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#432 やって来た長老



 1週間ほど王都に滞在して、俺達はネウサナトラムへと帰って来た。

 王都にはサーシャちゃんとミーアちゃんが、軍縮と編成それに新たな配備に関わる為に残っている。まぁ、極端な事はしないだろう。ケイモスさん達がカリストから帰って来るとアテーナイ様が言っていたからね。


 俺達と一緒にアテーナイ様も村へと戻って来た。やはり王宮は煩わしいらしい。

 セリウスさん一家は、もうちょっと王都にいるらしい。ミクとミトも、今回は5カ国の通信でだいぶ活躍したと赤ん坊を抱いたアン姫が言っていた。

 アン姫は、前線に出られなかったのを残念がっていたけど、情報の伝達は重要だとは理解してるようだ。

 益々、双子は村に帰れなくなりそうな気がしてきたな。

 

 しばらく留守にしていた家を姉貴達が掃除するらしいので、俺は村の様子見だ。先ずはギルドに到着を報告せねばなるまい。

 

 ギルドの扉を開けると、扉の音で顔を上げたルーミーちゃんに片手を上げてご挨拶。

 カウンターの彼女のところに行くと、俺を見てにこりと笑い掛けてくれる。


 「しばらくですね。皆さんご一緒ですか?」

 「昨夜遅く帰ってきたんだ。サーシャちゃんとミーアちゃんが王都に残っている。アテーナイ様も一緒だ。」


 「ミズキさんとアルトさん。それにリムさんとディーさんが一緒…と。はい、手続き完了です。」

 「ありがと。…変わった事はない?」

 

 ルーミーちゃんは片手を顎に当てて小首を傾げながら考えてる。直ぐに思い浮かばない所を見ると平和なんだな、と感じた。

 「今の所、大丈夫です。アンディさんやスロットさんがいますし、取り入れの季節が近いので2組のハンターが村に滞在しています。」


 「じゃぁ、何かあったら…。」

 そう言って、今度は依頼掲示板へと歩いて行った。

 

 依頼掲示板には半分ほど依頼書が貼り付けられている。

 分量的にはいい感じだな。依頼内容も物騒なものは無かった。

 アルトさん好みの依頼書が無いと機嫌が悪くなるんだよな…。


 まぁ、渡りバタムが出始めているから、それで我慢して貰おう。農民の依頼は積極的にアルトさん達は受けるからな。


 テーブルに座ると、タバコを取り出す。

 何時ものテーブルに座るだけで何となく心地よい感じがする。

 ルーミーちゃんが「どうぞ。」って、お茶を持ってきてくれた。

 

 「ゆっくりして行ってくださいね。シャロンさんは今日はお休みなんです。」

 「珍しいね。風邪?」


 「実は…、ごにょごにょ…。」

 ルーミーちゃんが耳元で教えてくれたのは、どうやら御見合いらしい。

 キャサリンさん夫妻が王都から実家に帰っているのだが、その時にキャサリンさんの旦那さんの友達が来ているようだ。

 ふんふん、と聞いていたが姉貴達が邪魔しなければ良いんだけどね。


 カウンターに戻っていくルーミーちゃんだって、何時の間にか小さな娘さんだな。

 そんな事を考えながら、お茶のお礼を言ってギルドを出る。


 家に帰ると、アルトさん達の笑い声が聞こえてきた。誰か来てるのかな?

 「ただいま!」と言いながら扉を開けると、リビングのテーブルにいる連中が俺に顔を向ける。ん?知らない男が2人もいるぞ。


 「お客さんが来てたんですね。初めまして、アキトです。」

 そう言って彼等の向かい側の席に座る。 

 改めて顔ぶれを見ると、キャサリンさんとシャロンさん姉妹だ

そしてキャサリンさんの隣の二枚目は旦那さんか?

