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#479 けっこう出来てきた

 


 春になって、姉貴達が帰って来た。

 夕方近く別荘に着いた3人を侍女がリビングに案内して来たのだが、どうやら寄り道してきたらしい。

 途中で、エントラムズの連合王国軍の本部に寄って来たのだろう、沢山のリスティンを特大の袋に入れて差し入れをしてくれた。

 獲物は、事務所に明日届ける事にして、俺達はのんびりとリビングでお茶を飲む。


 「カナトールで狩りをしてきたのじゃ。まぁ、軽い訓練じゃな。」

 アルトさんはそう言っているけど、たぶんお土産を作るために、サーシャちゃん達に頼んだんだと思う。

 

 「ところで、どんな具合なの?」

 「あぁ、高炉は形になった。今は反射炉の方に取り掛かっている。製鉄所内のトロッコ用の鉄道も順調だ。トロッコを数台走らせられるよ。港との輸送もトロッコを使えるように鉄道を延ばしている。用水路は、まだ半分にも満たないな。それでも、丘の上の貯水池は夏には完成するぞ。東の護岸工事が終ればいよいよ町作りだ。」


 「先が長いのう。ところで、我等は何をすれば良いのじゃ?」

 「そうだねぇ…。町作りを担当して貰いたいんだけど、その前に、商会と商人達と交渉してもらいたい。大量の木材が要る。家を作るために、柱と板が必要になるからね。その調達をお願いしたいんだ。」

 「祠も作るんでしょう?」

 「もちろん。4つ必要になる。それもお願いするよ。それと、町の周囲は塀では無くて堀を作ろうと思う。堀を掘った土で低い土塁が出来る。そこに杭を打って柵にすれば良いと思うんだ。」

 

 国境紛争で使った方法だ。簡単だが意外と役に立つのは実証済みだしね。

 これで何とかなるな。まぁ、姉貴の事だからどんな物が出来上がるか分らないけど、たまに様子をみれば変な町にはならないだろう。アルトさんもいることだし…。ちょっと心配になって来たな。最後はリムちゃんの常識に期待するしかないのかも…。


 不安になってきた頭をすっきりさせる為にテラスに行ってタバコに火を点けた。ここからでも製鉄所が良く見得る。夜間も工事をしているようで光球が数個上空に浮かんでいた。

 確かに、差し入れはありがたいな。頑張ってる作業員への何よりの贈り物だろう。


 リビングに戻ると、早速姉貴達がテーブルに紙を広げて、何やら騒いでいる。

 そんな光景をディーが興味深く見ていた。

 

 「何を揉めているの?」

 「どうやら、甘味所をどこに置くかで揉めているようです。」

 俺の問いにディーが即答してくれたけど、姉貴達に託したのは失敗だったかな。

                ・

                ・


 次の日、バジュラに乗って製鉄所の事務室に行くと、主だった連中がお茶を飲んでいた。まだ、仕事には早い時間だ。

 コニーちゃんが何時もの席に着いた俺にお茶を運んでくれる。

 

 「これ、夕食に使って。姉貴達からの差し入れだ。」

 そう言って彼女に特大の魔法の袋を渡した。受け取って、チラリと中を見て驚いている。


 「こんなに沢山ですか?…また焼肉パーティが出来ますよ。」

 「それは、もう少し温かくなってからにしよう。調理のおばさん達に渡してくれればいい。少しはおばさん達の家族に渡してくれ。」

 「ありがとうございます!」って俺に頭を下げると、事務所を出て行った。

 

 改めて、皆の顔を眺める。

 「昨夜、姉貴達が帰って来た。丘の上に作る町を姉貴達に頼んだから、その内計画書が出てくると思う。」

 「少しは気が楽になるのう。ワシのところは護岸までで良いのじゃな。」

 俺はタバコに火を点けながら頷いた。


 「問題は作業員と農家ですね。農家の方は2年間の食料を保証することで、10人程の希望者が出てきました。天幕暮らしで今年から初めたい、と言っているのですが…。」

 「護岸が終って、貯水池周囲の道と植林場所が確定したら呼んでも問題ないと思う。最も、飲料水はこちらで準備して上げないとね。1軒の水樽1個の目安でその時はお願いします。」


 「工房は数軒は集まるぞ。王都の工房からある程度回して貰える。たぶん他国からも来るじゃろう。10軒程度の工房を構えられる筈じゃ。」

 「鉄の大物を作るのであれば、製鉄所内でも構いませんよ。腕を競うのに3つ程欲しいですね。」

 

