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#463 俺とセリウスさんの似たところ



 「この真下です。ちょっとした崖に大穴が開いていますから目印もいらない程ですよ。」

 「了解した。…先行して偵察を兼ねて穴を丸太で柵を作る心算だ。万が一と言う事もありえるからな。そっちも頑張れよ。」


 そう俺に言うと、ロープを手に荷台から飛下りた。

 下を覗くとスルスルとロープ伝いに下りて行く姿が見える。そして、2本のロープを使って次々と山岳猟兵が降下を開始していく。

 

 核爆弾の運搬で、イオンクラフトは無くなってしまうが、もしこのまま使用出来れば、山岳猟兵を使って降下猟兵部隊が出来そうだな。哲也が喜びそうな部隊だからあいつが帰って来たら教えてやろう。

 最後に、大きな革袋を2つ下すと、下でダネリさんが手を振っている。

 どうやら、全員無事に降下したらしい。俺も手を振り返すと、ロープを引き上げた。


 「ディー、出発だ。今日のノルマをこなそう。」

 イオンクラフトは一旦、西に向かって街道に出る。そして街道を北に進むと、今度は東に進路を変えて森の探索を始めた。


 森を2回程往復した時、イオンクラフトが停止する。

 「トンネルです。そしてトンネル出口周辺に生体反応…個体数は6体。さらに南西500m程に6体です。」

 「発見されたと思うか?」

 「たぶん、まだの筈です。マスターやミーア様、そして私のように他者を認識する能力があれば別ですが…。周辺を探索している動きに変化はありません。」


 確かに、深い森は緑の梢で全く下が見えない。

 そして、この場所はダネリさんを降ろしたトンネルの場所から2km程北東だ。先行している奴等はダネリさん達の監視するトンネル周囲の偵察に向かった可能性があるな。


 急いで、姉貴達に連絡する。

 返って来た返事は、迎えに来い、と言うものだった。

 荷台に全員を搭乗させて急行する心算か?


 「ディー、姉貴が呼んでいる。一旦、姉貴達の所に帰るぞ。」

 「了解です。」

 直ぐに、イオンクラフトは高度を上げて南西方向に移動し始めた。

 

 姉貴達の場所はダネリさん達を搭乗させた場所から1kmも移動していない。

 ディーの生体探知機能で直ぐに場所が特定出来た。

 そして、その場所に10m四方の空地が出来ている。どうやら急いで立木を伐採したらしい。

 丸太が転がっている空地に、ゆっくりとイオンクラフトは着地した。


 「皆、急いで乗るのじゃ!」

 アルトさんが大声で部隊に指示を出す。

 姉貴とアルトさんが操縦席に乗り込んできたので、俺は荷台の方に移動した。

 

 「全員乗れるよね。」

 「椅子が無いから、ロープだけはしっかり握っていてくれ。ダネリさんへの連絡はしてあるよね。」

 「当然じゃ。彼等は急いでトンネルに障害を作って北東方向向かって部隊を展開しておる。」


 サーシャちゃんが自信ありげに俺に答えてくれた。

 先行しているのが4体だから、リザル戦士の敵ではないと思うけど、不意を付かれると不味い。

 

 「アキト殿、やはりレイガル族ですか?」

 「森が深くて、相手を確認していないんだ。だが、先行して6体、トンネルの出口に6体いるらしい。」

 「レイガルじゃなければ、サルと言う事にゃ。でも、私はレイガルと思うにゃ。」

 

 クローネさんは、夜襲部隊の隊長になったんだよな。勘が鋭い人だから、その言葉は真摯に受け止めよう。

 「爆裂ボルトを用意しておけ。攻撃は分隊毎に交互に行う。」

 エイオスも俺と同じようにクローネさんの言葉を受取ったようだ。早速、兵隊達に指示を出した。

 

 そして、イオンクラフトはゆっくりと停止して、高度を下げる。

 「ダネリさんの指示で、トンネルから南に1M(150m)の所に降下します。降下次第、山岳猟兵の指示に従って部隊を纏めてください。全員が降下したらサーシャちゃんの指揮に従ってトンネルに前進します。」

