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#484 資金調達の次の手段

 


 もう直ぐ今年も終ろうとするリビングの昼下がり、姉貴達はテーブルでお茶を飲んでいるが、その表情はさえない。

 製鉄所の工事現場からディーと戻って来たのだが、俺達がリビングに入って来たのも気付かないみたいだ。


 「どうしたの?」

 姉貴の隣の席に着くと、早速聞いてみた。

 「資金が足りないのじゃ。我とリムが資金の提供を申し出たのじゃが、却下された。」


 アルトさんの言葉にリムちゃんも頷いている。

 まぁ、その気持ちは俺も同じだ。姉貴の趣味に走った神殿の建築はそれなりに資金が必要だ。

 ザナドウの牙で作った宝玉を売り払ったけど、残りはリムちゃんの嫁入り道具と俺達の持つ3個だ。これは記念に取っておく事で一致したから、売ったのは1個だけだった。それでも金貨50枚になったんだから、ありがたい話ではある。


 神殿は、石造建築だ。それに青いタイルを貼るのだが、石を運ぶのと加工に多大な労力がいる。人件費の増大を予想しなかったみたいだな。


 「アキト…。何か商売が出来ない?」

 「急に言われてもねぇ…。」

 

 俺に気付いて姉貴が呟いたけど、俺だって直ぐには思い浮かばないぞ。

 とは言え、何か考えないといけないみたいだな。リムちゃんが期待のこもった眼差しで俺を見ているし、アルトさんも胡散臭そうな目で見ている。

 ディーが俺にお茶を持って来てくれた。自分もマイカップを持って席に座ると、何の話をしているのかと訊ねるように俺を見る。


 「実は、町の中心に作っている神殿の建築資金が足りないらしいんだ。何か商売を始めて資金を稼ぎたいらしい。」

 俺の言葉に驚いたような目で姉貴達を眺めてるぞ。

 

 「私も、作業を見学していましたが、2つ程改善できます。1つは意思の運搬ですが、イオンクラフトで1度に2tは運べます。そして、加工用のノミを鍛造する事で加工速度が速くなりますよ。」

 「確かに、鉄の鑿だが剣よりも鍛造が行われていないな。将来的には作れるが、既存では無理だ。100本位はバビロンで用立てて貰えばいい。皆は頼むものがある?」


 「そうじゃな…。サーシャが望遠鏡とコンパスを沢山欲しがっておったぞ。」

 「それよ!」


 姉貴がガバっと頭を上げた。

 「望遠鏡とコンパスはこの世界でも作れるわ。作り方を指導して中間マージンを頂きましょう。」

 良い事を思い付いたと姉貴がうんうんと頷いてる。


 「作れるのか? このような魔道具のような物が?」

 アルトさんとリムちゃんはバッグから小型の双眼鏡を出してしげしげと見ている。

 

 「流石に双眼鏡は無理だ。だけど、最初にあげた小さな望遠鏡は何とか作れるよ。」

 「ガラスを作る技術と石を球体に加工する技術はあります。問題は、設計寸法に合わせる測定技術がありません。マイクロメータは精密機械加工です。オルゴールを作ったユリシーさんなら作れると思います。旋盤もありますから、ネウサナトラムで試作してはどうでしょうか?」


 俺の言葉をディーが補足してくれた。

 「という事で、バビロンの神官さんと相談して道具や設計図を工面してくれない?」

 「了解です。」


 俺の言葉にディーが席を立つ。早速出掛けるみたいだな。

 姉貴達もほっとした表情だ。


 「これで、資金の目処が立つわ。サーシャちゃんも購入してくれるし、ハンターの人達も欲しいんじゃないかな。」

 「確かに便利じゃ。大森林でも紐付き磁石よりは、このコンパスの方が良いに決まっておる。」

 

