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#043 狩猟解禁日ってお祭りなのか?

 そして狩猟解禁の当日の朝、俺達の家に全員が集合した。

 俺と姉貴は迷彩シャツと迷彩パンツに軍用ブーツ。セリウスさん達は革製の服を着込んでいる。ジュリーさん達魔道師も丈の長いスカートではなく今日は厚手の綿で作られたパンツとブーツだし、ミーアちゃんは何時ものインディアンガールのスタイル。

 何故かしら剣姫もミーアちゃんとお揃いなのがちょっと気になるぐらいだ。

 

 全員分の食事を作れる大型の鍋や食器を魔法の袋に入れて姉貴のレスキューバックに入れてあるし、食料や水は同じように俺の腰のポーチに入れてある。

 全員の装備は、何時もの通りで変わらない。俺も採取鎌を持ってるし、姉貴も俺の手作り槍を持ってる。まぁ、杖代わりだからね。


 谷を下りてイカダを作ることになるので、ロープが沢山必要になったが、これはセリウスさんが持ってくれた。

 剣姫さんは長剣を何時もより少し上に担いでいる。あれなら歩きにくい事は無いだろう。


 「皆、忘れ物はないですね。それでは出かけますよ~」


 姉貴の、幼稚園の遠足みたいな声を合図に俺達は家を出た。通りに出ると、石像の口に鍵を差込み、石畳の道を林で閉ざす。

 西の門の方向に8人で歩いていくと、段々と通りを歩く人が多くなっていく。そして、通りの左右に色んな屋台が出ている。肉や小魚を焼くいい匂いが辺りにたちこめているから、ミーアちゃんやミケランさんがソワソワしてる。


 屋台には傷薬や簡単な罠等を売る店や、お弁当まで売ってる所もある。

それらの屋台で装備や、食料調達する者と売り子の交渉で段々と辺りは騒がしくなってきた。


 西の広場に行くと、そこにはギルドの臨時出張所があった。

 ここで、登録した者のみが山での狩りを許可されるのだそうだ。登録料は村の収入になるし、万が一の事故が発生した場合でも、たとえそれが行方不明であっても、誰がそうなったのかをギルドが知る事が出来る。

 ハンター全体の管理を行なうためには必要なことなのだろう。

 早速、セリウスさんに連れられて、臨時出張所のカウンターに行く。そこには、キャサリンさんの妹のシャロンさんがいた。


 「8人だ!」


 簡潔に人数のみを伝え、ギルドカードを8枚シャロンさんの前に置く。そして、銀貨を1枚。鑑札料だと言っていたけど、これは剣姫さんが「これを使え!」って朝セリウスさんに渡していた。


 「はい。登録終了、……13番です。これは、もう知ってますよね」


 「うむ」と言いながらセリウスさんは、俺達のカードと木の札、そして黒と白の球を受取った。


 「あちらにテーブルがあります。まだ時間がありますから少し休みましょう」


 ジュリーさんが指差したテーブルは、長椅子と木の小さなテーブル席だった。テーブルには木の札が立っている。

 どうやら、予約席みたいだ。何時の間にかジュリーさんが予約してきたみたいだな。

 

