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#402 闘い終わって



 港の倉庫の一つに作られた大会本部の会場は、人で一杯だ。

 7日間に渡る第1回海釣り大会の成績発表がこれから行われるんだが、第1回目という事で、想定外の出来事が色々と出てきたらしい。

 その一番の例が大物をどう定義するかだ。

 重さなのか、それとも長さなのか…。俺は種類ごとに大物を選べばどちらでも良いような気がするが、総合1位となるとそうもいかないらしい。

 重さでは、3mもあるザンダルーを釣り上げた船が一番で、長さでは5mを越える砂蛇を釣り上げた船が一番だ。

 どちらに軍配が上がるか、ちょっと楽しみではある。


 昨日までは壁の一角に表示されただけの成績表が、今日は壁一面を使ってデカデカと貼り付けられている。

 それを見ると、トロイカは3番目に位置している。

 トップはデクトスさん達の船で、ディートル君達は4番目だ。2番手は、ラサドム村の漁師のトレックさんだった。

 やはり漁師が乗船してるか否かがこの勝負に大きく影響するようだ。


 石作りの倉庫だから本来は涼しいのだろうが、これだけの人がいると熱気で汗ばんでくる。

 倉庫の窓は全て開放されているから、時折吹く潮風が心地よい。

 それでも、大勢がパイプを煙らせているから、天窓から外に出る煙の量は凄いだろうな。火事と間違われないか心配になってきたぞ。

 そんな会場のあちこちを娘さんが歩きながら飲み物を配ってくれる。

 その飲み物は冷たいビールだったから、この賑わいに油を注いでいるような感じだ。

 家の嬢ちゃん達も飲んでるけど、大丈夫なんだろうか?俺は1杯で止めといたけど…。

 

 そして、いよいよ成績発表が行われる。

 進行役はケルビンさんのところの長男だな。

 先ずは、国王の挨拶からのようだ。

 国王が壇上に現れると、それまでの喧騒がピタリと静まった。

 

 「さて、第1回の大会は無事終了した。皆は成績が気になるだろうが、今回は初回であることから、色々と想定外の獲物の対応に苦労した大会委員に先ずは感謝する。

 そして、今回の反省を加味して次の大会を開けば、更なる盛り上がりを見せるだろう。

 良いか!…今後ともこの大会を継続する事を私の名で約束する。今回、運が無かったと思う者は、次の大会で運を我が物にするのだ!!」


 「「「オオォォー!!」」」

 会場から割れるような歓声が上がる。やはり、腕ではなく運だ。と思っている者は多いんだな。まぁ、釣師は自分の腕が最上だと思ってるから仕方ないけどね。


 そして、いよいよ部門別の表彰が始まる。

 カジキ、ハタ、ザンダルー、鯛…。色んな魚が釣れたみたいだ。

 引き釣りだけなら青物だけど、根魚釣りも今回は含めていたし、釣れた物は何でも対象にするという、かなりアバウトな大会だ。

 「海老部門。優勝は、リム・ヨイマチ!…。」

 リムちゃんがニコニコしながら壇上に向かった。金色に光るメダルを貰って嬉しそうだな。

 

 「我のカニも大きかったのじゃ…。」

 残念そうにアルトさんが壇上を見ているけど、更に大きなカニを釣った者が大勢いたようだ。

 「鮫部門。優勝は、ディー・ハヤブサ!…。」

 4mを越える鮫だった。手元に引き寄せ、ディーが銛と投槍を数本突刺してようやく殺したんだけど、その大きな口はミク達が飲み込まれる位大きかったぞ。

 「記念じゃ。」と言って嬢ちゃん達が、鮫の歯をディーに引き抜いて貰ってたけど…。


 そして、いよいよ総合成績の順位だ。

 まぁ、あらかじめ壁に張り出されているから、個別の優勝程の興奮は巻き起こらなかったが、表彰の壇上にはブリューさんが上がってメダルを受取った。

 俺達のメダルの受賞は今回のリーダーであるシュタイン様だ。

 国王自ら首に掛けてくれた銅メダルを受取って、何やら国王と話していたのが気になるな。


 一通り表彰が終った後になっても、国王は壇上を去らない。

 「これで、今回の表彰は終了となる。だが、ここにもう一つ特別賞を用意した。この賞を、大会前日に巨大なカジキを釣り上げた海の男に授ける。あのカジキを観てやる気を出した者も多かった筈だ。惜しくも大会前である事から今回の記録には残らないが、皆の記憶には刻まれたろう。

