#394 テーバイ王宮にて 2nd
「帆船は分かりますが、武器を新たに作られたという事ですか。そして水中を走る船等想像も出来ませんが…。」
「婿殿が作ってくれたのじゃ。これで、スマトルの船団に少しでも損害を与えたい。じゃが我がモスレムを含め周辺諸国においても、この船を活用出来る者がおらぬ。」
ラミア女王の言葉に、アテーナイ女王が答える。
「その武器は我が国へも供与可能ですかな?」
「鉄が大量に必要になります。現在の所供与出来ても数台になろうかと…。」
「しかし、良い事ばかりではない。その武器には爆裂球が必要なのじゃ。」
「それで、爆裂球を欲しいという事になるのですね。…ですが、この国の爆裂球の残りは800程度です。そのような大戦が控えているなら、お渡しする事は出来かねます。」
ん…。話がおかしいぞ。ラミア女王の話を聞いたアテーナイ様も首を傾げている。
「…訊ねたいのじゃが、テーバイは爆裂球の取引を行っていないのか?」
「爆裂球は遥か東の国より絹を対価に入手しております。」
「我等は、カラメル族より直接取引をしておる。毎年、爆裂球を1万個。その対価は穀物と野菜じゃ。金額的には1個5L程度になろうか…。」
そう言って、アテーナイ様はカラメル族との爆裂球取引のあらましを説明した。
「という事は、我が国もカラメル族より爆裂球を直接取引出来る事になりますな。」
老いた指揮官の言葉にアテーナイ様が頷いた。
「…で、どうじゃろう。我等でカラメル族と交渉し、テーバイへの取引を可能とする代わりに我等に爆裂球を譲って貰えんじゃろうか?」
「お任せします。その交渉が可能であれば入手出来た爆裂球の半数をお渡し出来ると思います。…それと、先程の件についてですが、私でよければ指揮を取りましょう。アトラスもそれで良いな。」
ラミア女王の言葉にアトラスさんが大きく頷いた。
「それでは、テーバイも我等と共にスマトルと戦ってくれるという事で良いのじゃな?」
アテーナイ様が念を押すように、ラミア女王に確認を取る。
「良いでしょう。でも、1つ条件を付けたいのですが…。」
「たいがいの条件は飲む心算者が、我にもそれについては1言ある。此処にいる者達をテーバイに残す事は出来ぬ。但し、この者達の協力はやぶさかではない。戦いや国造りで疑問があれば婿殿達は答えてくれようぞ。」
ラミア女王が俺を見て微笑んだ。
「先に言われてしまっては、しょうがありませんね。良い機会ではありましたが…。
とは言え、先の戦であれだけの戦功を上げたことは事実です。テーバイの戦力は僅か…また、助力を願う立場になりますが、何らかの事前策をお持ちですか?」
その言葉を待っていたように姉貴が立ち上がる。
「色々とあります。今回、テーバイを直接攻める事は少ないと考えています…。」
そう前置きして姉貴がテーバイの事前準備について説明を始める。
1つ目は、空堀の構築だ。ゾウ部隊とサイの突撃を遅延する為に必要となる。
2つ目は、対空クロスボーの増強。これは大蝙蝠による戦略爆撃による被害を軽減する為に必要となる。
3つ目は、民兵組織の構築。クロスボーを使えるだけに育てれば一気に王都やジャブローの防衛力を上げることが出来る。
「最後に、私達がここに来た目的でもある東の狩猟民族の協力を得ることです。前回の戦では多大な貢献をして貰いました。
