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#426 最後の増援部隊

 


 着地と同時に体を一旋する。4本の腕に持った得物が周囲の敵兵を薙ぎ倒す。

 不思議な事に、俺の視覚が360度の全周囲に広がっている。

 …いや、見ると言うよりは感じる事が出来る。それは気配を感じると言うよりも、視覚に近いものとして感じる事が出来るのだ。まるで目が前後左右にあるような感じだ。

 それでいて、混乱する事無く俺の脳はその情報を処理し、それに見合った動作を行なっている。

 まるで、別種の生き物として生まれ変わったような感じがする。


 軽いリズムで敵兵を倒していくと俺を囲む敵兵が距離を置く。そこを亀兵達が矢を浴びせ、槍で突く。

 

 アテーナイ様に敵が押し寄せているのに気がつき、急いで加勢に駆け出した。

 数人ほどを斬り刻み、アテーナイ様のところに行くと、アテーナイ様が俺の背中に自分の背中を付けるようにして敵兵を相手にしだした。


 「こうすると、2つの頭に6本の腕…、そして足が4本になるのう…。敵兵には魔物に見えようのう。」

 そんな事を言いながら戦っているんだから、まだまだ余裕はありそうだな。


 「俺の国に三面六臂の奮戦という例えがあります。確かに腕は6本ですが、頭が1つ足りません。これ位では、後の世に語り継がれる事にはなりませんよ。」

 「残念じゃのう…。まぁ、見てる者には、我等が何人に見えるかは分からぬが、だいぶ闘い易くなった事に相違はない。」

 そんな話をしながらも、敵兵を次々と葬っていく。


 数十m程先で爆裂球が広範囲に炸裂すると、俺達に押し寄せてくる敵兵の数が急に減ってきた。

 俺達は背中合わせの体制から5m程の距離をあけて広範囲に敵兵を倒していく。

 10人程刈り取ったところで、2人とも示し合わせたように亀兵隊の前列の後ろに入っていった。

 俺達は少し休憩だ。増強された亀兵隊にしばし任せよう。


 後ろに下がると、リムちゃんが俺達の所に掛け付けて来た。

 「はい!」って、お茶のカップを渡される。

 俺がお茶を受取ろうと左腕の1本を伸ばすと、もう1つの左腕も吸い込まれるように伸ばした腕と重なって、1つの左腕になった。右腕を見ると、何時の間にか1本になっている。


 「さても、不思議な技よのう。分身とは異なるようじゃな。」

 「今夜、初めて使いました。カラメルの長老に手ほどきを受けたのですが、中々覚えが悪くて…。」

 弁解がましい事を言い出した俺をアテーナイ様がニコニコしながら見ている。

 

 「カラメル族より教えを受けた者等、婿殿達が初めてじゃろうて。確かに我等には無理な技じゃ。…ところで、婿殿。あれで戦っておった時にちらりと婿殿を見ていたのじゃが…、後を見る事が出来るのか?」


 これだから、達人は困るんだよな。あの乱戦の最中に俺の戦う姿を見ていたんだろう。体は敵を切り刻みながら、意識は俺を冷静に見ていたって事だよな。

 改めて、アテーナイ様の人間離れした所を見た感じだ。


 「はい。俺の周囲を全て見ていました。目で見るのではなく、気配を感じる感覚が研ぎ澄まされて、まるで全てを目で見ているような感覚で戦っていたのです。」

 俺はアテーナイ様にタバコを差し出しながら、そう言った。

 「やはりのう…。確かに我も、何度かそのような感覚を覚えた時がある。じゃが、それ程長くは無かったし、やはり気配を超えるものでは無かった。あの感覚を超えた時…、そういう事か。」

 すまんのう。なんて言いながらタバコに手を伸ばし、2人でちょっとのんびりしてる。

 アテーナイ様にも、あの感覚がおぼろげながら分かるという事か?

 人間でそこまで行ったら、大したものだぞ。アテーナイ様も気の使い方を自己流で覚えたのかも知れないな。

               ・

               ・


 「此処においででしたか。敵の攻勢が中断しました。現在、部隊の編成と補給を継続中です。」

 イゾルデさんが俺達を見付けて教えてくれた。

 

 「ホォ、それは何よりじゃ。という事は…。」

 「西の攻勢が失敗して、東に部隊が雪崩れ込んだと思います。」

 「敵は西の拠点を失ったという事じゃな。後はこの南を何とかすれば良い訳じゃ。」


 「サーシャもこちらに部隊を移動すると言っていました。東には装甲車と正規兵2千。それに西に逃走した兵を狩るための亀兵隊千を残すと連絡がありました。」

 まだまだ、装甲車を利用する腹だな。

 港の西に装甲車と大砲を配置すれば再び西に部隊を移動することは出来なくなる。

 

 「どれだけの大砲を移動してくるかですね。後は補給ですか。敵軍の補給は皆無ですが俺達も今夜の戦でだいぶ矢や爆裂球を消費しています。」

 「今夜の内に、荷馬車が来るわ。そして、明日にはモスレム王都の民兵もね。」

 

