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#046 同じ年頃だとお揃いが欲しいのかも

 俺達がトリスタンさんの見送りを終えて家に入ると、暖炉の前でポテンって座っていたゴスロリの女の子がスタっと立ち上がる。

 俺達の前までトコトコと歩いてきた。


 「しばらく世話になる。サーシャという。お前達に国法は通じぬ。気軽にサーシャと呼ぶがよい。……それと、この服はイヤじゃ。アルト姉のような服が良いのじゃ」

 

 おお!……早速始まったぞ。

 これが有名なワガママ娘というやつだ。これは結構楽しい事になりそうだ。


 「では、雑貨屋さんに行きましょう。その他に欲しいものがありますか?」


 ジュリーさん……。その態度は、まるで子供に甘いお母さんです。

 俺がそんな事を考えてると、サーシャちゃんとミーアちゃんを連れて、ジュリーさんが家を出て行った。


 「2人で大丈夫かな?」

 「ジュリーが一緒なら心配要らぬ。あぁ見えても黒8つ。護衛には十分じゃ」


 心配する姉貴に剣姫が太鼓判を押してるけど、……ジュリーさんって強かったんだな。

 

 「ところで、サーシャが此処にいるのなら、我等も此処に厄介になるぞ。……心配は無用じゃ。生活費位は出すからのう」

 「もともとこの家は剣姫さんの家ですから、その辺は気になさらないで大丈夫です。

 でも、先ほどトリスタン様が仰ったことが気になります。西がきな臭い……。戦ですか?」


 「アルトでよい。戦にはならんと思うが……、策略は必要だろう。兄様もサーシャに害が及ばぬよう此処に置いたのじゃ」


 「それなら良いのですが……」

 「心配するに及ばず!……それより、ギルドに出かけるぞ。あれだけの獲物じゃ。お前達のレベルは上がっているはずだ。

 それと、少し銀貨を持ってゆけ。移動神官が兄に同行しているはずじゃからな」


 そんな訳で俺達はギルドに出かけた。

 ギルドの扉を開けると、さっきの3人がいる。


 「サーシャ。ギルドに何用じゃ?」

 「アルト姉と一緒で、ハンターになろうと……」


 サーシャが俯き加減にアルトに告げる。


 「我がハンターとなったのは丁度サーシャの年頃じゃ。……許すぞ!」 


 え? 王国を背負ってるんじゃないのか? そんなんでいいの?


 「はい。これがカードです。所属は『ヨイマチ』でいいのですね?」

 「構わぬ。……ほう、これがハンターのカードじゃな」


 サーシャちゃんは喜んでる。

 だが、ちょっと待った。ヨイマチって俺達のチームの名じゃないか!


 「ふふ……。これで、ミーアと一緒じゃな。よろしく頼むぞ!」


 少し理解してきたぞ。要するにミーアちゃんと一緒のカードが欲しかったようだ。

 姉貴も、責任重大だなんて言ってるけど、顔がにやけてるぞ!

 

 ギルドのお姉さん、シャロンさんにギルドレベルの確認をしてもらった。

 姉貴が黒3つ。俺も黒3つだ。ミーアちゃんも赤9つに上がってた。

 アルトさんは銀3つのまま。


「銀クラスともなると中々レベルは上がらぬものじゃ」


 そんな事を呟いている。

 

 移動神官についてシャロンさんに聞いてみると、滞在しているとのこと。早速、魔法を追加することにした。


 俺が、お湯を出す【フーター】と魔法強化の【ブースト】。

 姉貴が物を清浄にする【クリーネ】と【メル】それに【ブースト】。

 ミーアちゃんが【クリーネ】と【アクセル】だ。ついでに効率は悪いけど【サフロ】も覚えて貰う。


 魔法の伝授はやはりビリッてきた。上位魔法はこの比ではないと笑われてしまったが、こればかりは仕方がない。

 でも、【フーター】ってお湯を出すだけだよな。……これってハンターに必要なのだろうか?

 

 ミーアちゃん達はジュリーさん監督の下に雑貨屋さんに出かけた。俺達は家路を辿るついでに、西門の賑わいを見に行った。

 セリが進んでいるが、俺達が獲った獲物よりも少し小ぶりのようだ。威勢のいいセリの声も5から9位で取引が進んでいる。

 昼食用に屋台で焼肉を買い込み家に戻っていった。


 家に戻ると暖炉の前に行き、ドタって横になる。クッションを枕にすると丁度具合が良い。


 「これ!こんな所で横になるでない。我が、足を伸ばせぬではないか!」


 アルトが怒っているけど、その怒り顔は微笑ましくなるぞ。

 とりあえず足をずらして、アルトの座る場所を開けると、ポテってアルトがクッションに座りこんだ。


 「ついでに、御主の顔の部分はミーアの場所だ。胴の部分はサーシャが座ると思うぞ」


 何時の間にか領土が出来ていたらしい。せっかく寝転ぶためにこの毛深いカーペットを此処まで運んだのに。

 そんな訳で、寝返りをうつようにテーブル方向へ撤退した。


 タグの前足が俺を拘束し、その牙で俺の頭を砕こうとしている

 思わず身を捩るがタグが俺をしっかりと押さえつける。……動くのは頭だけだ。必死に頭を振ってみたものの、タグの牙が俺に迫り……目が覚めた!


 「だいぶうなされておったが、目が覚めたか。どんな夢を見ていたのじゃ?」

 「タグに押さえ込まれて食われる夢を見てた。……あれ、まだ拘束されてるぞ!」


 アルトにそう答えて起き上がろうとしたが体が動かない。

 頭を起こすと、その原因が理解できた。ミーアちゃんとサーシャちゃんが俺に寄りかかってお昼寝中なのだ。

 これが、悪夢の原因でもあるみたいだけど……。俺が無理に起き上がるとボテって倒れる可能性が高い。さて、どうする?


