#465 ミケランさんとスラバ狩り
アクトラス山麓のトンネル探査は、1日で山頂方向に100mしか出来ないから長期戦になるな。ディーは毎日参加だけど、姉貴と俺とリムちゃんで交替しながら同伴する事にした。
アルトさんは待つのが嫌いだからな。…断られてしまった。
そんな訳で、本日の探査には姉貴が行っている。
残った俺達はアテーナイ様と共に西の沼のスラバ狩なのだが、ミケランさんが同行してくれた。
「セリウスはギルドに行ったにゃ。ミク達は山荘で仕事にゃ。私だけ遊んでる訳にはいかないにゃ。」
そんな事を俺達に言っていたけど、家族全員で稼いでいたら立派な御殿が建ちそうな気がするぞ。ミク達の給与だってジェイナス防衛軍の小隊長と一緒だとセリウスさんが言っていたから、セリウスさんの家族で一番給与が低いのはひょっとして、ギルド長に戻ったセリウスさんかも知れない。
イオンクラフトに搭乗して、沼のある森の北に広がる荒地まで送って貰った。
姉貴達は、ここからディーと一緒に探索だ。俺達に手を振って、探索の基点となるグライトの谷の方角に飛んで行った。
「ここから南に森を下りれば西の沼じゃ。ディーがおらぬ故、警戒はミケランが頼みじゃ。」
「任せるにゃ。」
そう言ってミケランさんが森に入って行く。
ミケランさんの左後ろに俺が付き、俺の右数m程の所をアテーナイ様が歩く。真ん中にリムちゃんを挟んで最後尾はアルトさんだ。丁度トランプのダイヤモンド形に隊列を組んでいる。
しばらく森に入っていなかったからな。どんなのがいるか判ったものではない。
イオンクラフトで森の上を飛んで、沼に2つの反応がある事はディーに教えてもらったが、他の獣の反応は小さなものばかりらしい。
とは言うものの、昆虫や植物の反応は小さいからな。
「沼が見えたにゃ。」
ミケランさんの指差す方向には、木立ちに囲まれた沼の水面が銀色に光っている。
300m程離れているな。丁度見下ろす形で直径200m程の沼が見えているのだが、スラバの姿はどこにも見えないぞ。
「姿を現さぬな…。スラバは住処を移動する以外は水からそれ程離れぬ。藪にでもひそんでおるやも知れぬのう。」
アテーナイ様の言葉に、全員が沼の周囲の藪をキョロキョロと探し始めたが、やはり動きは無かった。
「むやみに探すのも愚策じゃ。アキト、調べて来い!」
アルトさん…、俺が気の流れで敵を探るのを知っていたな。
焚火を作る準備を始めたアルトさん達から離れて、沼に100m程近付く。
気の流れは…ははぁ、沼だと淀むんだな。沼に流れてくる気が沼に集まって更に南へと流れていくのが判る。前よりも明瞭になった感じがするぞ。あの訓練も無駄ではなかったようだ。
そんな、気の流れに2つの生体が発する気が流れ込んでいる場所がある。周りの木立ちの発する僅かな気ではなくて大きい。そしてその発する気が、全体の気の流れを乱している。
その場所を目で確認すると、小さな繁みとそこから少し離れた立ち枯れの大木の洞があった。
急いで、アルトさん達の所に戻る。
「どうじゃ。判ったか?」
俺が戻ると、アルトさんは焚火の傍から立ち上がって聞いて来た。
「あぁ。あそこの繁みとあの立ち枯れの洞だ。」
そう言って指で場所を示す。
「ふむ。…リムは【メルト】を覚えておるか?」
焚火に座りなおしたアルトさんの言葉に、リムちゃんが頷いた。
「炙り出すのか?…それもよいのう。で、洞の方はどうするのじゃ?」
「これがあるにゃ。」
そう言って、ミケランさんが爆裂球を取出した。
洞に投げ込む心算のようだが、上手くいくのかな?
「投げるには距離があります。爆裂ボルトを使えば届くのではないでしょうか?」
リムちゃんは冷静だな。俺もそう思うぞ。
「我も、リムに賛成じゃ。後は分担じゃな。」
アテーナイ様と俺で人数を分ければ良いな。
「私はアキトと組むにゃ。どれ位強くなったか見たいにゃ。」
「ならば、アルトにリムは我と一緒じゃ。」
という事で、直ぐに決まってしまった。アルトさんはブツブツ言ってるけど、リムちゃんがいるから俺としては安心だ。
お茶を飲みながら、ミケランさん達がどうやって倒すかを相談している。
俺とアテーナイ様はその話を聞きながらタバコを風下で楽しんでいた。
どうやら、薙刀を使うらしい。
確かに、グルカではちょっと心もとない。3人がごそごそと袋から薙刀を取り出した。続いてクロスボーと爆裂ボルトを準備している。
ミケランさんも民兵用のクロスボーを手に入れたようだ。結構きつい弓だけど、見かけによらず力があるみたいだな。
「準備は出来たようじゃな?」
アテーナイ様の言葉に3人が、俺達に振り向いて頷いている。
「では、スラバ狩りの最後野準備じゃ。」
そう言うと、皆が毒消しの小さな筒を取り出した。俺は…持ってないぞ。確か誰かにあげた気がするな。
「はい、これ…。」
リムちゃんが1本を俺にくれた。
「では、全員勢揃いじゃ。」
アテーナイ様の声で、俺達は沼に向かって横に並ぶ。
そして、片手を腰に当てると、全員揃ってゴックンと飲み干す。
「相変わらず、苦いのう。」
確かに苦い。でも、俺以外には必要な準備だ。
