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#421 イゾルデさんと一緒



 カリストの東に広がるなだらかな丘陵地帯に、スマトル軍は低い柵を作って陣を張っていた。 

 その陣に数十m程近付いて、襲撃部隊の200人が投石具で爆裂球を投付けて素早く東に逃走する。最後尾のディーが2度レールガンで敵軍を狩り取った。

 200個の爆裂球と2回のレールガンで敵軍の損害は無視出来ぬものだったのだろう。直ぐに俺達を追撃する一団が現れた。

 追って来たのは、大トカゲに乗るドラゴンライダーと俺達に呼ばれている連中だ。およそ千人位だろう。

 あまり先を急がずに、追い掛けて来られる位に速度を調節し、後を走る亀兵隊がたまに爆裂球を落としていく。

 そんな感じだから、追撃部隊は益々俺達を追い掛けて来た。


 森に入る手前で隊列を2列縦隊に変更する。

 「ラケス。2M(300m)進んで大きく左に向きを変え、6M(900m)ほど進んだら森を脱出だ。森を抜けるのは夕暮れ前だぞ!」

 「承知!…そのまま、作戦本部まで駆け抜ける。」


 森の入口付近でディーを待つ。

 直ぐに俺の横を襲撃部隊が駆け抜けて、最後尾のディーがやってきた。

 「このまま、森を進んでくれ。出来れば5kmは進ませたい。そして、これで迷子にさせるんだ。」

 そう言って5個の爆裂球をディーに渡す。

  

 直ぐにドラゴンライダー達が姿を現した。トカゲに乗っている割には結構速度があるんだよな。

 敵の接近を見計らって、爆裂球を2個投付けると、ディーと共に森に逃げ込んだ。

 味方は真直ぐ進んだ筈だ。草が倒れこんでいるからおおよその方向は判る。

 俺達を追い掛けてくるドラゴンライダーが森に入ったのを見定めて、後ろに爆裂球を投げる。

 

 「前方50m程で味方部隊の方向転換が行なわれた痕跡があります。」

 ディーの言葉に、俺はその場所を爆裂球2個を使って痕跡を消す。

 そのまま、200m程進んだ所でディーに後を託した。

 これ以上進めば、俺だって危険すぎる。急いで大きく左に回るような形でディーから離れていった。

 遠くで炸裂音がする。ディーは計画通りに作戦を進めているようだ。

 

 森への突入点から、北に2km程離れた所に出ると、そのまま北へ進路を取って作戦本部を目指す。


 作戦本部は小さな林に囲まれた中にある。その手前に焚火が幾つか作られていた。

 その焚火の1つで松明が振られている。

 その松明を目指してバジュラを走らせた。


 「ご苦労様です。隊長が待っています。」

 そう言って、焚火の1つを指差した。

 「判った。もうしばらくするとディーが来る筈だ。パイプを吸ってから同じように合図をして欲しい。」

 若い亀兵隊にそう言って、俺は教えられた焚火に歩いて行った。


 「ご苦労、上手くいったようだ。ドラゴンライダーが何人森を出られるかが楽しみだ。」

 そう言って焚火の傍に座ると、一同から笑いが起こる。

 「中々の戦上手。我等に負傷者はおらぬ。また、明日も同じ手で行くのか?」

 「それはサーシャちゃん達の作戦次第だ。全体を見てくれるから俺達はその範囲で自由に戦える。勝手に戦えば命がない。それ位敵は数が多い。」

 

 そう言って、タバコに火を点ける。

 「サーシャ様の戦上手はテーバイとカナトールで見てきた心算だ。というより、彼女達に教えたミズキ様が凄いのだろうがな。」

 「姉貴は、サーシャちゃんを天賦の才だと言っていたよ。」

  

 「それは認める。…少なくとも被害はそれ程出ていない。そして、敵軍への打撃は大砲によって相当出ている筈だ。 

 だが、敵の厚い板で覆った荷車に乗せられたバリスタは脅威だ。セリウス殿も手こずっておられる。」

 次は明日の戦と割り切っているのだろう、渡されたカップは蜂蜜酒だった。焚火のポットからお湯を注いで飲み始めると、周囲から笑い声が上がる。

 

 「余り、飲めない方だからね。明日、俺だけ寝てる訳にはいかないだろう。」

 その言葉に周囲の笑いが大きくなる。

 「確かに、アキト殿の言うとおりだ。お前達も酒は1杯だけにしておくのだぞ!」

 ライザムが大きな声で周囲に怒鳴った。

 その声に色々と答える亀兵隊がいるのをみると、この部隊の統制は良く取れているようだ。

 叱責であって、その実は明日への備えである事が良く判っているな。

 中々良い部隊を使わせて貰えるぞ。

 

