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#416 挟み撃ち

 


 ゆっくりとスマトル軍が砦に向かって進軍している。

 スマトル軍の砦から俺達の篭る果樹園の石垣までは4km程の距離がある。進軍で兵隊の体力を消耗させない為だろうが、それでも疲れは出るだろう。

 千人程の密集陣が4つ並んで砂浜を進んでいる。その後ろには同じような密集体形で6段が控えている。今の所は、北上する気配は無い。

 そして、密集陣の先頭には50台以上のバリスタを積んだ装甲車が、車体1台分程の間を取って進んでいる。これは2段に分かれており前者と後者は100m程の距離を保っている。

 装甲車の前には6頭のゾウと4頭のサイがおり、最前列にはスカルタとガトルが2つの群れを作ってこちらに近付いている。


 ディーが観測してきた結果を紙に描くと、だいたいそんな感じになる。

 「夜間でよう分からぬが、昼間なら壮観な眺めじゃろうな。」

 「見ただけで、逃げ出したくなりますよ。こちらの兵の動揺を避けるには都合が良いです。」

 「とは言っても、大部隊だ。矢とボルトはたっぷり支給しとけよ。それに爆裂球もだ。」

 「それは既に支給しました。そして要所に予備を運んでいます。」


 「で、どこまで進んだら、攻撃をするのじゃ?」

 アルトさんが待ちどうしげな口調で聞いてきた。

 「もう少し、近付いたらだよ。その前に、アルトさんは、無反動砲の3隊を率いて、昼間と同じように丘の上から攻撃してくれ。

 狙うのは敵の後方部隊だ。やはり2撃で良いだろう。そしてこの場所で待ち構えてくれ。

 獣達が2つ目の空堀を越えたら、敵軍に1撃した後で戦闘工兵を戻してくれれば良い。」

 

 「ふむ。再度混乱させるのか?…まぁ、退屈しのぎにはなるじゃろう。」

 そう言ってテーブルを離れていく。


 「良いんですか?一斉に突入された場合の対応が出来なくなりますが?」

 「それ程時間は掛からないと思うよ。それに、大砲は5門ある。そして、イザとなれば、【メルダム】並みの攻撃が数回出来る。」



 俺は地図を指差した。

 「それより問題は、東の部隊だ。夕方の大蝙蝠の飛行から東西の連携が考えられる。西の総攻撃に呼応して、東も動くぞ。」

 「林に観測隊を派遣していますから、敵が動けば早期に知らせが入ります。」

 丘に上がる道には直径1mはある丸い石が3つ置いてある。あれが転がるだけでも相当な被害だろう。石を転がした後には2門の大砲を据え付けるそうだから、東はナリスに任せておこう。


 問題は、やはり西の大軍だ。

 戦は数だと言ってた者がいるが、実際に見てみると正に至言だと思う。

 一斉に押し寄せてきた場合に、どうしても横に敵が流れる。南は海だが、北は丘の斜面が頼りだ。柵が2列に地雷が少々では心もとない。しかも守るのはアルトさん配下の150人だ。

 最悪、このテラスから人数を割くしかあるまい。

 東が早期に片付けば、100人以上の増援が出来るのだが…。


 「ボルスさん。この配置ですが、民兵を50人ばかり、石垣の北側に配置出来ますか?」

 「北への流れを押さえる為ですか…。一応、柵を数段張ってはいますが足止めにはなるでしょう。了解です。」


 了解はしてくれたが、これで正面攻撃を防ぐ人員は屯田兵400と民兵150。それに戦闘工兵50人程度になってしまった。そういえば、【メルト】の使える魔道師が数名いたな。

 

低い炸裂音が聞こえてきた。

 「敵の先頭集団。柵の地雷に掛かりました。」

 次は空堀、柵…そして石垣だな。

 

 「西の敵軍後方に火の手が上がりました。」

 アルトさんの攻撃だな。後一撃でこちらに移動してくる筈だ。


 2度目の炎はテラスからでも見えた。

 「効果が分かりませんね。」

 ボルスさんが直ぐに消えた炎を見て呟く。

 「それなりに効果はある筈だ。それに炎で四散した兵達を再び隊に戻すのも骨が折れる。」

 「士気の低下には繋がるでしょうね。」


 「敵の大型獣停止しました。」

 フィールドスコープを覗いていた監視兵が報告してくる。…空堀に掛かったか。これで少し時間が稼げる。


 「獣を最初は攻撃するな。と伝えているな?」

 「はい。西の石塀を守る全員に伝えてあります。しかし、何故そのよう指示を…?」

 「獣が俺達を守ってくれるからさ。石塀が破られると脅威だが、敵兵も獣がいると牛塀に近づけない。

 その石塀を破るのがバリスタであり、大型獣だ。だが、俺達の方が射程が長いから…。」

 

