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#457 長老の教え2nd

 


 深い森の中、緑の天蓋からの木漏れ日がチラチラと俺の周囲を廻っている。

 そんな中、小さな石に俺は腰を下していた。

 そして、目の前には長老が2m程離れて同じように腰を下している。

 ここは、心象世界のようだな。

 

 「ふむ、ワシを呼ぶとはどの様な用件じゃ?」

 「実は…。」

 

 クリャリンスクの怪物、レイガル族のトンネルそしてサル達と魔物襲来の話をする。その関連性についても、俺の考え方を話した。

 長老は目を閉じて俺の話をじっと聞いている。


 「…と言う次第です。俺達が一番恐れているのは、怪物がレイガル族の居住区に入りこみ、レイガル族を襲った場合、トンネルを使って連合王国にレイガル族が侵入を開始することです。」

 「砂山から小さな宝石の原石を捜すような行為じゃな。お前の危惧は現実となるじゃろう。…確かに我等なら可能じゃ。たぶんミズキも可能じゃろう。だが、お前にはこの距離程度でなければ分らぬであろう。…何故か分るか?」

 

 姉貴と俺との間に、気の流れに関して明確な違いがあるという事か?

 気と言う存在におぼろげながら気が着いたのは、姉貴のお祖父さんの発するものだった。

 道場で対峙したときにお祖父さんの輪郭から周囲に広がる何か…。最初は芽の錯覚かと思って目をゴシゴシと擦ったんだ。

 俺の姿を見て、「何をしておる。」と聞いたので正直に見えたものを告げると、お祖父さんは構えを解いて俺に言った。

「お前は俺の気が見えたのじゃ。」

 

 最初は人の発する気だった。これが見えると試合で、後の先を使えるようになれる。相手の僅かな気の変化で攻撃動作に移る前に受け流して攻撃する事が出来るのだ。もっとも、お祖父さんには、その行動を取った俺の気を感じて反撃されたけどね。カウンターのカウンターって反則だよな。あれじゃ絶対に勝てないぞ。


 そんな修練を積んでいくと、自然界に大きな気の流れがある事が分った。かすかな流れだが確かに存在する。そしてそれを人の発する気が乱す。

 ここまで来ると、薄暗い道場で数人を相手に試合が出来るようになった。

 そして、俺が気について学んだのはここまでだった。

 更に先があるとは思うが、生憎と姉貴と一緒にこの世界に来てしまった。


 「お前の師に会ってみたいものじゃが、それは無理じゃろう。人の身で良くぞお前にエーテルの流れを教えたものじゃ。

 確かに、お前の思うようにその先がある。ミズキも気が着いておるようじゃが、生憎と教えられるものではない。じゃが、一応話しておこうかの。

 良いか。エーテルとは単に波動ではない。という事はお前が自覚しているような流動体では無いという事じゃ。」


 吃驚して思わず声を上げそうになった。

 そんな俺をにこやかな目で長老は見ている。

 長老の言うエーテルと俺達の気の概念は同じだ。気は溢れるもの、そして流れるもの。…最後に大海へと流れ気脈を通して山々から再び溢れる。

 俺の概念はそうなる。

 だが、長老はエーテルは流動体では無いと言った。それはどういう意味だ。

 水のように俺の周囲を取巻く存在だから、それを取り込みそして練ることが出来る。

 ん?…練る、という事は水では出来ないよな。さらさらと流れる水は飲む事は出来るが、それを纏めて固める事は出来ない筈だ。

 

 「ほほう…中々良いぞ。では何じゃ?」

 どうやら長老は俺の思考を読んでいるらしい。


 ひょっとして、気は液体と個体の両方の性質を持つのかもしれない。…というより、微小な個体の集合体として存在するのではなかろうか。あたかも水が酸素と水素の化合物のように…。

 だとしたら、気の知覚の度合いによって個体と液体の両方の性質を使い分けられるのかもしれない。

 液体としてなら流れを感じ取り、個体としてならその存在を自在に操れるのかも知れない。

 

 「そこまでワシの一言で推論を展開する者は初めてじゃ。カラメル族の長老補佐程度の知覚をお前は示しているぞ。

 確かに、お前の思う通りじゃ。気は個体と液体の性質を併せ持つ。この性質を持つものは、お前の推論にある水の外に、誰もが知っているもう1つのものがある。」

 「光ですね。」

 「その通り、個体と波の性質を併せ持つ。エーテルとは水という理解よりも光に近いものとワシは考えておる。」


 光子フォトンの挙動か…確か、次の学年で習う予定だったよな。

 だが、俺でも幾つかの事は知っている。個別では個体の性質を示し、集まるとあたかも波のような性質を持つのが光子だ。

 気も気子と言うべき者の集まりなのだろうか?…そう言えば、魔道師達の言う魔気とは気と同じようなものだ。姉貴の気の高まりを見て魔気が集まっていると魔道師達が言っていた。

