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#410 早まる予定



 スマトル王国による威力偵察が終って一月が過ぎた頃、作戦本部の呼び出しを受けてエントラムズの王都近くの森に設えた作戦本部に出向いた。

 作戦本部の大天幕に入ってみると、ケイモスさんを始めとした主要な軍の指揮官が勢揃いしていた。

 「全員揃ったようじゃな。先ずは状況じゃ。」

 サーシャちゃんの言葉に姉貴が情報端末を操作して、姉貴達の後ろに大きく広げられたスクリーンに科学衛星からの映像を映し出す。


 「今年に入ってから商船型の輸送船の建造が活発じゃ。現在までに約100隻が作られて、更に作っておる。

そして、先週から新たな動きをしておる。旧カイラム王国に点在する港の周辺に軍船が集結を始めたのじゃ。

 集結した軍船の総数は約1,600隻。潮流の流れに乗って一気に連合王国の海岸に上陸する算段と思われる。

 どう考えても、年を越える事は無さそうじゃ。早ければ三箇月以内にも本格的な陽動部隊が動く筈じゃ。」

 

 「想定よりも早まりましたな。…今年分の爆裂球引渡しは済んでおります。昨年分と合わせれば不足はありますまい。問題はクロスボーとボルトの製作が途上である事。それに大砲と無反動砲の定数が不足している事です。」

 「こちらが全て準備を整えるまで待ってもくれぬじゃろう。ネイリーと修道院は既存分で対応するしかあるまい。大砲については新規の引渡し分は全てセリウスの部隊に引き渡す。クロスボーとボルトは各国の王都の工房が作った分をそれぞれの町や部隊に引き渡す。」

 

 となると、俺のところはアトレイム王都頼りになる。問題は大砲だな。既存と言うと5台だぞ。無反動砲は15台あるから、ちょっと作戦を変更しなければなるまい。

 クロスボーは民兵用が半分程だ。これも頭が痛い話だな。


 「とは言え、陽動部隊に対して大砲の数が不足していることは問題じゃ。昨日、リムがエントラムズ工房より受取った7台の大砲はネイリーに5台、修道院に2台を分配する。無反動砲は10台。これは半々じゃ。」

 少しは増えるか…。それでも、少ないな。

 

 「敵の進攻を待つだけで洋上撃破は考えられないのですかな?」

 「我等がスマトルに拮抗した軍を持つのであればそれも良い。しかし、軍の規模があまりにも開き過ぎておる。我等はあえて敵の上陸を許す。…じゃが帰す心算は毛頭持たぬ。」

 ケイモスさんの問いにサーシャちゃんはニヤリと笑いながら答えた。


 早ければ三箇月以内というなら初夏には戦が始まるという事になる。

 俺は作戦本部を出ると荷物を受取り、イオンクラフトで岬の別荘に急いで戻った。

                ・

                ・


 「…と言う事だ。早ければ3ヶ月前にやって来る。」

 「だいぶ予想とは違うようじゃな。まぁ、今回はテーバイ戦のような姑息な真似をしないだけマシじゃな。」

 「とは言え、装備が間に合わないのが痛いです。何とか、民兵の半分以上にはクロスボーを渡したいものです。」

 「クロスボーだけではない。ボルトや矢も足りぬ。一度王都に戻り備蓄品の支給を頼んでみます。王都の戦いは我等が頑張れば無くなる可能性もありますからね。」

 

