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#430 核爆弾?



 スマトル軍を大森林地帯に追い込んで2日が経過した。

 連日のイオンクラフトによる爆撃で、敵軍は数を減らしながら更に森の奥へと移動している。現在は森の端から100M(15km)は入っているようだ。

 爆撃のたびに逃げ惑う事で方向感覚も無くしたようで、数個の群れを作って森を彷徨っている姿がディーの偵察で判明した。


 「それでも、依然として3万程の勢力じゃ。一晩で半減するかと思っていたのじゃが…。」

 「このまま移動しますと、川原に出る事になります。」

 「川原を越えればラプターの領域じゃ。川原に留まる者達が何時まで生存できるかじゃな。」

 

 1日で5千が森に殺されたのか…。正しく魔境だよな。

 単純計算では、後6日で全滅する事になる。数が減れば更に犠牲者は拡大するだろう。

 

 「そこでじゃ。今日は昼間の爆撃を止めて、夜間爆撃に切替える。敵の焚火を攻撃する。」

 「一気に森に襲い掛からせる心算か?」

 「そうじゃ。焚火で近寄らぬ虫や獣もおる。…我等も何時までもここにいる訳には行かぬ。」

 

 その夜、ディーの操縦するイオンクラフトに10人程が乗り込んで、焚火を目標とした爆撃が行われた。

 使った爆裂球は1人10個だったらしいが、爆撃で焚火は完全に破壊したと、同行したラケスが言っていた。それでも、かなりの数の光球が森の中を動いていたと言っていたから、逃げ込んだ者の中に魔道師達も混じっているのだろう。


 夜が明けて、ディーが偵察に出る。

 俺達は朝食を取って作戦本部に集まり、ディーの到着を待つ。

 言葉少なくお茶を飲みながら待っていると、ディーが帰って来た。


 「報告します。スマトル王国の敗残兵現在の兵力は2万を切りました。敗残兵は6つのグループに分かれて大森林地帯を流れる川に沿って川下に進んでいます。現在、森の縁から200M(30km)程離れています。」

 「焚火が無ければ被害は倍ですか…。【カチート】を持つ魔道師は少ないようね。」

 「どこで【カチート】を使うかも問題です。私達が大森林地帯を進んだときは荒地で使いました。解除する時に襲ってくる獣がいないとも限らないからです。森林の中で不用意に【カチート】を使うと、障壁の中に虫等がいた場合は大惨事になります。」

 蚊がいる状態で蚊帳を張るようなもんだからな。


 「南に向かっておるなら、命運は尽きたようじゃ。

 ケイモス、念の為に大森林地帯の入口の村から海までの間を、中隊規模で4つ部隊を展開。森の監視は継続じゃ。1月程は見張る必要があるじゃろう。セリウスも亀兵隊を千人程残せば急場は対処できる筈じゃ。森の中の村に派遣した部隊は交代しながらもしばらくは駐屯させる必要がある。規模は1中隊で十分じゃろう。」

 