 そして魔気は魔獣を作り魔獣の中で魔石を作る。単なる波動では魔石は作れない…。


 「その例えは、エーテルの性格を端的に現しておる。確かに、エーテルをどの様に集め、かつ練ってもエーテル石は作れない。だが、その寸前にまでは持っていく事が出来る。閑ならやってみるが良い。良い修行になろう。」

 「やってみる心算です。ですが、最初に戻りますが、その性質が分った事でトンネルの捜索に役立つとは思えないのですが?」


 俺の問いに、長老は笑い出した。

 そして、周囲の森をぐるりと指で示す。

 「ホッホッホ…。良いか、ここは心象世界ではない。お前の精神をこの森へ移動しておる。…どうじゃ。感じられるか?…この森のエーテルの流れを。」


 言われて初めて、この場所の異質さに気が付いた。確かに獣や小鳥達の気配は無い。しかし、気の流れが右から左に流れている。この気には覚えが無い…少なくとも連合王国にある森とは少し異なるようだ。

 だが、森であればもっと気の流れが濃い筈だ。ひょっとして、山から森に続く気の流れがここには無いのだろうか?


 「その通りじゃ。ここは荒地の只中にある森じゃ。周囲を見渡しても山脈は無い。お前のいる大陸とは別の大陸じゃよ。」

 そう言って俺を見る。

 俺の考えを、心眼で読もうとしているようだ。


 今の長老の話であれば、この森を流れる気は、森を構成する木々の発したものになる。生物は必ず気を発する。大小の区別はあるけどね。

 植物も生物だから気を発するが大きくは無い。注意しなければ全くわからないような希薄な気だ。

 それが集まって左へと流れていくのは、そちらに泉か池があるのだろう。

 

 「どうじゃ?これがワシがお前に課す修行じゃ。この希薄なエーテルの流れを辿り、木々を分別する。…どうじゃ。出来るかな?」

 徴発するように長老は俺に言った。


 「やってみない事には判りません。」

 そう言って俺は目を閉じた。

 確かに希薄な気の流れを感じる事は出来る。だが、その源流を探るという事は、縺れた糸の1本1本を紐解くようなものだ。

 だが、これが次の階段を上るものであれば挑戦し甲斐がある。それで俺も姉貴に1歩近づける訳なのだから。


 俺は気の流れの中で少し大きな流れを見つけた。希薄な交じり合った気の流れの中で、それだけはあまり雑じっていないように思える。

 その流れを辿っていく。見失わないように細心の注意が必要だ。


 「ほほう…。それに目を付けたか。」

 長老の呟きを聞き流す。

 

 流れを辿ると1つの場所でその流れが止まった。ここがこの気の持ち主の木のようだ。

 それ程遠くではない。目を開ければ見えそうな近さに感じられる。

 その幹の全体から霞のように気を発しているのだが…。

 ん?…気の発散は一様ではないぞ。まるで、まるで脈動しているように感じられる。


 「判るか?…更に感じよ!」

 長老の言葉が頭に響いた。

 更に思念を凝らして、その気の脈動を観測する。

 

 脈動により気が立木の幹全体から発散している。まるで木が鼓動を打っているような感じだな。

 思念を更に木に近づける…。すると、幹から粉体のように微細な気が幹から放出している様子が伺える。

 これが気子なのか?木漏れ日で一瞬その姿が見えたが、陰るとまるで分からない。

 

 「己が気を高めてみよ。」

 長老の思念が頭に響く。


 木々の発散する気を自分に集めそれを練る。

 すると、俺の気に反発して乱れる気の流れが見える。その乱れに注目すると…。

 俺の気子と木々が作り出した気子とが反発しあるいは交じり合い複雑な渦を作っているのが見えた。

 これが気の乱れとして俺が見ていたものか…。

 と同時に、気の流れが織り成す絡みを辿り源流へと辿る術が分かってきた。気子の違いを辿れば良いんだ。

 

 「ふむ。…分かったようじゃな。それでアクトラス山脈に空けられたトンネルを探るのじゃ。トンネルから流れ出る気は異質。本来の気の流れではない。恐らくはレイガル族の気を含む筈じゃ。」