 兵隊達は、姉貴の言葉を聞くとロープを投げて、次々に降下を始めた。

 姉貴とアルトさんが荷台に移動してくる。

 

 「こっちは任せて。アキトは探索をお願い。」

 俺にそう言って荷台から身を投げた。吃驚して下を覗くとちゃんとロープで下りている。

 「アルトさん、皆を頼むよ。」

 「任せておけ。誰も怪我などさせん!」

 そう俺に怒鳴るように声を出して、荷台から下りて行った。


 下で姉貴が手を振っている。それに答えるように手を振ると、数本のロープを荷台に引き上げた。

 「さて、後は皆に任せよう。俺達は残りの探索だ。」

 操縦席に戻った俺を確認するようにディーが顔を向ける。

 そしてイオンクラフトは、予定の探索コースに戻って地中探知を始める。

                ・

                ・


 昼過ぎに予定の範囲を確認し終えると、森の東に広がる荒地の一角にイオンクラフトを着陸させた。

 ディーが周囲の確認を行って異常が無い事を確認すると、荷台に積んである薪を使って、焚火を始める。

 カイラム村で仕入れてきた薪は、良く乾燥しているようで余り煙が立たない。

 トンネルから10kmは離れているし、こちらを偵察する部隊も出していないようだが、敵がいる以上油断は出来ない。

 

 姉貴達の様子も少し心配になってきた。

 総勢30人以上の部隊だから、先ず負ける事は無いだろうが連絡も来ない状況だ。

 

 「マスター、通信が入ってます。」

 ディーの言葉に傍らの小型通信機を見るとランプがチカチカ点滅している。これは姉貴達からだな。


 「…MよりAへ。レイガル壊滅。大型トンネルを爆破して、北東に移動する。爆破予定は1500。以上…。」

 「AよりMへ。爆破予定1500。爆破後北東への移動了解。以上…。」


 几帳面な信号はリムちゃんだな。1500なら、後10分程度だ。

 「もう直ぐ、爆破するらしいよ。大きな方だ。」

 「方向は、…あちらの方角です。」

 そう言って森の一角を指差してくれた。西南西って所かな。


 時計を見ながら、一服してその時を待つ。ディーも、真剣な表情で森を見ている。

 突然、森の中から土埃が舞い上がり、上空にキノコ雲が出来た。

 10秒以上遅れて低い爆発音と地鳴りのような振動が伝わってくる。

 いったいどれだけの爆裂球を同時に炸裂させたんだ?…被害は無いんだろうかとちょっと心配になってきた。


 また通信機に連絡が入る。

 どうやら全員無事らしい。姉貴達は次のトンネルに向かうそうだ。


 「爆発の規模から推定して爆裂球200個は使用しています。」

 「そんな感じだね。無事で良かったよ。」


 まぁ、俺達の心配なんか気にしていないだろうな。サーシャちゃんの作戦は必ずプラスαが入る。100個必要ならば20個程多目って事だ。今回もそんな感じなんだろうな。確実何だけど、周囲への影響が心配になる。


 その夜、再度くぐもった炸裂音と小さな振動を感じた。2個目のトンネルはこれで塞がった事になる。

 続いて入った連絡では、やはり200個を最初のトンネル爆破に使用したようだ。2つ目は100個にしたらしいけど、それでも多い気がするぞ。

 いったい、何個連中は持って来たんだろう。


 そして、2つ目のトンネルから出て来たのは、レイガル族とサル達の混成部隊だったらしい。

 更にトンネルの奥にもいたと言う事だ。

 無反動砲をトンネル奥に向かって発射し、更に大砲まで撃ち込んだらしい。

 その後で爆破したらしいが、少し遅かったら魔物襲来の事態に発展した可能性がある。まぁ、未然に防げて良かったと思う。

 最後に姉貴達は、しばらくその場で様子を見ると通信文を結んでいた。

 

