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#469 集まった者達

 


 「ほほう…。今度は製鉄ですか。」

 「はい。西の港の更に西に作る心算です。修道院から50M(7.5km)以上は離れていますから、果樹園の経営に影響は無いと思います。」


 リビングの窓際のテーブルで、訪ねてきたデュオンさんとマリアさんと一緒にお茶を飲みながら、今回の計画を話した。


 「それにしても、次から次へと良くも思い立ちますこと。港が出来て製鉄所が出来れば、アトレイムの国力が高まりますわ。国王もさぞやお喜びでしょう。」

 「いやいや、マリアそうではない。アキト殿はもう1つの計画を王子達に任せている。王国を結ぶ運河の建設だよ。そして、ここに製鉄所を作るとなると、単にアトレイムだけの問題ではない。連合王国の繋がりが強く結ばれる事になる筈だ。…私が30歳若ければ、アキト殿の手足となってこの事業に参加したいと思うくらいだ。」


 流石は、元貴族の神官殿だ。全体を見る目がある。

 「デュオンさんには、果樹園計画をお願いします。モスレムの山村で冬に果実を得ようと模索していますが、大規模に栽培は出来ません。やはり季節の果物は安く市場に供給したいですからね。」

 「だいぶ、生育が進んでいます。しかし、ここは元が荒地です。土地が痩せており実を結ぶのはまだまだ先ですな。」


 確かに、荒地から始めたのだ。だいぶ緑の枝葉を着けてはいるが、幹の太さは親指を越えてはいない。やはり、肥料作りを考えねばならないかも知れないな。


 「変な話と思うかも知れませんが、修道院でニワトリを飼い、卵を食べるというのは教義に反する事になりますか?」

 「唐突な話ですが、教義に反する事はありません。我等神官それに神に使える修道士、修道女は殺生を禁じられていますが、自ら手を下さねばニワトリを飼い、その肉を食べる事も問題は無いのです。」


 だいぶおおらかな教義だな。でも、それならマリアさん達の食糧事情も改善出来るぞ。

 

 「作物の生育には、肥料が欠かせません。ニワトリを飼い、その糞を落ち葉と一緒に一箇所に積み上げるのです。たまに水を掛けてください。半年経ったら、果樹の根元に穴を掘って、そこに埋めれば勢い良く生育しますよ。」

 「似た話を、若い修道女に聞いた事があります。確か元農家の娘だったと思いますが、修道女の話では牛の糞と麦藁という事でした。ニワトリと落ち葉でも可能なのですね。」


 マリアさんの言葉に俺が頷いた。

 「基本的には同じです。ダメ元でやってみて下さい。卵は手に入りますし、鶏肉として売る事も出来ます。そういえば、後3日でデリムさんがやってきます。彼に連絡を入れておきましょう。ヒヨコを50羽で良いですか?」

 「早速、小屋を作らねばなりませんな。それではよろしくお願いします。」


 2人は立ち上がると俺に丁寧に頭を下げる。慌てて俺も立ち上がると頭を下げた。

 そんな俺の姿に2人は微笑みながらリビングを去って行った。

 たぶん小さな養鶏場が出来るだろう。それは港の作業員や製鉄所の作業員に安定した形で供給される事になる筈だ。

 多角経営になれば修道院の財政が逼迫する事は無い。何せ、果樹園が軌道に乗るのは年月が掛かり過ぎる。粒金を袋単位で渡してあるけど、限りある財源だ。何時かは無くなってしまう。


 2人が帰った後は、メモを見ながら行程表と簡単な略図を描いていく。

 後3日で、関係者がここに集まるのだ。それまでに分担を決められるような形で計画を纏めるのは骨が折れる。

 そして、計画に2つの課題がある事が判明した。耐火レンガと砂地の地盤強化だ。

 耐火レンガは、この際だからバビロンに作り方を教授して貰おう。そして、地盤強化は山荘作りで使用したベネチア方式使えば何とかなりそうだ。


 「精が出ますね。」

 そう言って中年の侍女が新しいお茶を運んでくれた。

 「自分で言い出した事ですから、それに他の人達に理解して貰う為にはこんな作業が必要になります。」

 そう言ってお茶を飲むと、侍女がもう1つのカップをテーブルに置くと、俺の前に座った。


 「久しぶりに、シグ様の生き生きした姿を拝見出来ました。王国の跡継ぎはブリュー様、それを知っているからこそシグ様は小さい時から姉上の力になろうと努力してきたのですが、この頃のブリュー様は他国の王子達と別の計画で忙しく動いております。シグ様だけが取り残されたようで、王宮に寂しくたたずんでおられる姿が痛々しく思っておりました。乳母として何か出来る事は無いかと心を砕いておりましたが、この計画を国王から告げられた途端に顔付が変わりましたわ。」


