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#414 装甲車

 


 日の出と共に昨夜の機雷戦の惨状が見えてきた。

 テラスに集まった東西の陣の指揮官とアルトさんが、双眼鏡や望遠鏡で口を開けたまま覗いている。

 おびただしい数の溺死した兵隊が東の海岸に流れ着いている。その中には大蝙蝠の姿も視認で来た。

 そして、渚のあちらこちらで水飛沫が上がっている。

 ザンダルーの群れが周辺から地の匂いを嗅ぎ付けて集まってきたらしい。

 砂蛇や鮫もいるんだろうが、ここからでは判らないな。


 「どれだけの犠牲を出したのでしょうか?」

 「5千前後だと思っているが、あくまで推定だ。そして、上陸第一陣に被害は無い。」

 ナリスの震える声に俺が答える。

 

 「これで、しばらく補給は得られません。…問題は西の陽動部隊が北を目指すのか、それとも東に進むのかです。」

 「東に誘わねばならない。北は幾重にも堀と柵を作っているが、その先には水量豊かな川があり、村もある。屯田兵と民兵が守っているが、所詮村の柵だ。飲まれてしまうのが見えている。」

 ボルスさんは監視兵のフィールドスコープを覗いている。

 その顔は、これから始まる防衛戦に備えて敵の弱点を見抜こうとしているようだ。


 「問題は、我が見つけたゾウとサイじゃな。巨大な奴じゃ。民家位の大きさに見えたぞ。」

 「その対策は…ナリス、判ってるな。」

 「大丈夫です。エイオス隊長に散々扱かれましたから、我等の無反動砲部隊にお任せ下さい。」

 

 「ボルス。砦にいる戦闘工兵の内、無反動砲部隊の1つは何時も空けておけ。あれが、俺達の切り札になる。」

 「大砲ではないのですか?…私は大砲で狙うのかと思っていました。」

 「あれでは無理だ。大砲は、敵のバリスタ部隊を破壊しろ。海と陸からバリスタ部隊が接近したら、テラスの無反動砲部隊を応援に出す。」

 「了解です。…それにしても動きませんね。」


 確かに、動きが無い。向うも増援部隊を失ったんだから、それなりにショックは受けている筈だ。

 しかし、ジッとしていればいずれ食料が尽きるのは目に見えている。

 ひょっとして、簡易な砦を強襲船を解体して作り上げ、援軍を待っているのだろうか?

 確かに、今回の侵攻軍は20万に満たない。スマトル王国は後10万の大軍を送り出せる国力はある筈だ。


 「丘の上から連絡です。…敵の前衛部隊、獣約200、兵隊500が丘の東の森に行軍中。以上です。」

 俺の隣でレシーバーを片耳に付けた通信兵が報告してきた。

 

 「あの森は急峻な坂があるんだな?」

 「殆んど崖のようになっています。高さは10D(3m)以上ありますから、獣と一緒であれば、丘を東から攻撃する位置に出る事になるでしょう。」

 

 俺達の後ろにある地図を指差しながらナリスが話す。

 「確か、空堀と柵が二重に出来ていたぞ。空堀の間にある柵には地雷がある。陽動にもならん。」

 アルトさんは残念そうに言ってるけど、少しずつ敵の戦力を削ぐのは俺には理想的に思える。

 

 「ナリス。迎撃の準備だ。確か、王都からのハンターが陣取っている筈だから、民兵のクロスボーの練習を兼ねて撃退出来るだろう。」

 「了解です。」

 そう答えると、テラスを走って自分の陣に帰って行った。


 「ボルス、その望遠鏡で西の外れを見てくれ。少し動きがあるように思えるんだが…。」

 「…確かに。あれがゾウなんでしょうか?大きな獣を前に引き出しています。」

 

 獣の突撃で陣を乱した後に、兵隊を突入するのがスマトル流の攻撃だ。

 「初めて実戦に使うんだから、獣の突入陣形を作り直してるのかも知れないな。」

 「それもありますが…、敵陣の中でも何かやってますよ。」

 

 「ここでは埒が明かぬ。我が状況を確認してくる!」

 そう言ってアルトさんがテラスを出て行ってしまった。

 まぁ、敵のほうも全然俺達が動かないのを変に思うかもしれないから、アルトさんの行動は欺瞞の1つにもなるんだろうけどね。

 

 しばらくすると、西の砂浜に覆いかぶさるように見える丘の上に砂塵が上がって西に向かっていく。

 あの砂塵の状態から見れば50亀は連れて行ってるみたいだな。

 