 「中々派手にやってるね。俺達もそっちの方が良かったような気がするよ。」

 「でも、誰かがこの探査をしなければなりません。マスターの仲間でこの作業を飽きずにこなせる人物が思い浮かびません。」

 そうだよな。もうちょっと落ち着きがある嬢ちゃん達なら良いんだけどね。

 たぶんサーシャちゃんの言葉に喜んで爆裂球をトンネルに積上げるような姿は直ぐに目に浮かぶのだが、それをこの辺で止めようって言う人物がどうしても頭に浮かんでこない。

                ・

                ・


 翌日、地中探査のノルマを終えると、カイラム村に飛行する。アテーナイ様が待っている筈だ。

 村の広場に着地すると、直ぐにジュリーさんが迎えに来てくれた。

 ジュリーさんの家に入ると、アテーナイ様がテーブルでパイプを楽しんでいる。

 俺達がテーブルに着くと、早速状況を聞いてきた。


 「だいぶ派手にやっておるようじゃの。」

 「カイラムの北で見つけたトンネルはネウサナトラムの倍もありました。それを破壊するのに。爆裂球200個を使用したようです。」

 

 200個という数字を聞いて、2人が目を丸くする。

 

 「それで、あの地鳴りだったのですね。村人が驚いてましたわ。一応、アキト様に教えて頂いたのでそれで済みましたけど…。」

 「俺だって驚きましたよ。森から土煙のキノコ雲が上がりましたからね。」

 「中々の見ものじゃったようじゃな。…そうじゃ。土産があるぞ。」


 アテーナイ様の取出したものは、新たに出来た団子屋の団子だ。

 直ぐにジュリーさんがお茶を運んで来た。早速、1本を手に取って食べ始める。

 

 「…婿殿。例の話じゃが、カイザーは喜んでおったぞ。やはり、カイザーに仲裁を頼んでいたようじゃ。カイザーも悩んでおったが、「簡単な話ですが、誰もが納得できます。」と言っておった。婿殿の名は出さなかったが薄々は分っておるようじゃったのう。」

 「厳罰が必ずしも正しいとは思えません。教育に道徳を取入れる事で説得力が増すでしょう。」

 「うむ。その事も彼は知っているようじゃったな。道徳教育がそのように使われるとは、と感心しておったぞ。」

 

 「何のお話ですか?」

 ジュリーさんが興味深々に聞いてきた。

 「連合王国の新しい刑法じゃよ。連合王国となれば法律の整合も図らねばならぬ。手始めに国王達が協議し始めたのじゃが、結論が出ずに各国の法律家に委ねたのじゃ。すると直ぐに壁に当たった。刑の軽重が国によって開きがある。それをどの様に纏めるかと言う基本的な考え方を婿殿に教えて貰うた。」


 「その考え方とは?」

 「人は生まれながらの善である。と言う考え方じゃ。その考え方に立つと、刑罰は他への見せしめというものから、自戒を促がすものとなる。よって、刑罰は軽いものに移行するのう。」

 「罪が軽くなれば罪人が増える事も考えられます。」

 「そこに婿殿の深い考えが係ってくるのじゃ。幼少の内に善悪の区別を出来るようにする道徳を教える事で抑制する事が出来る。」


 ジュリーさんがアテーナイ様の言葉を聞いて俺の顔を見る。

 尊敬の眼差しかな。なら良いんだけど。


 「アキト様が日頃の狩りに無闇と殺生をしない理由がそれだったのですね。少しミズキ様とは違いますね。」

 「まぁ、俺は気が弱いですからね。もう少し覇気を持て、と国では良く言われました。」


 「そうじゃな。確かにもう少し覇気が欲しいのう。」

 そう言って2人が笑う。

 「まぁ、連合王国においてはそれで良い。でなければ、婿殿達が5カ国を統一しておる。そんな国も見てみたいと思うのは、我も老いたという事じゃな。」

 

 何で、それが老いたという事になるんだろう?

