表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
461/541

#458 村への帰還

 


 「国王達は賛成してくれました。そして資金を各国とも金貨200枚を出してくれる予定です。各国の工兵部隊を併せると総勢600人。一月銀貨4枚としても4年は何とか工事を続けられます。

 ですが、この工事は10年以上掛かるでしょう。その間に何とか資金を集めねばなりません。」

 

 クォークさん達のメンバーが俺の住む館にやって来て、そう言った。

 まぁ、予想の範疇ではある。

 

 「資金を集める方法は色々あります。この計画でもっとも適切なのは株式会社を興す事です。

 1株を銀貨5枚として、株を売却します。会社の利益は持ち株によって分配します。ただ、大運河計画の為に民衆が簡単に株を購入してくれるとは限りません。

 そこで、最初に一番物流が多い場所を選んで工事を始め、その完成による影響を広く広めてから販売すれば良いでしょう。」

 

 「集まるでしょうか?」

 ブリューさんが心配そうに言った。

 「そこは貴方達の計画いかんです。船に運河の利用料金を掛ければ運河の維持管理を差し引いても利益が得られます。その利益がどれ程出るかを説明すれば、利に聡い人々は株を購入しますよ。再度王族達から集めても良いでしょう。但し、次に集める資金は株の購入費として計上すれば、国王達も喜んで追加資金を出してくれます。」

 

 最初の資金は連合王国に動脈を作るためだから、王族の義務として貰っても良いだろうが、次の資金は連合王国の国民全てに利益還元の機会を与えても良いだろう。

 運河は維持費が掛かる。国費で全て賄っても良いだろうが、これは連合王国全体で作ったのだという一つのモニュメントでもあるのだ。


 「運河の利用料金はどのように算出するのですか?」

 「それは、御用商人と相談すれば良いと思います。」

 

 「後は、運搬船なんですが…。運搬船も我々で面倒を見てはどうか。と言う話になりまして。」

 「その方が良いでしょう。そうすれば、閘門の規格化が出来ます。閘門の設計を沢山しないで済みますよ。段数を組み合わせれば必要な水面高さを得られます。」


 「サーミストの工房とアトレイムの工兵隊隊長が我々に協力してくれるそうです。船はサーミストに任せましょう。」

 「では、最初の工事はモスレム王都からサーミストのカリストで良いな。一番荷物が多いと商人達も話してくれた。そして、この運河の高低差は100D(30m)だ。この運河の完成を持って、アキトさんの言う株の販売を行なう。後は、モスレムから西に運河を伸ばしていけば良い。その間の高低差は60D(18m)程度になる。工事は遥かに簡単だ。」


 クォークさんの言葉に王子達が頷く。

 さてどんな運河が出来るのかな。ちょっと楽しみではある。

 そして、彼等が立ち去ろうとした時、呼び止めて国王達への伝言を頼んだ。


 「すまない。国王に伝言を依頼したい。『問題無し。』とアキトが言っていた。と伝えて欲しい。」

 「アキトさんも、色々とあるようですね。了解しました。」

 そう言ってクォークさん達は帰って行った。


 これで、2件が片付きそうだな。

 最初から難工事の場所を選んだのはたいしたものだ。運河による荷船の運航が一番アピールし易い。人は便利な物には飛び付く筈だ。そして、商人達からの出資金が得られ易い。

 後は、運河による荷役の影響を被る馬車や牛車の人足の不満を解消する事荷なるが、これは荷船の運送を彼等に託す事で何とかなるだろう。これを機会に廃業する者もいるだろうが、その人達には保証金を払えば、次の仕事の資金になろう。

               ・

               ・


 昼を過ぎると、姉貴とローザが帰って来た。

 ニコニコしているのを見ると、今日の授業も上手く行ったようだな。

 アルトさん達ももうすぐ帰って来るだろう。何でもルクセム君にちゃんとした短槍を作ってあげるらしい。

 

 「ルクセムも、もうすぐ黒じゃ。村の立派なハンターになりおった。ルクセムをハンターにしたのは我等…、その祝いに贈るためじゃ。」

 何て言っていたけど、たぶん、どこまでも面倒を見るに違いない。

 

 「ただいま!」

 そんな声がしてドタドタとアルトさん達がリビングに走ってきた。

 その姿を確認したタニィさんが昼食を運んでくる。


 昼食のサレパルを食べ終えると、お茶を飲みながらアルトさんが槍の出来栄えを話してくれた。

 「まぁ、色物じゃな。たぶんルクセム以外は使わん筈じゃ。長さはアキトの作った物を測ってきたから同じ様な物が出来ると思うぞ。刃先はサーミストより取り寄せた一級品じゃ。そして、槍の穂先ではなく少し長めの短剣になっておる。」