 そう言って、大砲と無反動砲を指差す。

 「なるほど、敵兵は自分たちの放った獣を倒さない限り、石塀に近づけないという事ですな。」

 「そうだ。だから大砲達はバリスタと大型獣だけを狙え。もし、石塀を破られた時は、直ぐに何でもいいから塞ぐんだ。」

 「それも準備しています。避難場所を作っている丸太や、荷車。それに、万が一を想定して、西の外れの果樹を利用して柵を作っています。」


 「沖から、軍船が近付いてきます。数は5隻、支援型4、多目的型1です。」

 東屋で沖を見ていた観測兵が大声で報告してくれた。

 支援型は、たぶん港と城壁の破壊用だな。多目的船は連絡用か?


 「東の林から発光信号。…敵、前進開始。獣を伴わず。以上です。」

 「ナリスに連絡、迎撃準備。それと、林の観測兵に無理せず引き揚げろと連絡だ!」


 通信兵が忙しく電鍵を叩き始めた。

 「さて、私も出かけます。」

 「無理はするなよ。それと、連絡は密に…。」

 ボルスさんは俺に頷いて席を立った。

 

 席を立って東屋に歩いて行く。

 なるほど、沖合いから船が近付いてくる。

 「船の針路と位置は、港の無反動砲部隊と連絡を絶やすなよ。あれが攻撃を始めると厄介だ。」

 「了解です。発光式信号器で直接連絡してます。」


 「アキト、帰ったぞ。無反動砲部隊は砦に返した。ここには30人を率いて戻ったぞ。」

 「ご苦労様。3撃目は判らなかったけど…。」

 「あれは、榴弾を使った。派手さは無いが、バリスタと多数の兵隊を葬ったはずじゃ。」

 

 サーシャちゃんが作らせた弾丸は3種類。

 火炎弾は茶筒位の木製の筒に、大きさで爆裂球の上に原油と炭を混ぜあわせた袋を詰め込んでいる。着弾して周囲に火災を起こす。

 榴弾は、炸裂すると爆裂球の周囲に入れた鉄片を撒き散らす。

 そして、もう1つ。葡萄弾がある。これは爆裂球で打ち出す散弾だ。


 無反動砲には、葡萄弾が無い代わりに石弾がある。これは石の大きな鏃の付いたボルトだ。大型獣を仕留めるために、20個程持ち込んでいる。


 「軍船接近中。距離約4M(600m)。」

 「東の部隊。行軍速度が上がってます。林の監視兵はテラスに避難して来ます。」

 

 緊迫して来たな。

 何とか西の大型獣は空堀を越えられたのか?

 「【シャイン】を坂に3個放て。」

 アルトさんが部下に指示している。東はアルトさんに任せて、俺は西に専念するか…。


 「沖に停泊中の軍船より、光球が上がりました!」

 「東の敵兵。先を争って道を丘に向かっています。」

 

 連携を目論んだようだが、西の敵は、次の阻止線に引っ掛かったようだ。またしても大型獣の歩みが止まる。

 そして、先頭の獣達が石垣を越えて果樹園の石塀に殺到してきた。

 石塀の外側に10個以上の光球が放たれる。あれなら、敵側は見えるが果樹園は暗がりのままだ。

 上空を大蝙蝠が旋回しているのだろう。たまにディーが上を向く。爆裂球さえ落とさなければ問題はない。


 バリスタを乗せた装甲車は大型獣を追い越す事が無い。

 大型獣が足止めを食えば、停止して大型獣が空堀や柵を乗り越えるのを待つ。

 装甲車には工兵が付いているようだ。空堀をそれ程苦労せずに乗り越えて来る。

 この後は石組みだな。そしてここまで1.5kmだ。


 「港の無反動砲。発射しました。」

 接近してきた1隻の支援船が炎に包まれている。

 続いてもう1隻が炎に包まれた。どうやら、もう1部隊が応援に駆け付けたみたいだな。あれでは支援は無理だ。折角、俺達より遠くに飛ぶバリスタを作っても、大砲の飛距離には及ばないな。


