表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
443/541

#440 地の底より来たるもの

 


 重量0.8tの重さを階段で実感できた。

 事務室の長机を分解して、階段に敷いて斜路を作ったのだが、ディーが上で台車のロープを引き、俺と姉貴が【アクセラ】と【ブースト】を使って身体機能を向上させて、ようやく動くという代物だ。


 地下9階から8階に引き上げたところで、助っ人が必要という事を3人が同時に呟いた。

 「このままじゃ、数日掛かりそうな気がする。後4人程助っ人を呼びましょう。」

 「このまま、此処に置くのか?落ちたら大変だから、近くの部屋に置いておこうよ。」

 「階段室の反対側の事務室が良いでしょう。」


 ディーの言葉に、俺達は荷物を事務室に運び込んだ。姉貴が扉に大きく丸を描いている。

 身軽になった俺達は、3時間程でクリャリンスクを出て、砦に戻った。


 「どうじゃ?」

 「見つけました。ただ、余りの重さに、地下8階に現在置いてあります。」

 「戦闘工兵を4人程連れて行きたいのですが…。」


 「構わんぞ。しばらくはレイガル族も攻めては来まい。…見ろ!」

 俺と姉貴はそれを見て口を開ける。…セリウスさんが指差した先には、巨大な象牙が4本立て掛けてあったのだ。


 「どうしたんですか?」

 「あぁ、あれから次のレイガル族が攻めてきたのだが、マンモスを2匹けしかけて来た。マンモスは戦闘工兵の石鏃の付いたボルトを無反動砲を撃って倒し、止めは俺とダリオンが刺した。もう1匹はアテーナイ様が刺している。」

 満足そうにダリオンさんと頷きながら話してくれた。


 「それで、レイガル族は?」

 「先行させたマンモスを倒されて、動揺しておったところを葡萄弾で蹴散らしたぞ。」

 天幕から嬢ちゃん達が出てきて説明してくれた。


 「次はどんな手で来るか、楽しみじゃの。まぁ、戦闘工兵が4人減っても、それなりに戦えそうじゃ。」

 アテーナイ様の言葉に焚火に集まってきた面々が頷いている。


 「出掛けるのは明日の朝で良いでしょう。その間に同行者を選抜しますが、4人で宜しいのですね。」

 「あぁ、俺達だけでも何とか動かせる。4人加われば用意に動かせるだろう。」

 「了解しました。」


 エイオスはそう言って焚火を離れた。

 「だが良いところに戻ってきたな。今夜は仕留めたマンモスの焼肉だぞ。」

 セリウスさんの言葉に姉貴が「骨付き肉が食べられる!」って喜んでるけど。あれはアニメであって、現実では無いぞ。


 だが、これでセリウスさん達の思いは叶ったに違いない。 

 戦闘工兵の持つ無反動砲はそれだけの威力がある。俺達がいなくとも超大型獣を狩れたという事にこの長征に参加した者は自信を持った事だろう。

 

 そんな事を考えながらのんびりとタバコを楽しむ。

 嬢ちゃん達もマンモスを倒した事を、自分の事のように喜んでいた。まぁ、かなりバックアップしてあげた事は確かだろう。

 「次は、我等4人で狩れるぞ!」

 そんな事を言うアルトさんに、他の3人が大きく頷いてたからね。


 「しかし、あれをどうするんですか?」

 「それは、我も悩んでおる。モスレムの王宮に持ち帰れば他国が煩いじゃろうし、かといって各国に1本ずつでは数が足りぬ。」

 「狩りの参加者全員の名を刻んで神殿に寄付というのは?」

 

