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#434 哲也からのメール

 


 アクトラス山脈に降る雪がだんだんと麓に迫ってきた時、俺達はガルパスで王都に向かった。

 ディーと姉貴、それにシュタイン様とロムニーちゃんはイオンクラフトで俺達よりも一足先に王都に向かう。

 1時間おきにガルパスを全力で走らせると、夕暮れ前には王都に着いた。俺達のガルパスをアテーナイ様に託して、館へと歩いて行く。

 

 館の玄関扉を叩くと、タニィさんが直ぐに扉を開けて温かくしたリビングに案内してくれた。

 リビングでは姉貴とディーが情報端末を前に何やら思案中だ。

 

 「あら、来たのね。…ユングから返事が来たんだけど、ちょっと困った事になりそうよ。」

 姉貴が壁に投影した画像はメール文だな。

 「何じゃ、魔術文様ではないか。これがアキト達の文字なのか?」

 アルトさんとリムちゃんは漢字混じりの文章に驚いているようだ。

 「あぁ、これは日本語という文字なんだ。漢字、ひらがな、カタカナ、英文字と4つの文字が入り乱れているが、慣れると読みやすいし、意味も理解しやすい。」


 「我等には全く理解出来ん。」

 「読んでみるからね。」

 俺は、タニィさんの入れてくれたお茶を飲みながらメール文を読んでいく。

 

 『…残念ながら、ベーリング海は凍っていなかった。北極に進路を取って北極海の氷の上を歩いて北米大陸に渡ったぞ。現在は旧世界のカナダ中部を南に歩いている。

 歪みの除去に核を使うのは理解した。俺もロスアラモスを目指す事にする。

 明人は理解しているか疑問だが、問題が2つあるぞ。

 1つは、Puを使った弾頭はたぶん使用出来ない筈だ。半減期が短いから他の同位体に変わって、本来のPu239の量が変化している筈だ。そしてその変化によって生じた元素は中性子吸収体として分裂を抑制する物もある。それに、もし弾頭が破壊されていたら、Puの毒性は青酸カリより高いぞ。極めて高い放射線を放つ物質だから、ICBMの弾頭を抜取るという事は止めといた方が良い。

 そして、問題の1つがそれに変わる物質だ。U235を使った核爆弾を見つけろ。

 アメリカの最初の爆弾で、ソ連も同じ物を使っている。何故廃れたかは、後でゆっくり説明してやるが、威力的にはお前が望む程度の物がある筈だ。

 U235の半減期は極めて長い。2千年程度で組成にそれ程の変化は無いだろう。

 俺達が軍の基地を目指さずに、研究所を目指すのはその為だ。明人も、旧世界のクリャリンスクを目指せ。そこにロシア最大の秘密地下研究所がある筈だ。』

 

 「判らん事だらけだが、目的地と掘り出す物を変えろ。と言う事を伝えようとしているのだな。」

 アルトさんの言葉に俺と姉貴が頷いた。


 「問題は、クリャリンスクの場所だ。姉さん、場所の特定は出来たの?」

 「ここよ。…レイガル族の勢力範囲ぎりぎりにあるわ。場合によってはレイガル族との戦闘が予想されるわ。それに、追伸もあるの。アクトラス山脈の北にサルと思われる集団がいる。頭2つの類人猿だが、頭部は寄生体。本当の頭は腹にある。変な魔法を使うから注意しろ。…これって、例のサルだよね。」

 

 姉貴が指差した場所は当初よりもアクトラス山脈から離れた平原の一部だ。それに例のレイガル族の地下帝国の推定領土と哲也の追伸文に付属されたサルの勢力図を重ねると両者が重なっている。

 地上はサル、地下はレイガル族の勢力下と言う事になるのだろうか。

 それに、意外とPuは厄介みたいだ。毒性と放射線が強いとなれば防護服を準備せねばなるまい。

 

 「哲也の言う事を聞いた方が良さそうだ。オタクだからこういうのには詳しいだろう。…となれば、俺達のやることはイオンクラフトの最大乗員を確かめる事と防護服の調達。それにレイガル族とサルに対する備えと言う事になる。

 イオンクラフトの最大乗員は王宮の庭にイオンクラフトを移動して荷台の乗車人員を近衛兵に確認して貰えば良い。ディーはバビロンと交渉して防護服の調達だ。線量計は貰っているが他にも必要な物が無いか再度確認してくれ。姉貴は戦闘があるとの前提で作戦を考えて欲しい。アルトさんとリムちゃんは装備の調達だ。スマトル戦に使用した特大の魔法の袋を10個位、部隊から借りてくれ。俺はエイオスと戦闘工兵を選抜する。」

