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#439 バードケージのシリンダー

 


 ショットガンの弾丸を全て撃ちつくして、素早く弾丸を補給する。腰に差した銃剣を差して白兵戦に備えた所で、前を見ると【メルダム】の炸裂した炎の中から棍棒を振りかざしたレイガル族の戦士が俺達目掛けて駆けて来る。


 戦闘の数人がボルトを受けて倒れこんだ。更に10人程がボルトを受けて倒れる。

 30mほどに迫った時に姉貴の【メルト】が炸裂する。例のメルトがいっぱいって奴だから広範囲に広がったメルトはこういうときには便利だな。


 その中を抜け出した戦士にボルトが襲い掛かる。嬢ちゃん達の攻撃だから、3人ほど倒れただけだ。

 先頭の戦士を狙って次々とスラッグ弾を撃っていく。

 5発撃って、後ろに数歩下がると弾丸を補給して更に撃っていく。

 3発ほど急いで弾丸を込めて盾に近寄り、盾を飛び越えようとする戦士に銃剣を突き刺した。

 腰に力を入れて銃剣を抜くと、近寄る敵に向かってスラッグ弾を発射した。

 その時、目の前で【メルダム】が炸裂した。

 熱波が俺の所まで押し寄せてくる。

 

 「ウオオォォー!!」

 戦闘工兵達の叫びが聞こえてきた。

 そして、数十人の戦士達が一斉に盾を飛び越えて砦に乱入してくる。

 ショットガンに弾丸を込めながらお立ち台に向かうと、そこには姉貴とジュリーさんが着いていた。

 お立ち台の上から嬢ちゃん達がクロスボーで確実にレイガル族の戦士を倒していくと、その下で姉貴が近付く戦士を薙刀で倒している。ジュリーさんは姉貴の援護を【メル】で行っていた。

 

 「大丈夫か?」

 「こっちは問題ないから、アテーナイ様達をお願い!」

 姉貴に片手を上げて了承すると、アテーナイ様達に回り込もうとする戦士達にショットガンを撃ち込む。

 

 「もう少しです。頑張ってください!」

 「何の!…温い相手じゃ。」

 俺の言葉に、そう返事をしながら目の前のレイガル族の戦士に長剣を片手で叩き込んでいる。

 幾ら、【アクセラ】に【ブースト】が掛かっているからとは言え、長剣を片手剣のように振り回すのはどうかと思うぞ。ダリオンさんだって、ちゃんと長剣を両手で握っている。


 俺はその場で、集団の左端で回り込もうとする戦士達を相手に銃剣を振る。

 2人目の戦士に銃剣を差したところで、相手を蹴飛ばした。手を離すとショットガンが墓標のように突き立っている。

 素早くグルカを抜いて戦士に肉薄する。振り下ろされる棍棒を素早く避けてその動きを利用してグルカを横に凪ぐ。

 このグルカ…軽いのと切れ味が良すぎるから、余り相手を斬った感触が無いのが問題なんだよな。

 そんな事を考えながら次の戦士にグルカを振るう。

                ・

                ・


 「さすが話に聞くだけの事はある。リザルの戦士を越える戦闘力…、最強の部族じゃな。」

 「前衛で無傷だったのはアテーナイ様にアキト位なものだ。【サフロナ】使いが2人もいて助かったぞ。」

 「レイガル族に長剣はキツイな。どうしても動きに隙が出来る。誰ぞに予備の武器を借りる事にしなければなるまい。」


 俺達は、焚火に集まって先程の闘いを振り返っていた。姉貴とジュリーさんは負傷者の手当てに席を外している。

 ミーアちゃんが、ダリオンさんの言葉を聞いてバッグから大きな袋を取り出して中身をごそごそと探し始めた。そして1振りの片手剣を取り出した。


 「ダリオンさん。これはどうですか?」

 ミーアちゃんから剣を受取ると、ダリオンさんは、剣を鞘から抜いて、しばらくその剣を眺めていた。

 「これは…、剣姫様が使っていた2振りの片手剣の1つですな。私が使うには過ぎた物です。」

 そう言って剣をミーアちゃんに帰そうとしたところをアテーナイ様が引き止めた。

 