 小休止して、テラスのテーブルでお茶を飲んでいると、作戦本部からの状況報告が届いた。

 どうやら、何処も同じように浮遊機雷の攻撃を行ったらしい。

 中でも、テーバイでは小船に爆裂球と原油の入った樽を積んで、武装商船で敵軍船の近くまで曳いていって、潮流に乗せたらしい。

 ネイリーから、南西の空が明るく見える程の大火災を海上で起こしたらしく、第2陣の増員と補給は完全に途絶えたと言っていた。

 その結果、テーバイの西に上陸した部隊はネイリーに向かって進行中らしい。


 カストルの港は潜水艇による浮遊機雷攻撃だと言っていた。

 レオナさん達が頑張ったんだろう。

 しかし、やはり本隊の上陸地点ではある。港の左右の岸辺に座礁するように多数の軍船が押しかけ大勢の兵隊を上陸させたようだ。

 まるでカリストの港町が敵軍に東西に囲まれたような状況らしいが、サーシャちゃんに言わせると分断している状態なのだそうだ。

 そのままサーミスト王都に攻め込むには、背後をカリストが押さえている事から現状では、東西南の3方向から猛攻を受けているらしい。

 とは言え、それも姉貴達の作戦通りではある。カリスト北部に展開した亀兵隊と正規軍に横を押さえられている以上、足止め状態はしばらく続くだろう。


 そして、俺達のアトレイムの海岸だ。

 早朝のディーの偵察では、やはり西に伸びて上陸を行なっているらしい。

 その距離は15kmにも及ぶそうだが、そうなると軍を纏めるのにしばらく掛かりそうだ。

 小隊規模で丘を上り荒地の偵察をしているようだが、その荒地はダリル山脈の麓まで200km以上続く荒地であり、遊牧民が暮す場所でもある。


 「丘の陣から連絡です。…陣の東で敵と小規模な戦闘。敵は敗走した。以上です。」

 通信兵が知らせてくれた。

 先程の先行部隊のようだ。これで、丘を東回りに抜ける方法を諦めてくれれば良いんだが…。


 「アキト様。ちょっと、これを見てくれませんか?」

 ボルスの戸惑った声に、彼が覗いていたフィールドスコープを覗いてみる。

 「…これは。」

 荷車の全面から真上までを板で囲った物。この時代の装甲車だな。中央に穴が開いているのもあるが、たぶんバリスタのボルトをそこから撃つんだろう。

 中々考えたものだ。


 「なんですかね?」

 「装甲車だと思うな。少なくともあの状態で押し寄せてきたら、矢やボルトを防ぐ事は可能だ。でも、奴等は見落としてる。あれだと、空堀や柵が邪魔で前に進めないぞ。」

 

 「その空堀と柵ですが石塀から2M(300m)程度に作っています。そうだとしたら、バリスタの攻撃は受けてしまいます。」

 その言葉に慌てて双眼鏡を取る。


 確かに、その程度の距離だな。

 そして、思い起こした。元々この砦は修道院として立てられたものを使っている。最初の領地は別荘から西に1.5km。その後更に1.5kmが増えている。

 そのため、石塀は2つ。1つは堅固な2mを越えるものだが、西の外れの石塀は境界を示す為の低い石塀でしかない。

 であれば、あの石塀が邪魔をして、やはりそこで止まってしまう筈だ。


 「低い石垣でも役には立ちそうだ。ボルスさん、外側にある石塀をどうやって越えるかが見所だよ。破壊はするんだろうが、場所が限定される。そこを大砲で狙う事でかなりのバリスタを破壊出来そうだ。」

 そう言って、テーブルの地図の所にボルスさんを案内する。

 

 「砦の石塀には2箇所に門がある。北の門の出口広場に大砲を3門移動して、この領地境界で渋滞する敵の装甲車を攻撃する。

 南の門は無反動砲部隊を1個おいておけば数台程度この石塀を射程に収める位置に着いた敵のバリスタを破壊できる。」

 「配置は、判りましたが…。現在の大砲を移動してまで行ないますか?」

 「いや、テラスの大砲を移動する。東には無反動砲が1部隊いるし、対空クロスボーも使えるんだ。幸いにも支援用の軍船はサラブの環礁内には入っていない。敵が持つバリスタは我等とそうは変わらない。」

 

 サライに大砲の移動を指示して、移動後に連絡を入れるように言いつける。それ程距離が無いから昼間でも発光式通信器で相互に確認できる。

 直ぐにサライは大砲を指揮する小隊長に移動場所を指示した。そして、通信兵の1人に大砲の移動位置を教えている。


 「どうじゃ。まだ動かぬか?」

 そんな事を言いながらアルトさんが帰ってきた。俺の隣に座ると、腰の水筒の水を飲んでいる。

 「あれから、東で小競り合いがあった。撃退しているが、この位置だ。そして、面白い物を敵は作ってるよ。ボルスさんに見せて貰うといい。装甲した荷車だな。西で作っているという事は東のサラブでも作っている筈だ。