 テーブルに移動すると、早速ミケランさんがミーアちゃんを連れて屋台に出かけていった。俺もセリウスさんに連れられて、お茶を人数分確保しに出かける。


 辺りを見てみると、同じようなテーブルが10個以上出ており、それぞれ大型の武器を持ったハンター達が座っていえる。

 みんなガタイがいいなって見ていると、近くのテーブルから大男がやったきた。どう見ても2mは越えてるし、体重は100kgを越えていそうだ。


 「セリウス、久しぶりだな」

 「アンドレイか・・カレイム以来になるか……」


 どうやら、セリウスさんの知合いみたいだ。しかしデカイ……。そして背中には巨大な剣を背負っている。


 「ところで、お前の所にいる小僧と嬢ちゃんは、……本物か?」

 「あぁ、冗談を信じて打ち勝ったようなところはあるが、本物だ。それに、タグの大軍を相手にしても引けを取らん。

 正直な話、俺より実力は上だ。お前もつまらんチョッカイをかけないほうが良いぞ。グレイは簡単に捻れてたそうだ」


 「そうか……。本物とはな。王都では偽者を付ける輩もいるそうだ。実力で直ぐにばれるのが分かりそうなものだが」

 「坊主。俺は、アンドレイという。黒8つだ。猫族のカルミアとエルフ族のジャラムとチーム『狼のキバ』を組んでいる。よろしくな」


 握手を求めてきた手は俺より遥かに大きい。グローブみたいな手だ。


 「アキトと言います。黒1つで、黒2つの姉ミズキと猫族のミーアとチーム『ヨイマチ』を組んでいます。こちらこそよろしくお願いします」


 俺の手は、万力みたいにガッチリと握られた。

 アンドレイさんは、剣姫さんに軽く手を上げて挨拶すると、仲間達の待つテーブルに去っていった。


 改めてセリウスさんに狩猟参加者の話を聞くと、黒の高レベルが多いとのことだ。赤レベルの参加者は黒レベルの者が必ず同行しているらしい。


 「それにしても参加者が多いですね」

 「あぁ、100名は越えるはずだ。それと、獲物運びの村人だな。さっき貰ったこの球だが、……爆裂球の一種だ。

 爆発せずに煙を出す。白は重傷者発生。黒は獲物運び求む。の印だな」


 「参加者が多いのはこの狩りで得た獲物が、王都の冬の食肉に供されるためじゃ。冬越しの肉が王都に入る。商人はその運送と販売で儲けが出る。

 村人は、この期間のハンター滞在で村は潤い、ハンターは冬を越す資金を得られるわけじゃ。良い考えだとは思わぬか」


 姫さんが少し補足してくれた。確かに良いシステムだけど、獲物次第ってところがね。最も狩りで獲物も獲られないような腕ならば、それも問題があるけど獲物の数は大丈夫なんだろうか?


 そんな時にミケランさん達が帰ってきた。両手にいっぱい戦利品を持っている。いったいこの人はこれから何をするのかを理解しているのだろうか? 俺はミーアちゃんに貰った肉の焼き串を齧りながら、そんな事を考えてしまった。


 バアァーン!!っと大きな音が鳴り響く。

 皆一斉に音のした方向を見ると、仮設のお立ち台に老人が立っている。


 「皆の衆。今年も季節が巡ってきた。先ずは、豊猟を水神様に祈るとしよう……」


 皆一斉に湖に向かって右手を胸に当て、軽く頭を下げる。俺達も同じように真似をする。


「皆、祈ったな。……それでは、本日より20日間、国王に代わってアクトラス山脈での狩猟を許可する」


 ウオォォォーーーー!!

 老人の言葉が終わると、皆が一斉に叫び声をあげて、西の門を我先に出て行く。

 村人や、商人達がそれを声援で見送る。

 

 凄いや……。って見とれてると、俺達だけがポツンと残されていた。


 「さて、俺達も出かけるか?」


 セリウスさんが俺達を眺めながら言った。もちろん全員が頷いて席を立つ。


 「忘れ物はありませんね?」


 キャサリンさんが注意してくれるけど、もちろんあるはずが無い。

 西門を出る時に俺達は後を振返って見送る人達に手を上げた。 

 ウオォォーって歓声と共に皆が手を振ってくれる。……やっぱりお祭りなんだな。って思いながら皆の後を付いて行った。


 門を出て、山に向かう坂道を歩く。しばらく歩くと山裾の森に入る。 小道の傍の大岩が目印の休憩場所には先客がいた。

 アンドレイさん達の一行だ。


 「まだ、歳では無いと思うが。……こんなところでもう休憩か?」

 「お前達の行き先が気になってな。待っていたのさ」


 「教える事は出来んが、去年とは場所を変える。もっと東に移動して猟をするつもりだ」

 「欲の無いやつだ。俺達はそこを目指すつもりだ。お前達が行くとなれば事前に調整しようとしたが無駄足だったようだ」


 アンドレイさん達は立ち上がると、森の小道に消えて言った。


 「さて、俺達も急ごう。今日はやることが沢山ある!」


 セリウスさんに急かされて俺達も森の小道に入る。森を抜けて今度は南に尾根を周るようにリオン湖を見下ろしながら東に進む。しばらく歩くと、グライトの谷を見下ろす岩棚に出た。