 「それは、ボルスさんにお願いするよ。サライは町に行って避難を開始するように町長とデクトスさんに話をしてくれ。今から始めればかなりの家屋を解体して運べるだろう。」

 「問題は井戸じゃな。」

 「ぎりぎりまで待って、井戸を破壊する。それまでは漁が出来るから井戸は残しておいた方が良い。」


 リビングのテーブルからボルスさんとサライが席を離れていく。

 早速、仕事を始めるみたいだな。

 「それにしても、大砲が7台に無反動砲が20台…。少ないのう。」

 「砦に4台、テラスに3台かな。無反動砲は4台ずつ戦闘工兵に渡す心算だ。亀兵隊の強襲部隊は投石具を使えるから、それなりに戦えるだろう。」


 「上陸したら浮遊機雷を流すのじゃろう。効果は分からぬが…。」

 「それなりに期待できると思うよ。潮流に乗れば敵の船団を破壊できる。たぶん岸辺には200隻を越える船がいるはずだからね。それに、この砦には俺達がいる。ディーで大蝙蝠の母艦を叩けば、かなり被害が軽減出来る。」

 「まぁ、それもそうじゃ。砂浜に上陸しても直ぐに丘が迫っておる。その丘の上には屯田兵達が空堀を幾重にも廻らして控えておるのじゃ。やはり、この砦を抜かねば王都への足掛かりは出来ぬ。」

 「そして、砦の最初の石塀の向こうには杭と紐、それに地雷を埋めるから最初の攻撃は頓挫する筈だ。…アルトさん。地雷の設置はお願いするよ。」

 「了解じゃ。いやらしく仕掛けておくぞ。」


 アルトさんはどんな具合に仕掛けるのかな?

 サーシャちゃん達だとかなり嫌らしい場所に仕掛けるんだが…。

 「ディーの方は、準備が出来てるの?」

 「レールガン用の金属は20発分を確保しています。集束爆裂球は6個、それに気化爆弾も使用可能です。弓は先程補修しました。矢は通常タイプが20本。爆裂球付きが同じく20本あります。」

 

 まぁ、とりあえずはOKか。最初に大蝙蝠の母艦を沈めれば、ゾウとサイの攻撃用に矢は使えそうだ。

 後は、俺達の銃の弾丸だな。アルトさんは100発以上あると言っていたが、直ぐに無くなってしまうだろう。俺の銃もそうだ。これは今夜から少しずつ増やしていくしか無さそうだ。

 

 次の日にテラスから町を見ると、家屋の解体が始まったようだ。そして環礁の中で漁をしている船も見える。

 漁は可能な限り続ける心算だ。それだけ避難民の食料事情が良くなるし、王都で売れば収入にもなる。

 東の陸の中腹では水場と貯水池の隠蔽をしているようだ。丸太で骨組みをして布を被せた上に土を盛っている。

 砦ではバリスタを大砲と交換しているな。

バリスタは荷車に載せて、移動できるようにしているから、西の防御にはかなり使える筈だ。そして同じように丘の上にも3台程用意してある。不足分は無反動砲を使うしか無さそうだ。


