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#462 カイラムの北の森



 探索から帰った翌朝、姉貴と嬢ちゃん達に見送られて、俺とディーを乗せたイオンクラフトは庭を離れて東へと向かった。

 食料と水は十分に持って、ミーアちゃんが作ってくれた黒パンサンドをバッグの中の袋に入れてある。昼食と、夕食はこれで大丈夫だな。

 姉貴達は、情報端末の映し出す映像から何か分からないか調べると言っていたが、高高度からの探索では精々地形位だろう。トンネルからの出入があれば、ある程度場所を特定出来るとは思うけどね。


 「ノーランド街道まで30秒。地中探査を開始します。」

 「了解だ。早く見つかると良いんだけどね。」

 

 俺の言葉に頷きながら、ナビのような画面に映し出される地中の積層模様を見ている。

 イオンクラフトの操縦と画面の確認を同時に出来るんだから凄いよな。

 俺も、画面を覗いてはいるんだけど、長時間の監視は精神的に不可能だ。

 ジッと見てるとなんだか眠くなる。そんな時は操縦席から少し身を乗り出すようにして下の森を見るんだけれど、それだって森の上は単調な景色だぞ。茂みが連なっているように見えるだけだ。

 

 適当に休憩を挟んで、1日の探査区域である東西50km、北方向500mの探査を終了した。

 どうにか半分位だな。この森ならば、今までの探査で1つ位見つけても良さそうな感じはするんだけどね。


 荒地の一角に焚火を作って、今日はここで野宿だな。

 まだ夕暮れにもならないから、ディーの作ってくれたお茶を飲みながら一服して時を過ごす。

 俺の横に座って焚火を見詰めるディーの姿は、どこと無く姉貴を連想させる。

 そういえば、最初は姉貴の顔だったよな。

 俺達が指摘して変えさせたけど、まだ姉貴の面影が残っている。


 「どうしました?」

 俺の視線に気付いたのか、ディーが質問してきた。

 「あぁ、ちょっとね。…姉貴の面影があるな、って見てたんだ。」

 「当然です。私の現在の容姿は、マスターとミズキ様の容姿を元にしたものです。マスター達の遺伝子配列は判っていますから、それを元にしてシュミレーションした結果がこの容姿です。」

 「それって…。」

 「マスター達が子供を作ったら、そしてその子供が女性だったら、…17歳の姿は私の容姿とほぼ同じになると思います。」


 俺達が子供を儲けると、こんな女の子になるのか。

 ちょっと、衝撃的な事実だな。

 「姉貴は知ってるのか?」

 「薄々感じているようですが、口に出した事はありません。」

 

 姉貴は勘が良いからな。

 ディーを見ながら妄想を膨らませているんだろうけどね。

 「最初の頃は、私を悲しそうな目で見ていましたが、この頃はアルト様達に接する目と同じになりました。」

 「姉貴なりの感情表現だから気にしないで良いよ。」


 咄嗟に言いつくろったが、姉貴にしてはおかしな話だ。

 姉貴は他人に対しての感情表現は著しいが、自分に対しては極めて冷静だ。姉貴との長い付き合いの中で、そんな視線を見た事が無い。

 思いやりの眼差しは思い出せるが、姉貴の悲しそうな目って俺には想像も出来ないぞ。

 

 だとしたら、その原因は何だろう?

 あの時、自分に似せた姿は拒絶したが、それは理解出来る。

 そして、その後今の容姿にした時にそれは起ったという事だ。


 その姿を見る事が辛い…。その一言だな。

 何故、辛いのか…。それは根が深そうだな。

 だがその後は…。

 「アルトさんよりも、リムちゃんを見る目に近かったんじゃないか?」

 「…確かに、そんな感じです。」


 「姉貴はディーを兄弟と思うようになったみたいだね。嬢ちゃん達もディー姉さんって呼んでるだろう。」

 「そうですね。私を人として接してくれます。」

 嬉しそうな顔を俺に向けて答えてくれた。


 夕食を終えて、操縦席のベンチで横になりながら、ディーの言葉から思いついた事をもう一度考えてみる。


 姉貴はディーを見て自分を悲しんだ。

 それって、姉貴が子供を作れないって事を知っているのかも知れない。

 出来ない筈の子供の姿を目の前にして、自分を悲しんだというのが一番説得力があるぞ。

 しかし、そんな話を姉貴は俺に一度もした事が無いし、家族同然の付き合いをしている俺の母にもそんな話はしていない。

 哲也が俺達の失踪話をした時には、子供でも連れて帰ってくると話していた位だ。


 意外と、俺には黙っているけど病弱な体質なのだろうか?