 

 俺の言葉に皆が頷く。

 「まぁ、少し面倒にはなったが基本は変わらぬ、と言う事じゃな。了解じゃ。」

 アルトさんはそう言ってリビングを後にした。

               ・

               ・


 王宮の中庭に運び込んだイオンクラフトに近衛兵が乗り込んでみる。

 荷台に縦に椅子を設けたり、短い椅子を並べてみたりと色々工夫してみたが、最後に全てを取り除いて荷台に直接座る方式が一番人数を稼げる事が分かった。全部で28人も乗り込めたぞ。25人位ならそれ程きつく座る事もないようだ。床に天幕を敷き詰めれば少しはクッションになるだろう。後は落ちないように何本かのロープをベルトに通しておけば良いだろう。


 「25名ですか…確か操縦席に3人乗れましたから、総勢28人。セリウス殿やダリオン殿も同行しますから、戦闘工兵の数は私を含めて16人としたいですね。1人分は残しておきましょう。」

 「選抜は任せるけど、穴掘りがメインだ。力のある者を選んでくれ。」

 「了解です。武装も選んでおきます。」

 

 と言う事で、俺の方は終了だな。

 帰ろうとしたところをアテーナイ様に呼び止められた。

 「婿殿、帰っても暇じゃろう。少し我と話をせぬか?」

 

 断れる訳も無く、アテーナイ様について王宮の一室へと向かった。

 小さな部屋だ。居心地の良さそうなテーブルセットが置いてある。

 その椅子に掛けるとアテーナイ様がお茶を入れてくれた。

 「恐縮です。」

 「よいよい。タバコも構わぬぞ。我等だけじゃ。」


 銀のケースから1本抜取ると、アテーナイ様のパイプにもジッポーで火を点ける。

 「スマトル戦はご苦労じゃった。サーシャの指揮官としての名目は十分じゃった。連合王国の軍団の総指揮官としても誰も口を挟めぬじゃろう。

 まぁ、問題があるとすればエントラムズに嫁ぐ事位じゃが、他国もそれで安心を得られる。希代の軍略家をモスレムは放出するとな。

 クォーク達のカナトールにおける内政実習も成果が出ておる。施政官を派遣するよりも遥かに復興が早いし、それが目に見えるものになっておる。

 意外と連合王国化は早いかも知れんな。」


 アテーナイ様は、そんな事を言いながらお茶を飲んでいる。

 「ところで、婿殿達はこの先はどうするのじゃ?…次の仕事は我も参加するが、歪みを消し去った後の事は考えておるのか?」


 「特に考えてはおりません。ネウサナトラムの村の暮らしを良くしようとは思っていますが、だいぶ暮らしが良くなりました。」

 「うむ。我もそれは認めるぞ。婿殿のお蔭で暮らしが良くなった村は他にも沢山ある。だいぶ顔も売れたようじゃな。」

 

 「今度こそ、のんびりと姉貴達と暮らします。かなり国政に係り過ぎました。一介のハンターがここまで介入すべきではありません。ギルドの依頼をこなしながらのんびりと生きて行きます。」

 

 「なるほどのう…。各国がネウサナトラムに別荘を作る理由もそこにあるか…。テーバイ王国も小さな別荘地を希望しておった。」

 ひょっとして、連合王国の王族達がやって来るのか?

 

 「湖の周辺を適当に区切って分ける心算じゃ。まぁ、婿殿の家からは見えぬ位置故安心するが良い。それに婿殿を頼りたい気持ちも判る心算じゃ。

 婿殿達には、我等のようなしがらみが無い。我等の行動を一歩下がって見ていて貰える。それがどんなに大事かは、婿殿にはまだ判らぬかも知れぬな。」


 アドバイザー位なら良いんだけどな。

 まぁ、ここまで国政に関係してしまった以上、おいそれとは楽隠居は出来ないだろうが、連合王国が軌道にのれば俺達の出番はかなり減るのは確かだろう。

 北の国家が気にはなるが、リザル族の監視があれば出遅れる事はないと思う。

 スマトルの今後は流動的だが前覇王が大森林地帯に消えた後、直ぐに巨大な軍事国家が出来るとは考えにくい。

 もう少しで、慎ましくも幸せな暮らしが出来るようだ。


 「スマトル戦については、本来はきちんと代価を払わねばなるまいが、婿殿の事じゃ。いらぬと言うじゃろうと思うての…、各国の了解は取り付けておる。今回の報酬は、ミーアの嫁入り道具一式をサーと同じに揃える事にしたぞ。