 シャロンさんの隣で緊張している男は…、こいつがルーミーちゃんが言っていたお見合いの相手って事になるのかな。


 「今朝早く散歩していたら、アテーナイ様にお会いしまして。…戻っていると聞き、ご挨拶に伺ったのです。」

 確か、サイモンさんだったな。

 初めてあったけど、優しそうな人じゃないか。


 「キャサリンさんには色々とお世話になりました。チーム、ヨイマチのリーダー。アキトです。俺達以外にサーシャちゃんとミーアちゃんがいるんですが、王都のお隣の館で、ケイモスさん達と今後の計画を練っています。」

 

 そう言いながら、テーブル越しにサイモンさんと握手をする。

 サイモンさんが手を離して席に着くと、もう1人の男が席を立ち俺に右手を伸ばす。


 「初めてお目に掛かります。と言っても、実はカリストで遠くからお姿を拝見していました。それでもご挨拶出来るのは初めてですから…。私の名は、オットー。通信兵を指揮しています。」

 アン姫の配下になるんだな。

 

 「今回の戦は情報戦でした。5つの王国を結んだ通信は大変だったでしょう?」

 「王都の通信司令部にミクちゃん達がいましたから、安心して作戦本部の通信室にいることが出来ました。あの2人がいなかったらと思うとゾッとします。私は何とか通信を受けて、それに答える事が出来ますが、ミクちゃん達は通信を聞きながら、別の部隊に通信を送る事が出来るのです。あれは我等に真似をすることすら出来ません。」


 「じゃが、通信兵なら前線に出る事も無かろう。安全が何よりじゃ。」

 「それは、私も気にしている所ですが、小さい頃から喧嘩しても負けてばかり、それを知ったサイモンが相手に仕返しに行く事がままありましたから、私は適材適所と割り切る事にしました。」


 そんな昔話をサイモンさんが苦笑いを浮かべて聞いている。義に厚い夫の意外な一面を知ってキャサリンさんも興味深々の様子だ。


 「そういえば先程ギルドに出かけたら、シャロンさんはお休みだと聞いて驚きました。風邪等引いたかなと心配しましたよ。」

 「そ、それは、あれなのよ。うん。お姉さんが帰って来たでしょ。だから…。」


 おーおー、慌ててる。これは間違い無いな。

 それを見た姉貴とアルトさんがニヤリとしているぞ。

 「でも、困ったわね。まだルーミーちゃん、1人だとギルドは…。」

 「大丈夫です。オットーさんは山荘で通信兵達の指揮を執りますから…!…え?」

 

 姉貴は今日の話をしたのだが、シャロンさんは勘違いをしたようだ。と言うより誘導尋問に近いぞ。気が動転していたシャロンさんは見事に引っ掛かったようだ。

 真っ赤な顔で下を向いてしまった。


 「サイモンからキャサリンさんに妹がいるとは聞いていました。どんな素晴らしい人か1度紹介しろと、ずっと迫っていたんですが2日程前にこの村で始めて紹介されました。想像以上の人です。」

 

 そうだろう、そうだろう。何と言ってもセリウスさんをギルド中追い掛け回した人だからな。大人しそうでも肉食系女子だぞ。


 「そして、シャロンも気に入ったという事じゃな。良かったではないか。」

 アルトさんは好意的だな。まぁ、楽しみが増えた位の考えなのかも知れないけどね。

 「この村で一緒に住めるならキャサリンさんのお母さんも安心ね。」

 「はい。私も安心出来ます。」

               ・

               ・


 4人を見送った後で、のんびりとお茶を飲む。

 「まぁ、また1人片付いたという事じゃな。…この村で知り合いで年頃なのは、チェルシーがおったな。アヤツもシャロンが片付くと知ったら驚くじゃろうな。」


 確かに、村で出会いを待つのは難しいだろうな。

 だが、これだけは本人次第だからね。俺達は見守っていれば良いと思うな。

 「また考えなくちゃならないね。…アン姫の赤ちゃんには家のチーム名でちゃんと大鎧を贈っといたわよ。ネビアの方はまだなんだけど、…そういえば赤ちゃんをまだ見て無かったわね。アキト留守番お願い!」