 乳母さんだったのか。てっきり侍女かと思ってしまった。

 確かに、将来的には王宮を去る身。それまでは姉貴の手伝いを、と思っていたんだろうな。確かに運河建設は大規模計画だ。忙しく次期の国王たる王子達が動いている。そこに参加出来ない王子や王女達もいるんだな。きっと寂しく思っているに違いない。

 後で、アテーナイ様に聞いてみよう。変な形で禍根を残す事は避けたいと思う。


 「てっきり、侍女頭だと思っていました。申し訳ありません。シグさんには何度かお世話になっています。」

 俺の詫びをにこにこしながら聞いている。

 「そんな事はありませんよ。山荘での出来事等を嬉しそうに私にも話してくれましたからね。アルト様が降嫁したと聞いてガッカリしてましたけど…。」

 

 とりあえず、俺も笑って誤魔化しておく。

 「ところで、この計画ですが…、どの位の年月が必要なのですか?」

 「早くて5年。と言ったところでしょう。大規模な計画ですから、短時間に仕上げると色んなところに無理が出ます。」


 「そうですか…。中々良い降嫁先が見つからないので私も危惧しているのですが、益々先になってしまいますね。」

 「まぁ、それは本人の問題でもありますから…。」

 

 この流れで行くと、貰ってくれと言われそうだ。姉貴とアルトさんで手一杯だぞ。

 「それも、そうですね。…ところで、大工を雇って頂けませんか。私の実家なのですが王都は石作りが盛んで木造の大工の仕事は年々減っているのです。弟子達が新たに大工となった状況では、共倒れになりかねません。」

 

 戦が原因かな。木造では火が付き易い。王都のような過密建築では直ぐに類焼するだろうしな。トリスタンさんも、消防については頭を悩ませているらしい。


 「それは助かります。作業員の宿舎や大きな建物を作らねばなりません。出来れば石工も欲しいところです。」

 「なら、父に頼んでみましょう。知り合いがいた筈です。…どうも、ご無理を言って申し訳ありません。」

 「いえいえ、こちらこそ大事な所を忘れていました。よろしくお願いします。」


 乳母さんは席を立つと、暖炉のポットを使って新しいお茶を俺に入れてくれた。

 そして自分のカップをトレイに乗せると俺に一礼して去っていく。

 

 これで大工と石工に目処が立った。これは早くにレンガ作りを始めないと不味いな。

 バッグからリムちゃんに渡された携帯型の無線機を取り出して、姉貴に連絡を入れる。

 直ぐに返事が返ってきたところを見ると今日の探索はリムちゃんが出掛けているようだ。


 こっちの状況を連絡して、耐火レンガの作り方を調べて貰う。

 姉貴からは、トンネル1個を見付けたとの報告が入ってきた。サーシャちゃん達が出張って来るとの事だ。

 後、20日位で探索を終えると言っているが、その後はテーバイだよな。

               ・

               ・


 「残念じゃったな。耐火レンガは連合王国での製造は無理らしいぞ。バビロンでは容易に作れるとの事じゃったがのう。それで、必要な数は供給してくれるとの事じゃ。登り窯のレンガとどう違うのかは我等には判らぬが、レンガも作らねばなるまい。ミズキが北の村で手配しておったぞ。近くに粘土が見つかったからのう。

 それでじゃ、テーバイの北の荒地はテーバイ正規軍と遊牧民の部隊が探索をするという事じゃ。」


 という事は、次のイオンクラフトの使用目的は耐火レンガの輸送になるのかな?