 姉貴の言葉を聞いてアテーナイ様がポンと手を叩く。

 「その手があった。確かにそれなら問題無いし、数も合う。各国の王宮が文句を少しは言うであろうが、神殿に寄付では口を閉ざすしかあるまいて。」


 「しかし、それではアキトたちの名が刻まれないぞ。」

 「別に問題ありません。むしろ、その方がありがたいです。」

 「確かに、神殿に飾ればその名は諸国に知られるじゃろう。婿殿は静かな暮らしをしたいようじゃ。」

 「しかし、諸国に更なる名を上げる機会ですぞ。それにアキト達の名が無いほうが不思議に思われるのではないでしょうか?」


 「フム…。ものは考えようじゃのう。ダリオンの言う事も理解出来る。じゃが、それでは我等は婿殿がいなければ何も出来ない国民になってしまうぞ。

 たぶん、婿殿達なら、あれ程の石鏃の付いたボルトを撃たなくとも狩れるかも知れぬ。そして狩りの参加者も少なくてすむだろうのう…。じゃが、婿殿がいなくとも、これだけの装備と人が集まればかなりな事が出来る事も判った筈じゃ。

 ここは、我等の名を刻んだ牙を神殿に贈ろうではないか。」


 「我等の勇猛さを子々孫々に残す事が出来る。なるほど良い案と俺も思うぞ。」

 セリウスさんは感動しながらアテーナイ様に賛同してる。


 そして、いよいよマンモス肉のステーキが出て来たぞ。

 骨付き肉じゃなくて姉貴はガッカリしてるけど、新鮮な焼肉はこの場所では得がたいご馳走だ。腹いっぱい頂いたが、この肉どっかで食べた感じがするんだよな…。

               ・

               ・


 次の朝。エイオスが俺達が朝食を食べている焚火に屈強なトラ族の戦闘工兵を4人連れてきた。

 「ゲルナム、シンドラ、ケイトス、カルナムの4人です。長剣を片手で扱える程の猛者ですぞ。」

 エイオスの言葉に4人が俺達に頭を下げる。

 「強そうだな…助かる。地下で重量物の運搬に困ってるんだ。なるべく身軽な格好で集まってくれ。」

 「このままで問題ない。俺達の装備はグルカと爆裂球だけだ。」

 「それなら、少し待っていてくれ。もうすぐ食事が終る。」

 

 俺達は急いで食事を終えると、弁当を2つずつ手渡された所で焚火を後にする。

 姉貴が光球を3つ作って施設の内部に放り込む。その後を俺達は下りて行った。


 早歩きで外周通路からコアに向かい、コアの階段を8階まで下りて行った。

 階段の反対側にある印の付いた扉を開けると、荷物が何事も無く置いてある。

 

 「これを運ぶんだ。」

 「見た感じは軽そうですが?」

 「まぁ、持ってみてくれ。下に車が付いているから平らな場所は問題ないんだが、階段がちょっとね。この板を並べてその上を押して移動する事になる。地下9階からここまで運ぶのがやっとだった。」


 「その前にお弁当ね。運ぶのはそれからで良いわ。」

 姉貴の言葉に腰のバッグからサレパルを取り出して水筒の水を飲みながら食べ始めた。

 食事が終わり、俺達がタバコを楽しんでいた時だ。

 「生体反応があります。極めて小さいものです。ゆっくりと地下から上がってきますが、生体反応の大きさが特定できません。」


 反応が特定出来ずに且つ小さい?…一体どんな奴だ。

 「不味いわね。急いで運び出します。」

 姉貴は俺達に纏めて【アクセラ】を唱える。

 「この部屋の机を使って階段にバリケードを作って頂戴。出来れば地雷を仕掛けて!」

 ディーと姉貴が荷物を押し始める。おれは戦闘工兵と一緒に机を階段に運び始めた。2度程往復して長机で階段の踊り場にバリケードを作ると、亀兵隊が地雷を仕掛け始めた。通常の爆裂球より大型だ。砲弾用の物かな?