 そう言うと、姉貴達はディーも連れて出て行ってしまった。

 生まれてから半年は過ぎているから、抱かせて貰えると思ってるんだろうな。

 落とさないかと心配するネビアの顔が浮んできた。


 「邪魔をするぞ。」

 そう言って入ってきたのはアテーナイ様だった。

 「何を1人で笑っていたのじゃ?」

 そんな事を言いながらテーブルに着く。

 ポットからお茶を注いでアテーナイ様の前にカップを置くと、自分のカップにもお茶を注ぎ足す。


 「家の連中がスロットの家に出かけまして、…赤ん坊を姉貴が抱いたら、さぞやネビアが心配するだろうと思って…。」

 「まぁ、婿殿には判らぬであろうが、女性は皆優しく赤ん坊を抱く事が出来るものじゃ。心配はいらぬ。むしろスロットが抱く方が心配じゃな。」


 そう言いながらお茶を一口飲む。

 「ところで婿殿。前の裁きの結末を教えてくれぬか。どうも気になっての。我が君も考えておるようじゃ。罪はあると言っておったが、酌量の余地は十分にあるともな。モスレムの国法では所払いが適当だとも言っておったぞ。」


 「あの話は、俺達の国の数百年前の話だと聞きました。

 ここで問題になるのは、道徳の教えなのです。道徳を国法としたためにそのような結末を迎えたと思います。

 道徳で重要になるのは、仁、忠、孝、義という考え方です。

 仁は優しさ、忠は国や王族への奉仕、孝は身内の者に対する特段の優しさ、義は正しいものの見方と考えれば良いでしょう。

 この考え方に反するものは極刑を科す事でその奨励に務めました。またその逆に、その考え方の模範を示した者については褒賞を与えて普及に努めました。」


 「理想的な国になるのではないか?犯罪すら起らなくなると思うが…。」

 「それなりに犯罪は起ったようです。でも単純な盗みならそれ程罪は重くはありません。もっとも再犯は重く、盗んだ金額や盗んだ先によっても刑は異なります。

 例えば、金貨3枚で死刑ですね。放火は火刑です。」


 「面白い考え方じゃな。それで、例の話は?」

 「親を殺める事は許されません。孝に反する事になります。親が子を殺す。これは比較的情状酌量の余地があるんですが、その逆はやってはいけない事なのです。」

 「孝とは親に対する子の行動なのじゃな。その逆は孝ではないという事か…。」

 

 「例え理由があろうとも、孝に反する行為をしたのであれば、厳罰を持ってその再発を防ぐ事になる訳じゃな。…婿殿は道徳を教える事を力説していたが、法律にそれが含まれると問題じゃな。」


 「はい。道徳は普段に生きる道標でしかありません。法律とは切り離して考えるべきです。」

 「ふむ、その考え方は少し耳が痛い話じゃ。忠という考え方は王族、貴族の身分を保証する考え方にも通じる。身分の上位に対する罪は厳罰…。そして、婿殿が殊更宗教にこだわるのは、それもあるのじゃな。」


 俺は大きく頷いた。

 「宗教は、法律の隙間を生める事が出来ます。ですが、その教義が法律と同じ効果を持つと…。しかし、この世界の宗教は多神教です。俺が恐れる事態にはならないと思いますが。」

 「ふむ…。大神官が婿殿を認める訳がそれじゃな。その危険性を大神官も我等に警告した事が何度かあった。」

 

