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#433 おめでたい?


 暖炉の方に移動して一服を始める。

 姉貴達はテーブルから壁のスクリーンを見ている。アルトさんとリムちゃんは興味深そうにその地図を見ていた。

 

 「やはり、ロシアかしら?」

 「イギリス、フランス…も候補だけどね。たぶんそっちは探すのが困難だろう。戦術核は潜水艦に積んでいる筈だ。」

 「ロシアも一緒でしょ?」

 「そうだけど、あそこには移動式のISBMがあったはずだ。多核弾頭を持つやつがね。問題はその配置場所がどこかという事になる。シベリア平原に幾つもあるはずなんだけどな。」

 

 「旧世界の情報ならバビロンの記憶槽に残っている筈です。…転送を依頼しました。…転送許可が出ました。現在情報端末に転送しています。…転送完了。ミズキ様。そのアイコンを開いてください。」


 どんな情報が送られてきたんだろう?

 タバコの吸殻を暖炉に投げ捨てると、テーブルに戻って姉貴の隣に移動する。

 

 送られてきたアイコンを早速、姉貴が開いている。そこには地球規模の資源情報や歳情報、住んでいる人間の情報がズラリと並んでいる。

 大きくは、軍事、資源、生活と分類されているから直ぐに目的の物は探せそうだが、一通り見ておかなければ姉貴の気がすまないようだ。


 「あった。たぶんこれね。」

 そう言って、姉貴がアイコンの1つを指でなぞった時は、リムちゃんが新しいお茶を俺達に入れ替えてくれ後だった。

 確かに移動式ICBMはシベリア平原に点在している。そして、その移動範囲もまるで示されているんだが、ICBMを搭載した特殊車両が移動する距離は100km程の直径を持った区域内だ。

 これを探すのは大変だぞ。

 

 「あの丸の中を、ディーが運んできた機械で調べれば判るのかな?」

 「基本的には可能ですが、持ってきた装置は金属探知機と地下レーダー、それに高性能の線量率計です。金属探知機の地下探査深度は1m。地下レーダーの探査深度は50m。そして線量率計のレンジは0.01μSvから100mSvです。」

 「地下レーダーの探査範囲は?」

 「地上20mで使用した場合で、直径20mの円形になります。探査深度は30m程度です。」


 埋まっている物を掘り起こす事になるから、20m以上は困難だろう。しかし、探査範囲が狭いなぁ…。

 

 「アキト。…これってどういうことかしら?」

 そう言って姉貴が画像の1つを指差している。その表示は他と違って範囲が小さい直径が1kmにも満たない。位置は、森林地帯と線路上だな。


 「たぶん、ICBMの地下発射基地とこっちのは、線路に接続されたミサイル基地だな。地下の発射基地は初期のものだから、狙い目ではある。線路に乗り入れる方は通常は移動しない筈だ。」

 

 姉貴はそんな基地を10箇所選択して、現在の地形図にその位置を表示する。

 溜息が出る。殆んどがレイガル族の勢力下だ。

 かろうじて2箇所が北東へ千km以上の場所にあるが、山脈の反対側はコンロンだ。

 

 「レイガル族と事を構えるのは、ちょっとね。こっちの2箇所を探しましょう。」

 「こっちだって安心は出来ないぞ。遺伝子改変の発生元に近過ぎる。どんな怪物がいるか想像出来ない。」

 

 「我はどっちでも良いぞ。まぁ、出来るならコンロンの近くが面白そうじゃ。」

 アルトさんの意見は理解出来るがリムちゃんまで頷いてる。

 「もう1つの問題は誰を連れて行くのかだよね。」

 今度はセリウスさんを連れて行かないと、マジでやばそうだ。


 「ディー、イオンクラフトに乗せられる人数ってどれ位?」

 「王都でリンリン達が装置の取り付けを行なっています。ユグドラシルからの情報により若干積載量を上げる事が出来ました。

 核爆弾の重力遮蔽を行う事で、入手する核爆弾を0.5t以内に抑えれば20人程度は同行出来ます。」


 「戦闘工兵を同行出来るな。エイオスに10人程選んで貰おう。」

 「我等は全員で問題ないな。サーシャ達も参加するじゃろう。連絡は早めにいれておくぞ。」

 「アテーナイ様も、誘わなくちゃね!」

 姉貴がそう言った時の、リムちゃんとアルトさんの顔が対照的だったな。

 まぁ、誰を連れて行くとしても、体力のある者と戦闘に秀でた者が望ましい事は確かだ。

 

