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#041 リッシーは、やっぱりいるみたいだ

 キャサリンさんのお手伝いは、3日続けて1日休み。

 そんなことを繰り返す毎日だったが、今日は休みと言う事でゆっくりと朝寝坊を決め込んでると、リビングが騒々しい。……何だろうっと思って、とりあえず起きる事にした。


 ゆっくりと階段を下りると、姉貴とミーアちゃんが興奮したように早口でなんか言っている。ドアは開けっ放しだし、どうしたんだろう?


 「あ!アキト。起きたのね。大変なの!。居るのよ、リッシーが。……ねぇ、聞いてるの?」


 聞いてます。でも姉貴の話が突然すぎて良く分かりません。


 「ミーアちゃん。何があったの?」


 あたふたしてる姉貴を置いといて、ミーアちゃんにたずねることにした。


 「朝起きて、顔を洗おうとしたら、……湖の遠くに島が現れたの。急いでお姉ちゃんを呼んだら、島の脇から長い首がニュ~って……」


 あれか?大きな湖によくある怪獣の類なのか。

 確かにネス湖にはネッシーだし、屈斜路湖にはクッシーだ。ここは、リオン湖だから、リッシー?ようやく訳が分かりかけてきた。

 俺も見ようと思って外に出てみたが、そんなものはどこにもいない。


「見間違いだと思ってるでしょう。……でもいたんだからね!」


 後から姉貴が叫んでるけど、ここは異世界。何が出てもおかしくないから、もちろん信じてますよ。

 

 そんな朝の騒動はさておいて、今日は裏庭でのんびりと魚釣りだ。こんだけ大きな湖だし、何か釣れてもいいはずだ。

 俺が釣りを始めると、何時の間にか隣でミーアちゃんが観戦している。小さな木桶を持ってるし、なんか期待されているような気がしないでもない。


 ヒョコヒョコと浮が動き、スイーっと引き込まれる。手首を返すと、グイグイと引きが腕に伝わる。ヨイショって一気に釣り上げる。……マスのような魚だけど、何だろう?


 続いて、当たりがくる。そして、取り込み。……こんな感じで数匹釣り上げた。ミーアちゃんが大喜びで魚をさばいている。

 道具を仕舞って、暖炉にくると香ばしい匂いがする。暖炉の周りに3匹の魚が刺してあった。今日のお昼はこの焼き魚だな。

 

 トントンと扉を叩く音がする。

 ミーアちゃんが扉を開くと、そこにはキャサリンさんとギルドのお姉さんがいた。


 「今日は。今日はお休みでしたよね。この間のお肉のお礼です」


 そう言ってミーアちゃんに小さな籠を渡す。

 姉貴は……、何処にいるんだ? 急いで姉貴を探す事にする。


 「ちょっと、ここで待っていてもらえませんか。姉さんを呼んできますので」


 俺は急いで裏庭を目指す。案の定、姉貴はいた。椅子に座って、双眼鏡で湖面を監視している。


 「姉さん。キャサリンさん達が来てくれたよ」

 「え!じゃぁ、直ぐに行かなきゃ」


 双眼鏡を俺に渡して、タタターって家に飛び込んでいった。

 何か、面白い物でもみつけたのかな?俺も、双眼鏡で湖面を見てみたが怪しい物は見つけることが出来なかった。

 ちょっと、残念な気持ちで家に入る。


 「確かに、この湖には竜神が住むという言い伝えがあります。 昔は湖で漁をする人もいたんですけど。……動く島を見たとか、人の胴体程の太さのウナギをみたとか。……そんな話が広がって、今は漁をする人がいなくなりました。美味しい魚が取れるんですけどね」


 どうやら、姉貴がリッシーの話を聞いていたようだ。そして、キャサリンさんの話は姉貴の目撃談を肯定している。となると、やはりリッシーはいることになるのかな。


 人数が増えた分魚を増やしてミーアちゃんが焼き上げている。

 キャサリンさんが持ってきてくれたのは、焼いたばかりの黒パンだった。


 5人でテーブルに着き俺が釣り上げた魚をおかずに昼食を取る。

 キャサリンさんの妹はシャロンさんって言うそうだ。


 「気軽にシャロンで構いませんよ。お姉さんの友人ならなおさらです」


 そんなことを言ってるけど、年長者を呼び捨てには出来ないよな。

 もう少し経つと、この村の畑の収穫が始まり、その後は冬篭りの準備がはじまるらしい。そして、この村に大勢のハンターが、その前に訪れるのだそうだ。


 「流石に銀は来ませんが、黒の上位者も結構来られますよ。流石に赤レベルの人は少ないです」

 