前回はどの様な経緯で協力して頂けたのかは分かりませんが、次の戦では彼等の協力が得られるか否かで情勢が大きく変わります。」
「面白い…。我等の協力いかんで情勢が変わるとは、そこまで評価して貰えるとはな。だが、あれはスマトル側が我等の領土に無断で入って来た事に端を発している。
我等は平和を尊ぶ。我等を侵略せぬ限り我等が動く事は無い。」
末席にいた日焼けした若者が言った。どうやら、テーバイと狩猟民族は友好関係にあるようだ。此処に彼がいるだけでもその関係がうかがい知れる。
「それで、十分ですが3つお願いがあります…。」
姉貴は日焼けした若者に向かって情報端末から投影された彼等の版図を指差しながら説明を始めた。
1つ目は、海岸地帯に2重の空堀を作ること。
2つ目は、俺達が贈る武器で武装する事。
そして最後に、狩猟民族の連合化を図って欲しい事。
「最後の願いは、テーバイにもお願いした爆裂球の入手に関係します。カラメル族は国家を対象に爆裂球の取引を行うからです。」
「我等が1つに纏まれば、爆裂球を直接入手出来るという事か…。この場では即答出来ぬ。族長会議に掛けねばならぬ。」
そう言って、若者は腕を組んだが、表情的には前向きなようだ。
「武器は、50個ずつ持参した。荷箱にあるので、後でもって行くが良い。」
「それは、助かる。」
若者は席を立つと部屋を出て行った。慌てて、アルトさんがディーと一緒にお池家て行った。渡す荷箱の確認をするのだろう。
「…忘れてました。テーバイにもお土産を持ってきました。スコップを50個です。それと、これになります。」
姉貴がバッグから大型の袋を取り出すと、灰色ガトルの毛皮を取り出した。
「全部で6枚あります。お納め下さい。」
6枚と聞いてテーバイの重鎮達は目を見開いた。
「これは、見事な…。これだけでも相当の値段となりましょう。良いのですか?」
「えぇ、自分達の分は持っていますから。」
「我は、毛皮よりもスコップ50個をありがたく思うぞ。明日から直ぐに取り掛かるとしよう。」
姉貴はラミア女王に小さく頷くと、言葉を続けた。
「もう1つ。…これは、贈り物と言うよりも、ラミア女王が指揮を執る道具になります。海軍の指揮を執る部屋を教えていただければ、そこに据え付けたいと思います。」
「指揮を執る部屋であればここで良い。…ところで、何を置くのじゃ?」
「通信器です。後で、アン姫一行が持って来ますが、発光式通信器と異なり、昼間でも通信を送ることが出来ます。使い方は発光式通信器を使える者であれば簡単におぼえる事が出来るでしょう。
更に、今懸命に作成中の海岸線の地図が完成しましたら、1式を送ります。」
「この王宮で海軍を指揮出来るのじゃな。…何とも、驚く限りじゃ。」
そう言った後で、ラミア女王は侍女に冷たい物を持参するように言い付けた。
後は、ちょっとした歓談だ。
俺達の目的は、これで半分達成した事になる。
後の半分は、狩猟民族の回答待ちだ。
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姉貴達がラミア女王と話している間、嬢ちゃん達はディーと一緒に王都の見物に出掛けてしまった。
俺も、1人で王都を歩いてみる。
小さな王都だけど、家は全て石作りだ。そして、南に伸びた大通りの左右には店もある。雑貨屋や服飾を扱った店の外れに、何とギルドがあった!