 俺がタバコを吸い始めるのを見て、アルトさんが話を始める。

 「ところで、アンの息子については何も聞いておらぬのか?」

 「その話は無かったよ。まぁ、私的な話だから作戦本部では出来なかったのかな?」

 「我等で一緒に贈ろうと思うのじゃが、こう場所が離れていてはのう…。」


 確かに、ここからだと作戦本部に直接通信を送ることが出来ない。アトレイム王宮とエントラムズ王宮の大型通信機を介して作戦本部に送るから、内緒話は出来ないよな。


 「明日にでも一度訪ねたら良いよ。ディーに乗せて言った貰えば往復2日で済む。それからでも地雷を仕掛けるのは遅くは無い。」

 「そうじゃな…。行ってみるか。アキトは何か案を持っておるのか?」

 「そうだね。男の子だし…、大鎧なんかが良いと思うんだけど。」


 女の子ならお雛様だし、男の子なら鎧か鯉のぼりだよな。

 鯉のぼりなんか作ると、強襲部隊の旗になりそうな気がするから、無難に大鎧で良いと思う。

               ・

               ・


 次の日、朝早くにアルトさんが作戦本部に飛んで行った。

 俺は、リビングでお茶を飲みながらボルスさんとデクトスさん、それにサライ達と状況確認だ。

 「二月あれば、町は何にも残らねぇ。これから熱くなるから、天幕暮らしは問題ねぇが、冬は問題だな。大工達が老人子供用に長屋を作ろうって騒いでいるぞ。」

 「長屋はギリギリまで待ってください。場合によっては更に北に避難してもらいます。」


 そう言えば、この戦はどの位続くのか誰も考えていないような気がする。

 姉貴に聞いても、相手が降参するまで!なんて言いそうだ。

 とりあえず、食料は備蓄も有るし今年の生産物もあるから、何とかなるかも知れないけど、長期化したら疲弊するぞ。


 「しかし、陽動軍が2万を超える事はあるんですか?…それだけで連合王国正規軍よりも数が多いですよ。」

 「敵軍の総数は30万以上と推定している。その内、半数近くが来襲すると想定しているんだけどね。姉貴達は、その内の四分の一がここに陽動に来ると言っている。スマトル本隊の上陸を考えると、陽動で俺達を撹乱している時が望ましい筈だ。

 良いか、スマトルはこの地に上陸する2万の軍を捨てても、10万の本隊を上陸させて、内陸に展開すれば俺達にはもう手が出せない。

 数に惑わされないでくれ。ある意味、俺達の相手は本隊上陸の為の死兵に近い。本気で向かってくるぞ。」

 「士気は我等以上という事ですか…。」


 俺はタバコを取出しながら頷いた。タバコに火を点けると話を続ける。

 「そうだ。精鋭だと思え!…俺達以上の精鋭だ。スマトル王国の軍は全て精鋭となる。そんな国策が行なわれているのだ。」

 「ならばこの国でもそれを取り入れれば良いんじゃねえか?」

 「国民の男子は全て兵隊だ。子供の内から教練が行なわれる。そしてそんな国民を養うのは奴隷の仕事になる。…精鋭が育つが、国としてはどうかと思うぞ。」

 

 デクトスさんは俺の言葉を聞くと首を振ってパイプを取り出した。

 「詰まらん国だ。俺は願い下げだな。」

 「だが、俺達が敗北するとこの国もそうなる。だから俺達は負ける訳にはいかない。」

 

 「だが、俺達の武器が揃っていないと聞いたぞ。武器が無くては戦えん。」

 「ボルスさん。王都の返事は?」

 「クロスボー150とボルトを3000本一月後に送って来るそうです。武器庫の弓と矢50組、それに片手剣50本と槍を100本は本日受領しました。」


 「という事で、デクトスさん弓を使う者が50人という事で、何とか武器が行き渡ると思うんだけど。」

 「まぁ、不足分はそれで良い。俺達も銛は持ってきている。」


 「後は最終配置ですね。でも、アルトさんが戻ってからにしましょう。」

 「1つ、言い忘れていました。アトレイムに在住のハンターに義勇軍の募集をしたところ、100名以上が集まったそうです。黒レベルのハンターを30人程度別荘に向かわせると言っておりましたから、近々に到着する筈です。」


 それはありがたい。彼等には別荘の東の丘を守ってもらおう。

 どう考えても、東に回せる兵員の数は200といったところだ。30人と言う数字はその1割以上になる。

 

 「アキトよ。俺達は軍船が見えるまでは交替で漁をしたいんだが、それは問題ないな?」

 「問題ありません。続けてください。町の解体が一段落すれば全員でも問題ないでしょう。魚は避難した町の人やこの砦にいる兵隊達の貴重な食料です。そして、可能な限り王都への供給もお願いします。」

 「あぁ、3つに分けて、それぞれに送る心算だ。そして、アキトよ。あの港でも釣れるんじゃないか?」

 

 その言葉を聞いて、俺の心が躍る。

 確かに釣れそうだ。何が釣れても、海魚で食べられないものは少ない。何と言っても、ザンダルーでさえ刺身にして食べたら美味かったからな。

 

 

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