 「ただいま、帰着しました。」

 ディーが戻ってきたようだ。早速敵のその後を聞いてみた。

 「森の中に約5km程誘い込んだ後、大きく左へ進路を取りその後銛の上空を北に向かいました。進路変更時刻は夕暮れ時。私の飛行は森の木々で確認は出来なかったと思います。途中、爆裂球付きの矢を場所を変えて撃ちました。敵の展開を2度確認。彼等は方向を見失ったと推定します。」


 「空を飛ぶ!…そういえば、我等の横を滑るように移動していた。やはり、妖精族の生き残りと言う噂は真であったか。」

 ラケスが考え深かげに呟いた。


 実際は違うけど、そういう事で納得できるならその方が良い。ディーもこの世界の一員として認めてもらえるからね。

 

 「俺は作戦本部に行ってくる。明日の指示もあるだろうからね。出来るだけ難度の高い奴が回ってきそうだから、矢と爆裂球の補給は済ませておいてくれ。」

 そう言ってディーと共に作戦本部に歩き出した。

               ・

               ・


 「流石、婿殿。セリウスが悩んでいたドラゴンライダーを半分間引いてくれたの。」

 作戦本部に入ったとたん、アテーナイ様がにこにこ顔で出迎えてくれた。

 何時もの席に座ると簡単に結果を説明する。

 そして、テーブルを見るとミーアちゃんの姿が見えない。

 訝しげに姉貴を見ると、サーシャちゃんが答えてくれた。

 「大森林の森を飛び出してくるドラゴンライダーの討伐に出掛けたのじゃ。アキトを追いかけたドラゴンライダーの数は約千人。それだけおると少しは大森林を生き延びて出てくる輩もおるじゃろう。それを殲滅する為に出掛けておる。」


 「でも、夜の大森林が危険だと思わなかったのかしら?」

 「先に突っ込んでいく者がおればそうは思うまい。まんまと手に乗りおったのう。」

 イゾルデさんとアテーナイ様がそんな事を話している。


 「で、俺達の次の任務は?」

 そう言うとサーシャちゃんがおいでおいでをしている。席を立ってサーシャちゃんの前に行くと、サーシャちゃんの隣に姉貴がやってきた。


 「今夜、再びじゃ。…この地に来る時に敵軍を爆撃してきたと言っておったな。それをこの陣に行なって貰いたい。ここは、敵の大蝙蝠の集結地じゃ。毎晩我等を悩ますなら、こちらもやって置きたいと思うての。」

 「アキト、出来る?」


 場所はカリストの東3km程の場所だ。

 問題は、数万の敵軍が陣を張る上を行かねば目的地に到達出来ないという事だ。

 ディーにイオンクラフトの飛行距離を聞くと、十分往復出来ると言っている。

 となれば、後は飛行コースと襲撃時間だな。


 「襲撃は明日の夜明け前。少なくとも大蝙蝠はここに戻っているだろう。そして、こんな感じで襲撃する。」

 作戦地図に飛行コースを指で示した。

 「爆裂球は集束爆裂球を使う。最低4個はいるぞ。その外に爆裂球を20個程欲しい。この軍の上にばら撒いてくる。」


 姉貴とサーシャちゃんが同時に頷いた。

 「直ぐに用意させる。」

 サーシャちゃんが伝令に準備を指示する。俺もディーを伝令に走らせる。ラケスに5人伴ってイオンクラフトに集まるようにと…。


 「すまんのう…。敵が多くて中々思うように戦が出来ぬ。本来は輜重部隊のリムにまで砲兵の指揮を取らせている始末じゃ。」

 「総指揮官が弱気じゃダメだよ。幸い、ここは身内だけだけど、直ぐに末端の兵隊にまで伝わるからね。サーシャちゃんは姉貴のように何時もここでにこにこしていれば良い。我の思うとおり進んでおるって顔をしてれば良いんだ。

 それで、ここに報告に来た士官達は安心する。俺達が心配しても上は全く気にしていない。これは作戦の一環なんだ、って思ってくれる筈だ。

 そして、どんなに部下が苦戦しても、たとえ亡くなろうとともその態度は変えてはいけない。指揮官が涙を落とすのは戦が終った後で良い。」


 「やってみるのじゃ。…あと、もう少しなのじゃから…。」

 そう言って小さな笑顔を俺に向ける。

 うん、それで良い。俺は大きく頷いて席に戻る。


 「婿殿、すまんのう…。我も付いていながら、中々孫の気持ちに気付かなんだ。」

 「いや、サーシャちゃんもここにアテーナイ様がいるから頑張っているんですよ。」

 「ほんとに、まだ子供なんですから…。」

 イゾルデさんの尺度で人を測ったら、子供ばかりになりますよ。とは言えなかった。

 テーブルの端で3人でタバコを楽しむ。


 「でも、敵の上空を飛ぶんでしょう。ちょっと面白そうね。私も付いていくわ。」

 突然、恐ろしい事をイゾルデさんが言い始めた。

 「危険ですよ。それに結構揺れますし…。」

 「大丈夫よ。アルトさんも乗れたんでしょう。」


 遠くで話を聞いていたサーシャちゃんが首を振っている。諦めろって事かな…。

 「確かに、1度は乗ってみるものじゃ。空を飛ぶという事はそれ程機会も無いぞ。」

 アテーナイ様も助けにはならない。

 