 「ダリオン、所詮剣なのじゃ。誰が使っていたかは問題にはならぬ。今、お前が長剣より片手剣が良いと考えたのなら、我も、その考えに賛同するぞ。あの闘い、我は長剣を片手で扱った。じゃが、そんな剣技を直ぐに教える事は出来ぬ。ミーアが貸してくれると言うのじゃ。ありがたく使うが良い。」

 

 「それでは、ありがたく国に帰るまで借用させていただきます。」

 ダリオンさんがミーアちゃんに改まって借用を願い出た。ミーアちゃんは小さく頷いている。

 「もし、もう1本借りたいならば、我に言うが良い。アルト姉様の2本の片手剣は我とミーアが持っているのじゃ。」

 「そうか、我がその片手剣を借り受けよう。サルには長剣で良いが、レイガル族には片手剣のほうが都合が良い。そして、ダリオン。片手剣は長剣と動きが違う。我が教授しようぞ。」

 

 最後の言葉に、ダリオンさんが一瞬身震いしたぞ。相当なスパルタ教育をされると思ったようだ。

 「ありがたくお受けします。」

 そう言った言葉も少し震えていたしね。


 「とりあえず、負傷者の手当ては終了したわ。確かに聞きしに勝るって感じよね。」

 姉貴とジュリーさんが俺達の所にやってきて空いた場所に座る。

 ミーアちゃんが2人にお茶のカップ直ぐに渡した。

 

 「柵を2重にして地雷って感じかな。やはり近寄らせる前に倒すしかないみたい。」

 「柵を3重に作っています。地雷は2重に仕掛けています。」

 エイオスの言葉に姉貴がうんうんと頷く。

 

 「それで、サーシャちゃんとミーアちゃんは例の物を持って来てるんでしょ。そろそろ準備しといた方が良いかもよ。」

 「また、襲来してくると言うのですか?」

 「うん。たぶん今度は2倍以上で来る筈よ。」

 

 ダリオンさんの言葉に姉貴は即答したけど、サーシャちゃん達が持って来た物って何だ?

 「知っておったか…。我が持参したのは大砲2門じゃ。」

 「私は、多連装砲1門です。別にリムちゃんがもう1門持っています。カチューシャを持って来ようとしていたようですが、余りの大きさに特大の袋に入りませんでした。これで我慢しなさいって、1門を渡しています。」

 やはり持って来てたか…。

 「ふむ、流石というか困った奴だというか微妙なところじゃが、今の状況にはありがたい話ではあるのう。」

 「我等も、無反動砲を5門持って来ております。それも使えますぞ。」

 

 「準備と言えば、盾の前に空掘を作ったほうが良い。やつ等盾を飛び越えたぞ。身体能力の高さは驚く限りだ。」

 「早速、始めます。」

 そう言ってエイオスは立ち上がると、戦闘工兵の集まっている焚火へと向かって行った。

                ・

                ・


 2日程経って、ディー達が帰ってきた。

 9個の水樽に、2ℓは入る皮製の水筒に10個程運んできたようだ。それと荷台に満載された薪が今回の荷物だ。


 そして、俺達は再び、クリャリンスクの調査に赴く。

 「調査を始めるまでに2時間程歩かねばなりません。1回の調査時間を36時間にしたいのですが…。」

 「中で休息する事になるのう。止む終えまい、上は任せておくが良い。」

 アテーナイ様はそう言うと、俺達に3食分のお弁当を渡してくれた。


 早速穴に潜ってクリャリンスクの施設に入る。光球を3つ姉貴が作ると、先頭をディーが歩いて行く。俺はショットガンを背負って殿だ。

 今の所、全く生体反応が無いようだが、どうも気になる。

 

 コアに歩いて行くと今度は階段を下りて行く。

 「エレベータがあると良いんだけどね。」

 「ずっと使ってなかったみたいだから、乗らない方が良いよ。バビロンや、ユグドラシルみたいなエレベータじゃなくて、このエレベータはワイヤーだからちょっと危ないと思うな。」


