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#420 カリスト戦の始まり



 「カリストの西に強襲船20隻か…。スマトル軍も必死じゃな。」

 通信兵が状況報告を伝えると同時に、サーシャちゃんの前に広げた大きな作戦地図に駒が配置されていく。


 俺達が作戦本部に入った時はそんな状況だった。

 「アキト、アルトそれにディーただいま到着。強襲部隊200の到着は深夜になります。」

 「ご苦労じゃった。先ずは席に座るが良い。今ちょっとバタバタしておるが、直ぐに終わる筈じゃ。」

 

 サーシャちゃんの言葉に甘えて、テーブルの端の方に座って本部の状況を観察する事にした。

 今、本部にいるのはサーシャちゃんにミーアちゃん。その後ろに姉貴は変わらないな。少し離れてアテーナイ様とシュタイン様が座っている。

 サーシャちゃんの前にいた筈の、セリウスさんとミケランさん、ケイモスさんにクローネさんが不在だ。

 まぁ、一軍を任されてるから前線に出てるんだろう。代わりにイゾルデさんがいた。

 

 ちょっと背を伸ばして、作戦地図を眺めると結構賑やかに駒が配置されている。

 海上にも幾つか駒が並んでいる。3列に並んでいるのは敵の補給船か?それが2つ海上に展開している。そしてその先で小さな駒があるのは俺達の海軍だな。これじゃまるで群狼戦術じゃないか。

 潜水艦を使った戦術は似たような形になるのかな…。


 上陸したスマトル軍はネイリーの南東付近まで進出したようだな。まだ、砦には30km程離れているのか。この位置だと、泉の森の南にある水場の存在は分からない筈だ。敵は水で苦労しているに違いない。

 

 アトレイムの南に上陸した敵は、地図から姿を消している。

 数百人の投降者についても簡単な駒に文字と数字で表現している。

 ほぼ、リアルタイムで状況を作戦本部は把握しているという事が良く判る。


 そして、問題のカリストだ。

 カリストを東西で挟むように敵軍が取り囲んでいる。東の一部は大森林地帯に踏み込んでいるようだが、そこを踏破してこの作戦本部を狙うんだろうか?


 作戦本部は、俺達が別荘に出発した時はエントラムズの東南の森にあったのだが、今はカリストの北東、大森林地帯の玄関口にある村の近くに場所を移している。

 近場が良いとは言うけれど、ちょっとばかり近い気がしないでもない。


 そして、カリストの西の集団は、俺達が途中で爆裂球を落としながら来た大軍団だ。20個程の爆裂球では全体で見たら、全く影響ないものであったろう。

 だが、そこは俺達の気分の問題だ。それに俺達も爆撃が出来るという事を知って敵がどう出るかも楽しみな所だ。

 

 だが、両部隊の規模が問題だ。敵軍の駒は千人単位として作ったが急遽その駒を2千人として扱っている。

 その数は東西共に数十個を越えている。ひょっとして、カリストだけで上陸した部隊は20万近いのではないか?

 

 「東がだいぶ薄くなってきたのう…。こちらをアキトに担当して貰えば砲兵隊の半数を西に移動出来るじゃろう。」

 「でも、そうするとこの部隊がカリストの北に回る可能性が出てきます。」

 「そこは、賭けじゃな。場合によってはミーアに強襲して貰うしか無さそうじゃ。」

 

 ちょっと俯いてサーシャちゃんが呟くと、でアルトさんが話しに加わった。

 「我がいるではないか。別荘での戦では1人も失っておらぬ。セリウスから100を借り受け、300を率いてカリストの北に位置すれば良いではないか?」


 「アルト姉様、やってくれるのか?」

 アルトさんが頷くと、直ぐに通信兵を呼んで強襲部隊を300セリウスさんの部隊から移動させるようだ。

 

 「アルト姉様に100。アキトに200預けるのじゃ。無反動砲をそれぞれ10台ずつ引き渡すぞ。アキトには、これを何とかして貰いたい。そしてアルト姉様には先程の通りじゃ。」