 姉貴がレンガ作りの段取りをしているようだが、そっちも心配だな。基本はディーがいるから問題無いと思うけどね。

 

 別荘に姉貴の伝言を持ってサーシャちゃんとミーアちゃんが現れた。

 帰る途中という事で直ぐに帰って行ったけど、たまに顔を会わせると俺も安心出来る。旦那達と上手くやってるようで、特に愚痴をこぼす事は無いのが俺にとっては何よりだ。


 その旦那達も忙しいらしい。かなりの頻度でモスレムに出掛けていると言っていた。

 「私とサーシャちゃんの関係にそっくりです。」

 そう言ってミーアちゃんが俺に微笑んだところを見てると、少し嫁がせたのが惜しくなってきたぞ。


 チロルとシルバーに亀乗して帰る姿を見えなくなるまで見送ってリビングに戻ると、乳母さんが俺にお茶を出してくれた。


 「良い娘さん方でしたね。エントラムズも安泰でしょう。」

 「えぇ、俺の自慢の妹達です。」

 そう言って、乳母さんに微笑む。

 

 「父も明日、シグ様達の馬車に雑じって来ると言っていました。ここに通しても宜しいのでしょうか?」

 「棟梁達には出てもらいましょう。弟子の方々には戦の時に作った宿泊所を使ってもらわねばなりません。」

 「その辺は心得ております。ディオン様の了解も得ております。村の宿よりも清潔になっていますよ。」


 心配りは万全のようだ。何人来るかは判らないけど、100人以上が宿泊出来た詰所を壊さなくて良かったと思う。


 「当座の食料は手配出来てますか?」

 「その辺に抜かりはありません。300人が1週間食事出来るだけの分量を確保してありますよ。…アキト様の別荘であれば、国王はその維持費に出し惜しみを致しません。何時でも身一つでいらして頂けるだけの準備がなされています。」

 

 とんでもない無駄使いだと思うぞ。俺達はたまにしか来ない。それなのにそんなに食料を備蓄しておいて良いのだろうか?


 「無駄使いのように思えるのですが…。」

 「そんな事はありません。2月毎に食料を入れ替え、前の食料は修道院へと引き渡されます。修道院は、神殿を通して貧しい者達への施しを行なっているのです。」


 国王はこの別荘を万が一の為の食料備蓄用として機能させているようだ。備蓄は簡単だがその維持が難しい。その点、アトレイム国王は単純で有効な手を打っていると思うぞ。

 

 その夜は、遅くまで図面作りを行い明日に備える。

 何と言っても、アトレイムのその道の専門家が来るのだ。彼らが一目見て俺の計画を理解出来るものでなくてはならない。

 最後に、地図を広げて水路作りの確認を行う。シグさんが先に作った国王の灌漑用貯水池の使用許可を得てくれたから、助かる事は助かるのだが位置が少し王都よりだ。もう1つ貯水池を作って運河を作れば、屯田兵の開拓地も広がるだろうし、将来的にはクォークさん達が作っている大運河とも結ぶ事が可能だ。

 距離は…、新たな貯水池の大きさは…、用水路の水量制御は…と、色んな課題が用水路だけでも出てくる。

               ・

               ・


 次の日、部屋から起き出してリビングに出向くと、テーブルの位置が変わっていた。

 何時も俺が座る場所を中心に3つのテーブルを合わせて配置している。

 たぶん、今日集まる連中を交えた打ち合わせの為であろうが少し早すぎないか?

 

 そんな事を考えていると、乳母さんが俺の朝食をトレイに載せて運んで来た。

 「お早うございます。後2時間程でシグ様達は来られると思いますよ。」

 

 俺も、軽くお早う。と挨拶をする。

 「それにしても、準備が早すぎませんか?」

 「いえいえ、準備は早い方が良いのです。早ければそれだけ後が楽になりますから。」


 そう言ってリビングを後にしたが、まぁ、その通りだと思ってしまう自分が情けない。

 確かに早起きは一文の得とは言うけれど…。

 

 サレパルと野菜スープの朝食を終えて、お茶を飲みながらタバコを楽しんでいると、乳母さんがやってきて新たにお茶を入れてくれた。

 「近衛兵が北に馬車の土煙を見たと言っております。もうすぐやって来ますよ。シグ様だとは思うのですが…。」


 そう言うと、朝食を片付けて戻って行った。

 確かに、早い。アトレイム王家の家訓なのだろうか?