 「そのまま寝てなよ、アキト。今日は特にやる事も無いし」


 姉貴はそう言ってるけどね。


 「そうそう。サーシャちゃんがミーアちゃんと同じクロスボーが欲しいって言ってたわ。……何とかならないかな?」

 「う~ん。材料と加工できる職人がこの村にいるかが問題。キャサリンさんに聞いてみるよ」


 「我も、クロスボーには興味あるぞ。2丁も3丁も変わらんじゃろ。頼んだぞ!」


 アルトも欲しいようだ。船も作りたかったんだけどね。


 「分った。でも、家具職人がいないとどうしようもないよ」


 アルトさんはミーアちゃんとサーシャちゃんをクッションごと俺から退けて俺を解放してくれた。

 拘束されてた体を伸ばすとボキボキと音がする。

 テーブルに着くと、ジュリーさんが「ご苦労様でした。」と言いながらお茶を入れてくれた。

 アルトさんも暖炉からテーブルに移ると、さっきの話を続ける。


 「簡単な図面を書けば、王宮職人がそれを作るぞ。寸法、重さ等は、我が入れよう」


 すると、姉貴は「はい!」ってノートと鉛筆を取出した。

 

 クロスボーを王国の武器にするわけにはいかないので、クロスボーの構成部品を個別に作図する。

 今回のクロスボーは、姉貴と同じような滑車連動式のコンポジットクロスボーだ。部品が多いことから、これで、最終組立て形態が想像出来るものはいないだろう。俺が出来るせめてもの安全策だ。


 「だいたいこんな形だな。此処に書いてあるのが、必要な数だ。ちょっと、姉さんクロスボー借りるよ!」


 アルトの前に図面を広げ、姉貴のクロスボーのどの部分に当るかを細かく説明する。

 木造にする部分、金属製の部分、弓の部分については弓兵の持つ最強の弓を要求しといた。それでも、滑車の原理で引く力を半分にすることができる。


 「これも、お願い!」


 姉貴が差し出した図面は、姉貴が使っているボルトケースの変形版だ。12本のボルトと2本の爆裂ボルトが収納できる。


 「となれば、これもいるな」


 俺は専用のボルトを簡単に描いた。もっとも、爆裂ボルトについては先端部の爆裂球を取り付けられるように矢尻部分を描いていない。

 アルトは俺と姉貴に細かく質問しながら図面に注釈を加えていく。

 ひと段落すると、ジュリーさんに図面を丸めて渡す。

 

 「我の考えも入れてある。大至急、王都に使いを出してこの部品を製作させるのじゃ」

 「王宮職人を動かすとなれば、大金が動きますが……」


 「我の資金を使え!」

 「それでは……」


 簡単な挨拶をすると、ジュリーさんは出て行った。


 「心配するな。ギルドに行っただけじゃ。我の命でサーシャのオモチャを作るのだ。なーに、直ぐに部品は届くはずじゃ」

 

 いいんだろうか。王宮職人って言ったら、ひょっとして、人間国宝並みの技術を持ってる人じゃないの?

 

 そんな事をしていると、ドンドンと扉を叩く音がする?

 急いで、扉を開けると、セリウスさんとミケランさんが立っていた。


 早速招き入れて、テーブルに案内した。

 姉貴が2人にお茶を入れる。


 「今日は、皆休みだな。……ところで明日の予定はあるか?」

 「ありません。ひょっとして、再度狩猟ですか?」


 「いや、これ以上山で狩るとハンター仲間の顰蹙を買う。

 其処でだ。ちょっとしたギルドの依頼があるのだが、ちびっ子どもに丁度いいと思ってな」


 「家にいるのも退屈でしょうから、安全ならば賛成しますけど……」

 「ステーキを獲る!」


 「そうにゃ。焼いたステーキは美味しいにゃ」

 

 ちょっと待て、ステーキって焼くもんだろ。あえて焼くということは、……2度焼き?

 いや、ステーキという別の食材も考えられる。この場合たぶん後者だろう。だとすれば、どんな生き物だ?


 早速、図鑑で調べてる姉貴の後ろから、該当部分を覗き見る。

 ロブスターみたいだ。……大きさも俺の知ってるロブスターと変わらない。これなら、ハサミでパチってやられない限り大丈夫だ。


 「用意するものはありますか?」

 「丈夫な糸がいるな。それも俺が持っている。明日の朝此処に寄るから昼飯と大きな籠を用意しておけ」


 ひょっとして、ザリガニ釣りをするようにして捕らえるのかも? 

 子供の頃に姉貴に連れられてやったことがあるけど、あれは面白かった。


 「俺にも出来ますか?」

 「あぁ、皆でやるのだ。1匹、5L。額は少ないが、屋台から至急調達してくれとの依頼だ」


 「村人向けですよね」

 「通常ならな。だが、この期間は村人は狩猟の補助や屋台に忙しい。子供でさえ屋台を手伝っている。この依頼をこなす者がいないのだ」


 「分かりました。明日お待ちしてます」


 

 そんな訳で、俺達はステーキ獲りをすることになった。

 俺の釣り好きも、あの日姉貴とやったザリガニ釣りが原点のようなものだ。ここは、釣師アキトの面目にかけて、ちびっ子どもに俺の技を見せ付けてやろう。

 そうすれば、尊敬の意味を込めて、暖炉前のカーペットの領土を少し分けてもらえるかもしれない。

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