 「エイオスには俺から連絡しておく。穴掘りがメインだから力自慢が良いな。姉貴達は同行者を選んでくれ。戦闘工兵が10人。そして俺達を含めたハンター経験者が10人、合計20人だ。」

 皆が俺の言葉に頷くと、リムちゃんが聞いて来た。


 「ところで、出発は何時頃ですか?…それに準備する物があれば早めに調達したいんですが。」

 「そうだな、時期は来年の春だ。準備はエルフの里を訪ねた時の装備を参考にしてくれ。場合によっては3ヶ月程度の旅になるはずだ。食料はそれを目安という事で…。」


 「哲也君の方には、私からメールを送っておくわ。北米大陸に渡っていれば良いけど、この間の連絡では今度の冬に大陸間を移動するって言ってたわ。」

 「あいつ等なら、ベーリング海峡を歩いて渡るような事も平気でやりそうだな。」

 

 海流の速さは相当なものだろう。俺達の世界でもその海峡の距離は100km程あったと思う。今は…、少しは距離が狭まったようだが、それでも50kmはあるぞ。ユング達はディーとは別の原理で空を飛べるようだが、精々数kmが限度らしい。

 となれば、大陸間を渡る手段として彼等に取れる手段は、厳冬期に氷結した北極海を渡るしか手段が無い筈だ。

 ちょっと、道草を食っていたような感じだが、目的が明確になれば彼等の行動は早まるだろう。問題は核爆弾の調達だが、北米大陸には相当数眠ってる筈だ。その辺はオタクであるあいつの方が良く知ってるだろう。