 「任せておけ、たぶん4つ出来るじゃろう。各国から1つずつじゃ。直ぐに来れずとも場所を確保して、レールを引いて置けばよい。」

 「商人の方も同じように枠を作りました。将来的にはカナトールやテーバイも出先機関を設ける事を望むでしょう。そして、中規模の商人や小商人も来る筈です。この比率を1:2:3の割合にします。そして、行商人の為の場所を確保していただければありがたいです。」

 「これはシグさんに頼む事になるな。」

 「国王達の了解を得るのですね。分りました。」


 「町作りの材料はミズキ様に任せるとして、製鉄所の建物も更に増やさねばなりません。作業員の休憩所兼食堂、その倉庫。そして所内に設ける工房も建屋は必要でしょう。最後に製品の保管庫です。」

 結構大型が残っているな。工房の大きさをデリムさんとヘンケンさんで話し合いを始めたぞ。

 食堂ではコニーちゃん達3人がシグさんを含めて話している。


 「必要なものは作りましょう。問題は資金です。大丈夫ですか?」

 「初期の資金は金貨350枚ですが、まだ半分程度残っています。このまま行けば来年の夏頃に資金を集める事を考えなければなりません。稼動後1年の資金を含めて、そこで調達する事になるでしょう。」


 「なら、しばらくは大丈夫じゃな。アキト殿、出来れば早めに、酒場を作るように言うてくれぬか?」

 「確かに、必要でしょうね。ちゃんと伝えますよ。」


 結構、色んな要望があるな。メモを取っているから、後で姉貴達に伝えよう。

 そして、畑を作るなら確かに早い方が良いな。耕作用の牛を持たなければ、長期返済で買い与える事も考えねばなるまい。


 「ところで、アキトさん。コークスを作る過程で、粘った液体が出ます。確かに言われた通り樽で保管していますが…、樽に6個程溜まりました。これを使うと聞いていますが、どのように利用なされるのですか?」


 「タールですね。防水塗料や、防腐材に使えます。桟橋用の木材をタールを入れた桶に沈めて、取り出して乾かせば、長期間水に濡れても使えますよ。鉄道のレールの下に敷く枕木もこれで防腐処理をしたかったんですが、次の交換時になりそうですね。」

 「屋根にも使えるのか?」


 ヘンケンさんの言葉に頷く事で答える。

 「なら、町作りに役立つ。ウミウシの体液も良いのじゃが、大量に必要になるからのう。調達が大変じゃ。」

 

 コークスは大量に必要になる筈だ。今の内に備蓄量を稼いで、稼動したらもう1つ設備を増やせば良いだろう。

 そして、副産物のタールはそれなりに使える筈だ。

 だけど、タールで屋根を塗ったら町全体が黒くなりそうだな。その辺の措置は姉貴の美的センスに任せるしかないのが問題のような気がする。


 「それにしても大きくなりましたね。製鉄所の大きさだけで町の大きさを越えています。」

 「そうじゃな。それもあるからちょっと面白いものを石工に頼んでおる。製鉄所の記念碑じゃ。完成した年と、我等の名前を作業員1人残らず彫る事にしている。良い想い出になるじゃろう。そして、子孫達も誇りに思うに違いない。」


 「ほう、記念碑ですか。どこに作られるのです?」

 「貯水池を掘って出て来た奴じゃから、ここまでは運べぬ。製鉄所を見下ろす丘の上じゃな。ケーブルカーの発着所に近いところに作ろうと思っている。」


 ヘンケンさんの言葉に皆が感心している。確かにあそこは眺めが良い。 

 記念碑を中心にして花壇でも作ればちょっとした名所になるんじゃないかな。

 そんな話をして、俺達はそれぞれの仕事を始める。


 俺の場合は特にやる事は無いんだけど、出来上がった用水路を見学する事にした。長さは20km近くに伸びている。閘門も何箇所か完成しているし、鉄鉱石の船積みも興味がある。

 

 バジュラで北に走ると直ぐに用水路の工事現場が見えてきた。だいぶ近付いてきたなと様子を見ると、溝を掘る工事だ。用水路の先行工事だな。更に先に行くと、掘った土で両岸に土塁を作っていた。どうやら、この連中が用水路の整形をしているらしい。

 用水路の勾配はこの作業場が担当するようで、トランシットで整形の終った工事箇所を確認していた。

 

 更に先を目指す。と言っても丘の上の貯水池から20kmも離れていない。

 そこが用水路の最終工事過程であるレンガ張りの場所だ。

 100人程の作業員が用水路の床面、則面、そして上面に分かれてレンガを貼っている。焼いた石灰岩と粘土に砂を混ぜて下地を作ってその上に貼り付けて目地を再度モルタルモドキで埋めていく。気の遠くなりそうな作業だがこの作業如何で用水路の寿命が決まるといって良い。