 しばらくして、リビングに姿を現したのは確かにシグさんだった。リムちゃん位の女の子と見た事があるドワーフの工兵隊長、それに50歳を過ぎたと思われる男性が1人。


 「紹介しますわ。商会のコニー。元工兵隊長のヘンケン。大工の棟梁であるラカンです。」

 シグさんは彼らをテーブルの1つに腰を下ろさせた。

 ラカンさんが乳母さんの親父殿な訳だ。中々の体格だぞ。元ハンターと言っても通用しそうだな。

 ヘンケンさんは果樹園の水路作りを手伝って貰ったから顔見知りだ。あれから2年以上経っているが、水漏れも無いとディオンさんが言っていた。頼りになるな。

 コニーちゃんは、見た目で判断しないように注意しとかないとな。何と言っても、商会の人間だ。かなり切れるに違いない。


 シグさん達が到着して30分も経たない内に、デリムさん一行がやってきた。

 男の子が2人と女の子を2人を連れて来たぞ。


 「私達が最後ですか。遅れて申し訳ありません。」

 そう言って俺達に頭を下げたが、決して遅くは無い。俺は今夜だと思ってた位だ。まだ10時を過ぎた位だし…。


 デリムさんの紹介で、男の子がデリムさんの一番下の弟のロイ君とモスレム王国のラジアンさんの末っ子のフェイ君という事だ。親同士仲が良いから、年齢も同じ末っ子同士で仲が良いらしい。

 女の子は、デリムさんの妹のキャラちゃんに、エントラムズ王国のデグリさんの長女、サラちゃんと言う事だ。


 「ロイ達は使い走りをしてもらうために呼びました。2人ともガルパスに乗る事が出来ます。親父達が亀兵隊に入らないと言う約束で買い与えました。困った親子です。」

 そういう事か。さっきからロイ君達が俺をジッと見てるのは、俺がガルパスを操るのを知っているからなんだな。


 「それでしたら、願っても無い事です。計画はかなり場所が離れていますから、連絡要員は是非とも必要です。」

 

 そんなところへ、侍女達がお茶を運んで来た。全員に行き渡ったところで話を始める。


 「先ずは集まって頂きありがとうございます。

 ここに皆さん方に集まって頂いたのは、鉄を作る為です。鉄は王国の工房で作られていますが、その工房が1年で作る鉄をここでは1日で作ろうと考えています。

 その為には、今までにない構造の炉を作らねばなりません。そして、その炉で作った鉄の品質を上げる為に、また別の炉が必要になります。

 さらに、鉄を作り上げる熱源は石炭や炭を使いますが、これだけ大規模な炉では、今のままでは熱量が足りません。コークスと言う物を作る必要があります。

 また、炉に送り込む空気はフイゴを人力で使うのでは量が足りません。水路を作って水車により送風機を回して空気を送り込む事になります。

 そして、俺としてもやり方は知っていますが、それを作ったり動かしたりした事はありません。

 ですが、この設備群を作れば、大量の鉄を安く作る事が出来ます。それは新たな産業を作り連合王国を作る礎にもなるでしょう。運河と製鉄…これが連動した姿を想像出来ますか?

 大量に荷物を王国の隅々に運ぶ事が出来ます。そして、輸出も増えるでしょう。雇用が増え、需要も伸びます。そして富みの格差が少しずつ減る事になるでしょう。努力すれば報われる。そんな連合王国にするためにもこの事業は必要なのです。」


 そして、1週間掛けて作り上げた資料を説明していく。

 興味深々で聞いている者達が何時しか真剣な表情に変わって行く。


 「こんなやり方があったのか…。」

 「だが、この方法だと砂地に作るのは困難だぞ。余りにも構造体が重過ぎる…。」


 質問には、別の図面を広げて説明していく。

 そして、最後に西の港から30M(4.5km)離れた場所に作る建物群の地図を広げた。


 「これが完成した建物の配置です。港から離れていますが、大量の煙が出ますから人家の傍には作れません。港の将来の発展を考えるとこれ位距離を離す必要があります。」

 「ふむ、となれば先ず必要なのは宿舎だな。元工兵達を集めれば100人にはなるぞ。そして、丘の下と上に作れば良いだろう。水路作りも手間が掛かりそうだ。何しろ飲料水にも使えるようにするには設備が必要になる。」