 直ぐに攻めてこないのは、やはり準備してるって事だな。」


 「こちらから攻めぬのか?」

 「サラブに展開している部隊だけなら攻めるんだけどね。西の数が多すぎるから篭城戦だな。」

 「我の方も面白いものを見たぞ。獣の上に櫓が乗っていたのじゃ。北で見たマンモスに似た獣じゃがあれ程大きくは無いし、鼻も1つじゃ。

 8本足は中々上手く使えんようじゃった。4本腕が数人で短い槍で突付いておったぞ。」


 やはり、ゾウ部隊が本命のようだ。使い方は昔と同じだな。となれば装甲車と連動する事が出来るだろう。

 サイは、その前に暴走させてくるんだろうな。一緒に獣を突撃させれば俺達の防壁に穴が開くと思っているのかも知れない。

 とりあえず、先程の指示で問題ないだろう。

 ふと隣を見るとアルトさんはいない。周囲を見るとボルスさんのところでフィールドスコープを覗いていた。


 「サラブの町で動きがあります!」

 テーブル席から立ち上がると、双眼鏡を手にテラスの東の擁壁に向かう。

 敵陣を囲む板塀の一角が開いて中から装甲車が現れた。

 数は…20台近くある。

 バリスタの発射口を持たない3台の装甲車は前方だけでなく、周囲と足元まで囲っているようだ。

 その装甲車の回りにガトルが集まってくるところを見ると、獣使いが乗っているみたいだな。

 

 「アルトさん。襲撃部隊を率いて東の屯田兵を支援してやってくれないかな。

 それと、サライ。後ろの装甲車はバリスタを隠している。無反動砲で叩け。」


 「了解じゃ。サライ行くぞ!」

 アルトさんは素早くテラスを後にする。その後を慌ててサライ達が追い掛けて行った。

 

 「通信兵。ナリスに連絡。アルトさんの増援と敵バリスタ部隊への攻撃を連絡しろ。」

 俺は東の動きを見る。続々と装甲車が出てくるな。

 敵の総数は3千近い。そして獣も2千はいるのだ。ここで消耗しようものなら、西の軍に飲み込まれてしまう。

 無傷で敵を殲滅する位でないとダメなのだ。

 

 そして、遂に動き出した。獣の群れが別荘の下に広がる林に向けて歩き出したのだ。

 一番外側の柵を越えようとした時に、爆裂球が炸裂する。仕掛けた地雷に引っ掛かったらしい。

 次々に地雷が炸裂する中をガトルが林の向かって駆け始める。

 砂埃を上げて亀兵隊が別荘の坂の下を走り抜ける。

 どうやら、ギリギリで間に合ったみたいだ。


 丘の上にも民兵達がクロスボーを持って林の状況眺めている。

 ガトルが最後の空堀を越えようとしたところで転倒するものが続出する。

 屯田兵と亀兵隊のボルトや矢を受けたんだろう。

 

 そして、のそのそとスカルタが林を目指して歩き始めた。

 その後をバリスタを積んだ装甲車が続き、更に弓兵と槍兵が続く。

 

 「通信兵。ナリスに連絡しろ。…殲滅せよ!以上だ。」

 通信兵は鋭くはい!と返事をして電鍵を叩き始める。

 「ボルスさん。西に変化があれば教えてください。」

 「了解。現在目立った変化なし。」


 100匹近いガトルが丘に向かう小道を登ったが小道を塞ぐ荷車の影から放たれるボルトでどうやら全滅したようだ。林に向かったガトルも殲滅出来たと発光式信号器で通信が送られて来た。

 

 スカルタが最後の柵を越えようとした時に数十発の爆裂球が炸裂した。

 それが3度続くと、林の低い石垣に辿り着くスカルタは殆んどいない。ようやく辿り着いたスカルタも屯田兵に槍で止めを刺されているようだ。

 

 しかし、前の獣の攻撃でバリスタを乗せた装甲車がかなり最初の柵に近付いている。

 横に10台2段に並んだ装甲車のバリスタが一斉に林に向かってボルトを放ったのが見て取れた。

 ドドォォーン!!

 先程の亀兵隊の放った爆裂球と同じ規模で石垣の手前100D(30m)程の地面が炸裂する。


 同時に林の中から小さな炸裂音がしたかと思うと、敵の装甲車が2台炎に包まれた。

 転げるように装甲車から兵隊が飛び出すと、大きな音を立てて装甲車が爆散した。その炎が周辺の装甲車に燃え移る。

 慌てて装甲車が車間距離を取り始めたが、後ろから来る兵隊に邪魔をされて、思うように動けないようだ。


 そこに第2射目の弾丸が襲い掛かる。

 着弾前に炸裂して辺りに炎が飛び散り、可燃物を燃やし始めた。

 後ろを進んでいた兵隊達は慌てて急造の砦に我勝ちに逃げ始める。


 その砦に第3射目の弾丸が襲い掛かる。

 強襲船を解体して作られた急造の砦だから全て板作りだ。

 たちまち砦は炎に包まれ始めた。



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