 さらには、用水路の両脇に道を作っている。これは凸凹を直して、地固めをしているだけだから将来的には石畳みにすれば良いだろう。

 

 そんな作業を見ていると、北の方からレンガ等の資材を積んだ荷馬車がやってきた。手際よく荷降ろしをしているところを見ると、慣れって凄いと感心してしまう。

 

 レンガが綺麗に敷かれた用水路を見ながら北上すると、用水路に入った水が輝いているのが見えた。

 傍に行くと閘門がある。2つの閘門の間隔は10mと言う所かな。そして西にもう1つ併設されている。

 閘門の水止めはそれなりだな。少し漏れた水は次の閘門に阻まれているようだ。


 遠くに橋が見えたので、そこまで行ってみると、どうやら石橋のようだ。

 頑丈そうな石橋が用水路から1m位上に作られている。どうやら、この石橋を挟んで一旦船を運ぶ綱を離さねばならないようだ。

 まぁ、輸送上ではさほど影響は無い。むしろ、石橋を通る方が問題だ。石橋は横幅3m以上はありそうだ。荷馬車の通行に問題は無いだろう。


 そのまま、北上していくと左に調整池が見えてきた。大きさは直径200mはあるんじゃないかな。この池が後2つあるはずだ。川の水が減水した時はこの調整池が頼りになる。

  

 そして、カナトール国境の川に出る。

 大きな水門が頑丈に組んだ石とレンガで作られていた。水門は2つで、1つの水門には上下する板を2段直列に組んである。これは修理が容易く出来るようにとの配慮だ。運用よりも保守をしやすく。その方針は結果的に運用が容易になる。だが、これを反対にした場合は極めて保守し辛くなるのだ。


 ヘンケンさんは俺の意を汲んでくれたようだ。後々の保守をし易くと言った俺の言葉が形になっている。


 昼食時になったので、バジュラを川岸に止めて焚火を作る。

 鞍の袋に入っていたキャベツのような野菜をバジュラに与えると、シェラカップに水を入れて焚火の端に置いた。

 バッグの袋を探すとビスケットのような黒パンがあった。2個取り出して、沸いたシェラカップにスティックコーヒーを入れると、ポリポリと齧りながらコーヒーを飲む。なんか味の無いせんべいみたいだな。

 

 「焚火を使わせてもらって良いですか?」

 女性の声に振り返ると、17、8の女性の3人組みだ。ハンターなのかな?


 「えぇ、どうぞ。生憎ポットが無いんでお茶はご馳走できません。」

 これがハンター同士のマナーらしい。後から来た者にはお茶をご馳走すると言う奴だ。でも、ポットや水が無い時にはそれを相手に告げなければならない。マナーと言う奴は、どんな場所にでもあるな。


 「大丈夫です。私達が持っていますから。」

 そう言うとなれた手付きでお茶のポットに水を入れて焚火にかざす。

 3人は焚火の回りに座ると、お弁当を食べだした。俺もちゃんと持ってくればよかったな。

 そんな事を思いながらコーヒーを飲む。


 「失礼ですが、ハンターですか?村では見掛けませんでしたが…。」

 「あぁ、ハンターだよ。今は南の方で仕事をしてるんだ。俺の仲間もそこにいる。」


 「そうでしたか、失礼しました。この川付近でガトルの群れを見た者がいます。私達も狩って来ましたが、10匹程です。群れは大きいので気を付けてください。」

 「ありがとう。ところで、その依頼はどこの村で出てるんだい。」

 「レイデンという小さな村です。この南西になります。」

 

 という事は、この3人はレイデン村のハンターなんだろう。女の子3人でガトルを10匹か。黒1つ位かな…、将来有望だな。


 焚火の傍に置いたコーヒーを手にとって、口に含む。そしてタバコを取り出してジッポーで火を点ける。

 

 「ガトルで手を焼くなら訪ねてくれ。この南の別荘で厄介になってる。」

 そう言うとバジュラを呼んで川辺を去った。


 レイデン村か。アトレイムの最西の村なんだろうな。

 確かに西には森が見える。そういえば前にエルフの里から戻って来た時、森を保護している兵隊達がいたな。

 1度森を破壊した結果を知っているから大事に育てているんだろう。

 製鉄所の建設で環境が変わらなければ良いんだが、その辺のシュミレーションは1度やっておくべきだろう。

 バビロンの神官に頼んでみよう。意外と暇かも知れないし…って、これではアテーナイ様と同じになってしまう。付き合いが長いからかな?

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