 階段を地下8階まで下りて、休憩を取る。水出しのお茶を飲みながら、俺はタバコに火を点けた。

 「やはり、この先のどこかに穴がある見たいね。」

 そう言って俺の吐き出した煙の行方を姉貴が見ている。

 確かに、前と違って階段の上のほうに勢い良く煙が流れている。

 「煙突効果って事じゃないかな。此処は階段だし。」

 そう言って、8階に繋がる通路に歩いて煙を吐く。それ程流れないが、階段に近付くと上階に流れていく。

 

 「この階じゃないな。もっと下に穴があるみたいだ。」

 煙の流れは煙突効果だけではないようだ。

 一服を終えて吸殻を仕舞い込むと、残りのお茶を飲み干した。

 

 「早速、始めましょう。」

 姉貴が立ち上がると、ディーが先行して通路を歩き出す。

 8階の通路も今までと同じく、同心円状に3つの通路が作られていた。

 コアの通路は、休憩所や、食堂、事務所が並び、真中の通路の両側には実験室と工作室が並んでいる。

 そして、外周の通路には組み立て工場のラインと部品倉庫が並んでいた。

 「BGバックグランドは地上の2倍です。この生産ラインは核を使った製品を作っていたものと推定します。気密部材の劣化により装置付近の汚染が想定されます。念のため足と手に防護具を着用してください。」

 

 防護具と言ってもビニル製のシューズカバーと薄い手袋だ。

 まだ、マスク等の着用は不要らしい。


 「核物質は何か判る?」

 「Puですね。超ウラン元素の形跡もあります。ウランが使用されていた痕跡はありません。」

 ディーが、計測器の値を確かめながら俺に答えた。

 

 クリャリンスクを見つけた事を哲也に伝えた時に、教えてくれた事がウランの事だった。

 何でも半減期が恐ろしく長いらしい。今では少なくなった元素だが、何億年も昔には、天然の原子炉とも言うべき核反応が長期間継続していたと言っていた。

 核爆弾も最初はウランで作ったらしいが、直ぐにプルトニウムに替わって行ったそうだ。その原因が核爆弾の大きさだと言っていた。

 ウランを使った爆弾よりも、プルトニウムの方が小型化が可能だと言っていた。

 ICBMには小型の核弾頭が数個搭載されて各々違った場所に命中すると聞いた事がある。その小型化の為にプルトニウム型が一般化したと言っていた。

 それなりに問題はあるんだが、核を扱う産業組織を全体的に見れば都合がいいからな。と哲也は行っていたが、俺には理解出来ないぞ。

 