 「そんな感じで、準備はしといて欲しい。アクトラスの北の大地は危険だ。前回以上の大型獣や怪物がいないとも限らない。武器の手入れもしといてくれよ。」

 俺の言葉に全員が頷く。あの時も苦労したからな。

               ・

               ・


 恒例の狩猟期も無事に済むと、この村にも冬が駆け足で迫ってくる。

 そんな中、俺達は山荘に集まった。

 まさか、と思う事態が生じたのだ。急遽、王都からもセリウスさんとミケランさんがミクとミトを連れて昨日村に帰って来たぞ。

 ミーアちゃんとサーシャちゃんも、ガルパスでセリウスさん達に同行して駆けてきた。

 先程キャサリンさん達も、ディーの運転するイオンクラフトに乗って到着した。


 「まぁ、10年もすれば笑い話のネタになりそうな話じゃ。それに悪い話ではない。」

 「それはそうですが、困った奴です。」

 「早いか遅いかの話だ。当人達が納得しておれば、周りがとやかく言う話ではなかろう。」

 山荘のリビングに正装した面々が揃っている。

 俺は余所行きの革の上下を着て来たが、嬢ちゃん達と姉貴、それにディーは綿の白いロングドレスだ。

 セリウスさんも俺と似たような格好だが、ミケランさんはドレス姿だ。ミクとミトはモスレム近衛兵の革の上下を着ている。

 久しぶりに嬢ちゃん達に会えたんで嬉しそうに纏わりついている。


 そんな中、いよいよ話題の2人がリビングに入って来た。

 近衛兵の制服を着たオットーさんに、絹のドレスを着たシャロンさんだ。

 リビングの大きなテーブルに2人が座ったところで、2人の披露宴パーティが始まる。


 何と、シャロンさんが妊娠したらしい。それでもって急遽決まった披露宴だから、俗に言う、出来ちゃった婚になるのだろう。

 おかげで俺達を巻き込んだドタバタ劇が始まってしまったのだが、誰もイヤとは言わずに喜んで仕事を引き受けていたな。

 目の前の大きな黒リックの姿揚げも、シュタイン様が釣り上げたものだし、リスティンはアルトさん達が仕留めて来たものだ。

 ちょっと変わったお菓子、という事で提供したポップコーンはミク達が独り占めしてる。簡単だから後でミケランさんには教えてあげよう。


 「この村にも、新しい住人がドンドン増えるのう。それは村にとって喜ばしい限りじゃ。」

 「流石、モスレムの通信兵。何事も早いという事ですね。」

 スロットの冷やかしもどこ吹く風のように、主役達は聞き逃してるな。

 まぁ、酔っ払い達に一々かまってはいられないのだろうが、だいぶシャロンさんの顔が赤いけど大丈夫だろうか?…ちょっと心配になってきたな。

 そんな2人は、しばらくは長屋住まいになるそうだ。シャロンさんの家を改築するらしい。そして、今までお世話になっていたロムニーちゃんは長屋で1人住まいをすると言っていた。

 

 「従兄弟がハンターになったんです。人見知りの激しい娘だから、私と一緒に暮らしたいと言ってました。それに、私も黒1つになりましたから、何時までもお世話にはなれません。」

 という事は、また1人住人が増える訳だ。

 冬には王都に帰る事が出来るからそれも良いのかも知れないな。

 

 突然だから、贈り物も用意出来なかったが、後で個別に相談すると恐ろしい事をシャロンさんが言っていた。

 どんな物を要求されるか、ちょっと気にはなるんだよな。

 2時間程の宴会だったが、楽しく皆で2人を祝福してあげたのは間違いないと思う。

 最後にオットーさんを、セリウスさんとスロットそれに俺の3人でリオン湖に投げ込んであげたけど、あれはお祝いのセレモニーだぞ。


 家に帰ってのんびりとテーブルに全員が着く。

 酔いを醒ますためと言って、ディーが濃いお茶を全員に入れてくれた。


 「来年の旅ですが、私とサーシャちゃんも参加します。…それが終った秋に、私達も結婚する事にしました。参加して頂けますよね?」

 

 伏し目がちに小さな声で、ミーアちゃんは俺と姉貴に言った。

 一瞬、俺と姉貴の目が合う。

 「あぁ、是非集積させてもらうよ。…サーシャちゃんが先かと思ったけど、ミーアちゃんが先になったか。」

 「ちゃんと話を聞いておらぬな。私達とミーアは言ったではないか。我も同じ日に同じ場所で披露宴を行う。その方が合理的じゃ!」

 

 合理的だ。で判断して良いのかどうかは判断に迷うけど…まぁ、親の出費は少なくなるな。

 「確かに、その方が都合が良いだろう。サーシャの婚礼はエントラムズの次期国王の后と言う事になる。連合王国の各国は王族を連れて参加する事になろう。そして、ミーアについては各国の王宮にその名が知られておる。披露宴ともなれば各国とて無下には出来ぬ。そして相手がエントラムズ王国の重鎮の家系じゃ。やはり王家から何人かを出席する事になるじゃろう。それを考えれば、2組の披露宴を行うと言うのは理にかなっておる。」

 

 「でも、アルトさんの時は何も無かったですよ?」

 「名目じゃ。それに我は、あんなチャラチャラしたドレスは着とうない!」

 

 その辺のさじ加減が良く分からないけど、まぁアルトさんが納得しているならそれで良いだろう。

 「私は、欲しいものはありません。ただ、出席をお願いします。」

 ミーアちゃんが再度俺達に聞いてきた。


 「勿論出席するわ。でも、やはり何か送りたいわね。2人で相談して頂戴。私とアキトで何とかなるものは用意するからね。」

 まぁ、その気持ちは俺にもある。記念品だしね。出来れば実用的な物を送りたいけど、急には思い浮かばないな。

               ・

               ・

 