 小型の望遠鏡とコンパスは確かにハンターが持つべき物だとは思うけど、無いなら無いでそれなりに対応は出来る。

 軍で使うならば、それの有効性を少しずつ回りが理解していくという事になるだろうから、それ程の需要は無いんじゃないかな。

 まぁ、それは出来上がってから考えれば良いか。売れなければ、光学機器を作れるだけの技術力が定着する事で満足し、また次の手を考えれば良い。


 ちょっと希望が見えたみたいで、今度は姿勢を良くしてお茶を飲んでいるぞ。意外と単純な性格だな。


 「まぁ、先の見通しが出来たところで、製鉄所の方はどんな具合じゃ?」

 「何とか、来年の後半には試験運転が出来るんじゃないかな。用水路も丘の上の貯水池まで後50M(7.5km)程に迫った。貯水池から製鉄所の水車までの水路は出来ているから、もう少しだ。」

 「という事は、コークスと鉄鉱石を沢山準備しないとね。」


 「倉庫を5つも作ったよ。コークスと鉄鉱石が2つ、それに石灰石が1つだ。コークスの生産は順調過ぎる位に上手く行っている。鉄鉱石は荷車で運んでいるが、試験運転が始まるまでには倉庫が一杯になる筈だ。」

 「楽しみじゃな。早く、鉄が溶けて流れる様を見てみたいものじゃ。」


 そう言って楽しそうにリムちゃんと話始めたアルトさんを姉貴が優しい目で見ている。確かにあれは感動ものだ。遠くから見学させて貰ったが、まるで水流のように黄色に見える熔けた鉄が流れ出ていたからな。100m以上離れていても熱さを感じたのを覚えている。

 そう言えば耐熱服も考えないとな。厚手の木綿と革の服では耐えられないかも知れないぞ。


 「ところで、ユング達はまだ戦っておるのか?」

 「そうみたいよ。とことんやるみたい。」


 「俺に個人的に連絡があった。前に悪魔の映像を見たよね。あれが作られる場を見たらしい。どうやら、元は人間と言う事だ。」

 「それは、初耳ね。詳しく教えて頂戴!」


 姉貴に睨まれて、渋々話す事になった。と言っても、少しはトーンを和らげる。

 サルを悪魔が作りその悪魔をデーモンが作る。簡単に言うとそんな感じだ。

 そして、作られた姿は元には戻らずに、作った者達の意を汲んで行動する。


 「意外と魔物もそんな感じで作られたのかしら。そして、種族として定着するってことかな。ユング達が見せてくれたキメラなんてどう考えても遺伝子変異で出来る物ではないわ。」

 「ただ、サルや悪魔には子孫を残す術は無いらしい。そして、何らかの原因でサルの寄生体である小さな頭を無くしたサル達が暮す部落をユング達は見たと言っていた。寄生体が無いサルは原始的な生活をしながら平和に暮らしているらしい。」


 「あの頭が原因じゃな。そして、悪魔は角と言う訳じゃな。」

 「そういう事になる。ただ、悪魔の角は生体と融合しているそうだ。殺すしかないと言っていたぞ。」


 「それで、殲滅戦をしているのね。問題は、デーモンになるわ。ユングが言うように歪から来るのであれば、歪の消去で良いんでしょうけど、子供が増えるようなら厄介ね。」

 「将来、我等と戦う事になるのであろうか?」

 「たぶんね。でも、ユング達が頑張ってるから、互いの存続を掛けたような戦にはならないと思うわ。不幸な出会いはあるかも知れないけどね。」


 リムちゃん達が出会う事は無い。

 互いの大陸が離れすぎている。だが、俺達はどうだろう? ひょっとして千年を待たずして接触する事になるかもしれない。

 鉄の大量生産は産業革命をもたらす。そして、温室を利用して植物の改良を行なえば人口だって増えるだろう。

 新たな土地を求めて旅立つ者も現れる筈だ。その下地になる地図と星図そしてコンパス…。大航海時代はもう直ぐ、そこまで迫ってきている。

 

 「出会いねぇ…。私達も遠くの国に行ってみたいよね。」

 「そんな事を考えるのはミズキ位のものじゃ。王国の殆どの領民は、その一生を生まれた王国で過ごす。ハンターは別じゃがな。」

 

