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#040 キャサリンさんのお手伝い

 次の朝。朝食を終えて、適当にお弁当包むと、ギルドに出かけることになった。


 「やはり、山は少し冷えるよね。こっちに着替えなさい。ミーアちゃんもね」


 姉貴の出掛けの一言で、俺と姉貴は迷彩パンツに着替える。上着はとりあえずポンチョに丸め込んで、迷彩キャップを被れば準備OKだ。ミーアちゃんはインディアンガールのスタイルだ。しっかりとバンダナ鉢巻にクルキュルの羽を1本付けている。


 「さぁ、出かけましょう」


 姉貴の一言で、俺達はギルドに向かって家を出る。


 「姉さん達はどんな依頼を受けるの?」

 「そうねぇ……ミーアちゃんと協力して出来る依頼がいいな」


 姉貴……、答えになって無いぞ。

 そんな会話をしながらギルドに入ると、キャサリンさんが待っていた。


 「今日はよろしくお願いしますね」

 「こちらこそ、よろしく!」


 レベルは同じでも、キャサリンさんのほうが先任だ。ここは、全てをまかせたほうがいいに決まってる。

 依頼板を確認する。3人しかハンターがいないのに依頼書はいっぱい貼ってある。

 姉貴達も探し始めた。時々、図鑑を見ながらミーアちゃんと話し合ってる。さて、どんな依頼を受けるんだか……。

 

 「あの……。この依頼書なんですけど」


 1枚の依頼書を依頼板から外してキャサリンさんが持ってきた。

 何々……、フェイズ草15本以上求む。報酬:200L。15本以上については、1本10Lで引取可。


 「質問です。フェイズ草って何ですか?

 それと、採取にあたりどんな危険がありますか?」

 「フェイズ草は、風邪の特効薬なんです。冬にこの村では流行しやすいので今の内に確保したいんだと思います。

 問題は、その薬草がグライトの谷にのみ群生していることなんです」


 呟くような声で俺を見上げる。


 「グライトの谷は、カルキュルの営巣地です。クルキュル程大きくはありませんが、赤レベルのハンターには危険な相手です。……何とかなりませんか?」


 キャサリンさん。そんなお願いモードで俺に頼むのは止めてください。

 でも、姉貴には「キャサリンさんの言うとおりにしなさい」って言われてるし……。

 「いいですよ。2人でなら何とかなるでしょう」


 俺達はカウンターに依頼書を持っていく。

 カウンターのお姉さんは、依頼書にドデン!ってハンコを押してくれた。これで、依頼成立となる。


 「お姉ちゃん頑張って!」

 「任せなさい。今日は、強力な助っ人がいるから!」


 ん?……キャサリンさんの口調がちょっと変わったぞ。そういえばギルドに妹がいるって言ってたな。

 姉貴の方を見てみると、何か良い依頼を見つけたようだ。にこにこしながらカウンターに近づいてきた。


 「結局、今日の依頼は何にしたの?」

 「ラッピナ狩りにしたわ。前に経験してるし、ミーアちゃんのレベル上げにも丁度良いしね。それに、畑の作物を荒らされて困ってるみたいなの」


 ラッピナといえばシチューだ。宿のおばさんの造ったシチューが頭の中でリフレインしてくる。


 「アキトの方は?」

 「風邪の特効薬採取だ。でも、小型のクルキュルがいるみたいなんだ」


 「油断しない事。そして、躊躇しない事。キャサリンさんもいるんだからね」

 「分かったよ」


 姉貴もカウンターで依頼書にハンコを押して貰って契約成立だ。

 4人でギルドを後に、村の通りを歩いてく。

 俺達の家の入口を過ぎて少し歩くと、三叉路がある。村を南に下る小道だ。

 