 4つの神殿を取り持つ大神官ならではの悩みなんだと思うな。宗教は大切だがそれが国政に関わってはならない。独立性を何処まで保っていられるか。

 それが大神官には判っているのだろう。

               ・

               ・


 村に戻って1週間が過ぎた頃、夕食後にのんびりとしていた時に扉を叩く音がした。

 ディーが扉を開けると、グプタさんが立っていた。老いたカラメル人を連れて来ている。

 直ぐにテーブルに案内すると、ディーがお茶を運ぶ。

 暖炉の傍で王都の2人と通信機で話をしていたアルトさん達もテーブルにやって来る。


 「我等を指導する長老の1人、ギリナム様だ。」

 「アキトと言います。カラメル族の人達には色々とお世話になっております。」


 「よいよい。ワシの導師であるラビト殿が常に見守る者とはどんな者か。…ワシも興味を持っての。長老達の選択を知らせに来た訳じゃ。」

 そう言って、カップのお茶を飲んでいる。


 「長老には、いまだにお世話になっています。ところで…。」

 「ホォ、ホォ、ホォ…。若い者は先を急ぐのう。まぁ、良い。

 この地上に核がありそうなのは判っておった。じゃが、まさかそれ程の数とはのう。我等も驚いたぞ。

 我等も今までの解析データを評価しなおしてみた。そして得た結論は核の使用で可能であると判ったぞ。

 そこで、問題が出た。お主達が核を知ったとき、どうするのだろうと言う話じゃ。」


 「この世界で少なくとも2千年以上前に核が数回兵器として使用されています。その内、2発は私の国で使われました。その惨劇は延々と語り継がれています。」

 「やはり、使われていたか…。その惨劇を知る者が使うと言うのであれば止めはせぬ。」


 俺達の人なりを見極めようとしたのだろうか?

 「ところで、腕を増やすまでになったと聞いたぞ。あと数百年もすれば、我等の境地に到達出来るじゃろう。良い師を得ておる。そして、我等の仲間になって欲しいものじゃ。」


 ひょっとして、勧誘?

 「まだまだ、修行の身です。その話は…。」

 「その答えで十分じゃ。この地に住まうならたまに尋ねよう。我もまだ修行の身。久しぶりに師の教えを受ける事が出来た。」


 長老の心象風景と共にいる時間は、この世界に戻ると一瞬だ。ギリナム長老もそんな経験を今行なっていたのだろう。

 

 「もし、困った事があれば、キューブに呼び掛けるが良い。ワシと直接話が出来る。」

 そう言うと、グプタさんと共に家を出て行った。

 相当な歳の筈だが、背後から襲っても勝てる気がしないぞ。

 姉貴を凌ぐ使い手のようだ。


 「ホォ、ホォ、ホォ…。試してみるか?」

 「いや、結果は見えています。ですが、いずれ…。」

 「うむ。心待ちにしておるぞ。」


 後を見ずに片手だけで俺に挨拶をすると2人は帰って行った。

 「ダメよ。とんでもない使い手だわ。私でさえ無理かも知れないわ。」

 見送った俺のちょっとした殺気を感じ取ったのかな。それでも無理かもしれないってレベルなのは凄いと思うぞ。俺には手も出ない状態だったからね。


 「長老に挑むのはずっと先だね。俺に挑戦する力があるかどうかも疑わしいものだ。」

 「まぁ、1つ目標が出来たという事ね。そして大事な事は、カラメル族が核の使用に同意してくれた事よ。」

 「あぁ、これで宝探しが出来る。」


 俺達はテーブルに戻ると、情報端末を使用して、旧世界の地図を壁に映した。

 この、何処を探せば良いんだ?


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[気になる点] 「ところで、腕を増やすまでになったと聞いたぞ。あと数百年もすれば、我等の境地に到達出来るじゃろう。良い師を得ておる。そして、我等の仲間になって欲しいものじゃ。」 ※1,000年後の…
[気になる点]  「邪魔をするぞ。」  そう言って入ってきたのはアテーナイ様だった。  「何を1人で笑っていたのじゃ?」  そんな事を言いながらテーブルに着く。  ポットからお茶を注いでアテーナイ様…
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