↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
455/541

#452 先生は修道女

 


 『…俺達の方はもう少し時間が掛かりそうだ。上手い具合に核爆弾は手に入れたが、起爆装置を少しいじる必要がある。更に運搬手段を作るのは骨が折れそうだ。

 偵察用イオンクラフトを使った移動手段を、フラウが設計している。機材はここの研究所で何とかなりそうだ。』

 哲也からのメールには、グランドキャにオンのような場所に立つ2人の姿が添付されていた。

 デジカメなんて持ってたかな。そういえば、エベレスト山頂の写真も2人で映っていたけど…。


 「ユングと一緒のフラウはかなり性能が高いようね。」

 「あぁ、やはり哲也達をこの地に送った存在は、ユグドラシルやバビロンよりも科学技術が上のようだ。ひょっとしたら、カラメル族を超えるかもしれないな。」


 少なくとも、その場で核爆弾の起爆装置を改造したり、イオンクラフトを作り出す事は、ディーには無理だ。

 同時に2箇所の歪みを消去するには、俺達で出来ない事はないと思うが、かなりリスクが高そうだ。哲也が飛ばされてきて良かったと思う。


 「何時頃になるのかな?」

 「俺達と違って、24時間フルに使える連中だからな。…早ければ来年の春には出来るかもしれないぞ。」

 「じゃぁ、目処が立ったら連絡するように伝えとくね。」

 そう言って、情報端末を叩き始めた。


 後は、歪み除去の被害半径だな。20kt以上の威力だ。どの程度周囲を人払いするかを考えなければならないが、これは2つの電脳に任せれば良いだろう。 

 また、誤差が合わないとか言って何時までも計算を続けるようでは困るけどね。


 「はい!…送ったわよ。私の気掛かりは、これなんだけどね。」

 姉貴がメールを送った後で、壁に画像を映し出す。

 アクトラス山脈の地図だが、それにサーマル画像を重ねているようだ。


 「狩猟期が終ったから、今の時点でアクトラス山脈に展開しているのは山岳猟兵と獣達と言う事になるわ。」

 画像を見ると、3つの部隊がパトロールしているのが分る。その外にも群れを作っている獣達が森林限界を下った辺りに点在している。

 

 「ここを見て。この画像の1時間前の画像を交互に映すから…。」

 アクトラス山脈の峠の砦の下30km程の所に、赤い輝点が点滅する。数も多そうだ。

 「これは?」

 「ね、おかしいでしょ。この輝点は移動した形跡も無いのよ。」

 

 確か、森林地帯だよな。ザナドウやサルがこの辺りにいたんだ。そういえば、サル達がどうやってあの場所に来たかは余り考えなかったな。

 「今まで、サーマルモードに検知されない場所にいた連中がそこから出たとしか考えられないな。」

 「だよね。そうなると、ここにトンネルの出口があるって考えたほうが自然だよね。」

 「アクトラス山脈を貫通したトンネルって事?」

 「貫通ではないかもしれない。意外と、レイガル族の地下世界に繋がってるかも知れないわ。」


 姉貴の勘は、確立が高い。…だが、そう考えると、レイガル族とサルは何らかの関係があるのだろうか。あるとすれば、全てが繋がる。


 「確か、哲也達もサルを見てるよな。」

 「ええ。アクトラス山脈の遥か東の北面で追撃されたと言っていたわ。」


 「すると、レイガル族とサル達の生存圏が重なるんじゃないか。両方ともコンロンの子孫であれば共存してもおかしくない。」

 「でも、姿が違いすぎるわ。トカゲとゴリラじゃ無理なんじゃないかな。スマトルはちょっとした姿の違いが偏見を生んだのよ。偏見どころでは済まないと思うの。」


 姿の相違が憎悪を生むのは分かる。だが、それは対等の身分とした場合だ。例えば、レイガル族がサル達を従えているとすれば、そもそも憎悪を生む事は無い。それが逆の立場でもだ。


 「ひょっとして、レイガル族がサル達を従えてるって事は無いかな。だとすれば、同じトンネルを両者が使ってもおかしくない。そして、レイガル族の命を受けてサル達はどこにでも地下トンネルで出没する事が可能だ。」