 

 階段に長机の板を並べて、荷物の台車を板を使って引き上げる。

 前日の苦労が嘘のように軽く引き上げられる。さすが屈強なトラ族の4人だ。

 6階を通り過ぎた所で、階段の下の方からドン!とくぐもった炸裂音が聞こえてきた。


 「何かが追い掛けてきたみたいね。…アキト、次の踊り場を過ぎたらまたバリケードを作って!」

 俺達は姉貴に頷くと、更に力を合わせて荷物を上階へと引き上げる。

 次の踊り場に出ると、荷車のロックを掛けて、全員で近くの事務室からバリケードに使えそうな椅子や机を運び込む。

 数回往復すると、先程より大きなバリケードが完成した。地雷はバリケードの下と上の2箇所に仕掛ける。


 「アキト、光球を残していくから、追って来る者の正体を確認して。ライトは持ってるよね?」

 俺はバッグからLEDのライトを取り出した。スイッチを入れて点滅を確認する。


 「あぁ、大丈夫だ。…ゲルナム、姉貴達を頼むぞ!」

 俺の言葉に台車を運び上げようとしていた男の1人が片手を上げる。


 光球はバリケードの近くにフワフワと漂っている。地雷の炸裂で光球が消し飛んだらこれを使えと戦闘工兵が置いていってくれたのは、砲弾用の火炎弾だった。確かにこれなら光源としても使えそうだ。


 オッシ、オッシと荷を運ぶ声が段々と小さくなってきた。

 そして、気の流れに異質な乱れが下から上がってくる。

 足音も無く、気配だけが近付いてくるのだ。

 気の乱れは獣ほど大きくない。かといって虫とは異なる。動く木も変わった気の乱れを作っていたが、それとは明らかに異なる。


 やがて、下の踊り場からそいつの姿が現れた。

 ゼリー?…と思うような半流動性の何かがブルブルと震わせて少しずつ階段を上ってきた。

 緑の蛍光色の色素を持つゼリーの中に核をチラリと見つけられた。

 こいつは、原生動物のようだ。

 一個の細胞に全ての機能が集約されている。捕食、移動、そして得物を狙う感覚をこの大きな1個の細胞の中に持っている。

 知能は無いだろうが、捕食本能は持っているのだろう。

 どうやって今まで生存出来たかは不明だが、少なくとも今は餌となる俺達を求めて地下の奥深くから這い出して来たに違いない。


 やがて、バリケードに近付き、それを乗り越えようとした時に爆裂球が炸裂した。

 俺の傍にまで瓦礫が飛んでくる。

 そして、埃が晴れると何事も無いように、そいつは瓦礫を乗り越えつつある。

 再びそいつの体の下から爆裂球が炸裂した。

 一瞬、そいつが膨らんだように見えたが直ぐに元の大きさに戻ると、何事も無かったように俺の方へと近づいてくる。


 歩くよりもかなり遅い速度だが、確実に近付いてきた。

 数mの距離に迫った時、そいつから触手のような物が飛び出して俺の足に絡む。

 急いでグルカで斬り付けると簡単に両断出来た。

 足に絡みついた触手が急速に硬化していく。慌ててその触手もグルカで剥ぎ取り俺は急いで階段を駆け上った。

 次の踊り場で奴の接近を待つ。光球が無いから、LEDライトで階段の下を見る。

 やはり、ゆっくりとした動きでやって来た。

 奴の動きを読んで少し手前に火炎弾を投げる。

 

 炸裂と同時に階段に火の手が上がる。

 だが、火を怖がる様子も無く奴は階段を上って来た。火炎弾は奴の体によって空気を遮断されて消されてしまった。

 もうすぐ、5階の出口になる。

 俺は、急いで姉貴達の後を追った。

               ・

               ・


 「どうだった?」

 階段を息せき切って上ってきた俺に、姉貴は聞いて来た。

 「とんでもない怪物だ。1匹だが…一応動物なんだろうな。原生動物って聞いた事ある?」

 「ゾウリムシみたいなプランクトンだよね。」

 「それがやってくる。足も無いが移動は出来るようだ。俺が歩くよりも遅い。だが確実に上って来る。最後に見たときは5階の踊り場の手前だった。」

 