 そんな疑問を頭に浮かべていると…。

 「若い頃のアテーナイ様は自分が統一する事を良く考えていたんですよ。」

 小さな声でジュリーさんが教えてくれた。

 良く、自制したと思うぞ。出来なくは無い。アテーナイ様1人で千人の軍に匹敵するんじゃないかな。


 「問題は統一後じゃ。それを考えぬ者は単なる覇王であって、真の王にはなれぬ。

 我は統一後の国家運営そして体制については、どうしても考えが及ばなかったのじゃ。婿殿が30年、いや40年前にこの世界に現れていたらのう…。」

 

 そんな事を言ってパイプを使い始めた。

 確かに、姉貴と性格が似ているような気がするな。姉貴も世界征服が夢だと良く言っていたからな。

 

 しかし、国政を如何にするかを考えて止めた。と言うのは如何にもアテーナイ様らしい。普通はそんな事は考えない筈だ。

 スマトル王も、覇王を目指したが国政を考える事は余り無かったような気がする。

 国民の生活を第一とするなら、戦は忌むべきものだ。

 だから、最後は大森林に飲み込まれたのだろう。


 そんな話から、トンネルに現れたリザル族とサル達の話に話題が移る。

 「…という事は、彼等はカレイム村をまた襲う心算じゃったのか?」

 「かなり規模の大きなトンネルです。先行偵察と考えれば一月もしない内に、魔物が移動してきた筈です。」


 「ネウサナトラムでは、山岳猟兵と小競り合いを起こしておる。それでカレイムに場所を移したと言う事じゃろう。意外と知恵が回りおる。」

 「まだ、抜け穴があるのでしょうか?」

 ジュリーさんが不安そうに俺を見た。

 

 「もう少し、北の森の探索を続けます。森を終了しても、山麓に広がる荒地がありますから、後10日は掛かるでしょう。」

 「ジュリーよ。婿殿達が頑張っておるが、全て見つける事が出来るとは限らぬ。村長と相談して、村の見張りを増やす手立てはしておく事じゃ。」

 

 アテーナイ様の忠告を聞くと、ジュリーさんは直ぐさま席を立って家を出て行った。

 「あれで、ジュリーは動くじゃろう。少なくともこの村が不意を襲われる事は無くなったと思う。」

 「俺達の村も心配ですね。」

 「大丈夫じゃ。我と一緒にセリウスがやってきておる。そして、村の北には山岳猟兵が哨戒を行なっておるのじゃ。」

 

 だが、山岳猟兵の哨戒場所は森の北に広がる荒地だ。セリウスさんの事だから、門の番人を増やす位の事はしているだろうが、ちょっと心配だな。


 「それ程、心配する事はない。魔物がトンネルを出て森に溢れたら問題じゃが、その機先を我等は制しておる。1歩どころか数歩は先に行っておるぞ。」

 まぁ、アテーナイ様がそう言うのであればそうなのだろうが、俺としてはまだ心配だ。


 そんなところにジュリーさんが帰って来た。

 「村長と相談して見張りを倍に増やしました。まだ村の囲いが弱い場所は、明日から補強する事にしました。」

 「とりあえずは、それで良いじゃろう。何事も無ければ良いのじゃが。」

 「はい。ようやく軌道に乗り掛けた所です。破壊されたら元も子もありません。」


 備えあれば…、って奴だな。

 どんな小さな備えでも、やっているのと無いのでは全く違う。

               ・

               ・


 次の朝。俺達はジュリーさんの見送りで北の森を目指して飛んで行く。

 途中、姉貴達の野宿している場所に立ち寄って、ジュリーさんのお土産とアテーナイ様を下ろす。

 やはり、地中探索はアテーナイ様には退屈だったようだ。

 

 焚火の傍でお茶を頂いた後は、ディーと一緒に今日の探索のノルマをこなしに北に飛んで行く。

 少し俺達の村が心配になってきたが、探索を途中で止める訳には行かない。

 ここは、セリウスさんに期待するか。何と言っても俺以上に心配性だからな。

 

 



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