 だが、俺達をここに運んだ神?は、俺達にほぼ永遠の命と若さを与えた。その時に病気等があれば治っている筈だ。

 

 待てよ、病気ではなく欠陥であれば、どうなんだろう。

 そもそも、そんな臓器が無かったら…。

 だけど、姉貴にそんな事は無いような気がするな。

 学園のヒロインだし、色々なところからハントの声があったような気がする。

 その断わる理由が、「私にはアキトがいますから興味ありません。」だから、俺がどれだけ苦労したか…。

 

 そんな事を考えながら、何時の間にか寝入ったようだ。

 翌朝、俺が起きた時には、まだ朝日は上っていなかった。

 寝ずの番をしていたディーに、朝の挨拶をして軽い朝食。そしてお茶を飲みながらの一服の間にディーが出発の準備を始める。


 昨日の事があり、改めてディーの姿を見るが、俺には他の連中と同じにしか見えないな。俺達と一緒に生活する仲間として見てるんだろうな。

 そんなところが、男と女の違いなのかもしれない。

 

 セリウスさんやクォークさんも俺と同じようなところがあるな。

 ミケランさんは俺達の妹のように見てるのかも知れない。嬢ちゃん達は完全にディー姉さんだからな。


 「マスター、出発の準備完了です。」

 「さて、今日も頑張ろうか。」

 そう言って、焚火の隣に掘られた穴を使って焚火を始末する。そしてイオンクラフトに搭乗すると、今日の分担分の探索を始めた。

               ・

               ・


 「ありました。…かなり規模が大きいです。」

 「判った。下に降りて目印を付けて来る。」


 操縦席から荷台に移る。用意したロープをグイグイと引いて、荷台の枠にしっかり固定されている事を確認した。

 「こっちは準備完了だ。ゆっくり下りてくれ。」

 

 イオンクラフトが森の枝に接触する位まで下りて停止する。

 荷台からロープを投げ下ろして、布が入った袋を腰に付けると、スルスルとロープを下りて行った。


 これは、目印もいらないな。

 下りて周囲を見渡した途端。目の前のちょっとした崖に直径4m近い洞穴が開いている。

 近くの立木に白い布を縛りつけて、改めて洞穴を覗いてみる。

 LEDライトで照らし出された洞穴の内部はゴツゴツとしている。少し中に入って壁面を観察すると鑿で削った跡が見て取れた。

 鉄器ではなく石鑿だと思うが、よくもこんな大工事をしたものだ。

 そして、トンネルは同じ直径で真直ぐ奥に続いている。


 トンネルを出て外から改めて洞窟を見る。

 ここには偽装された形跡が無い。数m位の場所に石を積み上げれば浅い洞窟に見えなくも無い。

 もっともそんな偽装をしなくても深い森の中だから見つかる危険性が無いと見たか、あるいは発見されても、奥の深い洞窟では何が住んでいるか判らないから近づく者がいないのかも知れ無いが。


 ロープを伝ってイオンクラフトに戻ると、姉貴に通信を送る。

 俺の告げたトンネルの大きさに驚いているようだ。

 そして、直ぐに出発する旨の連絡を返してきた。嬢ちゃん達が退屈してるからね。

 あたふたしながら準備をしている光景が目に浮ぶぞ。


 そして、その日の探索が終る。

 どうやら森の北限が見えてきた。後10日もすれば森の探索は終了だな。

 姉貴達があの洞窟を見つけるまでには2日は掛かるだろう。破壊は3日後になる筈だ。


 「明日の探索終了後にカレイム村に寄りたいと思います。水が不足してきました。」

 「それなら、ジュリーさんに連絡を入れておこう。明日の夕食は期待できるぞ。」


 早速、通信機で姉貴達に連絡を入れる。

 直ぐに返事が返ってきたところを見ると、姉貴達はまだ村にいるようだな。

 返事の内容は山荘の近衛兵をカレイム村に派遣するそうだ。ジュリーさんのところには通信機を置いていないから、山荘に連絡用の馬を置いているらしい。

 

 「出発が遅れているのは、依頼を受けた兵隊達が狩りから戻っていないらしい。まぁ、士気を保つのは難しいって事だよな。」

 「でも、ミズキ様達の事ですから、夜間に村を出るかも知れません。」


 たぶん、そうなるな。アルトさん辺りが強行しそうだ。そして夜間行軍に支障の無い連中が揃っている。

 

 焚火を見ながら一服していると、通信機のライトが点滅している。

 この通信は…、王都からだぞ。


 直ぐにレシーバーを取って、電鍵を操作する。

 「…AよりRへ。呼出しを確認。以上…。」

 「…RよりAへ。ATより依頼あり。3日後にカイラム村で待つ。以上…。」

 「…AよりRへ。3日後カイラムを了解。以上…。」


 ATとは、アテーナイ様?…例の話の結果を聞かせてくれるのだろうか?