 聞いてて俺も欲しくなってきた。投槍としても使えるだろう。グライザムなら相手に出来そうだな。

 

 「ルクセム君も喜ぶと思うわ。だけど、剣も欲しいわね。短剣は持ってる筈だけど。」

 「長剣は、エントラムズで仕入れておいた。サラミスとお揃いじゃ。」


 なら問題ないね。って顔を見合わせている。

 あれって、確か歩兵中隊長が持つとか言ってなかったか。一介のハンターが持つのは問題のような気がするぞ。

 

 「サラミスの時もそうだけど、あれって一種の象徴として与える物じゃないの?」

 「国王より賜る時は、その刀身に王国の象徴となる獣を彫り込んでいる。見た目は同じじゃが剣を抜けば違いがあるのじゃ。そして、軍の再編に併せて長剣の彫り物が変わったぞ。6つの輪の繋がりじゃ。」


 モスレム、サーミスト、エントラムズにアトレイム。それにカナトールとテーバイが加わるのか。まだ4つの王国の連合に過ぎないが、将来まで考えているようだ。


 「姉さんの方は順調なの?」

 「全く問題なし。今日は神官さんが授業をして、私達は後ろで見ていたわ。どうやら、コツを飲み込んだみたい。」

 姉貴の言う、コツって何だろう?…威圧か?それともチューク投げか?

 まぁ、それでも初めての教育だ。神官達は苦労するんだろうな。


 「後、一月位手伝って、私の役目は終わり。後は神官さんとローザに引継ぐわ。」

 「そうじゃな。それ位に村に帰れば、色々と楽しめるのう。」


 アルトさんの楽しめるって言うのが何かが問題だな。

 確かに春先のギルドは忙しいんだが、今回はちょっと違うような気がする。

 たぶん、トンネル探しだと思うけど、意外と退屈な作業だぞ。

               ・

               ・


 そして、一月が過ぎた。

 俺達は村に帰り、この館には、ローザとリンリン達が住む事になる。

 まぁ、たまに王都に来た時には、俺達の宿になる事でタニィさんと話は済んでいる。

 

 今回の飛行にはミケランさんとミク達も一緒だ。セリウスさんはトンネルの捜索部隊をエイオス達と一緒に率いて後から来ると言っていた。

 

 「これで、全員じゃな。…ミズキ、出発じゃ。」

 アテーナイ様が後を振り向いて俺達の顔ぶれを確認して姉貴に言った。

 フワリとイオンクラフトが宙に浮き、王都の家並みの屋根を飛び越えて真直ぐに北東へと向かう。

 アルトさんとリムちゃんは毛布に包まり、ロムニーちゃん達も同じように包まっている。

 俺とシュタイン様は荷台の後ろに座ると、毛布に包まってタバコを楽しむ。

 「何度乗っても、この乗り物には驚かされるな。だが、この乗り物に乗れるのもそれ程長くないか…。」

 「他に、核爆弾の運送手段がありませんので、仕方がありません。元々は無かった物です。そして、利用できるのが我等だけでは反感も起るでしょう。」

 「確かにな。まぁ、これに替わる乗り物を我等で開発出来れば良いのだが、しばらくは無理じゃな。」


 しばらくどころか、かなり無理だぞ。俺達のいた世界だって、イオンクラフトの原理で動く玩具はあったが、荷物は運べなかった。

 この乗り物はイオン噴流だけではなく、初歩的な重力制御も行なっているみたいだからね。


 2時間程で村に着くと、俺達の家の庭に着地する。

 「では、婿殿また後でな。」

 「ありがとうございました。」

 「ありがとにゃ。」

 「後で遊んでね!」


 そんな挨拶を交わしてそれぞれの家に向かっていく。

 ディーが納屋にイオンクラフトを仕舞い、姉貴達は家の掃除を始める。雑巾掛け用に風呂桶に【フーター】でお湯を張った。


 「後は、私達でするから、とりあえずギルドの様子を見てきて頂戴。」

 「あぁ、そうだね。行って来る。」


 まぁ、これは何時もの事だ。

 それに、今年のアクトラス山脈の雪解けは早そうだ。リオン湖の氷は融けているし、日当たりの良い森の雪はすっかり無くなっている。農家の人達もそろそろ春の農作業をしている筈だ。

 通りを歩いても泥濘が全く無い。乾いた通りの草は小さな蕾を付けている。

 

 ギルドの扉を開けると、カウンターからこちらを見たルーミーちゃんに片手を上げてご挨拶。

 カウンターに歩いて行くと早速到着の手続きをする。

 

