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#413 機雷戦


 敵上陸部隊は、俺達の攻撃が無いことを訝しむ様子も無く、解体したサラブの町と砦の西に陣を築いている。沖に伸びる桟橋も50m程に伸びている。あれなら、夜間に次の部隊を上陸させル事も出来るだろう。

 浜辺に乗り上げた強襲船の何隻かは沖に向かっている。沖合いの商船を改造した輸送船から新たな兵員や資材を荷揚げするのだろうか。朝よりは沖合いの船が近付いてきたようにも見える。


 そして、夏の日差しがようやく終わり、辺りは夕闇に少しずつ包まれていく。

 逢魔時とは、よくも言ったものだ。これから、敵にとって魔の時間が始まるんだからな。


 「ディー。準備は良いか?」

 「何時でも行けます。」

 「もう直ぐ、太陽が沈む。それと同時に沖の空母を2隻を攻撃だ。」

 「了解しました。作戦開始まで後7分です。」


 そう言ってテラスのテーブルに装備ベルトと武器を下ろし始めた。

 少しでも、身軽になればそれだけエナジーロスを最小限に抑えられるのか。空母までの距離は5kmそしてレールガンは2檄は必要だ。110%まで充電終了しました。とさっき言ってたけど、俺の指示した襲撃で3割以上エナジーを消費してしまうかも知れない。その辺は気を付けないとな。


 「通信兵。丘と砦に連絡。…夜襲に備えて、夜間の監視にはネコ族を2名以上葉位置しろ。以上だ。」

 「サライ。ディーが帰ったら例の作戦を決行するぞ。イオンクラフトへの積み込みは終了しているな?」

 

 「30個と滑り台を準備してあります。」

 「使い方は判るな?」

 「レバーを押した後で滑り台を使って海に流す…。大丈夫です。」

 さて、サーシャちゃん謹製の浮遊機雷の威力はどれ程か、もう直ぐ判るな。

 

 「作戦開始!出発します。」

 ディーはそう言うと岬の断崖から身を投出した。

 とんでもない作戦行動に出たから、皆でディーが消えた断崖を覗き込むと、青白いイオン流を淡くひきながら海上を滑るように移動するディーの姿が見えた。


 「相変わらずですね…。」

 「あぁ、絶対に真似はするなよ。」

 サライの言葉に俺は念を押した。そして、ディーの消えた南の海上を皆で眺める。

 しばらくして鋭い光状が2線、海上の遥か彼方に小さく見えた。

 その後に更に一度光が走る。

 都合、3度のレールガンを使用したようだ。やはり1回で1隻は破壊出来なかったのだろう。


 俺達が見守る中。沖合いから青白い光が港に近付いてくる。

 無事に帰還したようだな。

 

 直ぐに、ディーが断崖の下から飛立つようにしてテラスに戻って来た。

 「作戦終了です。敵空母は3隻でした。並んだ2隻と少し沖に更に1隻です。レールガンにより船体破壊。沈没しつつあります。」

 「ご苦労さん。さて、もう少し暗くなったら、次の作戦だ。」


 まだ、周囲はそれ程暗くない。西の空はまだ夕焼けの残りが水平線を赤く帯の様に染めている。

 「敵の上陸は予定通りなのでしょうか?」

 「空母の破壊が上陸部隊に知れたか判らないが、次の上陸部隊が来なければ、今朝上陸した部隊は悲惨だぞ。大した食料も持って来ていない筈だからな。」


 「上陸は予定通りするしかない…。という事ですね。」

 「そういう事だ。そして、今夜上陸する部隊と合流した数が、アトレイムへの陽動部隊の全貌になる。」

 

 そう言いながらテラスから砦を眺める。

 昨夜同様、欺瞞工作はしているな。空母が無くなったとは言え、多目的船に避難した大蝙蝠もいるだろう。少しは空襲もあるだろうし偵察は必ず行なわれる筈だ。


 「砲兵達は夕食を取れ。サライ達はもう一仕事がおわってからだ。」 

 もう直ぐ19時30分。浮遊機雷戦を始めるのは20時00分からだ。


 「ディー。出掛けるぞ。通信兵は現状を作戦本部に伝えろ。サライ2名連れて来い。」

 そう言うとテラスから別荘の裏庭に歩いて行く。

 裏庭には、ちょっとした倉庫がありその中にイオンクラフトが隠されていた。

 早速、ディーが乗り込むと、待てー!って言いながらガルパスが裏庭に走ってきた。

 

 どうやら、アルトさんが駆けつけて来たらしい。

 ディーの隣に乗り込んでクロスボーを取り出した。援護の心算で来たのだろうか?