「レイガル族に征服されたってこと?…だとしたら、サル達は先行偵察部隊って事になるのかな。地下国家の周辺を常に監視して、場合によっては魔族を集めてくる。それでも手に負えない場合は…、レイガル族の出番になる。」


 「でも、完全に征服された訳じゃない。サル達の生存圏はかなり東まで広がってる。サル達はサル達で、レイガル族を上手く使ってるのかもしれない。」

 「全てではなく、一部族という事か?…確かにそれもありえるわね。その場合はレイガル族の下に組込まれる事によって、レイガル族のトンネルを自由に使えるメリットがある。」


 1部族を差し出してでも、自由に地下を移動できるメリットは大きい。厳寒の冬季でさえも、安心して広い範囲を移動出来る。

 それによって、鉱物資源や食料までも手に入れているのだろう。

 それとも、サル達の手出しできない何かに対処してもらうためにレイガル族の下に甘んじているのだろうか。その場合は、少し深刻だな。トンネルを自由に何かがうろついている事になる。


 「もう1つの可能性が、…寄生だな。サル達が一方的にレイガル族に依存してるんだ。その場合の問題は、寄生の目的だ。」

 「単なる食料目的とは考えられないわね…。」

 「色々と考えられるが、直ぐにやるべき事があるぞ。トンネルの封鎖だ。…集束爆裂球で爆破すれば良いだろう。」

 

 アテーナイ様の話では爆裂球を沢山使えば城壁でさえ破壊できたらしい。ある程度トンネルを工具で破壊して、そこに仕掛ければ破壊できる筈だ。

 

 「アテーナイ様と相談しなくちゃね。私は賛成だわ。」

 姉貴はそう言って、同じ手法で他のトンネルを探し始めた。

 意外と手間が掛かるな。そこを出入りしない限り分からないしね。

               ・

               ・


 数日が過ぎてディーが帰ってきた。

 リムちゃんのおねだりで早速特大の袋を開けて新たなオートマタを取り出した。

 えっ、って感じで皆が驚いた。

 ディーが取り出したオートマタは、ディーの背丈位ある修道女の姿をしていたから…。


 「この人が先生なの?」

 「はい。バビロンの神官から預かりました。自律型ですが、バビロンからの介在が可能です。処理しきれない課題が生じた時はバビロンの神官が対処するでしょう。」


 ある程度、教育に介在したい、って事だな。

 それなら、安心して任せられる。

 

 「でも、修道女の姿は驚いた。」

 「こちらの教育を取仕切るのが、4つの神殿を纏める大神官だという事で、この姿にしたと言っていました。

 教育上の話を大神官としても、これなら問題ないだろうと…。」


 「確かに、神官達は妻帯しておらぬ。そして修道女も同じじゃ。詰まらぬ噂が流れるような事もこの姿なら無かろうと思うぞ。」

 アルトさんは納得顔だ。

 そんなものかなぁ?って俺は思うけど、姉貴も頷いてるな。

 

 「起動はマスターで行ないます。彼女の唇に指を近づけてください。」

 首を捻りながらも、左手をディーが支えて立っている修道女の唇に近づけた。

 指が触れるかどうかの距離で指先に痛みが走る。

 慌てて手を引っ込めて指先を見ると、針が刺さったような跡があり血が滲んでいた。


 修道女の目がゆっくりと開いた。緑色の瞳だな。

 「…DNA確認。人類と確認しました。…起動シーケンス正常…。…マスター認定不可。バビロンよりの直結制御試行…。

 初めまして。バビロンより使わされた者です。名前を要求します。」


 俺達は顔を見合わせる。だいぶディーとは違うようだ。

 「アキトが起動したんだから、アキトが命名しなさい。」


 姉貴の言葉にアルトさんとリムちゃんが呆気に取られながらも頷いてる。

 とは言え、急に名前を付けろって言われてもなぁ…。

 バビロンだから、バービー何て言ったら白い目で見られそうだ。

 ここは、俺達の町にいた修道女の名を借りよう。確かローザだったよな。


 「決めた。ローザと名を着ける。」

 「以後、ローザと名乗ります。」

 俺の言葉にそう言って頭を下げた。

 

