#048 ハンドルは長寿の薬?
焚火にポットを掛けてお茶を沸かす。そろそろお日様が真上になる。姉貴達も帰ってくるだろう。
嬢ちゃんずはミケランさんを交えて、ワイワイ言いながら次々とステーキを釣り上げている。この分だと20匹以上は確実だ。
そんな所に姉貴達が帰ってきた。
キャサリンさんの籠には一杯薬草が摘んである。
「こっちはたくさん取れたよ。アキトの方はどうなの?」
姉貴が俺の隣に座って聞いてきた。俺は、黙ってミーアちゃんを指差す。
姉貴がミーアちゃんを見ると、丁度ステーキの頭をポカリってやったところだった。
「面白い!……。一杯獲れてるんだね」
「後で姉さんも参加してみるといいよ。でも見てるほうが面白いかもね」
そんなことを言いながら昼食の準備に取り掛かる。
少し焚火から離れて場所を空ける。セリウスさんが持ってきた古いカーペットを広げて2つに折って並べる。
3枚使って焚火を囲めば、皆で座ることが出来る。
ポットに水を足して改めてお茶を沸かすと、姉貴がエマジェンシーバックに入れたきた魔法の袋から、黒パンサンドをたくさん取出した。
「ミケランさん。お昼ですよ!」
「分ったにゃ。……皆、ここでお昼にゃ。竿をこっちに纏めておくにゃ、餌を入れとくとステーキにみんな取られちゃうにゃ」
ミケランさんの指示に「は~い!」って、嬢ちゃんずは返事をして竿を片付け始めた。
焚火の傍にトコトコとやってきて座ると、姉貴達が黒パンサンドとお茶を配って、俺達は昼食をとる。
「こんな面白い事は、王宮では無かったぞ。アルト姉、何故早く教えてくれなかったのじゃ」
「小さかったからな。これからは毎日がこんな暮らしじゃ。不便じゃが、王宮では味わえん自由がある」
小さい子同士の話じゃないような気がするけど、王宮だと行儀作法に煩いのかも知れないな。以外とアルトさんもそれが嫌でハンターをしてるのかも知れない。
黒リックの串焼きも美味しかった。ただ塩を振って遠火で焼いただけなんだけど、やはり皆でこうして食べるのが美味しい秘訣かも知れない。
サーシャちゃんだって、普段は料理人のちゃんとした献立を食べていて舌は肥えているはずなんだけど、美味しいって骨まで食べてる。
ミーアちゃんを真似てまる齧りなんだが、喉に刺さったら大変だと思ってるのは俺だけか?
「もう少し釣れるか?……黒リックは依頼に無いがそれなりに売れる当てはある」
「大丈夫です。しばらくここで釣りにならないくらい釣って見せますよ」
セリウスさんに安請け合いして、午後の部を開始する。
嬢ちゃんずも始めるようだ。今度は姉貴達も参戦する。キャサリンさんとセリウスさんは焚火の傍で応援を決め込んでる。
小さな滝の周辺を狙って釣りを開始するが、昼前程には釣果が延びない。それでもポツリポツリと釣り上げていると、バッシャーン!!と大きな音がした。
驚いて、嬢ちゃんずを見ると姉貴が水の中から一人を引き上げている。
呆然と見ている残りの嬢ちゃんずの片方には猫耳が覗いていたので淵にはまったのはミーアちゃんではない。
アルトさんかサーシャちゃんだろうと見当をつけて、急いで焚火の方に向って走った。
どうやら、淵にはまったのはサーシャちゃんみたいだ。姉貴に服を脱がされて、タオルで体を拭かれている。
そしてバックの袋から取出したのは、俺のトレーナーだった。
確かにサーシャちゃんには大きいから、だぶだぶで丁度良いけど……。
「あっ!……アキトも来てくれたんだ。でも、もう大丈夫よ。何か凄い大物らしくて、私達が駆けつける前にサーシャちゃんが、竿ごと引きづりこまれてしまったの」
淵を見ると、竿が淵の中程に立っている。あそこまではちょっと行けそうもないので、あの竿はあきらめるしかないようだ。
姉貴は適当な枝を切って濡れた服を掛け、焚火でサーシャちゃんの服を乾かし始めた。サーシャちゃんはつまらなそうにミーアちゃん達を見てるけど、服が乾かないうちは我慢する外はない。
ふと、セリウスさんを見ると、バックから紐を取出して枝に何か細工をしている。
「セリウスさん。何を始めるんですか?」
「これか?……ひょっとしたらと思ってな。俺も、さっきの光景は見ていたのだ。あの力はステーキではない。ステーキは大体あの位の大きさにしかならん。
とすれば、あの時掛かったのは、ハンドルに他ならない。よくあの竿を見ておけ。ハンドルは一度口にしたものは吐き出さない。今でも掛かっているはずだ」
俺は、竿を畳んで、サーシャちゃんの竿をジッと見ることにした。
姉貴がハンドルを図鑑で調べている。それを見ると……、オオサンショウウオみたいなやつだ。
平均的な長さは1m前後。となれば体重は20k程度はあるだろう、サーシャちゃんが引きづりこまれる訳だ。そして、注書には長寿の妙薬とある。 ホントかどうかは分らないけど、……これは売れる!