 俺とサライ達は荷台に乗り込むと、用意したロープを腰に巻き荷台の枠にしっかりと結びつけた。

 「ディー、良いぞ。出発だ!」

 そのまま地上すれすれに納屋を出ると、今度は3m程の高さで岬の断崖を這うような感じで海上に滑り出る。

 そして高度を落とし、海面すれすれに敵の強襲船の手前500m程の所まで近付いた。


 「よし、滑り台を半分荷台から出せ。」

 サライ達が力を合わせて、横幅50cm、長さ2m程の斜めに作った台を荷台から半分程引きずり出した。


 「良いか。2人が機雷を乗せて、サライはレバーの確認だ。右側だぞ。最後に俺がタイマーを作動させる。判ったか?」

 薄暗い闇の中だが3人が大きく頷くのが見えた。


 「マスター。始めてください!」

 ディーの言葉に2人が滑り台に機雷を乗せる。それをサライが手探りでレバーを右に倒し、俺の方に台の上を滑らせる。俺はきらいの側面にある箱のスイッチを押して滑り台に沿って海に落とし込んだ。

 次々に機雷を投下して、引き揚げる。最初の機雷投入から、まだ7分程度だ。ディーが急いで港に向けてイオンクラフトを飛ばして行き来た時と同じように斜めになりながら断崖を上って別荘の裏に引き返した。


 倉庫にイオンクラフトを入れるのを俺達は腰のロープを解きながら待つ。

 倉庫の床に着地すると直ぐに荷台を飛び下りて、全員でテラスに向かう。


 「あとどれ位じゃ?」

 「…5分も無い。良く見とけよ。これが上手く行けば俺達の勝つ確率がかなり高くなるぞ。」


 3分…2分…1分…10秒。

 時計と西の海上を交互に眺めながら時間を待つ。


 突然海上一体に炎が吹き上がった。その炎は炎が雫のようになって周囲の軍船に降り注ぐ。

 砂浜近くに密集していた強襲船はたちまち船火事を起こす。

 その炎は上げ潮に乗って近付いてきた上陸部隊の乗る軍船にも広がる。

 

 「凄いものじゃ。軍船から次々と兵隊達が飛び込んで行くぞ。」

 俺の隣で双眼鏡を覗いていたアルトさんが呟いた。

 「無事に岸に辿り着けるでしょうか?…岸辺の船火事も凄い事になってますよ。」


 「あぁ、海に飛び込んだ兵はたぶん助からない。この海にはザンダルーがいるんだ。そして、沖には鮫だっているだろう。惨い戦だな。」

 「じゃが、それは大軍を持って攻め込んだスマトルに非がある事。我等は弱小。このような作戦を立てねば我等が飲み込まれるのじゃ。」


 そう言って、ジッと双眼鏡をアルトさんは覗いていた。

 「次は、どう出るでしょうか?」

 「直ぐに補給船が来るだろう。スマトルも上陸軍に動いて貰わねばならないんだ。そうでないと本隊の上陸軍に多大な損害が出る。それはスマトルでも理解する筈さ。」


 「ナリス様からです。…敵の第二陣上陸中。軍船10隻、全て兵隊。それと、別荘の西がだいぶ明るく見えるのは何故か?と聞いております。」

 通信兵が俺の所に報告に来た。

 「了解した。敵軍に火を放ったと伝えてくれ。砦を心配してるんだろう。」

 俺の言葉を聞くと直ぐに通信機にとって返す。

 