 「捕虜はどうしますか?」

 「戦場の片付けが終了次第、修道院の西に送る。あそこなら逃げる場所とて無い。それに将来の為に港を作ってもらう心算じゃ。…移動まではケイモス宜しく頼むぞ。」

 「では、我々は…。」

 「うむ。明日、準備出来次第、それぞれの拠点に帰る事にする。」


 終ったか…。そんな、ちょっと気が抜けた雰囲気でタバコを吸い始めた。

 「ミズキ…。スマトルは現在どうなっておる?」

 「そうよね。気になるわね。」


 姉貴が情報端末をバッグの袋から取出してテーブルに置いた。早速端末を操作して背後のスクリーンに画像を投影する。


 「やはりのう…。スマトルは幾つかの国に分裂する事になりそうじゃ。」

 サーシャちゃんが呟いた。

 そこに映されたスマトルの都市はいたる所で煙が上がっている。

 内乱か?それとも住民の蜂起か…奴隷の反乱の可能性もあるぞ。


 「頚木くびきが無くなった。と言う事ですか…。」

 「覇王が居なくなれば、その権力は無くなります。相当な圧制を強いていたのでしょう。国内に残した軍隊が反乱を企てたと考えられますね。」

 「覇王に組した者達を葬れば、一時の平和が訪れよう。じゃが、相互の軍隊に連携は望めぬ。さて、幾つ国が出来るかのう…。」


 たぶん、相互に反目しあう国が出来るのだろう。とても、再度連合王国へ進軍等出来ないはずだ。

                ・

                ・


 次の日の夕方、俺達はモスレム王都に向かう。亀兵隊達はクローネさんが率いて本拠地へと向かって行った。

 ディーと姉貴はイオンクラフトで再度明日に偵察を行って帰るから、俺と嬢ちゃん達それにイゾルデさんが部隊ごと付いてくる。

 のんびり走った心算だが、俺達が王都に到着したのはまだ夜が開けきらない早朝だった。


 王宮を警備している近衛兵にガルパスを託してのんびりと貴族街を歩く。

 早朝だから、誰にも行き会う事はない。前の世界だと、この時間は散歩する老人や犬を連れた連中に良く出会うんだが…。


 俺達の館に着くと早速サーシャちゃんが扉を叩く。

 しばらくするとどたどたと走ってきたタニィさんが扉を開けてくれた。

 「ご苦労様でした。今日帰るとは聞いていましたが、まさかこんなに早く帰って来るとは思いませんでした。」

 

 そんな事を言いながらも俺達をリビングに通して、お茶を運んでくれた。

 「もう直ぐ、姉貴達も帰って来る筈だ。姉貴が帰ってきたら朝食をお願い出来るかな?」

 「大丈夫です。昨夜の内に食材は仕入れています。…しばらくは王都に留まられるのでしょう?」

 「あぁ、少なくとも1週間はいるつもりだ。」

 

 俺の言葉を聞いて、嬢ちゃん達は嬉しそうだ。

 早速、テーブルにスゴロク盤を運んできて対戦を始めたぞ。疲れてないのだろうか?

 

 それから1時間程経った頃に、姉貴とディーが階段を下りてきた。

 リビングのテーブルに着くと、タニィさんが朝食を運んでくる。黒パンサンドも久しぶりな気がするぞ。


 「で、どうだったのじゃ?」

 「生存者は1万と少し…。どんな最後を迎えたかは分からないけど…。」

 「食べられたんでしょうか?」

 ミーアちゃんが俺を見る。

 

 「たぶんね。俺達だって大森林地帯に入るのは相当準備した。それにクローネさんという優秀な案内人がいてくれた。先行していたアテーナイ様達にはユリシーさんがいた。そんなガイドと経験者があの森には必要なんだ。俺達があの森に行く事は2度と無い筈だよ。」


 手掛かりを掴む為に行ったようなものだ。海から比較的容易にバビロンに行ける事が分かった以上、あんな危険な森は行くべきではない。


 「姉さん。これからどうするの?」

 「そうね…。サーシャちゃん達は、もう卒業ね。今年の冬からはサーシャちゃんとミーアちゃんで士官を育てなさい。私も手伝ってあげるから出来るでしょう?」

 「少しは判った気がするのじゃ。じゃが、それを教えるのは別の問題じゃ。」


 たぶん無理だろうな。サーシャちゃんは姉貴に似ている。閃きで軍を動かす。何故、そうするのかを一瞬にして悟るのだ。どちらかというと秀才肌のミーアちゃんの方が適任だ。ある意味、サーシャちゃんの作戦を解説してくれるだろう。

 そして、リムちゃんはどちらになるのか…。ロジスティックを体系化して後方支援に徹した人材となるのか、それとも今回垣間見せたカチューシャのような新兵器を効果的に作戦に取入れるのか…何れにせよ、後10年後が楽しみだ。