「さて、婿殿は左側じゃ。我等は右から行くぞ。」
そう言って左右に分かれてそれぞれのスラバを目指して歩き始めた。
互いに手を振って健闘を祈る。
「俺達は藪に隠れたスラバですから、爆裂ボルトは必要ないと思いますが…。」
「最初にアキトが爆裂球を投げるにゃ。吃驚して頭を上げたところを撃つにゃ。」
なるほどね。後はその薙刀モドキでバッサリとやるんだな。
となれば、俺はもう1つの頭と、2つの首の根元の脳を破壊すれば良いだろう。
藪から30m程のところで俺達は立止まる。
「あの藪です。準備は良いですか?」
「大丈夫にゃ。」
ミケランさんを見ると、薙刀モドキをグサっと地面に突き立てて、クロスボーに爆裂ボルトをセットして肩膝立てた状態で俺を見ている。
「でも、その前に…、【アクセル】。」
身体機能を上げる。意外とスラバは動きが良いのだ。
バッグから爆裂球を取り出すと、俺を見ているミケランさんに大きく頷くと、紐を引いて藪に放り投げる。
素早くM29を引き抜いて、藪を狙う。
ドォン!と言う炸裂音と共に、藪の小枝が吹き飛んだ。
ぬう…っと、スラバが姿を現す。
小さな弓鳴りの音がしてゴーグルタイプの目の中心に爆裂ボルトが突き立った。炸裂したボルトで片方の頭が血塗れになる。
手に持ったリボルバーで首の根元に3連射を浴びせる。
「ウォー!」
ミケランさんが雄叫びを上げて、痛みで首を振り回すスラバに走りよって薙刀モドキを一旋する。
ガツンっと音がして首に大きな傷が付く。
素早く薙刀モドキを引き抜き後ろに下がった。
2つの首の注意がミケランさんに行ったところで、俺はするするとスラバに近寄りグルカを振るった。
ドサっと言う音を立てて、無事な方の首が落ちる。
本体側の傷口が蠕動しているが、新たな首は生えてこない。俺の放ったマグナム弾3発で首の根元にある脳は破壊されたようだ。
「終ったにゃ!」
もう1つの頭もミケランさんが斬り取ったようだ。あの薙刀モドキは意外と切れ味が悪そうだな。
「アキト急いで皮と肉を剥ぎ取るにゃ。」
そう言いながら、既にミケランさんは皮を剥いでるぞ。
アテーナイ様の方は?と沼の反対側を見ると、終ったらしく大きなスラバの上でアルトさんが薙刀で皮を剥いでる最中だった。
何かクジラの解体を見てるような感じだな。
俺もミケランさんのお手伝いを始める。
「アキトは強くなったにゃ。ちゃんとスラバの急所を最初に始末したにゃ。」
ミケランさんの言う強さって、単なる戦闘力では無さそうだ。
敵をどれだけ知って、効果的に対処出来るか、って事らしい。中々奥の深い言葉だな。
布袋に詰め込めるだけの肉を入れて、剥ぎ取った皮はクルクルと巻いて袋に入れる。商品価値が高いから大事に取り扱わないとね。
それが終って、さて荒地に戻ろうとアテーナイ様達と合流した時、沼の回りに広がる僅かな空地にイオンクラフトが降下してきた。
着地したイオンクラフトの操縦席から姉貴が手を振っている。
どうやら、帰りは歩かずに済みそうだな。
「簡単に狩れる獲物であるのにハンター共は敬遠しおる。」
「まぁ、無理はない。もっと簡単な依頼もあるのじゃ。スラバは、まかり間違うと毒を受けてしまう。それにアヤツの血は鉄を腐食させる。帰ったら直ぐにもう一度洗って研いでおくのじゃぞ。」
そう言えば、最初にスラバを狩った時にグレイさんが言ってたな。
帰ったら、早速研いでもらおう。
「姉貴の方は?」
「今日も、外れだったわ。それでも無い事が判ったんだから進歩だわ。」
「確かにそうじゃ。無駄ではないぞ。」
そう言ってアテーナイ様が慰めるが、退屈な仕事だと判った以上、参加する事はなさそうだ。そんなところがアルトさんの母親だと感じさせる。
「スラバの肉は血抜きをして焼けば美味しいにゃ。生では食べられないにゃ。」
「食べられ無いのではなく、毒があるのじゃ。熱で毒が分解する。」
ミケランさんの講釈にアテーナイ様が補足してくれた。
熱で分解する毒とは面白い毒だな。フグなんかは煮ても焼いても毒が消せないぞ。
家の庭に着陸したイオンクラフトを下りると、アルトさん達が獲物を持ってギルドに出掛けて行った。
俺達は家に入って一休みだ。
のんびりとお茶を飲んで待っているとアルトさん達が帰ってくる。
「全部で730Lになったぞ。肉を少し切り取ったからその分報酬が減ってしもうた。5人で分けると146Lになる。」
そう言って素早く、硬貨を分配してくれた。
「明日は、薬草の採取じゃ。サフロン草とデルトン草が不足しているらしい。報酬が少ないので同じような依頼書がだいぶ貼ってあるぞ。」
「なら、ミク達も連れて行こうか?…ステーキ釣をしながらのんびりと採取するのも面白そうじゃ。」
そんな事を言ったら、明日ディーと一緒に行くリムちゃんがかわいそうだ。チラリとリムちゃんを見ると、俯いてるぞ。
「リムちゃん、明日は俺が行くから皆と採取に行っといで。」
「でも…。」
「男は俺1人だからね。女性同士で楽しんで来たら良いよ。」
リムちゃんは俺に小さく頷いた。
そんな光景をアテーナイ様がにこにこしながら見ている。
「良い兄様じゃな。」
「はい!」
リムちゃんが大きな声で答えていた。