 「判りました。では、なるべく身軽で目立たない服装でお願いします。そして、太いベルトを巻いてください。それにロープを通して万が一にも落ちないようにします。」

  

 「了解!…準備出来たらイオンクラフトに行くわ。」

 そう言って天幕を出て行った。直ぐにでも支度しそうな感じだな。

 「たまには、イゾルデのわがままに付き合ってやるのも良いじゃろう。我が思うにそれ程危険は無いと思うのじゃが…。」

 「確かに、危険性は殆んど無いですが、高級仕官がチョコチョコと敵陣に出掛けるのもどうかと…。」

 

 俺の言葉にアテーナイ様が笑い出す。

 「その言葉は随分昔に聞いた覚えがあるぞ。何時だったかのう…。」

 「ノーランドとの戦の折じゃ。まだ先代の国王が存命だった。嫁いで直ぐのお前が1隊を率いて敵軍に難度も切り込んだ時に、そう言っていたのを思い出したぞ。」


 シュタイン様がテーブルの端から教えてくれた。

 良う覚えておる、なんてアテーナイ様がジト目で見ているけど、テーブルの端と端にいるからシュタイン様は安心しているようだな。


 「まぁ、邪魔にはなるまい。1度出掛ければ満足する筈じゃ。」

 そんなアテーナイ様の言葉に俺は席を立った。少なくとも大鎧は脱いでおかなければ…。


 姉貴の従兵に案内された天幕で大鎧を革の上下に着替えると、M29とグルカを背中に差してイオンクラフトへと歩いて行く。

 そこには、すっかり準備の出来たイゾルデさんと話し込んでいるラケス達がいる。

 俺に気が付いて、集まってきたところで作戦を伝える。


 「これで、敵に爆撃を加える。使うのは集束爆裂球だ。何個集まった?」

 「荷台に4個積んである。それに爆裂球が1人6個支給されたぞ。」


 「良いか、俺達はここを狙う。」

 そう言って、作戦地図を取り出した。

 「ここに敵の大蝙蝠部隊が集まっているらしい。明け方にそこを急襲する。ラケス達は5人だな。俺と合わせて3人で一組となって、荷台から集束爆裂球を滑り落とす。最後に紐を引くのはラケス、頼むぞ。俺の組みは俺が引く。

 素早く2個ずつ投げ落とせば、後は支給された爆裂球を敵陣に適当にばら撒いて帰ってくる。

 簡単だが、1つ注意しておく。荷台の枠にロープで腰のベルトを結んでおけ。落ちたら敵陣の真っ只中だ。生きては帰れんぞ。」


 「私は、何をすれば良いかしら?」

 「俺達が爆裂球を落としている間、周囲に爆裂球付きの矢を放ってください。なるべく広範囲にお願いします。」

 「被害を広げるのね。了解よ。」

 沿う言って、トコトコと走っていった。

 

 「イゾルデ様も一緒だとは思わなかった。」

 「まぁ、我慢してくれ。席は操縦席だから俺達の邪魔にはならない筈だ。」

 そんな事を言いながら、イゾルデさんの走っていった場所を皆で見詰める。

 何か忘れ物でもしたのかな?


 俺達がタバコを吸っていると、数人の供を従えてイゾルデさんが帰ってきた。

 「被害を拡大させるなら、これね。…うちの部隊が使う爆裂球だけど、亀兵隊の人にも使えるわよ。全員トラ族だから。」

 そう言ってラケス達に革袋に紐が付いた物を配っている。

 イゾルデさんも3個ほど操縦席に持ち込んだ。

 「大砲の弾と同じで火炎弾と榴弾だから、なるべく遠くに投げるのよ。」

 その言葉に驚いて、とりあえず荷台の隅に動かないようにしておく。


 「マスター、後2時間程で夜明けになります。」

 ディーの言葉に空を見上げると、少し東が明るいようにも思える。


 「さぁ、出かけるぞ。乗ったら直ぐにロープを荷台の枠に結ぶんだ。絶対に落ちるなよ!」

 俺の言葉に全員が乗り込む。

 そして枠にロープを結び、自分のベルトにしっかりとロープに端を結んだ。

 操縦席には腰を固定するシートベルトが着いているのだが、イゾルデさんは俺達と同じようにシートの取り付け枠を使って自分のベルトをロープで結んでいる。操縦席で立って攻撃する心算のようだ。


 「ディー、出発だ!…進路、大森林地帯。その上を掠めてカリストの南東洋上へ向かう。そこから反転して攻撃だ。」

 「了解です。」

 ディーの言葉が聞えると同時にイオンクラフトは数十m程上昇した。時速100km程の速度で一路東に向かう。しばらくすれば進路を南に取る事になる。俺達は何も見えない暗闇の中を飛んでいった。


 

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