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#436 宝探しの始まり

 


 ディーがネウサナトラム村から帰って来た翌日。

 朝早く、俺達はイオンクラフトで王宮の中庭に下り立った。


 「待っておったぞ。我等の準備は完了じゃ。」

 アテーナイ様の言葉に俺が頷くと、エイオス達がイオンクラフトの荷台に冬用天幕を積み込み始める。綺麗に並べれば丁度良いクッションになる。

 数本のロープが荷台の左右に結びつけられる。俺達は腰のベルトに着けたカラビナでこのロープを連結するのだ。

 

 そんな様子をイゾルデさんと赤ちゃんを抱いたアン王女が、羨ましそうに見ている。

 連れて行きたいのは山々だが、御后様の立場ではあちこちで歩く訳にも行くまい。それに赤ちゃんを連れて遠征は聞いた事も無いぞ。


 「土産話を楽しみに待つが良い。」

 2人にそんな事を言いながらアテーナイ様は操縦席に乗り込んだ。操縦席にはイオンクラフトを実際に操縦するディーとアテーナイ様それにリムちゃんが乗る。

 後の俺達は後ろの荷台だ。

 

 「遅れました。私はどこに?」

 「私達と一緒です。」

 姉貴と嬢ちゃん達がジュリーさんと一緒に、操縦席の直ぐ後ろの荷台に乗り込んだ。直ぐに毛布を広げてその中に身を包む。

 その後ろに俺とセリウスさん達が乗り込むと、戦闘工兵達が乗り込み始めた。

 エイオスが一番後ろに乗り込んでベルトのカラビナにロープを通している。


 「皆、乗れたか?…今日は、アクトラス山脈にあるノーランド街道の峠の関所までだ。関所の広場で今日は野宿する。」

 立ち上がって俺が皆に告げると、全員が頷いた。

 「ディー。…出発だ!」


 俺の言葉が終らない内に、イオンクラフトは数十m上昇して王宮から北へと滑るように進んで行く。

 急いで荷台に座り込む。俺の後ろでは初めてイオンクラフトに乗り込む亀兵隊の連中が、興味深そうに地上の景色を眺めていた。


 2時間程度で峠の関所に着く。

 直ぐに天幕を張って、用意した籠に付近の森から薪を集める。

 まだ峠は氷雪に覆われている。この先もきっと同じに違いない。


 5人用の天幕を8つも張ったから、窮屈な思いはしないだろう。嬢ちゃん達は早速天幕に潜り込んでスゴロクを始めたようだ。

 森が周辺にあるから焚火の薪は心配ない。3つ程作ると、雪をポットに入れて早速お茶を沸かし始める。


 「イオンクラフトを使うと、旅が退屈ですね。」

 「まぁな。それでも1日の移動距離は1,500M(225km)程度になる。それを2時間程度で飛ぶから、残った時間を持て余す事は確かだ。…何か持って来たんだろう?」

 「えぇ、チェス盤を持って来ました。戦闘工兵達もスゴロクを何種類か持って来たようです。」

 「早速始めるか?」


 焚火の傍で、俺とエイオスがチェスを始めると直ぐに外野が集まり出した。

 ジッと見ているだけなら問題ないのだが、外野というのはとにかく口が煩い。

 何時の間にか、個人戦が集団戦になってしまった。

 姉貴とアテーナイ様は、そんな俺達をお茶を飲みながらニコニコしてみているけど、口出ししないだけに返って自分の手が心配になるぞ。


 「チェック、メイトです。」

 「…負けたか。」

 「今度は俺が相手だ!」

 俺を退かして、エイオスの前にダリオンさんが座り込む。

 

 「ダメよ。あんな手を打っていては!」

 そう言いながら、姉貴がお茶のカップを俺に渡す。

 「まぁ、婿殿は本能で動いているからのう…。」


 意外ときつい言葉だけど、確かにそうなんだよな。場を読むより先に体が動いてしまう。

 「じゃが、戦場ではそれが大事ぞ。考えるのは後方に任せておけば良い。エイオスも前線で使うには惜しい人材じゃな。」

 新たな作戦本部の要員にスカウトする気だな。

 「まぁ、適材適所と言う事で…。」

 そう言いながらタバコに火を点ける。

 

 昼食は作らずに、夕食を早めに作って、天幕に潜り込む。

 俺はセリウスさんとダリオンさんと一緒だ。


 「いよいよマンモスが狩れると思うと血が騒ぐ。中々眠れんぞ。」

 ダリオンさんの言葉にセリウスさんも頷いた。

 「確かに…。ザナドウ狩りが俺の最後の大物かと思っていたが、それ以上とはな。スマトルのゾウやサイも大きかったが、あれは砲撃で倒したようなものだ。この槍を打ち込んで倒したいものよ。」