 「ありがとうございます。気の流れに雑じる僅かな気子の痕跡を探れば分かるという事ですね。」


 「そこまで、洞察出来たか。その通りじゃ。だが、精々お前の単位で言う30m程の範囲でしか分からぬ。エーテル粒子は混じり合い、その痕跡を消す。」

 

 俺が頭を下げると、心象風景のような深い森は消えて部屋の天井が見える。

 そうだった、俺は部屋のベッドに寝転んで…。

 !今、何時だ?…だいぶ、窓の外が明るく感じるぞ。


 急いでベッドから身を起こして、時計を見る。14時だ。

 あれから一晩過ぎてるみたいだ。

 身支度をしてリビングに下りて行った。


 リビングの扉を開けるとテーブルでお茶を飲んでいた皆が一斉に俺を見る。

 「何と、ようやく起きたのか?…丸3日は寝ていたのじゃぞ!」

 「皆心配してましたよ。」

 アルトさんとリムちゃんがそう言って俺をテーブルに着かせる。

 

 「それで、修行の成果は?」

 「知ってたの?」

 「あれだけ深い眠りに付いているんだもの。それ位は分かるわ。」


 「修行なんですか?」

 そう言って俺にリムちゃんがお茶を渡してくれた。


 「あぁ、どういう方法かは分からないけど、カラメルの長老の手引きで大陸を離れた場所に行って来た。

 修行と言っても心象世界なら、時間の経過は無い。今回は心象世界ではなく深い森の中だった。その中で木々の発する微かな気の流れと言うか、発散というか、それを特定するのが修行だったんだ。」


 「心象世界では長老の気だけになるか…。それで誰もいない森なのね。」

 「そんな感じ。」

 姉貴は俺の修行のおおよそを理解したようだ。

 俺がゆっくりとお茶を飲んでいるのをにこにこしながら見ている。


 「気とは?」

 「粒子であり、波であり、流れでもある。」

 姉貴の問いに俺は即答した。


 「1つ階段を上ったみたいね。御祖父ちゃんに代わって私が師範の資格を与えます。」

 「あれ?…姉貴も師範だろ。師範が師範の資格を与えられるの?」


 「私は、皆伝を受けてるわ。皆の手前、師範という事になってるの。」

 どうにか、姉貴と同じ立ち位置に登ったかと思ったけど、更にその上に姉貴はいたのか…。

 ちょっとガッカリした感じがする。

 それをまぎらわせるように、タニィさんが持ってきてくれた鯛焼きをもしゃもしゃと食べ始めた。


 「確か、合気道とか言っておったな。我等には分からぬがそれを使うとミケラン達よりも周囲の敵が見えるようじゃな。我等にも出来ようか?」

 「やってみる?…私も、アキトも道場で教えていたから2人に教えられるよ。でも、私達の合気道は少し変わっているの。皆には護身術の一種だと言っているけど、それは合気道の上面だけ見た場合にそう見えるの。本来は後の先を得意とする必殺の武道よ。」

 

 「必殺とは心地よい響きじゃ。じゃが、後の先とは何じゃ?」

 アルトさん達はやる気満々だぞ。良いのかな?…覚えたら絶対使い出すぞ。

 そんな、アルトさん達に姉貴が概要を話している。それを聞く2人の目は真剣だな。

 

 「なるほど、後の先とはそう言う事か。確かに、無敵じゃ。そして確実に相手を殺す事も可能じゃろう。これは覚えねばなるまい。」

 リムちゃんまでも頷いてるぞ。ちょっと困ったな。


 「でもね、これだけは覚えていてね。必殺という事は、相手を殺す事では無いのよ。その余裕があれば、相手を殺す事無く回避出来るでしょ。」

 「む…、確かに無用な殺生は避けるべきじゃのう…。」

 

 だいぶ間が開いたぞ。アルトさんは売られた喧嘩は、チップを添えて買いそうだからな。その上、見敵必殺が信条だし…。

 かなり、難しい注文に思えるぞ。もっとも、合気道の修行を通してそんな性格が変わるかもしれない…、変われば良いなぁ。


 そんな話を姉貴はアルトさん達としていたが、ふと俺を見た。

 「やれる?」

 全く、主語が無いんだから。だが、この質問は例のトンネル探しに違いない。

 「やれる。ただ、周囲30mが良いところだ。」

 「それなら、3人で探しましょう。アキトのおかげでだいぶ早く進められそうだわ。」


 俺と姉貴、それにディーで手分けして山麓を探知しようと考えたようだ。

 それなら、かなり作業が捗るに違いない。

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