貴みたいな感じなのかな。ルクセム君が小さく頷いたぞ。


 「良し。頑張れよ。そして一言忠告だ。…勝たなくても良い、負けるな。そして諦めるな。」

 「試合をすると聞きました。武器を使うのですか?」


 「いいや。俺と姉貴の時は素手だった。素手で闘い、俺は相手の心臓を止め、姉貴は相手の片腕を斬り取った。赤7つの時だ。」

 「素手で戦って、腕を斬り取るなんて出来るんですか? いや、それよりどうやったら心臓を止められるんです。」

 

 慌ててロムニーちゃんが俺に訊ねてくる。


 「そういう技があるんだ。この国には生憎とないようだけどね。」

 「でも、僕は素手で戦った事はありませんよ。それでも大丈夫なんでしょうか?」


 「そこが、さっきの忠告になる。勝つ必要は無い。負けなければ良い。攻撃をかわす簡単な方法は教えてあげよう。」

 「でも、虹色真珠は勝者に与えられる物だと聞きましたが?」


 「ちょっと、違うな。彼らは試合を通して俺達を見ているんだ。真剣な試合程、相手の人間性を観る事が出来る。勝利は譲られる物であり、勝ち取る物ではない。」

 「評価の基準は何なのでしょう?」


 「誠実さと実行力…。俺にはそう思える。実行力は確かに武力には違いないとは思うけどね。」

 

 これで、祭りの時期に村に送ってあげればいいな。

 イオンクラフトで行けば直ぐに着くだろう。

               ・

               ・


 そして、家に帰ると早速皆にルクセム君が了承してくれた事を話す。


 「それは、我等も応援せねばなるまい。リムも良いな。」

 

 アルトさんは、そう言ってるけど夏だから海に行きたいだけなんじゃないのか?

 ちょっと疑問が残るな。


 「俺は次の準備を始めたい。哲也の方のらちがあけそうだ。そうなれば歪の破壊をいよいよ行なう事になる。」

 「ルクセムの応援は我等で十分じゃ。ゆっくりと待っておれ。」


 「とは言え、明日からルクセム君と朝稽古だ。少なくとも攻撃を避ける事ぐらいは教えておくよ。」

 「それは、私が教えるわ。アキトはユングとゆっくり話し合って。今後の計画を考えなくちゃならないから、ユング達の情報がもっと欲しいの。」


 俺は姉貴に頷く。

 確かに、見通しと何をやるのかぐらいは聞いておかねばなるまい。

 そして、哲也達が地球の反対側にいることを考えれば、今夜にでもコンタクトしてみよう。

 

 皆が寝静まった深夜に、情報端末を開く。

 仮想スクリーンを展開させると、哲也を通信機能で呼び出してみた。

 横に置いたシェラカップのコーヒーを飲みながらタバコに火を点ける。


 「よぉ、久しぶりだな。どうだそっちは?」

 「製鉄所は動き出した。そして町を作ったぞ。哲也の忠告が少し遅かった。町の名はサマルカンド。中心に青のモスクがある。」


 ヒューっと軽く哲也が口笛を吹く。

 

 「そりゃ、凄いな。帰ったら是非見学に行くぞ。あのモスクを再現したんだな。」

 

 そうだと俺が頷いた。


 「すまん。メールを読むのが遅くなった。そっちは大変みたいだが、先が見えたと姉貴は考えているようだ。」

 「あぁ、確かに先は見えた。例の同時爆破の時期を知らせて欲しい。少なくとも年を越さないようにする心算だ。」


 「時計はこちらの時間で良いのか? バビロンに確認してメールを出せば良いな。」

 「それで良い。こちらはあまり心配するな。お土産も出来たから、破壊終了後には直ぐに帰る。」


 「あぁ待ってるよ。だが、、良く稼動する戦車を見つけたな。」

 「機甲師団1個を丸々モスボール化した場所を見つけた。燃料は水素エンジンで動くから小さなプラントで生産したんだ。問題があるのは弾薬だな。車両につんである物しか手に入らなかった。後は、フラウのエンジニアリング能力で動かしている。」


 「自律兵器なのか?」

 「極めて初期のものだ。敵と見方の区分けは、このバッジのような発信機だ。何時も3個着けている。1個だと壊れた場合俺達が攻撃されそうだ。」


 「昨年の科学衛星で哲也達を見ていたら、姉貴が別働隊がいると言っていたぞ。」

 「ミズキさんには隠し事は出来ないな。確かに別働隊だ。ケンタウルス型の4足歩行するロボットが2小隊いる。小出しにして自爆攻撃を掛けているんだ。残りは40体も残っていないが結構使えるぞ。」


 「余り無茶をするなよ。それで運搬手段と爆破のタイミングは大丈夫なんだな。」

 「そこは問題ない。ダミーも作ったぞ。最もそれに乗せたのは、気化爆弾と毒ガスだ。」

 

 「毒ガスは俺達も使うんじゃ無いかと思っていたが、散布後の環境汚染は大丈夫か?」

 「問題ない。空気中の水分でゆっくり無力化する。」


 画像の向うでは哲也がお茶を飲みながら、パイプを楽しんでいる。

 そんな久しぶりに見る友の笑顔を見ながら、温くなったコーヒーを一口飲んだ。

 

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