 「本当に、此処にあるのかな?」

 「判らない。でも後、2階分あるんだから調べていくしかないよ。」


 次の部屋は扉がテープで目張りされていた。ディーが注意深く測定器でサーベイをする。

 「目張りされていますが、外にも少し出て来てますね。迂回しながら先に進みましょう。」

 その部屋を過ぎたところで、ディーに防護服を着てもらう。

 俺達はまだ手足だけで良いけど、ディーは先行して調査するから汚染する可能性が無視出来ない。


 外周通路の最後に部屋で初めてウランを見つけた。

 ステンレス製の2m程の大きさの箱が10個程連なった生産ライン。その中にある金属製のシャーレのようなものに盛られた黄色がかった粉をディーが指差した。

 「ウランです。純度99.9%のU235の粉体です。」

 「これがウランなの?」

 姉貴がガラスのカバー越しに覗いて言った。

 「核爆弾にするには、金属化する必要があります。これは酸化物ですね。」


 シャーレのあった場所は左から2つ目、たぶん左から右にこの生産ラインは動いていたのだろう。となれば、最後は金属ウランの形で取り出されたと考えられる。

 ちょっと、希望が見えてきた所で、コアに戻って食事にする。

 その前に、ディーが俺達に汚染が無い事を入念にサーベイして確認した。


 クリャリンスクに入ってから10時間が過ぎている。食事が終ると少し横になる。

 「ディー、4時間過ぎたら起こしてくれ。」

 そう言って、目を閉じると直ぐに睡魔が襲ってきた。


 ゆさゆさと体を振られて目が覚める。

 ディーが起こしてくれたようだ。急いで姉貴を俺が起こす。

 ムニャムニャと何か言ってるけど、気にしないでおこう。携帯燃料の蓋を開けてポットを乗せる。

 眠気覚ましにシェラカップ1杯のコーヒーを作ると姉貴と分け合った。


 「ありがと、やはり朝一番はコーヒーよね。」

 「これで、大体半分の時間だ。次の階を探索して地上に戻ろう。」

 俺の言葉に姉貴が頷くと、飲んでいたシェラカップを俺に渡してくれる。まだ残っているコーヒーを飲んでバッグにカップを仕舞うと、地下9階に俺達は下りて行った。


 「この階はちょっと違ってるね。」

 姉貴の言葉に俺は頷く。

 今までのような実験室や事務所的な雰囲気がまるで無い。

 コアにあったのは3つの制御室だった。

 正面の制御パネルと机上の制御装置を調べていたディーの結論は原子炉と発電機の制御装置という事だ。

 「どうやら、地下10階は動力区のようです。制御装置とは別に電算機があります。記憶装置を解析してみますのでお待ち下さい。」

 

 制御卓の横にある箱をディーが解体すると基板が剥き出しになった。その基板にディーの指先から細いワイヤーが数本伸びていく。

 そして、ディーが目を閉じる。

 

 「終了しました。クリャリンスクの制御室の日誌と区画の概要が判明しました。U核爆弾の保管場所を確認。威力は25kt。歪の除去に理想的です。」

 「保管場所に直行だ。特にこの基地に欲しいものはない。」

 「そうね。日誌は後で読ませて貰うわ。」


 「こちらです。」

 ディーがすたすたと歩き出した。俺達は遅れないようについて行く。

 

 外周の通路まで歩くと、頑丈な扉の前でディーが足を止めた。

 「この中です。扉の隙間からの放射線漏洩及び汚染はありません。…念のため、防護具を着装してください。」

 

 俺達は頷くとバッグの袋から防護具を取り出して着装する。背中のジッパーは互いに上に引き上げた。ディーは自分でジッパーを閉めたみたいだ。良く手が伸びたな…。

 

 準備が整った所で、ディーは手で俺達を後ろに下がらせた。

 扉の兆番を狙って、レールガンを発射する。

 2撃したところで、バッグからあらかじめ出しておいたバールで、扉を無理やり開きはじめた。

ズン!っと音を立てて扉が通路に転がると、俺達は保管庫の中に入っていった。

3m位の金属製の籠の中に、色々な物体が保管されている。

 

 「BGが20倍程に上昇しています。但し汚染は確認出来ません。密封は完全なようです。」

 「どれが、俺達が探しているものか判る?」

 「たぶん、あの網籠バードケージだと思いますが、調べてみますね。」


 ディーはそう言うと部屋の隅にある直径50cm、長さ2mのシリンダー横になって入っている網籠バードケージに向って歩いて行った。

 「何か、あれだけ他と違ってない?」

 「あぁ、他は球状だけど、あれはシリンダーだよな。確か最初の原爆はガンバレル型だと先生が言ってたぞ。哲也が最初の原爆はウランを使ったと言っていたからあれで良いはずだ。」


 少し経ってディーが俺達の所に戻って来た。

 「U-235を使ったガンバレル型の原爆です。問題を見つけました。爆圧を作るための炸薬とその制御装置が着いていません。ウランは2つに分離しており水銀でバレル内が満たされています。衝撃で2つが接近する事はありません。核爆発する直前に水銀を取り出す事も必要になります。」


 ガンバレルならではの安全策という事だな。

 これは、カラメル族と相談せねばなるまい。しかし、ここから、どうやって持ち出すかだな。どう考えてもかなり重そうだぞ。


 「ディー、ところで運べそうか?」

 「重量約800kgです。階段に苦労しそうですが、斜路にして運べばどうにかなると思います。」

 そう言って、台車を袋から取り出して、よいしょと網籠バードケージごと核爆弾を台車に載せた。

 後は固縛用のベルト数個でしっかりと台車に固定する。


 ゆっくりと倉庫から出ると、3人で台車を押していく。

 途中で休憩を取ると防護服を脱いだ。意外と蒸れるから余り長時間は着ていたくないんだ。

 

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