 仲の良い2人じゃ。嫁に行っても同じ品であれば恥じ入る事はあるまい。」


 「そうは言っても、サーシャちゃんは王族、そしてミーアちゃんは俺達の妹です。同じ品では余りにも分相応をわきまえない事になりませんか?」

 「何の、容易い事じゃ。婿殿が今回の戦で得た褒賞で妹の嫁入り道具を整えた。誰も美談と思うじゃろう。妹思いの兄故、道具は最上の物を選んだだけの事じゃ。」

 それって、シスコンに思われないかな?


 「一応、姉にも伝えておきます。」

 俺の言葉にアテーナイ様が頷いた。

                ・

                ・


 館に帰えるとリビングのテーブルでムッとした表情をしながら情報端末の画像を眺めている姉貴にアテーナイ様との経緯を説明した。


 「王族達も、何も上げないのはどうしたものかと思っていたようね。確かにアイデアではあるわ。ありがたく受け取りましょう。

 でも、それが最後。リムちゃんの仕度は私達で何とかしなくちゃね。」

 

 とは言え、何か送りたいことは確かだな。

 まぁ、後でも良いからじっくりと考えてみよう。


 「で、見通しは?」

 「これを見てよ。…バビロンから入手したクリチャリンスクの構造よ。直径1km地下10層の構造体だわ。当時で地下10mみたいだけど、いまだとどれ位深く埋もれているのか検討もつかないわ。

 良いことは、外壁構造が堅固なコンクリートだからレイガル族の侵入は不可能だと思う。地上面が露出していない限りサル達に悪戯される事も無いと思うわ。」


 手付かずで残っている可能性が高いという事だな。

 まぁ、それに越した事は無い。


 「一番良い案は、秘密施設の上部に仮設砦を作りその中でサル達を牽制しながら掘り進めるという事になるわね。

 戦闘工兵の持っている盾を沢山持っていけばちょっとした塀が出来るわ。周囲に杭を打ってロープで結んで地雷を仕掛ければそれなりの基地が出来そうね。」

 「近くの森から木を切って運ぶ事も出来る。その辺は戦闘工兵の得意な分野だ。」


 俺がそう言った時、タニィさんが来客を告げた。

 やってきたのは、セリウスさんにダリオンさん、そしてジュリーさんの3人だった。

 早速テーブルに着いてもらい、タニィさんにお茶を準備して貰う。


 「俺も、今度は何とかなる。マハーラにこれが最後ですよ、と釘は刺されたが、これを逃すと2度と遠征には参加出来ぬであろう。」

 「セリウス殿とダリオン殿は理解できますが、私は…。」

 

 「今回の目的地が2つの勢力の範疇にあるんです。レイガル族にサル。これだと魔法に秀でた者が必要でしょう。」

 「レイガルか…、相手にとって不足なしだ。是非とも噂の角を手に入れねばならぬ。」

 「そして、スノービューにミーアの持っていた牙も何とかしたいと思っている。」


 この2人は、俺達が穴掘りに行くのを知ってるのだろうか。折角盛り上がってるからそっとして置こうとは思ってるけど。

 「後は、俺達7人にアテーナイ様です。エイオスが15人の戦闘工兵を連れてきます。」

 俺の言葉にセリウスさん達はニヤリと笑って頷いた。

 

 「ところで、俺達は何を準備すれば良いんだ。セリウスは投槍を準備したと言っていたが…。」

 「ダリオンさんは弓は使えますか?」

 「あぁ、十分に使えるぞ。」

 「ならば、亀兵隊の弓の練習をしてください。セリウスさんも一緒です。投槍は1人1本で十分です。武装は亀兵隊に合わせてください。矢の予備も共通化出来ますから。」

 

 「ミーアがあの牙を得たのも爆裂球付きの矢だと言っていたな。判った。明日から練習しよう。ダリオンも良いな。」

 セリウスさんの言葉にダリオンさんが真剣に頷いている。

 「私は、この杖で十分でしょう。その外に用意する物があれば準備いたします。」

 「出発は来春です。かなり冷えますから暖かい服装を準備して置いてください。それと革の上下にブーツが基本です。」 

 俺の言葉に3人が頷いた。後3ヵ月後に俺達は出発する。


 

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