 「帰って来たのは、アキトさんにミズキさん。アルトさんにリムさんですね。それと、アテーナイ様にミケランさんとミクちゃんにミトちゃん。後は、ロムニーさんとレイミルさんですね。

 一度に10人ハンターが増えました。今年の雪解けが早かったので、依頼書が沢山集まってます。まだ、麓から上ってきたハンターが3人だけなので助かります。」


 チラリと依頼掲示板を見ると、なるほど掲示板がもうすぐ見えなくなりそうだ。

 「やばい奴はいるの?」

 「いえ、一番手強そうなのはイネガルですね。畑を荒らしているそうです。」


 「分かった。アルトさんに伝えておくよ。それと、採取系は沢山あるの?」

 「例年以上です。」

 「それはミク達に頼もう。じゃぁ…。」

 

 そう言って、立ち去ろうとしたところ、「待ってください。」と呼び止められた。

 「アキトさんとアルトさんに荷物が届いてます。今持ってきますね。」

 

 そう言って、事務所に入っていく。

 ルーミーちゃんが持ってきたのは、3つの棒状の包みだった。包みの木札に名前が書いてある。

 俺のはこれか…。

 手に持つと少し重量がある。木札の裏に書いてあるのはエントラムズの工房のようだ。ひょっとして、あれが出来たのか?


 「ありがとう。持っていくよ。」

 ルーミーちゃんにそう言って家路を急ぐ。

               ・

               ・


 「ただいま。」と言って家の扉を開くと4人でお茶を飲んでいた。

 掃除は終ったのかな?

 荷物を手にテーブルに着くと、ディーがお茶のカップを運んでくれた。


 「これは、アルトさん宛の荷物だ。ギルドから預かってきたよ。」

 「例の槍と長剣じゃな。暖炉脇に置いておけば忘れんじゃろう。」

 そう言ってリムちゃんと槍と長剣を運んで行った。

 

 「ところで、そっちは何じゃ?」

 「エントラムズの工房に頼んだんだ。鎧通しと言う武器だよ。」

 そう言って、包みを解く。

 板に革を張った硬い鞘に、姉貴の小太刀のような柄が出ている。

 そっと抜いてみる。抜き口はかなり硬めだな。


 「何じゃ、その片手剣は?…全く刃が付いていないぞ。貸してみよ!」

 奪うようにアルトさんが俺の手から鎧通しを持って行く。

 リムちゃんとジッとその武器を見ているぞ。


 「少し、反りがあるのう。そして切っ先は鈍角じゃ。手元にある突起も変じゃのう…。これでも武器なのか?」

 「それはね。アルトさん達が着る大鎧と関係あるのよ。大鎧は矢を防ぎ、長剣を受けても刃が滑るでしょう。でもね、その短剣なら突き通せるの。その武器の名は鎧通しと言うのよ。」

 「まさか、我等を殺そうと…。」


 「そんな事はしないよ。俺の持つ剣はグルカと刀だろ。両手に持って戦うにはちょっとバランスが悪いんだ。だから片手剣を作ろうと思ったんだけど、どうせ作るならと思ってね。これならグライザムの毛皮も突き通せる筈だ。」


 「まぁ、長さが不揃いな剣を使うのは骨が折れる。それは分かるが、かなりの色物じゃな。」 

 そんな事を言いながらジッと鎧通しを見ている。欲しいのかな?

 

 「斬れぬ剣は我に不要じゃ。」

 今度は返してくれた。まぁ、この剣は斬る事だけは出来ないな。


 お茶の後は、掃除の続き。

 俺は風呂桶を掃除する。ついでに軒下から薪を暖炉の傍に運んでおく。村に雪は消えているがまだまだ朝晩は冷え込む筈だ。


 夕食はタニィさんが持たせてくれた黒パンとスープだ。スープの具だけ小さな笊に入れて布で包んで渡してくれた。

 掃除をしながらじっくりと煮込んだから野菜は柔らかく仕上がっている。大鍋だから明日の朝も食べられるな。


 「ギルドの依頼が沢山あったよ。アルトさんにはイネガルをお願いしたい。ミク達にも出来る採取系の依頼も沢山あった。」

 「イネガルが複数なら、黒の下では無理じゃな。母様を交えてギルドで相談じゃ。ミズキとアキトは明日はどうするのじゃ?」


 「俺はちょっと天文台の様子を見てきたい。1年以上経っているからどんな様子か確認したいんだ。」

 「私は、サーシャちゃんと打ち合わせをするわ。あの通信機は使えるのよね。」

 「少し充電しておきます。私は、アルト様と一緒でよろしいですね。」


 珍しく、ディーがアルトさんと行動を共にするようだ。

 アテーナイ様とディーがいれば、達成出来ない依頼って無いんじゃないかな。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