 「じゃぁ、私達はこっちに行くから、頑張ってね!」


 姉貴とミーアちゃんは俺達に手を振りながら緩やかな坂道を下りていった。

 俺達も手を振って姉貴達を見送る。


 「ラッピナは罠を使うんですが、ミズキさん達は持ってませんでした。大丈夫なんでしょうか?」

 「マケトマムではラッピナ狩りの記録を塗り替えてましたよ。大丈夫です。俺達も先を急ぎましょう」


 村の通りをどんどんと西に歩いて行く。


 「ここが、私の家です。母と妹の3人暮らしなんですよ」


 キャサリンさんの指差した家は小さなログハウスだった。殆ど村外れに位置している。

 そして、村の西の門に到着した。


 「キャサリンじゃないか。今日は2人なんだな。トレイル山にグライザムを見たものがいるそうだ。そっちに行くのなら注意しなよ」

 「ありがとうございます。今日はグライトまでですから心配ないと思います」


 「なら、安心だな。……兄ちゃん。キャサリンを頼んだぞ!」


 門番さんにも頼まれてしまった。


 とりあえず「任せとけ!」って言ったけど、門番さんは笑ってた。成り立てのハンターだと思ったらしい。


 門を出ると山に向かって緩やかに登る道が続いている。リオン湖の縁を周るように俺達は、山裾の森に入っていった。


 2時間程歩き続けて最初の休憩に入る。小道の傍に大岩がポツンとある場所は村人も休憩場所として利用しているみたいで、焚火の跡もある。

 家1軒程もある岩の上に登ると、リオン湖とその南側にあるネウサナトラム村が良く見える。俺達の家は見えないかなと探したが、よく分からなかった。


 「グライトの谷って、まだ遠いんですか?」

 「丁度半分位ですね。この森を抜けて今度は南に尾根を周るようにリオン湖の東に出ると、大きな谷にでます。

 そこが、昔にグライトさんが見つけた谷、グライトの谷なんです」


 実に簡単な名前の付け方だが、村人がそれで場所を特定できるなら、立派な名前となる。俺もそんな場所を見つければ、アキトの谷って呼ばれることになるんだろうな。……なんて考えながら、先を急ぐことにした。


 森を抜けると、ゴツゴツした岩と低い潅木が山の上まで続いている。雪で埋もれる地方だから森は山裾にしかないみたいだ。

 キャサリンさんは器用に岩を伝って先を急ぐ、意外と俺より山歩きが慣れてるみたいだ。


 山肌に動くものがいる。何だろうと思って立止まってみていると、キャサリンさんが俺の視線に気が付いて教えてくれた。


 「サルトムですよ。群れで山肌の岩場に住んでいるんです。サルトムの狩りも依頼にあるのですが、それはアンディ達に任せておけば大丈夫です」


 アンディ達とは男女2人組みの赤レベルのハンター達だよな。


 「アンディさん達は、ギルドにいませんでしたけど、長期の依頼をしているのですか?」

 「そうではないのよ。アンディ達もこの村に家を持っているから、暮らしに困らない程度にしか依頼をこなしてくれないの」


 無理して、ハンター業を行なわなくても暮しに困らないなら、それも有りだと思う。ハンターは皆上位レベルを目指すとは限らないし、そんなことを目的としたら命が幾つあっても足りなくなるだろう。

 俺達だって、短期にとんでもなくレベルは上がっているけど、本来の目的は慎ましく暮らす事だ。


 そんなことを考えながら歩いていくと、突然に深い谷が見えてきた。


 「あれが、グライトの谷です。フェイズ草はあの谷の日当たりの良い斜面に群生してるんです」


 そして、谷の入口まできた。ここから、岩場を伝いながら降りることになるが、フェイズ草ってどんな形なんだ?

 キャサリンさんは先行してドンドン下りていく。ロッククライマーより岩場の扱いが上手いんじゃないかな。ホントに後を追いかけるのがやっとっていう感じなんだ。


 「あれがフェイズ草です!」


 キャサリンさんが指差したものは……ネギ??

 確かに、ネギは風邪にいいと聞いた事があるけど。……ここまでしてネギを取りに来るのか、この世界では?

 だいたいネギなら畑に栽培してるのが普通じゃないのか!


 岩場のちょっとした平地に数本のネギが生えている。キャサリンさんは早速、ネギの傍に近づき、ネギの周りをスコップナイフで掘り出した。

 どうやら、ネギモドキの球根が目的らしい。ネギには球根がないから、これはネギではない。フェイズ草なのだ。でも生えてる姿を見る限りネギだよな。

 

 早速手伝おうとしたら、止められた。


 「アキトさんは周囲の警戒をおねがいします。このフェイズ草は傷つけると、その匂いにつられてカルキュルがやってくることが多いんです。カルキュルはこの傾斜面を平地のように歩き回ります」