 「だが、ミズキ殿に見せて頂いた画像では、その槍も矢より細く見える。大丈夫なのか?」

 「一応、5本用意した。それにミーアは肉食ゾウを爆裂球付きの矢を耳に打ち込んで倒した、と言っていた。俺の用意したボルトは全て爆裂球付だ。」

 「セリウスもか!…実は俺もそうだ。」


 この2人、完全に目的を違えてるぞ。

 「セリウスさん、あっちにはレイガル族やサル達もいるんですよ。」

 「心配するな。予備だといってミケランがボルトを10本分けてくれた。ダリオンにも5本やろう。これがそいつらの分だ。」

 1匹倒せば気が済むのだろうか?ちょっと心配になって来たな。

 そんな俺の心配もむなしく、2人でマンモス狩りの話を夜遅くまでしていたぞ。

 まぁ、周囲の監視はディーがしてくれるから全員が寝入っていても安心だ。

 

 次の朝。朝食を終えると天幕を片付けて荷台に積み込む。

 そして、ノーランドに、向けて街道伝いに山道を飛んで行った。

 麓に広がる針葉樹の森を抜けたところで進路を東に変える。針葉樹がまばらに生える林を縫うようにイオンクラフトは進んで行き、3時間程でこの日の飛行を止める。

 イオンクラフトを白い布でカモフラージュを施し、その裏手で焚火を始める。

 北は広い原野だから、煙を気にしながらなるべく焚火を小さくしてポットや鍋を掛けた。


 ディーが周囲を警戒する中、俺達は夕食を作り交代で食事を取った。

 「ディーがいるから、夜襲は事前に判るけど、一応敵地には違いない。交代で見張りを立ててくれ。夕方までは嬢ちゃん達がやってくれるか、夜間の方を頼む。」

 俺の言葉にエイオスが焚火を離れて戦闘工兵の集まる焚火に歩いて行く。


 「煙一筋も見えぬが、確かにノーランドの勢力範囲じゃな。婿殿の言う通りじゃ。」

 「こんな土地で耕作が出来るのですか?」

 「何も麦ばかりが食べ物ではない。何か寒冷地に適した物があるのじゃろうのう…。」


 こんな寒冷の地に育つ穀物があるんだろうか?…それとも短い期間で収穫する作物なのだろうか?

 確かに、ノーランドの南へ勢力を拡大したい気持ちは理解出来る。だが、その侵出は他者を押しのけてするものではない。

 

 夕暮れと共に急速に気温が下がってくる。

 見張りを嬢ちゃん達に替わって戦闘工兵が勤める。数人の男が毛布を持ってイオンクラフトの荷台に上っていく。

 ディーがいるから、彼等の仕事は緊急対応要員なのだが、やはりディー1人に任せるのは不安なのだろう。

 交替して焚火で体を温めるように告げて、俺も天幕に入った。

               ・

               ・


 王都を出て8日間、俺達はアクトラス山脈を東に進んだ。ここまでで1,300kmは過ぎている。

 そして、今日からは北に向かって進むのだ。

 袋に入るだけの薪を入れると、俺達はアクトラス山脈を離れて北に向かう。

 地表は、少しずつ雪が融けているようだ。所々に黒ずんだ荒地が顔を出している。

 

 そんな中、イオンクラフトが突然速度を落とすと、地表に停止した。

 「どうした?」

 「前方に何かがいます。まだこちらに気付いていません。少し休憩して通り過ぎるのを待ちます。」

 ディーの答えを、後ろの連中にも教えてあげる。


 「マンモスか?」

 「いえ、それ程大きくは無さそうです。」

 セリウスさんにそう言うと立ち上がって前方を双眼鏡で眺める。

 ディーの見つけたものは、原始人の狩人達だな。数人が槍を持って4km程先を西に歩いている。

 こっちの方にまで狩りに来ているようだ。だが、彼等がいるという事は、レイガル族やサルの姿は無いという事になるな。

 「原始的な格好をした狩人達です。後1時間もすれば西に去っていきます。」

 「例のマンモスを槍で倒していたという種族か?…人間が槍で倒せるなら俺達なら問題あるまい。」

 ダリオンさんがニヤリと笑い、トラ族ばかりの戦闘工兵達がやはりニヤリと笑いながら頷いている。


 原始人が西去ってしばらくした後、ディーが再びイオンクラフトを北に向かって飛ばして行く。

 アクトラス山脈が遠くに黒く見える程まで離れた2日目に、ディーはイオンクラフトを停止した。


 「ここが、目的地の座標です。」

 ディーの言葉を聞いてエイオスに顔を向ける。

 「エイオス。ここに杭を1本打ってくれ。その杭を中心にして地中探査を行なう。」

 