 特別賞は、シュタイン・デ・モスレム。前モスレム国王その人だ!」


 「「「ウオオォォー!!!」」」

 倉庫が壊れるような歓声が上がり、その中でシュタイン様が席を立つ。

 サーミスト国王から、木箱を受取るとその場で開けて、中の物を取り出すと頭上に掲げて俺達に向き直った。

 「「「オオォォー!!」」」

 金色と銀色に輝く物体はパイプだな。その品を見た参加者から再度歓声が上がる。

 アテーナイ様も嬉しそうに拍手をしている。夫の誉れは自分の誉れでもあるという事かな。


 そして、大会は無事に終了した。

 と言っても、その後のメダル受領者を集めた宴会はサーミスト王族主催で行われるとの事である。その他の参加者については都市主催の宴会が待っていたらしい。


 サーミスト王家の別荘の広間には100人近くの招待客で溢れていた。

 総合順位4位までを1つの大きなテーブに集め、部門別の入賞者は数箇所のテーブルに分散して座らせたようだ。


 豪華なフルコースの料理が次々と並べられ、侍女達の手で切り分けられる。

 そして、カップが空になる暇も無く、酒が注がれていった。


 「まさか、モンド達がこの席に出るとは思わなかった。」

 「今回は4位ですが、次は上位に出られますよ。アキト様に仕掛けを教授して頂きましたから。」


 「仕掛けか?…そういえばアキト達は生餌を使わなかったのだな?しかも優勝したお姫様達も疑似餌だと聞いたぞ!」

 「そう言えば、まだ教えていませんでしたね。後で宿に仕掛け一式と釣り方のメモを届けます。」


 「何じゃ。優勝した陰にはアキトの働きがあったのか?」

 「最初にデクトスが教えを受けたと聞いています。デクトスは漁師の元締めですから、直ぐにあの仕掛けに精通したのだと思います。」

 俺とデクトスさんの会話にブリューさんが入って来た。


 「確かに最初は俺の町の漁師全員が疑った。こんなんで釣れるのか?ってな。…だが、その前にも色々と仕掛けを教わり、その効果が予想以上だった事もあって試してみたんだ。

 驚いたぞ。その日の夕方に帰って来た舟には、大きなカジキが3本も乗っていたんだからな。」


 「ワシも湖で似たような釣りをしているが、海はスケールが違うな。まるで獣との戦いだ。

 最初の獲物を引き上げたときは、棍棒でセリウスが頭を殴っておった。そして、変わった仕掛けで船に取り込んだんだ。」


 「そうだ。それを俺達も聞きたい。あの大きさのカジキを引き寄せる事は出来る。だが最後の取り込みに糸を切られる事になる筈だ。」

 「フライングギャフという道具を使います。ディー、持ってるかい。」

 

 俺の言葉にバッグから特大の袋を取り出すと、1本の手鈎を持ち出した。

 「この手鈎を打ち込みました。通常の手鈎では獲物が大きければ柄が折れてしまいます。ですがこの手鈎ならば、柄が外れて先端のフックが獲物に食い込んだままロープで引き上げられます。」


 「これは次の大会が楽しみだ。柄が折れて獲物を逃がしたのは、俺達だけではあるまい。この港で売りに出しても良いんじゃないか?」

 「これを頂けませんか?…工房で作らせます。一月もすれば雑貨屋に並ぶでしょう。」

 「良いでしょう。やはり、道具に優劣があるのは問題ですからね。」


 俺の答えにディーがフライングギャフをモンド君に渡してるけど、何か渋々って感じだな。

 気に入ってたのかな?

 

 「アテーナイ様も楽しそうですね。」

 「分かるか?…やはり、早くに隠居をすれば良かったと後悔しておるぞ。毎日が楽しみで一杯じゃ。」

 サーミストの御后様に嬉しそうな表情でアテーナイ様が答えてるけど、そんなアテーナイ様をまだ現役でおれば良いものを…等とアルトさんが呟いている。


 「後、残っているのはエントラムズとアトレイムですね。そろそろ真剣に考えませんと…。」

 「それについてもう一度、国王の会議で決めて頂きたい事があります。それは、開催頻度です。このような大規模な大会を毎年4カ国で行う事は、参加者と観衆が分散する可能性があります。俺としては毎年2回位に制約しては…。と考えているんですが。」


 「確かに…。この夏は、モスレムの人間チェスを開催しなかった。その分、この大会に観客や商人が流れている訳だな。

 自国の民を楽しませると共に流通を促進するものでもある。これは1度考える必要がありそうだ。」


 これで、少し時間が稼げるぞ。その間に何とか考えよう。

 「だが、次の大会のサワリだけでも聞きたいものだ。どんな事を考えているのかね?」

 「王国全土を使った大会を考えています。俺の国では盛んなんですが、連合王国の国々では見た事がありません。少し地味ではありますが、それなりに楽しめる筈です。」


 「王国全土を使って行うとは大きな大会になるようじゃが、そんな大会が出来るのか?」

 「可能です。通信器と正規軍、それに亀兵隊が必要になりますが、それ程大勢でなくても大丈夫でしょう。」


 「模擬戦の類ではないんだな?」

 「全く違います。チームによる対抗試合の形になりますが、領民が参加しても優勝の機会は十分にある筈です。」


 「ひょっとして、駅伝!」

 姉貴が大声を上げた。

 「駅伝とは何じゃ?」

 アテーナイ様が早速姉貴に質問している。


 「アキトが言った通りの競技です。一言で言えば、かけっこですね。町から町、街から村へとタスキと呼ばれる布を渡していきます。

 走る競技ですから、走り自慢の人達が集まってくる筈です。

 どの町へも行きますから、特定の場所に観客が集中する事もありません。屋台の商人は先読みして次の町に向かえば良いんです。」

 

 「しかし、どの程度1人が走るのだ?」

 「そうですね…。だいたい20M(30km)前後になるはずです。」

 姉貴が距離を話した途端に場が静まり返る。

 ひょっとして、長距離を走った事が無いんだろうか?


 「かなり過酷な競技じゃな。その距離を一気に走りおおせる者はそれ程多くは無いぞ。」

 「なら、半分の10Mでも良いでしょう。女性や子供達は更に半分という事でも良い筈です。」


 やはり、長距離を走る機会が連合王国には無かったようだ。そうは言っても兵士の訓練では当然取入れている筈だ。ここは、実行委員会と相談しながら距離を決めれば問題ないと思うけどな。


 「早速次の会議で提言しよう。近衛兵達の特訓が始まりそうだ。」

 そう言って満足そうにサーミス国王はカップの酒を飲み干した。

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