早速手ごろな枝ぶりの立木を切って2m程の槍を作る。先を削って、焚火で焦がして硬化させると木槍の出来上がりだ。
淵の真ん中付近に立っていた竿が、だんだんと下流に流されてきた。
あのままだと、淵の出口が瀬になっている方向に行きそうだ。
「アキト!……準備だ。奴は瀬を下流に下るつもりらしい」
木槍を持つと、セリウスさんに続いて淵を下流側に移動して待ち伏せる。
セリウスさんは、さっき作ってた竿の先に輪が付いた仕掛けを持っている。
「いいか、流れに体を写すなよ。奴の体は保護色だがよく見れば判るはずだ。見つけたらその槍で突き通せ。後は俺が何とかする」
チラッと皆を見ると、淵の傍に立って俺達の成り行きを見守っている。ちょとプレッシャーを感じてしまった。
大きな石の上に立つと、なるべく体が流れに移らないようにしてひたすら待つ。
だんだんと竿が瀬に流されてきた。
目の前を竿がゆっくりと移動していく。この後4m程の所に奴がいるのだ。
そして、瀬の底を這うようにゆっくりと移動してくる奴の姿を捉えた。なるほど、目立たない体色をしている。でも、30cm程の深さしかない瀬では、容易に識別できる。
「エィ!」って裂帛の気合を込めて、石の上から跳びあがり、落下する体重を木槍の先端に込めて突刺す。
バシャバシャと水が跳ね、槍に胴体を貫通されたハンドルがのたうちまわる。
セリウスさんが急いで駆けつけ、例のワッカをハンドルに通して紐を引く。
「もう槍を放しても大丈夫だ」
セリウスさんの言葉に、まだ暴れているハンドルを串刺しにした槍を放すと、2人で紐を引いて岸辺に引き上げる。
まだ尻尾で辺りを叩きまくっているので危なくてしょうがない。
其処につかつかとミケランさんが来たと思ったら、「エイ!」って丸太で奴の頭を殴った。
ボカ!って結構ないい音がして奴は動きを止めた。
「これでも、死んでいない。気を失っているだけだ。今の内に縛り上げるぞ」
近くの木を切って、物干し竿を作ると、真ん中辺に奴を縛り付ける。そして、岸辺の水草を奴に巻きつける。こうすることで、生きたまま運べるらしい。
こんなことをしている内に、サーシャちゃんの服も乾いたので、此処を引き払うことにする。
竿から糸を外して、餌は淵に投げ込む。手桶で水を汲み、焚火を消す。
ステーキを入れた籠はセリウスさんが持ち、俺が釣り上げた黒リックは姉貴が籠に手桶と共に入れて担いでいく。ハンドルは俺とミケランさんが担ぐことになった。
2人で担ぐとそんなに重くない。俺達は嬢ちゃんずを先頭に村へと帰還した。
村の三叉路でセリウスさんとキャサリンさん、それに姉貴と別れて、俺達は西門のセリに獲物を出すことにした。
セリは順番だ。夕暮れにはまだ間があるけど、今日は、狩猟の獲物が結構あるみたいだ。そんな訳で姉貴達がセリに駆けつけた時もまだ順番が回ってこなかった。
「7」
「7と20……」
「8でどうだ!」
「他にいませんか?……それでは、17番が8で落札です。」
そして、俺達が捕まえたハンドルが運び込まれる。
ギルドの臨時職員が水草を取った瞬間、セリの会場がウオォーっとどよめいた。
「12!」
「13と50!」
「14じゃ。」
「14と50!」
セリ値はドンドンつり上がり、銀貨16枚で落札された。
でも、俺としてはあれを料理する気にはなれないけど・・貴族って変わったものがすきなのかな?
ちょっと、周りのハンターの目が気になったけど、これは完全な予定外の獲物なんだからそのへんは大目に見て貰いたいものだ。
家の帰って暖炉で焼いたステーキは美味しかった。
前の世界で食べたロブスターよりも甘みがあるように思える。最も新鮮なのと、ミケランさんが入念に焼いてくれたお蔭かも知れないけど……。
そして就寝前に一騒ぎ、サーシャちゃんが3人で寝るって言い出したのだ。そしてアルトさんが出した結論は、隣の部屋からベッドを運んで3台を並べると言うものだった。皆が帰った後だったので、俺と姉貴でベッドを運ぶと直ぐに3人は寝入ってしまった。
ジュリーさんが帰ってきたときは、隣の部屋にあるベッドで寝て貰うしかないと姉貴が言っていた。
俺的には、ロフトに寝るのが姉貴と2人だという事の方が問題だ。
寝る前に姉貴をうかがうと、ミーアちゃんと一緒じゃなくてちょっと寂しそうだった。