 直ぐに、エイオスが戦闘工兵に命じると、3人がイオンクラフトを下りて、3m程の杭を打った。地表に2m程顔を出している。

 3人が再び荷台に戻ると、ディーはイオンクラフトを上昇させて、渦巻状に時計回りで探査を開始する。

 杭を1周する毎に20mずつ探査範囲が広がる。深さは30mと言ってたな。

 その日は、杭の北800mの所で作業を終了する。

 次の日は杭から1.2km程に探査完了区域が広がった。

 

 今日は、ここまでと思っていた時、ディーが大きな声を出した。

 「ありました!…この地中の下に何かがあります。」

 

 イオンクラフトを地上に下ろすと、金属探知機を使ってディーが詳細を確認している。

 「やはり、何かあるようです。巨大な構築物で金属を多用しているような反応があります。」

 「入口が判る?」


 姉貴の質問にディーが首を振る。

 「あっても使用できない可能性が高いと思います。それより壁をレールガンで破壊した方が早いでしょう。」

 

 ここが、哲也の言っていた場所になるのか?

 まぁ、異なればまた探す事になる。1つ1つ潰していく他はないな。

 「さて、どうやら候補地が見つかった。明日から穴掘りを始めるぞ。」

 俺達は、明日からの作業分担を焚火を囲みながら話し合う。


 次の日、朝食を終えた俺達は、戦闘工兵5人を引き連れ大きな穴を掘り始める。

 周囲の監視は嬢ちゃん達に任せて、姉貴達は戦闘工兵5人と一緒に周囲に盾を並べ始めた。

 ディーは戦闘工兵5人を連れてアクトラス山脈に向かった。イオンクラフトの荷台一杯に薪を積み込んでくる手筈だ。この周囲は平原で全く薪が入手出来ない。イオンクラフトでなら3日で帰って来れるだろう。


 スコップでネコ車に土を入れると、戦闘工兵の1人がそれを遠くに運んで行く。

 のんびりした穴掘りだが、姉貴達の陣構えが一段落すると、更に戦闘工兵5人が穴掘りに加わる。

 すると、それまでののんびりした作業がとたんに捗り始めた。

 ネコ車も3台になってる。

 

 昼食時になると、簡単なスープに硬く焼しめたパンが配られた。

 やはり、労働するとどんなものでも美味しく食べられるな。

 ふと陣の端を見ると、盾で作り上げたお立ち台の上に、嬢ちゃん達が2人が乗って周囲を見張っていた。

 ディーがいないから周囲の警戒は重要だが、アルトさん達に任せておけば安心だ。

 

 夕食後俺達が見張りを交替する。

 トラ族はネコ族程では無いが夜目が利く。そして勘の良さも中々だ。十分に監視を任せられる。

 

 直径5m程の大きさで穴を掘り始めたのは良いのだが、どれ程深く掘らねばならないかまでは聞いていなかった。

 まぁ、大きいに越した事は無いだろうと、セリウスさんもかなりアバウトだな。


 そして、3日後にディー達はイオンクラフトの荷台に大量の薪や丸太をつんで帰ってきた。これだけで一ヶ月は持つんじゃないか?


 天幕の近くにイオンクラフトを止めると、乗り込んでいた戦闘工兵達が穴掘りに加わる。

 嬢ちゃん達もディーが帰ってきたから少しは緊張が和らいできたな。

 

 「8mは掘らねばなりません。位置的には問題ないです。」

 「8mとは?」

 「26Dになります。」

 

 俺達が3日で掘った深さは1m位だ。この調子だと、20日以上掛かる事になるぞ。

 「まぁ、のんびりと掘るが良い。我等が周囲を見張っておるからな。」

 

 アテーナイ様がたまに様子を見に来て感想を言っていく。

 実際に掘っておるのは、戦闘工兵15人に俺とセリウスさんにダリオンさんとエイオスにディーの19人だ。

 1時間交替で作業を行なっているが、やはり進捗は芳しく無いな。

 それでも、重機が無いから人力に頼らねばならない。

 俺達は仲間がいるが哲也達は2人だ。哲也達はどうやって掘り出すんだろう。

 そんな事を考えながら、ひたすらスコップで土を掘り出した。

 

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