 「後は、歪みと連合王国の将来だな。将来像はアテーナイ様がやって来た時に考えれば良いと思うけど、歪みの方はどうなってるんだ?」

 姉貴は俺の言葉に頷くと、バッグから端末を取出した。リビングの壁に投影しながら、端末を操作して話しかける。

 

 「あれから、だいぶ時が経ちました。その後の経過はどうですか?」

 「議論は平行線になっている。誤差の計算結果が1万分の1違っておるのじゃ。」

 

 それって、どうでも良い様な話じゃないか?しかも、ある値の誤差がそれ程の確度で決定できているんだったら問題ないような気がするぞ。

 思わず姉貴を見ると、姉貴も呆れた顔で俺を見ていた。


 「そこまで誤差を詰められれば問題ないように思いますが…。」

 「確かに、外乱の変動範囲ではあるのだが、あまりにもユグドラシルの電脳が自信を持つのでな。我も数度解析を違う角度でやってみたのじゃが結果は最初の数値と同じ物になった。ユグドラシル側も同じ結果になったそうじゃ。

 今は、何故2つの計算結果が違っておるのかを議論している。」


 「それも、長い目で見れば重要な事なのでしょうが、歪みの消去にはあまり影響が無いように思えます。消去の方法は判ったのでしょうか?」

 「消去方法と時期については結論が出ている。

 先ず、時期じゃが…。歪みと歪みを取巻く周辺環境には劇的な変化を伴なう境界が存在する。この特異点と言うべき場は小さいながらも振動している。その振動は5つの振幅を重ね合わせた波形じゃ。たぶん歪みの接するそれぞれの世界の持つ波動なのだろう。2つの歪みを解析するとその内、3つは共通するが残り2つが異なっている。ユグドラシルの南の歪みとククルカンの歪みは2つの接続する世界が異なるという事になる。

 そして、この振幅は56日おきに最小となって重なるのじゃ。2つの月が重なる時刻に厳密に一致する。

 よって、歪みの破壊はこの周期に合わせて行う事が一番望ましい。接続する世界に与える影響を最も小さく出来る。

 次に、消去の方法じゃが…。現時点でお前たちが手にする武器では不可能だ。【メルダム】、気化爆弾、爆裂球…何れも出力が不足している。

 使えるのは唯一核爆弾。それも20kt以上の破壊力を必要とする。

 そして、大きすぎても問題じゃ。接続した相手世界に影響を及ぼさないとも限らない。上限は30ktまでじゃな。」


 核で吹き飛ばすのか…。だが、この世界の文明は中世グレードだ。しかも魔法世界だから科学の発展する余地は今の所皆無だ。


 「提供して頂ける訳には行きませんよね?」

 「我等であれば製造は可能だろう。だが作る技術は封印している。ユグドラシルにしてもそうじゃ。あれは持つべき兵器ではない。」

 

 「ひょっとして、探す事は可能でしょうか?俺達の時代には核は数回にわたって全人類を滅ぼす事が可能な程沢山ありました。」

 「その方法で入手する外に手はないであろう。ディーをバビロンに派遣しなさい。核物質探知器を渡す。地殻変動前と現在の地形図から旧時代の戦術核を探すが良い。」

 

 そう言って、ユグドラシルの神官は通信を切った。

 俺と姉貴が溜息を漏らす。


 「2、3訊ねたいが、良いか?」

 アルトさんの言葉に俺は頷いた。

 「核爆弾とは何じゃ?」


 やはり、聞いてきたか…。

 俺はカップのお茶を1口飲んでとりあえず気を落ち着かせる。


 「核爆弾とは…とりあえず爆弾の一種だ。姉貴や俺も実物は見た事が無い。爆裂球と異なるのは、その威力だ。たぶん10万個を一度に炸裂させるよりも破壊力がある。」

 「それだと、持ち運びも出来ないのではないか?」

 「意外と小さいらしい。重さも精々ガルパス程だ。」

 