 「私達は特別なんですか?」

 「ハンターでさえも、5つの王国全てを廻るものはおらぬ。我等はその他にテーバイ、バビロン、エルフの里そしてユグドラシルまでも行っておる。ある意味、特別じゃ。」


 でも、商人達は更に違う土地の王国も巡っている筈だ。

 彼らは新たな商売の種を探して、今でも外洋商船で航海していると思う。

 そんな国の情報を持っているのは御用商人の連中だ。彼らこそが優れた旅行家だろう。


 まぁ、気の滅入る話よりは夢のある話が良いな。

 哲也達も、歪への突入の目処が立てば戦を止めるだろう。出来れば殲滅して貰いたいが、たった2人にそれを期待するのは酷というものだ。


 「ちょっと出掛けて来るよ。」

 そう言ってリビングを出る。

 テーバイから5人やってきた連中が、俺のアイデアと工房の親方の合作である風車式揚水器を組み立てているのだ。上手く行けばそろそろ稼動している筈だ。


 バジュラに乗って貯水池の西に作った農業用水用の遊水地に向かう。遊水地と言っても横幅3m長さ6mの小さな物だ深さも1.5m程の物だ。この池まで調整池から用水路で水を入れ揚水装置で高さ3mの所に作った給水槽に水を送る。そこからは畑の端に南北に走る用水路に水を土管で送るのだ。給水槽から用水路までは50m位だから水漏れ対策はそれ程行なわなくとも大丈夫だろう。

 用水路に溜まった水をU字管のサイホンで畑に水を流せる。

 その最大の課題は風車による揚水装置がどの程度の揚水能力を示すかにある。


 揚水装置の原理は手押しポンプだ。シリンダーの中を弁が付いたピストンが上下する。

 そのピストンの上下は風車の軸に付けたクランクで行なう。

 風の向きは風車の後部に付いた尾翼で制御してピストン軸毎回転する仕組みだ。櫓の上に直径2m程の大きな風車が付いているけど、ちゃんと風で回るのかちょっと心配だな。ポンプは大砲を作った鋳物技術で簡単に作れたけど、ピストンの密閉はちょっと苦労したぞ。結局、何枚もの革を鉄板に挟み込み水を使ってどうにか完成したんだけど、どれ位の高さまで水を汲めるかはやってみないと判らない。


 現場に行って見ると大勢が風車を見守っていた。

 「やぁ、良いところに来ましたね。8D(2.4m)の高さまでは問題ないです。今度は給水管を伸ばして10D(3m)で試験をするところです。」

 「上手く行けば、後は出てくる水の量だな。ちょろちょろでは失敗だ。」

 「8Dでは、桶で汲むように水が出ましたよ。」

 そう言って、試験をしている1人が俺に笑いながら言った。

 

 準備が出来た風車と揚水装置が丸太で組み上げた櫓に取り付けられる。

 風車を押さえていた留金が外されると、海から吹く風を捕らえて風車が回りだす。

 ガチャガチャとクランクが音を立ててピストンを動かす。そして、ポンプの出口から水が流れ出した。脈動しながら水が流れる。まぁ、レシプロ機関だからこんな物だろう。でも、汲み出される水の量は十分満足出来るものだ。2つ程作れば十分に用水路に水を流す事が出来るだろう。後は高所に作る給水槽の容量を考えれば良い。


 「これなら、テーバイの泉でも十分に使用できます。用水路、貯水池、給水槽そして風車の作り方も学ぶ事が出来ました。必要な機材の製作が終り次第テーバイに戻ります。」

 「良かったな。これは農業用水だけど、飲料水も同じようにすれば問題は無いだろう。後は衛生に気を付けてくれよ。」

 

 俺の言葉に、男は嬉しそうに俺の手を握って何度もブンブンと振り続けた。

 これで、ネイリイからジャブローまでの途中に町を作る目処が立った。

 人と物の往来は今よりもずっと多くなるだろう。同盟ではあるが実質的には連合と変わらない交流が出来るのだ。

 ラミア女王もそれで満足に違いない。

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