 そう言って、サーシャちゃんがボルトの先で示したのは東のバリスタ部隊だ。



 「別荘ではバリスタを装甲車に積んでいた。ここもそうなのか?」

 ミーアちゃんが頷いた。1度強襲を掛けたみたいだな。


 「出発は何時だ?」

 「明日の早朝で良い。今夜は砲撃で敵を撹乱するのじゃ。」


 どうやら新たな上陸部隊には、砲撃する事で対処するみたいだな。

 そこに従兵がお茶を運んできた。

 お茶を飲んでいるとアテーナイ様が質問を投げてくる。


 「アトレイムに上陸した敵兵は数万と聞く。良くも撃退出来たものじゃ。やはり気化爆弾を使ったのか?」

 「はい。気化爆弾、レールガン、集束爆裂球全て使いました。最初に敵の空母を全て破壊したのが後々有利に利いてきました。

 それに、2度目の上陸と浮遊機雷の攻撃のタイミングが合ったのも我等に有利でした。敵の大型獣の上陸をかなり限定出来ましたからね。後は、修道院の石塀が強固であったのが勝因です。残念ながら東の漁師町は敵の上陸前に解体しました。投降兵使って再建する事になると思います。

 どうにかなったところで、作戦本部に来ましたが途中で敵陣に爆裂球を20個程ばら撒いてきました。」


 「まて!…今何と言った?…爆裂球をばら撒いたと聞いたが。」

 サーシャちゃんが俺の言葉を聞きとがめた。

 「アキトと2人で20個程、敵の上空を通過した時に落としてきたのじゃ。戦果は判らぬが、少しは空を警戒する事になろう。」


 アルトさんの言葉にサーシャちゃんがニヤリと口元で笑う。

 それは癖なのかな?やらないほうが良いと思うぞ。将来は御后様になるんだからね。

 そのニヤリを見て、全員がサーシャちゃんを見る。

 

 「何か思い付いたようじゃな?」

 「うむ。思い付いたが、少し先の話になる。もう少し、ミーアと考えねばならぬようじゃ。」

 また、意表を突いた作戦をやるのかな。


 「ところで婿殿。ゾウとサイはどのように倒したのじゃ?」

 「思ったとおり、空堀で足止め出来ました。そこを砲撃で倒してます。石弾は用意しましたが使用したのは1回だけです。それと、大型獣は調教が未熟です。攻撃を受けて味方の陣で大暴れしたのも1匹だけではありません。」


 「やはり見掛け倒しと言う訳じゃな。…少し安心したぞ。」

 「数頭が並ぶと確かに威圧感はあります。ですが、逃げるとしても、その前に一撃してから逃げれば良いと思います。」

 「サーシャ。今の婿殿の言葉、全軍に伝えるのじゃ。婿殿はアトレイムで大型獣を倒しておる。その倒し方は…。」

 「通信兵、直ぐに伝えるのじゃ。無反動砲で攻撃。砲が無い場合は爆裂球付きのボルトや矢で攻撃。その後に直ぐに逃げろと伝えよ。」

 

 そんな攻撃したっけ?…ちょっと心配になってきたぞ。

 だけど、姉貴は特に言葉も無くにこにことサーシャちゃんを見ている。

 要するに、士気の低下を防止する手立てに俺を利用するって事かな。

 

 そんな事を考えながら、タバコを取り出して一服を始める。

 テーブルの反対側にいるシュタイン様も例のパイプを楽しみ始めた。

 

 「でも、まさか装甲車を作ってくるとは思わなかったよね。」

 「あぁ、だがあの程度で助かった。あれを鉄板でやられたら、俺達もどうなってたか…。」

 「うむ?…婿殿はあのような物を見た事があるのか?」

 

 「はい。スマトル軍の装甲車は人力ですが、俺達の国ではガルパス以上の速さで走り回ります。空堀も10D(3m)以下ならそのまま走れます。そしてそこに搭載されるものはバリスタでなく大砲です。その上、車体は分厚い鉄板で覆われています。」