 「しかし、何故そのような爆発力のある兵器を作ったのじゃ?」 

 「1発で王都の10倍程が破壊される。戦争を直ぐに終らせる為じゃないかな。1つの国が作ると、他の国も作る。それが広がって行ったんだ。気が着いた時には世界中の人間を数回殺せる程の数を作ってしまったんだ。」


 嬢ちゃん達は納得行かないようだな。まぁ、知らない事に越した事はない。

 「でも、探さなくちゃならないよね。ディー、お願い出来る?」

 「了解しました。他に、必要な物はありますか?」

 「台車と固定器具。それにチェーンブロックとジャッキや分解工具も必要になる。」

 ディーは俺に頷くと立ち上がってリビングを出て行った。


 「…あったわ。アルトさん。これが核爆弾よ。」

 そう言って、姉貴が端末を操作する。

 映し出されたのは、名も知らないどこかの都市だ。石作りだからヨーロッパのどこかだろう。

 20km程に広がった町並みにキノコ雲が表れると同時に衝撃波で町が一瞬にして破壊された。

 

 「今の爆発が核爆弾なのか?」

 「そうよ。たった1個で都市を破壊出来るの。そして、問題はこの後よ…。」

 石壁に残る人の影、その影を作ったものは蒸発してしまったのだろう。

 あちこちに横たわる炭化した亡骸は性別すら判別出来ない。

 辛うじて生き残った者達もケロイドの著しい手足、顔を震わせながらもがいている。

 その看病をしている者達も放射線の影響で長くは持たない筈だ。


 「何じゃこの兵器は?…このような悪魔に魅入られた兵器がまだ残っていると言うのか。」

 「たぶんね。破壊しても災いが起きる。そのまま朽ち果てるのが一番なんだけど、それも問題がありそうだ。」

 

 「姉さん。この問題はカラメル族とも一度相談すべきだと思う。彼等もこの世界の人々を見守っている。俺達がやろうとしている事。そして、まだ残っているかも知れない核兵器の対応をじっくりと話し合うべきだ。」

 「そうね。アテーナイ様なら、爆裂球の取引でカラメル族との連絡が可能かも知れない。やって来たら、相談しましょう。」

                ・

                ・


 「話の筋は理解した心算じゃ。じゃが、そのような兵器はあってはならぬ兵器だと我も思う。カラメル族との連絡は、水中で小型の爆裂球を2度使えば良い。それを使った場所に現れる筈じゃ。…どうじゃろう。我も同席したいと思うのじゃが…。」

 「お願いします。出来れば、クォークさんにも同席願えればと。」

 「了解じゃ。クォークの仕事を見て連絡しよう。じゃが、あ奴の事じゃ。明日にでも出掛けようと言い出すじゃろう。」

 そう言ってアテーナイ様が笑いだした。


 確かにその言葉の通り、次の日の朝早くアテーナイ様とクォークさんが訊ねて来た。

 「孫に話したら、直ぐにも出発しようと言いだしての。とりあえず朝を待って来たのじゃ。行き先は、まだ海が落ち着かぬゆえ、ネウサナトラムが良いであろう。」

 クォークさんの方をポンポンと叩きながら玄関先で俺達に説明してくれた。

 ちょっとクォークさんは恥ずかしそうに下を向いている。


 「イオンクラフトで行きましょう。直ぐに村に着けます。」

 留守をアルトさんにお願いすると、俺達は姉貴の運転するイオンクラフトで俺達の家に向かった。

 「話には聞いていましたが、素晴らしい乗り物ですね。」

 そう言いながら荷台の手すりを掴んで下を見ている。

 「余り、身を乗り出さないでくださいよ。」

 俺の注意も余り聞いていないようだ。ベルトにロープを結んでいるから、落ちはしないだろうけどね。


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