 とりあえず3日後に行って見よう。

 

 そして翌朝、俺達は森の探索を再開する。

 昼頃に予定の探索終えると、一路カイラム村へとイオンクラフトを飛ばす。


 カイラム村は、森に埋もれた村だ。

 それでも、村には広場がある。直径50m位の丸い広場の一角にイオンクラフトを降下させると村人が俺達を見上げている。

 着陸すると、そんな村人の中からジュリーさんが現れた。


 「お久しぶりです。悪戯する者はいませんから、どうぞ私に付いて来てください。」

 ジュリーさんの言葉に俺達は急いで操縦席にシートを掛けると、彼女に付いて行った。


 案内されたのは小さな家だ。俺達の家のような造りだが、一回り小さいな。

 そんなリビングのテーブルに案内されると、早速ジュリーさんがお茶を入れてくれた。


 「水の補給と聞きました。でも、せっかく来たのですから、一晩お泊りください。ここは私と妹の家ですから、お気遣いは無用ですよ。」

 「ありがたく、厄介になります。この村に来れば久しぶりにジュリーさんの料理が食べられるかも…と期待していたのも確かですから。」


 俺の言葉を嬉しそうにジュリーさんが聞いていた。

 しばらく一緒に暮らしてたからな。

 

 「ちょっと焼いてきますね。」

 そう言ってディーが席を立って暖炉に向かう。何を焼くのだろうと思って見ていると、バッグの袋から出したのは鯛焼きだった。

 ひょっとして、王都で手に入れたのか?…だとしたらだいぶ時間が経っているけど大丈夫なんだろうか?

 

 「はい。焼けましたよ。」

 そう言ってテーブルの上に5個の鯛焼きがジュリーさんの用意した木皿の上に乗せられた。

 「ディー…。これって、王都で買ったんだろう?あれからだいぶ経ってるから食べられないと思うぞ。」

 「アキトさん達が王都にいたのは冬ですよね。なら、問題はありませんよ。魔法の袋の中には時間が経過しません。」

 

 それなら安心かな。ちょっと表面がカリカリになった鯛焼きを手にとって頭から齧りつく。

 ジュリーさんや、ディーも手にとって食べ始めた。

 「これが噂の鯛焼きですね。王都でも中々手に入らないと妹が言ってましたよ。」

 まだお店が少ないからな。そしてこの鯛焼き、確かに数ヶ月が過ぎたとは思えない味だ。時間が経過しないってどんな仕組みなんだろうな。

 

 「そうだ。アテーナイ様が2日後にここに来ると言っていましたよ。昨日通信機で連絡を受けました。そして俺に迎えに来るようにと…。」

 「相変わらず、お忙しそうですね。判りました。」


 そして、俺達の作業を説明すると、驚いて俺達を見詰めた。

 「そんな事態になっているのですか?…確かに村人がそのような話をしていました。北よりも南に獣が群れていると。」

 

 「明日か明後日には北の森で大きな炸裂音がします。姉貴達がトンネルを破壊する為ですから驚かないで下さい。」

 「私から村人に伝えます。それでは、ミーアちゃん達は近くの森で野宿をしているのですね。明日帰る時にお土産を託して宜しいでしょうか?」

 「えぇ、良いですよ。」


 その夜の料理は久しぶりに食べるリリックのスープだ。

 この話をしたら、ミケランさんは驚くか、それとも悔しがるか…。どちらにせよ、連れて行け、って言われそうだな。

 

 あくる日。ジュリーさんに託されたお土産と、俺達の弁当を受取って、カレイム村を出発した。

 一旦、ノーランドへの街道を北上して、姉貴達を探す。

 

 「街道にはいませんね。森に入ったのでしょうか?」

 「そんな感じだな。ちょっと待って、連絡を入れて見る。」


 通信機で姉貴達に連絡を入れると、やはり森の中のようだ。

 ディーが姉貴達の通信機の発する電波の方向を探る。

 その方向にイオンクラフトを飛ばして、部隊の上空に辿り着いた。


 下で手を振るアルトさん達に森の梢すれすれまでイオンクラフトを降下させると、荷台のロープを使って降下する。


 「かなり大きなトンネルと聞いたが?」

 「ディーの話だと、今この辺りだ。トンネルの場所はここだから、爆破は明日になるね。」


 「森って直ぐに場所が分からなくなるのよ。ほんとに困ってしまう。」

 「情報端末をGPSとして使えないの?」

 

 俺の言葉に姉貴は吃驚したように地図から頭を上げて俺を見た。

 「そうだよね。早速試してみる。」


 応用動作に難があるな。

 お土産の袋をミーアちゃんに渡すと、袋を開けた途端に嬉しそうな顔をしている。それを見たサーシャちゃんが早速その理由を確認しているのが何とも姉妹のようだな。

 

 姉貴の依頼で再度山岳猟兵をトンネルまで送る事荷になった。

 ロープの垂直登りは苦労するのだが彼等にとっては苦にならないようだ。次々にロープを上っていく。

 最後に俺が登ったところで、下で手を振る連中に手を振りながら部隊から離れてトンネルを目指す。


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