 「アルトさん。発光式通信器で砦の亀兵隊に状況を教えてやってくれ。向うも状況が飲み込めない筈だ。」

 「そうじゃな。まぁ、我が行って説明した方が良いじゃろう。その足で我の部隊に引き返す。中々の眺めじゃった。サーシャも見たかったに違いない。」


 そう言って、アルトさんはテラスを去って行った。

 問題は東だな。新たに3千人程が上陸した勘定になる。だが、強襲船を使ったならそれ程荷物は運べない筈だ。

 ひょっとして、強襲船の第二陣は漕ぎ手と補給品か?それなら増員は千人程度になる。そして、補給品は1週間程度…。


 「ディー。東の上陸部隊を偵察してくれないか?陸からではなく、林の石塀から海上に抜けて見てきて欲しい。陸地は罠が一杯だ。知らない者は迂闊に動けないからね。」

 「了解です。」

 そう言って林に向かう石段を降りて行った。


 双眼鏡をバッグから出すと、燃える敵の軍船を眺める。

 あれから1時間程経っていえるが、まだ盛んに燃えている。船を操る者がいないので他の船に接触して新たな船火事も起こっているようだ。

 折角桟橋を作っても桟橋で船が沈んでは使い物にならない。新たな桟橋をまた作らねばならないだろうが、あまり西に作ると新たな脅威が敵を脅かす事になる。

 そして、沖の船でも似たような火事が起こっている。いったいどれだけの兵隊が海に飛び込んだのだろうか?3km程の沖で海に飛び込んだとしても陸地の方角が判らずに力尽きるだろう。そして、何度探しても双眼鏡に救助の船は見当たらなかった。


 「ただいま戻りました。」

 その声に振り返るとディーが帰って来ている。

 テーブルに行って座るとディーが俺の隣に座った。

 「接岸した強襲船は10隻。兵隊の数は約1200程度と推定します。かなりな荷物を船から降ろしていました。兵隊と荷物はサラブの砦に向かっています。」

 東の敵は約3千になったか…。

 約15倍だな。西の40倍に比べれば遥かにマシだ。

 

 「ディー。2回空を飛べるか?サラブの砦の状況と西の上陸部隊の状況を知りたいんだが。」

 「現在のエナジー量は60%程度です。西は約10km程度であれば、上空偵察を行なったとしてもエナジー残量を20%程度残す事が可能です。」

 「なら、明け方に頼む。それなら直ぐに回復できるだろう。」


 「サライ、少し後を頼む。」

 そう言って、別送のリビングに向かう。ディーは俺と一緒だ。

 窓際のテーブルに腰を下ろすと直ぐに侍女が簡単な食事とお茶を運んでくれた。

 そういえば、昼から何も食べていない。

 早速、俺が大きなサレパルを食べるのを、お茶を飲みながらディーが見詰めている。

 「ディー。連合王国全体の戦況はどうなってる?」

 「作戦本部の状況は判りませんが、1時間前の科学衛星からの画像で良いでしょうか。今壁に投影します。」


 最初の画像はテーバイの西部に広がる砂浜だな。ここは一箇所に集中して上陸したようだ。船火事がここと同じように発生している。やはりテーバイ女王も策を持っていたみたいだ。

 「テーバイの海岸に上陸した部隊は約5万と推定します。現在砂浜伝いに西に向かっています。」

 狩猟民族の部隊が北から強襲しているようですが、どうやら、ネイリー砦に誘導しているように見受けられます。」

 

 あそこは、要衝だぞ。相当な激戦地になるな。

 そして、今頃は正規兵が向かっているだろう。

 

 「これはカリストです。現在港内の敵船が炎上中。上陸部隊はカリストの東で陣を作っています。上陸部隊の北上に備えて正規軍5千が直ぐ北の空堀を挟んで対峙しています。」

 カリストの町に煙は上がっていない。それ程被害は無かったようだ。

 

 「最初に5箇所と聞いたが、その外に上陸した場所は無いのか?」

 「ありません。2箇所は陽動のようです。海上からのバリスタ攻撃のみで他の上陸地点に向かったと推定します。」


 今の所は、姉貴達の想定で動いているな。俺の所も、なんとかなりそうな感じだ。

 そういえば潜水艇はどうなったのだろうか?それに武装商船も気になるな。



 

 

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