 「まぁ、戦力が増えるのは良い事じゃ。じゃが、ネズミがネコを噛む例えもある。士気の低下には十分心するのじゃぞ。」

 そう言ってアテーナイ様が、ともすれば浮かれそうな俺達に注意した。


 少しずつ東の空が明るくなってきた。

 もう少しで、長い夜が明ける。そして、昨夜の惨状が俺達の目に少しずつ明らかになってきた。

 そんな、悲惨な迎激戦の有様を見ていると、伝令のカルート兵がやって来た。


 「アキト殿ですね。あの立木に作戦本部の旗が立っています。1度集まってください。」

 そう伝えると、誰かを探しに兵達の中へと消えて行った。


 笛を使ってバジュラを呼ぶと、早速作戦本部に向かう。

 解体して運んできたのかな?風林火山の旗がパタパタと靡いている数張りの大型天幕の一際大きな天幕に、バジュラを下りて入った。


 「やってきたな。朝食が未だじゃろう。先ずは食べることじゃ。」

 大型テーブルの端に座ると直ぐに従兵が黒パンサンドと濃いお茶を運んで来た。

 

 次々と主要な連中が天幕に入ってくる。

 あちこち返り血で汚れているが、怪我はしていないようだ。

 従兵が次々と朝食を運んでくる。


 「どうやら、揃ったようじゃな。ケイモスはカリストの港で陣を指揮しているから、此処には来れぬ。

 先ずはご苦労であった。カリスト西の部隊は計画通り東の部隊と合流しておる。

 今後の我等の作戦じゃが、その前に状況を説明する。」

 サーシャちゃんが姉貴を見て頷いた。

 従兵が入口を閉ざして人の出入を制限する。そして別の従兵が部屋の光球を消すと、サーシャちゃんが席を移動する。

 姉貴が情報端末を操作すると、サーシャちゃんの後ろのスクリーンに科学衛星が撮影した画像が写し出された。


 「連合王国の状況を説明します。」

 そう言って姉貴がスクリーンの前に矢を持って立つと、情報端末の操作はディーに変わった。


 「先ずは、東に上陸した陽動部隊は殲滅出来ました。大型獣がかなり上陸した為、ネイリーの屯田兵、テーバイ正規軍、遊牧民の遊撃隊、それに亀兵隊に損害が出ています。現在詳細を確認中ですが、約1割を越える損害のようです。

 アトレイムの西に上陸した陽動部隊も殲滅しました。最初の浮遊機雷の攻撃で大型獣を削減出来た事で、被害は大きくはありません。


 そして、カリストですが…。

 カリスト市内の現在までの被害は約1割。これは大蝙蝠の落とした爆裂球によるものです。カリスト市に駐在する屯田兵と民兵それに市民は約3千人。今もって士気の低下はありません。

 カリスト市から4M(600m)離れて、17台の装甲車と50門の大砲それに、ケイモスさん配下の正規軍2千人が南北に陣を張っています。

 敵軍が再び西に向かうには北に向かうか、カリストの港を通らねばなりません。万が一、カリストの港を移動する事に対する備えと理解してください。

 カリストの東には現在移動中の部隊を含めて正規軍6千、亀兵隊2千、大砲100門、それに民兵2千とハンターが100人です。


 西軍が合流して敵の東軍の戦力は10万を超えています。昨夜の激戦でも失った兵は3万にも満たないのです。そして、これを見てください。」


 姉貴の言葉ににディーが端末を操作すると、海に浮ぶ艦隊が写し出された。

 急襲船と支援船が艦隊の周囲を取り囲み、その中に多目的船と商船が多数浮んでいる。

 

 「艦隊の規模は軍船100、商船が50です。そして、スマトル王国での軍船及び商船の建造は中断しています。この艦隊が最後の艦隊となるわけですが…。

 昨夜の艦隊戦で連合王国の武装商船が2隻被害を受けました。敵の被害は沈没4、炎上7という事ですから1割にも達しません。

 そして、この艦隊が向かってきているのがカリストです。現在の速度から明日の夕刻にはカリストの沖に姿を現します。」

 この艦隊ですが、明らかに今までとは異なります。

 今までの艦隊は軍船を距離を置いて列を組んできました。ところが、この艦隊は多目的戦を中心に円形に艦列を作っています。このため、最外郭を守る支援船の攻撃を受けてしまいました。」

 そこで姉貴は言葉を切った。


 「少しは考えたという事なのか?…しかし2隻の武装商船の損害は痛い話だ。」

 セリウスさんが呟く。

 「そうではない。…やって来たのじゃ。スマトル国王自らががの…。」

 サーシャちゃんの言葉に全員がサーシャちゃんに注目した。


 「このいずれかの多目的船に乗っておる。じゃが、上陸時に多目的船に乗っているとは考え難い。

 われらの海軍の攻撃を退けてやってくるのじゃ。さぞかし士気は上がっておるじゃろう。そして彼等の向かう地はカリストの東じゃ。だいぶ減ってはいるがそれでも10万はおるのじゃ。自らの戦略を駆使すれば今までの損害は容易に挽回出来ると考えておるじゃろう。」