   

 岩を伝いながら谷底に下りていく。真直ぐに下りる事は出来ず、右に左に下りられる場所を確認しながら下る事になったのでそれだけで1時間近く掛かってしまった。ようやく谷底に下りて上を見上げると、グライトの谷はV字よりU字に近い。よくもあの崖を下りてこられたものだ。


 キャサリンさんに聞くと、ずっと上に行けば楽に下りられるが、それだと後1日程山を歩く事になるとの事だった。姉貴の作戦を遂行するためには、やはりここで谷を下りる必要がある。

 早速手分けして作業を開始する。

 

 俺と姉貴それにセリウスさんとミケランさんは、イカダ用に谷底の立木の伐採と湖への運搬。


 昼から夕方までかけて何とか10本以上の運搬を完了した。姉貴の魔法で光球を出してもらい、その明かりの下でイカダを組む。

 数時間程掛かって横幅3m、長さ5m程のイカダを2個作ることが出来た。材料が余っているから、獲物の量によっては更に小型のイカダを作ることも出来そうだ。


 へとへとになって剣姫達の所に戻ると、食事が出来ていた。

 むさぼるようにガツガツと食事をかきこみ岩の間で眠る。焚火の番はもちろん交替だ。最初はミーアちゃんとキャサリンさんその後は剣姫達だ。俺の番は明け方近く、しばらくはゆっくりと眠る事が出来る。


 体を揺り動かされて、俺は眠りから覚めた。急いで姉貴を起してセリウスさん達と交代する。

 焚火に薪を追加して火の勢いを増す。姉貴はポットを取り出して、お湯を沸かした。

 姉貴がシェラカップを俺に渡してくれた。コーヒーのいい香りだ。そういえば、ずっと飲んでなかったような気がする。


 「しばらくぶりだね。アキトと焚火を前にコーヒーを飲むのは……」

 「あぁ、もう無いのかと思ってた。しばらくぶりで飲むと、やはり苦いね……」


 「でも、眼がさめるでしょ。今日は、忙しいよ。頑張ってね」


 腰のポーチから銀のケースを取出しタバコを1本取り出す。焚火の火で火を点けゆっくりとタバコを吸う。まさか異世界のこんな場所で一服するとは1年前には想像すらしなかった。

 でも此処に来て数ヶ月……。なんか自分でも馴染んでるのが分かる。


 「ギョェー……」おかしな声で鳥が鳴き出した。

 もう直ぐ夜明けだ。

 そんな鳥の声に眼が覚めたのか、皆が起き出してくる。


 「「おはよう。」」って挨拶して、代わる代わる湖の岸辺に顔を洗いに行く。冷たい水で顔を洗うと、それだけで気持ちがいい。

 

 キャサリンさん達が作った朝食を食べていると、姉貴が今日の予定を話し始めた。


 「今日の予定を連絡しますから、良く聞いといてくださいね」


 そんなことを言いながら俺達を眺めてる。


 「獣達がこの谷になだれ込んでくるのは昼過ぎになると思います。そこで、午前中に簡単な柵と溝を掘ります。

 これは、少しでも獣の暴走速度を軽減するためと流した血潮が谷の下に流れないようにするためです。

 湖を汚したくありませんからね。昼は携帯食料と水筒の水で我慢してください。柵と溝が出来次第、配置についてもらいます。配置は柵を造りながら説明します」


そして、朝食を終えた俺達は迎撃準備を開始した。


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