 「宿舎を2つに事務所が1つ。それだけ早急に作れば良いだろう。それはワシの仕事だな。石工は少し遅れて来ると言っていたが俺から話しておく。この窯を作らせるのだな。粘土は坊主達に調べさせてくれないか?」

 「ロイ、早速仕事だぞ。大丈夫だな?」

 まだ14歳位だが、しっかりと2人が頷いてる。


 大工の棟梁のラカンさんと元工兵隊長のヘンケンさんは自分達の関係する図面を手に取ってメモを取っている。


 「ところで、私達は何をすれば良いのでしょう?」

 キャラちゃんが俺に聞いてきた。

 「事務を行なって欲しいんだ。特に収支の計算を行なって欲しい。物資の調達はデリムさんがやってくれる筈だ。そして王国と領民それに作業員との調整はシグさんとコニーちゃんの仕事になる。そしてもう1つ。全体の調整と進捗の管理もお願いしたい。」


 シグさん達が頷いたところで、俺の役目を話す。

 「そして、最後に俺だけど、特に何もしない。困った事そして判らない事があれば相談に乗る。と言う事に徹しますからよろしくお願いします。」


 「最後まで付き合ってくれるのではないのですか?」

 「俺にもやる事があります。親友をその為に、3年前にたった2人でアクトラス山脈を越えて旅立たせました。もうすぐその成果も確認できる筈です。それがある以上、ここにジッと構えるわけには行かないんです。」


 「となると、相談も通信機を使う事になりますね。」

 「はい。幸いこの別荘には強力な無線機があります。ここからモスレムの通信司令部を経由すれば、俺と連絡が付く筈です。」


 「それと、託された資金ですが。…半分は寄付、そしてもう半分は株の購入費だと親父達が言っていました。親父達は株が何かを知っていましたよ。」

 「父王も同じです。全て寄付でも良いが、アキト殿の顔もあるだろうと…。」

 「そして、これが俺の寄付金です。全部で金貨100枚。泡銭ですから寄付する事に問題はありません。株は次の資金調達時に購入します。」


 そう言ってバッグから袋をテーブルに取り出した。

 「そうも行きません。やはり我等と同じ扱いで行きましょう。半分を寄付、そしてもう半分は株です。…キャラ、株の仕組みは理解しているな。最終的にどれだけ発行するかは判らないが、利潤の分配がその底辺にある。という事は、発行する株は領民でも買える値段で、と言う事だ。上手く株の証書を作って皆に配布してくれ。」


 やはり、次の世代の商人だな。ちゃんと理解してくれた。


 「ところで、面白い依頼を受けたのですが…。ヒヨコ50羽に餌を2袋。持ってきましたけど、これは製鉄と関係するんですか?」

 「いや、まぁ、長期に見れば関係するかも知れませんが、果樹園の肥料を作ろうと思いまして、それで頼んだんです。お幾らになりますか?」


 「親父にこの話をしたら、驚いていました。…どうにも訳が判らんという事です。値段はどうでも良い。何故ヒヨコが必要なのかを聞いて来いという事です。ですから、理由をお聞かせくださればタダ。と言う事になります。」

 

 タダより高いものは無いと聞いたことがあるな。

 「それでは、説明せねばなりませんね。ところでデリムさんは作物を沢山育てるにはどうしたら良いか知っていいますか?」

 デリムさんは首を振る。シグさん達も首を振っているぞ。


 それでは…、と俺は植物と肥料の関係を説明した。

 肥料と言う概念はあまり無いらしい。農民達は経験でそれらしい事はしているが、それがどのような役割を持つかは判らないようだ。

 窒素、燐酸、カリ…、色んな役割を持つ元素の中で特に作物の生育に必要なものだ。それを簡単に供給する方法として堆肥がある。

 その堆肥を作る為だと説明したら、ようやく納得してくれた。果たしてどこまで納得出来たのかは疑問だが、来年には商人達が現場を見に来るかも知れないな。

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