 何のためかというと、狩猟である。山の動物達が冬篭りのため一番肉付きが良くなる季節だと言うのだ。

 大型草食獣をさばくための業者や商人までもが大挙して押し寄せてくるらしい。

 その時は村に1軒の宿屋では対処できないので、ギルドで村人に斡旋しているのだそうだ。去年キャサリンさんの家には、ミケランさんが滞在したと教えてくれた。


 「もし、空き部屋があれば、提供してもらえませんか。2食付で1人20Lが相場なんですけど」


 確かに、宿は足りないだろう。でも、せっかく剣姫に貰った家だしな。


 「条件があります。赤レベルであること。でも、グレイさんや、カンザスさんなら問題ないです。……それと、提供できる部屋は1つになります」

 「ありがとうございます。去年は、それでも足りなくて農家の納屋なんて人もいたんですよ」


 この日、とんでもないことが判明した。お風呂である。

 お風呂のお湯をどうやって手に入れるか。ずっと考えてたけど分からなかった。


 「お風呂のお湯は水魔法でお湯を入れるんですよ。ここもそうだと思いますが、排水はあっても水を入れるものはないはずです。お湯を出す魔法【フーター】で必要なだけお湯を入れるんです」


 俺達はどうしてもお風呂に入りたくて、風呂桶に水を張って焼けた石を次々に投入してお湯にしたんだぞ!……何で誰も教えてくれなかった。


 「あいにく、私達は水魔法を知らないんです。そんな時はどうするんですか?」

 「ギルドに契約すればいいのよ。一月で20L。……それで毎日お風呂に入れるわ。でも、移動神官に会うことがあれば直ぐに覚えたほうがいいわよ。ついでに、【クリーネ】も覚えると、衣服を清浄に出来るわ」

 

 キャサリンさんが帰った後、俺達は村の雑貨屋に足を運んだ。


 「「今日は」」 


 俺達の声で、奥から若い女の子が出てきた。


 「あぁ……届いてますよ。布団が3組にカーペットの大型で毛深いものでしたね。ちょっとお待ちください」


 女の子が、ウンコラショって運んできたものは、満足のいくものだった。 早速運ぶことになったが、布団とカーペットで2回に分けて運ぶことになった。しかも一輪車でだ。

 先ずは布団を運び、次にカーペットを運ぶ。そして、お店にあったいかにも手作り感の漂ったクッションを5つ新たに購入した。

 

 布団はロフトに運び上げ、後は姉貴に任せる。俺は、テーブルと椅子を退かして大きいほうのカーペットを敷く。次にテーブルと椅子をやや扉方向に移動して暖炉の前を大きく開ける。

 此処にフワフワカーペットを敷いて、適当にクッションを置いた。これで、暖炉の前に寝転べるぞ。

 姉貴の様子を見にロフトに上がると、ミーアちゃんと布団を並べていた。 マットレスは無いけど、板の間に寝るよりは遥かにマシだ。

 

 その日は、夕食後に直ぐ布団にもぐりこみ、3人とも直ぐに眠りについた。

 次の日の朝。朝食前に裏庭に3人で出かけてリッシーを探したが見つからなかった。

 

 ギルドに行くと、大量の薬草の注文が入っている。強壮薬のジギタ、傷薬のサフロン、毒消しのデルトン。しかも、量に制限が無く、できるだけ沢山っていうものだ。

 先にギルドで待っていたキャサリンさんに聞いてみた。


 「あれは、もう少しで始まる狩猟に備えているんです。無理な狩りを行なって毎年亡くなる人もいるんですよ。亡くならないまでも大怪我をする人達は大勢いるんです」


 なるほど、冬越しの資金を稼ぐために無理をするものが大勢いるらしい。そこまでしなくとも森に仮小屋を作って冬を越せばいいのにと思うのは、俺だけだろうか?

 とにかく、この依頼を何とかしなくてはならないようだ。

 

 そんなわけで、今回はまとまって薬草を探す事になった。4人で交替しながら周りを警戒すれば安全に採取できると考えたのだ。


 「じゃぁ、出かけるよ!」


 姉貴の声で俺達はギルドを出たけど、さて、何処に行くの?

 村の通りを歩き、三叉路の所に来た。


 「南の畑や草原あたりの薬草は村人の任せましょう。私達は森近く斜面を探そうと思うんですけど」

 「今日は、キャサリンさんにお任せします」


 キャサリンさんと姉貴の短い会話で、俺達は西の門を出て小道を山の方に進んでいく。

 

 西の門から歩く事1時間余り、森の姿が良く見える距離に近づくと、今度は小道を抜けて森の外れを東に周り込んでいく。すると草原の所々に岩がポツンポツンと点在している場所に出た。此処からはずっと湖の辺まで日当たりのいい斜面が広がっている。

 

 「ここが、私の通う薬草の宝庫なんです。じゃあ、皆さん頑張って採取お願いします」

「最初の見張りはミーアちゃんお願い。次はアキトだからね」


 ミーアちゃんが岩の上にスルスルって登ると周りを見張り始めた。

 俺達はミーアちゃんのいる岩を中心に薬草の採取を始める。


 しばらく俺達があっちこっと移動しながら薬草採取をしていると、「あぁ!!」ってミーアちゃんが叫んだ。


 驚いて、直ぐにミーアちゃんの立っている岩によじ登る。そしてミーアちゃんの指差した方向を見ると、そこは湖だった。

 周辺の山々と青い空を写した鏡のような湖面を、ゆっくりと島が動いている……。

 なるほど……、リッシーがこの湖にはいるんだな。って不思議な光景を肯定している自分に気がついた。

 

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