 慌しい披露宴が終ると、ミーアちゃん達は帰って行った。

 館で待ってます、と言っていたからいろんな話をしたいんだろうな。


 「我等の出発は何時じゃ?」

 「そうだね。シュタイン様達と相談してくるよ。ロムニーちゃんも一緒に帰るだろうし、…そうなるとギルドの依頼書も気になるところだ。」

 姉貴達がアテーナイ様を訪ねて、別荘の離れに向かうという事なので、俺はギルドの様子を見てくる事になった。

 扉を開けると、ルーミーちゃんが俺に頭を下げる。俺も片手を上げてご挨拶。

 掲示板に歩いて行くと、10枚も依頼書が貼ってない。そろそろ冬支度になるのか…。

 

 一休みして帰ろうとテーブルについて一服を始めた時に、セリウスさんがやって来た。

 俺を見付けると、早速俺の前に座ってパイプを取出した。

 

 「アルト様より聞かせて貰った。今回は忘れなかったようだな。」

 「来春の旅ですね。申し訳有りませんがミケランさん達は参加出来ません。かなり危険な感じがします。」

 「それで良い。俺だけが参加する。ミケランも納得済みだ。まぁ、これが最後の我が侭になるだろう。俺の方は、ザナドウ狩の投槍を5本準備する。衣服はアルト様達が纏めると言っていたが、それで良いのだな?」

 

 「基本は穴掘りですから、革の上下にブーツですよ。ガルパスもまだ雪が残っているので持っていけません。ハンターの標準装備で良い筈です。特に必要な装備はアルトさん達が王都で手配してくれます。」

 「それとだ。出来れば、ダリオンを同行させてくれぬか。あ奴は、スマトル戦は王都にいたのだ。近衛兵であればそうする他はないのだが、正規兵と亀兵隊の活躍を聞いてな…年甲斐も無く沈んでいる。」


 てっきり正規兵を率いていたと思っていたが、そう言う立場なら仕方が無いと思うな。根がまじめな人だからな。

 トラ族だから力はある筈だ。戦闘工兵の枠に入れてあげるか…。

 

 「一応、姉貴に相談してみます。でも、ダリオンさんは近衛兵の隊長ですよ。長く王宮を空ける訳にはいかないと思いますが?」

 「それは奴の問題だ。俺達はその遠征隊に含める事が出来るとダリオンに告げれば良い。」

 なるほど、活躍出来そうな話がある。連れて行く事も可能だ。同行したければ自分で対応を考えろという事だな。

 セリウスさんに頷くと、ギルドを後にして家路についた。

 

 家に着くと、姉貴達が帰っていた。アテーナイ様もいるぞ。

 「ギルドは問題無かったよ。俺達が村を離れても大丈夫そうだ。…そして、セリウスさんに会ったよ。セリウスさんはダリオンさんを同行させたいらしい。」

 テーブルに着きながら皆に報告する。

 姉貴は、ちょっと困ったような顔をして聞いていた。

 

 「ハンターの枠にはジュリーさんを入れようかと話してたのよ。…ダリオンさんも行きたいでしょうね。」

 「私が降りましょうか?…イオンクラフトはミズキ様も操縦出来ます。私はイオンクラフトに追従して飛ぶ事が可能です。」

 その手があったか。とは言え、それは最後の手段だな。

 「後は、戦闘工兵をエイオスを含めて9人とする事だな。まだ、エイオスには連絡していないから、人数を減らすのは問題ないと思う。」

 「後は、イオンクラフトの改造の程度によります。一度皆で乗ってみないと人数を特定出来ません。核爆弾や工具類は大型の袋に詰めますから。」

 

 確かにディーの言うとおり。実際に乗ってみなくちゃ判らない。

 俺達は王都に戻ってから確かめる事にした。

 

 

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[気になる点]  「来年の旅ですが、私とサーシャちゃんも参加します。…それが終った秋に、私達も結婚する事にしました。参加して頂けますよね?」  伏し目がちに小さな声で、ミーアちゃんは俺と姉貴に言った。…
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