 それは、ヤバイ。早速、近くの岩によじ登ると周囲を警戒する。

 確か、クルキュルって俺のグルカナイフを跳ね返したんだよな・・そんなことをおもいだして、何時でもM29を使用できるように腰のホルスターから銃を取り出して、ベルトの前に差し込んでおく。

 

 キョロキョロと辺りを見回していると、モコモコした奴が近づいてきた。ヒョイと首が持ち上がる。

 確かに小型のクルキュルだ。1匹だけなのかと周囲をもう一度見てみる。 近くにもう1匹いるが、群れでは無さそうだ。


 「キャサリンさん。カルキュルが2匹近づいてますけど……」

 「ここで、5本取れます。何とかなりませんか」


 キャサリンさんは一生懸命、土を掘っている。4本目に取り掛かったところみたいだ。


 「わかりました。ちょっと大きな音がしますが吃驚して谷に落ちないで下さいね」


 カルキュルはドンドン近づいてくる。ネギが好きなのかな?

 そして、キャサリンさんに20m程近づいた時、M29を引抜き慎重に狙いを定める。


 ドゴォン!!

 マグナム弾はカルキュルの胴体を貫通した。「……ドォゴォォン……」と発射音が谷に木霊する。


 キャサリンさんは吃驚して俺を見上げたが、直ぐに作業を再開した。

 岩を下りて射殺したカルキュルを調べてみる。やはりクルキュルと一緒でどう見てもニワトリなんだよな。

 食べられるかもしれないので、魔法の袋に入れて腰の大型ポーチに入れといた。


 「次に行きましょう!」


 キャサリンさんの作業が終わったみたいだ。また、キャサリンさんの先導で谷を下りていく。

 そんなことを繰り返していると、だいぶ日が傾いてきた。


 「そろそろ、戻りましょう。依頼の数以上手にいれましたから」


 2人で今度は谷を登る。結構急な斜面なんだけど、キャサリンさんはものともしない。

 俺の世界だと有名な女流登山家になれる素質十分だ。

 

 森の縁を辿るように山を歩いて最初に登ってきた小道に出る。そこからは森をあるいて村に戻ればいい。


 「ところで、カルキュルを2匹倒して持ってきてるんですけど・・これって、売れるんですか?」

 「売れますよ。ギルドにカルキュルの依頼はありませんでしたが、村の肉屋さんが引き取ってくれます。ギルドの途中ですから寄って行きましょう」


 村の西門に着くと、朝いた番人さんと人が代わっている。


 「この村は小さいので番人を専門に置けないのです。村人が交代で番をしてるんですよ」

 「俺達も、その内番をすることになるのかな?」


 「ハンターは別です。でも何か有れば一斉召集になりますね」


 途中の肉屋に寄ると、カルキュルを引き渡す。1匹は両足を別々に包んでもらった。それでも、残りの肉は50Lで売れたのでちょっと嬉しくなる。


 ギルドについてカウンターにフェイズ草の球根を渡すと依頼は終了だ。全部で17個。220Lになる。さっきのカルキュルの代金と合わせると270L。135Lづつ分けて、カルキュルの足も1本づつ分けた。


 「カルキュルなんて、ひさしぶりです」


 キャサリンさんが喜んでる。

 

 バタン!ってギルドの扉が開くと、姉貴とミーアちゃんが帰ってきた。

 カウンターに行くと、ミーアちゃんが袋を出して、ドサドサとラッピナをカウンターに落としていく。


 カウンターのお姉さんが吃驚してるけど、これはミーアちゃんのお手柄なんだよな。

 

 「あんなに、沢山ラッピナを取る事が出来るんですか?」

 「ミーアちゃんがいるからね。気配を消してラッピナに近づき、クロスボーで一撃。他の人には出来ないと思うよ」


 どうやら、8匹をギルドに納めるようだ。120Lを貰って姉貴達は喜んでる。

 俺達のほうにやってくると、「肉屋さんを教えて!」ってキャサリンさんに聞いてる。


 姉貴達もラッピナの肉をさばいてほしいみたいだ。

 家に帰る途中で肉屋さんに寄ると、2匹渡して、一匹を無償でさばいて貰う。

 肉を半分づつに分けて、キャサリンさんにあげると、俺達は家に戻った。


 ラッピナシチューとカルキュルの焼肉はやはり美味しかった。

 自制しないとメタボになりそうな気がする。

 

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