「今日は!」と言いながら、ギルドの扉を開く。
俺達は全員ハンターだから、狩りをしないまでも一応話をしておく必要があるだろう。
カウンターのお姉さんに、早速俺達の逗留を話しておく。
「チーム、ヨイマチ様ですね。それとアテーナイ様と…。8人中6人が銀持ち!そしてリーダーが銀6つ!!」
俺のカードを見て驚いている。
「まぁ、普通のハンターだよ。何かあれば王宮にいるから連絡してくれればいい。」
そう言って、カードを受取ると、掲示板の依頼書を覗いてみる。
まぁ、どこも似たようなものだな。強いて言えば、この岩モドキの討伐ってのが面白そうだな。場所は王都の北だな。レベル的には黒3つだから、嬢ちゃん達が退屈しそうなら教えてやろう。
ギルドを出ると、武器屋に寄ってみる。
棚に色々と並べられた武器は少し偏っている。長剣、片手剣、槍に弓があるが全て種類が1つしかない。
「買うのかね?」
「いや、冷やかしですが…、何故に種類が1つなんですか?」
「それは、前の戦で敵が残したものだからだよ。数打ちだから直ぐにダメになる。それでも、あの戦の後は誰もが何がしかの武器を準備するようになった。」
確かに大勢亡くなったからな。武器や革鎧もその時の戦利品なのだろう。
「潰して、農具にでもしたのかなと思ってたんだが…。」
「半分はそうなったよ。ここにあるものは、まぁ、使えそうな奴さ。」
そんな武器屋のオヤジに別れを告げると雑貨屋に出掛ける。
どこから仕入れたかは分からないけど、店の棚の品数は豊富だな。
「いらっしゃい。何をお探しですか?」
「あぁ、爆裂球があれば欲しかったんだが…。」
「生憎と、爆裂球は国家管理になっており、ここでは売る事が出来ません。」
そう言って、済まなそうに頭を下げる。
いやいやそんなに恐縮する事はありませんと、慌てて俺は頭を下げた。
テーバイの爆裂球は800と言っていた。やはり、何かに備えて厳重に保管してあるのだろう。
雑貨屋を離れて王宮に戻る途中に小さな酒場を見つけた。
扉を開けると、数個のテーブルに昼間から酒を飲んでる輩がいる。まぁ、これはどこの酒場でも同じ事だけどね。
「ジュースがあるかい?」
そう言うと、主人は木製のカップにオレンジジュースらしきものが氷を浮かべて俺の所に持ってきた。
「6Lになる。」
銅貨を取り出してカウンターに並べた。
結構冷えたジュースだな。見かけはオレンジジュースだけど、味はパインだ。
タバコを取り出して、一服を始めると奥のテーブルの話し声が聞えてくる。
「ジャブローの北に出掛けたんだって?」
「あぁ、鎧ガトル狩りを受けたんだが、数が多くてな。2人が負傷した。」
「硬いからな。何を使ったんだ?」
「鍬を持って行った。あれでぶん殴れば1発なんだが、重いのが難点だ。狩猟民族が使っている武器があれば良いんだが、あれは武器屋にも売っていない。」
鎧ガトルは相変わらずに繁殖しているようだな。モーニングスターがあれば良いのだろうけど、確かにあれは非売品だ。狩猟民族の戦士達も喜ぶに違いないな。
「あんた、どっかで見た事があるんだが…。」
「他人の空似という奴ですよ。この王都に来たのは2度目ですから。」
「う~ん。気になるな。」
しきりと思い出そうとしている主人に別れを告げると、今度こそ王宮に向かって歩き出した。
王宮に戻ると、近衛兵が俺を、姉貴達の歓談の場に案内してくれる。
そこはテーバイ戦の時、俺が大蝙蝠を狙撃した2階のテラスだった。
「おや、婿殿。戻ってきたか。王都の市街はどうじゃった?」
「前と比べ物になりませんね。ギルドもありました。とりあえず俺達が来ている事を報告しておきましたが…。」
「昨年、ギルドの支局が出来たのです。」
そう言ったラミア女王の顔は誇らしげだ。
ここまで、国を大きくした手腕は、クオークさん達の良い手本にもなると思う。
「アキト様はこの戦に参加しない場合もありうる。とミズキ様から聞いたのですが…。」
「俺達の優先事項があるんです。大まかな話は姉に聞いたと思いますが、誰も助からないという事態を避けるために俺達は歪の対処を第一優先として行動します。先行して歪除去に旅立った友もいる事ですし…。」
俺の言葉にラミア女王が頷く。
「確かに、アキト様にしか出来ぬ事。そのためにも我等を訪ねたという事ですか…。」
理解はしてくれたみたいだな。
とは言え、2つの電脳を持ってしても直ぐに結論が出ないという事は、歪の除去と言うのはかなり難しい事なんだろうか?