 「もうすぐ3階だから2階分先行してるのね。判った。…皆、3階の踊り場で少し休憩しましょ。」

 俺達は台車を皆で引き上げ、3階の踊り場でしばしの休息を取る。

 そして、3階の部屋の机や椅子を片っ端から持ち出して階段に投げ下ろす。

 しばらくすると20分も投げ下ろしていると下に向かう階段が塞がった。


 「アキト、また様子を見といて。光球も途中に何個か置いておくから。」

 「判った。だが奴にこれ位の障害が役に立つとは思えない。早く台車を引き上げてくれ!」

 俺の言葉に頷くと、姉貴達は再び6人で台車を移動して行った。

 

 さて、この障害には少し苦労するかも知れないな。

 乗り越えることは出来ない筈だ。踊り場の直ぐ下まで椅子や、種類までも使って塞いでいる。

 俺は次の踊り場の縁に腰を下ろすと、タバコを取り出して一服を始めた。

 姉貴達が台車を運ぶ声が段々と小さくなっていく。少なくとも1階分は先に進んだに違いない。

 そんな事を考えながら吸い終えたタバコを階段下に投げつけた。

 

 ん?…今、何か動いたか。

 そう思う間も無く、俺達が投げ落としたガラクタがガタガタと動き出した。

 そして、ガラクタの間から奴が染み出すように姿を現す。

 これは、不味いぞ!

 10分程かけてガラクタを潜り抜けると少しずつ階段を上り始める。

 触手攻撃を避けるため俺は急いで次の踊り場に向かった。

 

 2階の踊り場に腰を下ろして、下を見ていると戦闘工兵が駆け下りてきた。

 「階段を上り終えました。急いで合流してください。」

 「俺は、奴の動きを見定めながら後退する。それより、姉貴に急いで帰還の準備をするように言うんだ。出来れば穴を塞げるように出口の回りに爆裂球を仕掛けとけ。良いか。奴の前進はこの場所では防げない。逃げるしか手は無いと伝えるんだ!」


 戦闘工兵が、驚いた表情で階段の下を見る。

 「あれが、そうですか…。判りました伝えます。アキト殿も無茶をなさらず後退してください。」

 そう言って、階段を駆け上っていく。


 10m程の距離を取りつつ、奴から後退して行く。

 1階に辿り着くと、コアから中央通り、そして外周通りに進んでいく。水平移動は階段を上るよりも少し移動速度が早まるがそれでも遅い、まるで前の世界の亀のようだ。


 やがて地上出口と書かれた扉に辿り着いた。

 急いで中に入ると、梯子を半分ほど上った所で、扉の状態を観察する。

 ロックを掛けた扉は内側に膨らんだかと思うと弾けとんだ。


 急いで梯子を上ると穴の上から覗き込んでいる仲間に盾を要求する。紐で下ろされた盾でコンクリートの開口部を覆うと急いで穴を上った。

 

 「急いで穴を埋めるんだ。」

 俺の言葉に戦闘工兵達がスコップで次々と土砂を投入する。50cm程積もった所でセリウスさんが大きな袋を持って来た。


 「皆下がってろよ!」

 そう言って紐を引いて投げ入れる。

 ドン!とくぐもった音がして穴は半分ほど埋め立てられた。


 「早く!…出発の準備は出来てるわ。」

 姉貴の叫ぶ声に俺達は急いでイオンクラフトに乗り込む。

 全員が乗っていることを俺とエイオスが確認して姉貴に告げると、姉貴はディーに上昇を告げた。

 俺達が数十m程上空に上がった時、半分ほど埋まった穴の底が動いているのを俺は確かに見たぞ。

 あれが、開放された時、どんな被害が起るのかは判らないけど、しばらくは連合王国には近付かないだろう。距離的には1,500km以上離れているし、途中には険しい山脈もある。

 全てが終わった時に、哲也達と相談しながら対策を考えるしか無さそうだ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