 「東で戦闘開始されます!」

 双眼鏡で丘への道を見る。数個の光球で丘の付近が明るく照らされている。

 見たとたん、岩が坂道を転がっていった。かなりの兵隊が巻き込まれている。

 後、2個あるんだよな。以外と威力がある兵器?には違いない。


 道から溢れた兵隊が丘の柵に沿って移動を始めた。そして柵を乗り越えようとした兵隊にボルトと矢が襲い掛かる。

 柵に沿って、別荘の方にも移動してきたが、アルトさん達が爆裂球で攻撃を始めた。

 更にテラスを攻撃しようと上って来る敵兵を、サライ達がクロスボーで倒している。


 俺はバッグからショットガンを取り出すと、ポケットにたっぷりと弾丸を入れた。

 アルトさんは量産型のクロスボーをテラスの擁壁に置くと、M38を取り出す。監視兵も槍を持って東の擁壁で敵を牽制する。

 

 迎撃する人数が多くなったので、サライが無反動砲部隊に敵の砲撃を指示した。

 使う砲弾は榴弾だ。

 炸裂光は小さいが数倍の広さに被害が広がっている筈だ。


 擁壁から坂下を見下ろすように身を乗り出して、次々とショットガンを撃つ。

 そして後ろに下がって急いで弾丸を補給する。

 

 「西の大型獣、石垣を越えました!…とんでもない速度で石塀に突っ込んできます。」

 「ディー。迎撃だ!」

 俺の声に、ディーが銛を持ってテラスの東の擁壁を飛び下りた。


 大型獣が300m程に迫った時、先頭を走る獣を火炎が取り巻く。

 無反動砲で火炎弾を放ったようだ。

 狂ったように辺り構わず転げるように渚に向かって、走り去った。かなり傷を負っている筈だから、直ぐにザンダルーの餌になると思うと可哀相になってきた。

 そんな感傷に浸っていると次の獣が火達磨になる。

 これは辺りを転げまわっていたが最後に敵陣に向かって走り出す。

 数台のバリスタを載せた装甲車を潰して後ろに続く兵隊達に突っ込んで行く。

 そして、3匹目の大型獣はゾウだった。


 数匹を倒したものの、サイが石塀に体当たりをしたようだ。

 衝撃で石塀の一部が崩れたが、まだ形は保っている。

 光球の下で屯田兵達が急いで修理を始めた。

 そこに再度ゾウが体当たりをしてきた。ゾウの上に乗っていた数人の敵兵が果樹園まで投げ出されたのがテラスにいても確認出来た。


 2匹の大型獣体当たりで石塀の高さが10m程に渡って半分程になる。

 たちまち近くの獣が石塀を乗り越えて果樹園に入り込んできたようだ。

 そんな獣を味方の兵に任せて、屯田兵が石塀に丸太を並べ始めた。

 ものの10分も立たぬ内に崩れた石塀が仮補修される。


 まだ残っている大型獣はゾウが3匹だ。

 速度を上げて3匹が突進した足元に【メルダム】級の爆発が起きる。

 ディーが集束爆裂球を使ったようだな。

 1匹はその場にうずくまり、2匹はのろのろと石塀に近付いてくる。そして、石弾を浴びて石塀の手前で倒れた。


 「装甲車が前進してきます!」

 「まだ大丈夫だ。あのバリスタの射程は精々2M(300m)程度。無反動砲は4M(600m)飛ぶ。石塀と石組みの半分を過ぎてから無反動砲が攻撃するだろう。

 そして、石組みを越えた敵兵を大砲で叩く。」

 

 「アキト、手伝え!」

 アルトさんの声に、ハッと気付いて東の擁壁に取り付く。

 長剣を振り上げて坂を上ってくる敵兵に向かってショットガンを次々と撃って行った。


 1時間も続いたろうか。ポケットの弾丸が無くなり、バックの袋から新たな弾丸を補給しても足りない位だ。

 それでも終わりが見えて来る。

 突撃して来る敵兵がだんだんと少なくなり、遂には途絶えた。


 「サライ。10人で見張るんだ。」

 新たなボルトを、バッグからボルトケースに移しているサライに言うと、水筒から水を飲む。

 「だいぶ倒したな。丘もどうにか守りきったようじゃ。」

 

 「ナリス様からです。…戦闘は一段落。軽傷者が30人程。死亡者は無し。現在、柵を修理中。以上です。」

 「ナリスに連絡。警戒態勢を維持せよ。以上だ。」


 丘は小康状態か、それとも再度侵攻する程の兵力が敵に無いのか…。それが判るまでは兵力を移動出来ないな。

 タバコを取り出して火を点ける。

 東の石塀からは大砲が発射されたところだった。

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