 「ローザか…。まぁ、アキトにしては上出来ね。」

 「ローザと言う名は聞き慣れぬ名前じゃ。いわれがあるという事か?」

 アルトさんが姉貴に問うた。


 「私達が暮らしていた町の修道女さんの名前よ。バラという花の呼名でもあるんだけどね。」

 「花の名前なのか。…まぁ良い。」

 とりあえず、問題ないようだ。ホッと胸を撫で下ろす。


 「これが教科書になります。数学、物理、化学、生物学、自然科学。その外に初歩の医学書です。全て、5冊ずつ揃えてあります。

 実習用として低倍率顕微鏡と高倍率顕微鏡を5台ずつ。解剖用の器具を5セット、化学実験用の薬剤を2式運んで来ました。」

 「化学の薬液の目的は?」

 「酸化と還元が主体です。マスターが危惧する薬剤は含まれていません。」

 

 火薬が製造出来なければ問題ないだろう。

 後は、内容だな。俺だって高校は途中までしか行ってないぞ。

 

 「実習用の機材を1式ここに置いてくれない。後は王都に持って行きます。」

 「了解です。」

 とりあえず、ローザにテーブルに着いてもらう。

 ディーは機材1式をリビングの端にある棚に置くと、俺達にお茶を入れてくれた。

 

 「ディーやリンリン達は味わう事を知っているけど、ローザはどうなんだい?」

 「私も同じように味を感じる機能があります。そして、私には睡眠機能があります。睡眠期間中に情報の整理とバビロンとの交信を行ないます。」


 少しずつ機能が追加されていくんだろうな。

 「戦闘機能は無いよね?」

 「成人男子程度の身体能力です。防衛手段として体に高電圧を纏う事が出来ます。」

 「電荷って事?」

 「はい。」


 なるほど、全身スタンガンという事だな。電流が流れないから相手が死ぬ事は無いが、さぞかし驚くだろうな。

 

 俺達が見守る中、ローザがおいしそうにお茶を飲んだ。

 ディーと同じように、きっと美味しいお茶を入れる事を直ぐに覚えるだろう。

               ・

               ・


 「ほほう、この娘が教師という訳じゃな。名前は?」

 「ローザとお呼び下さい。」

 アテーナイ様はローザを見て気に入ったようだ。

 「王都にはリンリン達もおる。館もサーシャ達が嫁いだ故、誰もおらぬようになった。タニィも寂しかろう。リンリン達と一緒に館で暮すが良い。」

 

 オートマタ3人が暮す館もおもしろそうだな。タニィさんは料理上手だからローザ達も満足するだろう。

 

 「とは言え、しばらくは初等教育じゃ。そこで秀才を探す事になろう。天才を見つけられれば良いのじゃが…。」

 「天才って、教師が教える事を投出すそうですよ。」

 「1を師って10を知る者達じゃろう?…教え甲斐があるような気がするが。」


 「教師の教えに次々と疑問を投げ掛けると聞いています。それで、教師はこの子は頭が悪いと…。」

 「なるほどのう。天才を凡人が教える事は出来ぬか。というか、凡人には天才を理解出来ぬという事じゃな。」

 そう言って、アテーナイ様が悪戯っぽく姉貴を見て小さく笑う。

 姉貴の俺達の意表を突く行動を、アテーナイ様は天才の印と見ているのかな?


 「それで、何時出発するのじゃ。だいぶアクトラス山脈の降雪が迫ってきたぞ。」

 「ですね。めっきり朝晩寒くなってきました。ガルパスはこのまま山荘で預かってもらい、イオンクラフトで出掛けましょう。クォークさんも村を去りましたし、俺達は何時でも出掛けられます。」

 

 帰る時は、ロムニーちゃん達も連れて行かねばならないから、今日明日とはいかないけど、彼女達もそろそろ依頼書が無くなる頃だろう。


 「ロムニーちゃん達も一緒に帰りたいと言っていましたから、彼女達の予定も聞いてみます。早ければ3日後になるでしょう。」

 「そうじゃな。では、後で知らせて欲しい。」

 そう言ってアテーナイ様は帰って行った。


 この村にも来年には学校が出来る。

 俺達が帰る頃には出来てると良いんだけどね。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。