 「無傷で上陸されたら敵は更に膨らむし。そして物資もそれなりに支給されると敵の殲滅が困難になりそうね。」

 「我は上陸させる心算じゃ。まぁ、どんな風に上陸させるかは色々とあるがの。」

 イゾルデさんの言葉にサーシャちゃんが答えた。


 「洋上で攻撃した場合、我等の海軍力は脆弱じゃ。武装商船を全て失うような戦になっても敵を全て沈めることは無理というものじゃ。

 なら、あえて上陸させて殲滅した方が良い。上陸間際なら浮遊機雷や潜水艇の攻撃も期待出来る。

 そして敵軍じゃが、ディーの偵察で面白い事が分かったぞ。」


 サーシャちゃんの言葉にディーが端末を操作して敵軍の配置を地図に落としたものを投影した。

 従兵が急いでそれを元にテーブルの上の作戦地図に敵軍の駒を移動し始める。


 「だいぶ東に移動しておる。我等の陣からおよそ20M(3km)の距離を取っておるが、これは大砲の飛距離を考えての事じゃろう。

 そして、我が面白いと思ったのはこれじゃ。」


 席を立って、スクリーンに歩くとボルトケースからボルトを取り出してそれでスクリーンの一角を叩く。

 問題なのは取り出したボルトが爆裂球付きのボルトだという事だ。

 それで、トントンとスクリーンを叩くから皆がはらはらしながら見守っている。


 「良いか?…敵の部隊の一部が森に入っておる。高々10M(1.5km)程じゃが、あの森の先行偵察をしているようじゃ。」

 「サーシャ、我もその点は面白いと思うが、そのボルトは止めておくのじゃ。ミズキから矢を借りるが良い。」


 アテーナイ様の注意でサーシャちゃんはちょっと赤くなりながらボルトをケースに仕舞いこんだ。

 皆がほっとした顔付で、地図を改めて見ている。


 「イザとなったら逃げる場所…いや、反攻作戦を計画するのに適した砦の建設地を探しているのか?」

 「我もそう思う。森には獣が豊富じゃ。変わった森じゃが食べられるものは多いとクローネが言っておった。食料不足も少しは解消出来る。」

 

 「それは不味いんじゃなくて?」

 「そうでもない。あの森の恐ろしさが分かるのは、更に森へ入り夜を迎えた時じゃ。今の位置では他の森とそれ程変わらぬ。」

 そう言って席に座ると、お茶を一口飲んだ。


 「さて、これからの作戦じゃが、3段階に進める。

 最初は敵の削減じゃ。数の脅威は依然として存在する。

 次に敵の増援部隊への攻撃じゃ。これは上陸間際を狙う。

 最後に敵の追撃じゃが、これは敵を全て大森林地帯に追いやり、森から出る部隊を殲滅するものじゃ。

 基本的には前と変わらぬ。敵の上陸部隊の対処が入るだけじゃ。」


 そう言って、立ち上がると作戦地図に手を伸ばす。

 「配置はこのようになる。

 敵の削減は大砲で良い。この位置に横一列に100門を並べよ。

 運用はクローネに任せるが、なるべく散発的に、万遍なく榴弾と火炎弾を放つのじゃ。そして、この位置だけは撃ってはならぬ。」

 地図に大砲の駒が10個並ぶ。だいぶ東に偏ってるな。

 散発、万遍無くって、またサイコロを使うんだろうか?

 

 「正規兵は、明日の夕刻には次の作戦を行なうので、それに備えて配置する。場所は此処じゃ。2段に配置して前衛じゃ。後衛にはモンド達に任せる。たっぷりとボルトを持たせるが良い。

 亀兵隊はミケランが大砲の護衛をする。セリウス達はその東に位置せよ。機動戦となる。リムは最東部じゃ。直ぐ東は森になる。援護はアルト姉様とミーアに頼むぞ。

 ハンター部隊は此処じゃ。万が一にもこの森を北に向かわれると不味い。」

 

 俺達は東か、そしてハンター部隊は大森林の森の入口にある村で待機だな。確かに北に向かっても、出口はあの村になる。森の獣の襲来に備えて村の囲いは頑丈だ。救援が向かう間なら持ち堪えてくれるだろう。


 「ところで、ミズキよ。あの歌は良いのう。何と歌っておるのか意味が分からぬが、みなの士気が段々と上がっていったのは覚えておる。

 我も曲は覚えたが、どう歌うのか分からぬ。簡単に我等に分かるように書いてくれぬか?」

 「私も、欲しいですね。たぶん皆が欲しがりますよ。そして、あの歌の意味も教えて欲しいところです。」

 

 まぁ、これは姉貴に任せておこう。最初に歌ったのが姉貴だからね。 

 でも、あれって恋人を思う歌だよな。あれで士気が上がるのはどういう訳だろう?

 


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