 「そのような物を破壊する事が出来るのか?」


 「それは、前に話した矛と盾の話になります。どんな物を作っても必ずそれを破壊出来る物が作られます。」

 「確かに至言よのう…。我は爆裂球投射器と無反動砲を不思議な武器じゃと思っていたのじゃ。何故に大砲だけを考えないのかとな。

 じゃが、この戦で一番活躍しているのは無反動砲じゃ。飛距離が足りなくとも正確に敵を狙える。まるで装甲車の登場を知っているような武器であった。」


 そこまでは考えてなかった。亀兵隊が戦場で縦横無尽に使える簡易大砲という考えだったのだが、敵の装甲車を破壊するのに打って付けという事になっているようだ。


 「そこまでの考えはありませんよ。俺達は装甲車というより戦車と言いますが、戦車は戦車で破壊するのが一般的です。」

 俺の言葉に全員が一斉に俺を向いた。


 「それじゃ!…装甲車には装甲車がよい。直ぐに王都の工房に頼むのじゃ!」

 急にウキウキしながらサーシャちゃんが手元の紙に何やら描き出した。

 後ろから姉貴が覗き込んでるけど、何を描いているのかな?

 話の流れからすると装甲車になるけど、どんな装甲車になるのか俺も見てみたいぞ。

               ・

               ・


 次の日。皆の見送りを受けてアルトさんが大鎧姿も勇ましく、300亀を率いて南へと出陣して行った。

 そして、俺も久しぶりの大鎧だ。背中に六文銭の旗と刀を背負ったぞ。

 アテーナイ様が、これを持って行け!と薙刀を渡してくれた。

 ディーも俺に付いて来るようだけど、背中の長剣とブーメランは見慣れたが、手に持っているのは銛だよな。デクトスさんに貰ったんだろうか?

 

 俺が天幕から出ると、襲撃部隊が勢揃いしている。見知った顔は何処にもいない。

 「隊長は誰だ!」

 「私が第1中隊長のラケス。そして第2中隊長のライザムだ。」

 2人のトラ族の男がガルパスを進めて名乗りを上げた。

 背中に赤地に黒のムカデの旗印。それに黒いリボンがには1本がラケスで2本がライザムのようだ。


 全員が胴鎧を着ている。その背中にはグルカと12本の矢が入った矢筒がある。そして手に持つのは長弓だ。

 俺も弓を持ちたいが、当たらないからな。数十発の弾丸があるM29を使うとするか。

 

 「俺達は、カリストの東の敵軍を攻める。相手は数万を越える。幾らなんでも、それに直接当たるのは無謀だ。そこで…。」


 俺は地図を取り出すと、地面に小石で動かないように固定する。

 2人に座るように言って、これからの行動を説明した。


 このまま南に下がり、敵陣を掠めるように東方に逃げる。その先は大森林地帯だ。幾ら俺達でも夜をその森で過ごすには魔道師が足りない。

 そこで、俺達は森の入ると直ぐに北に移動してある程度進んだ所で森を西に逃げる。

 最後尾のディーが敵兵を引き連れながら森を東に進み、一気に敵兵を引き離して森を抜けて俺達と合流する手筈だ。


 「1つ質問がある。ディーとは、隣の娘だな。ガルパスに乗らずに我等と行動が出来るのか?」

 「ディーの速度は世界一だ。俺達が幾らガルパスを駆ろうともディーの速度には追従出来ない。俺達の速さに従ってもらうだけさ。」


 2人は驚いたように互いの顔を見合わせたが、俺の計画には頷いてくれた。

 まぁ、ちょっとした強襲になるのかな。

 敵の総数はとんでもない数だから、精々数百を間引いても焼け石に水だ。だが士気を上げる事は出来る。

 サーシャちゃんの狙いもそれだろう。


 「何時出掛けるのだ?」

 「準備は良いのか?」

 ラケスの質問に俺は質問で返す。


 ニヤリと2人が笑う。準備は出来ているようだ。

 「行くぞ!」

 俺が立ち上がると、2人もそれに倣って立ち上がり自分のガルパスに走って行った。

 笛を取り出して、バジュラを呼ぶ。

 バジュラの背に乗って左手に持った薙刀を高く掲げた。


 「行くぞ!…我等亀兵隊に不可能無し!!」

 大声で叫ぶ俺の声に、ウオオォォーと言う蛮声が応える。

 俺は一気にバジュラを加速させて南へと向かった。

 

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