表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
391/541

#388 毛皮の使い道

 


 皆で灰色ガトルの皮を剥いで、牙を回収する。

 灰色ガトルの討伐部位は、その美しい毛皮だが牙も細工用に重宝される。

 その日の残りの時間はその作業に追われてしまった。

 そして、回収できた毛皮はまともなのが105匹分。損傷の後が目立つのが31匹分。残りの毛皮は気化爆弾と【メルト】それに爆裂球のお蔭で商品価値が無い物になってしまった。牙は300個程回収出来た。

 約3割近くがダメになった事を、チェルシーさんは溜息をつきながら嘆いていたけど、俺達一同、大した怪我も無く殲滅出来たのだから大成功だと思うけどな。

 今回の参加者は37人。1人2枚の約束だから残りは29枚だ。シャロンさんとルーミーちゃんもギルドに残っていたんだから、それぞれ1枚を進呈した。


 王都に連絡すると、商会の担当者とラジアンさんが3日後に

馬車でやって来た。

「これは、また大量に手に入れましたな。まともなのが29枚。傷物が31枚ですね。」

 「えぇ、襲来を迎え撃ったハンター達が2枚ずつ手に入れました。その残りですが、取引出来ますか?」

 

 山荘のリビングでラジアンさんと商会のマリエルさんを前に商談を始める。

 「前回よりは値段が落ちますよ。1枚銀貨20枚、そしてこちらの傷物は銀貨5枚で買い取ります。牙は25Lでどうでしょうか?」

 ラジアンさんの言葉に俺とマリエルさんは頷いた。

 商会の利益はあるのだろうか?何か直接ラジアンさんが入手したような雰囲気だぞ。


 「1つ、確認したいのですが、ラジアンさん達御用商人の4人衆と商会って、どんな関係にあるんですか?」

 俺の質問にマリエルさんが灰色ガトルの毛皮の山から、俺に視線を移す。


 「商会は品物の仲介をする立場です。4つの王宮とカナトールの施政部門から要求された品物を、ラジアンさん達の商人同盟に具体的要求書を付けて発注します。また、私達が入手した品物は同盟にのみ販売します。国税として納められた各種の穀物についても同様です。

 そして、その代価として売値、又は買値の5%を頂きます。

 活動資金として、使うのはもちろんですが。その多くが学校の経営資金となります。」

 

 「5%は我等が平等に物を買い、又は売る為の手数料としては安いものです。今まで、それ以上の金額を貴族の者達に賄賂として送っていたのですからな。学校が整備されて、そこで学ぶ者達が卒業すれば直ぐに商人としての基礎は出来ている事になります。

 我等も優秀な人材を採用出来るますから、この程度の出費は将来を見据えれば安い投資と言えるでしょう。」


 学校は神殿に下駄を預けた格好だが、流石に大神官様と言えども活動資金がなければ恒久的な学校の運営は厳しいだろう。先生となる神官達は無償の奉仕になるだろうけど、学校の建物、教材は流石に神殿から出すのはきついんだろうな。

 商会は、その空白部を埋める心算のようだ。

 

 発案は俺達でもあるのだから、少しは何らかの援助を考えた方が良いと思うぞ。

 姉貴と良く相談せねばなるまい。


 「村を守ったハンター達には、1人2枚の毛皮を渡してあります。帽子は1人1個で十分でしょう。もし、売りたいと言う者がいれば、先程の値段で買取ってくれませんか?」

 「願っても無い事。是非お願いします。…それでは、代金をお渡し致します。」

 そう言って、傍らの店の者に代金を計算させる。


 合計81,000L。銀貨で頂いた。

 簡単な計算書も一緒に貰う。明日にでもギルドで分配をしなければならない。

 「明日の夕方にギルドに寄ってください。毛皮を売りたいものは一時的にギルドで代金を支払っておきますので、よろしくお願いします。」 

 そう言って山荘を後にした。

               ・

               ・


 次の日、ギルドに参加者全員が集まった。

 簡単に売値を説明して、毛皮を売りたい者はギルドで買取る旨を説明する。

 報酬は狩猟期と同じだから3割はカットされる。それでも1人、1,532Lだ。たまたま村に残っていたハンター達はその金額に驚いている。

 「16Lは分けることが出来ないから、村に寄付したい。…では、1人ずつ取りに来てくれ。」


 「1つ、ちょっとした疑問があるのだが…。」 

 一通り報酬を渡した後で、ガストルさんが俺に聞いてきた。

 「俺達は余り役立った覚えが無い。それで、この報酬を貰っても良いのだろうか?」


 「狩りをする時には、適材適所で人を配置します。たまたま自分の所に獲物が来なかったからと言って、その者に分け前を与えぬという事は無いでしょう。ガストルさん達が東門にいたからこそ、北門は後を気にせずに戦えたんです。…俺の知っている狩猟期のチームはそうやって報酬を分けていました。今回も、人数は大勢でしたけど1つのチームとして戦った訳ですから、報酬の均等割りは当然です。」

 

 そう言った俺の言葉に、皆が頷いている。

 「ガストルとやら、狩りの時も同じじゃ。皆得意な場所をリーダーが決めて、それに従う。今回のリーダーはミズキじゃったが、ちゃんと適切に人を配置したと我は思っておる。自信を持って、灰色ガトルの帽子をハンター仲間に見せびらかすが良い。」

 

 そして、俺は解散を告げる。

 結構、毛皮を売る者達がいるな。亀兵隊達は全員が1枚ずつ売っていた。やはり、自分用の物は取っておいてもう1枚を売るんだな。

 そんな光景をしばらく見ていたが、姉貴に促がされて家に帰ることにした。


 リビングのテーブルに皆が座るとディーがお茶を入れてくれる。リムちゃんもディーのお手伝いが完璧に出来るようになってきた。

 お茶を飲みながら、商会が学校経営の援助をしている事を話すと、皆が驚いていた。


 「もう、そんな事までしていたのね。本当は今年の春からを考えていたらしいけど…。やっぱり、資金難だったみたいね。」

 「だいぶ王族も寄付をしたと母様から聞いたぞ。」


 「それもあるけど…。定常的な援助というのが大事なのよ。最初に用意しても次の年に援助が無ければ続けられないわ。私達も、少しは考えないといけないわね。」

 そう言って姉貴が首を捻る。

 

 定常的な収入と言う点では商売が一番だと思う。あるいは農作物も良いかもしれない。

 農作物か…。バビロンから結構、色んな種を貰ってきたがそれっきりになってたな。温室を作ってからと考えてたが、温室でなくとも大丈夫な作物があるかも知れない。

 ちょっと調べてみよう。


 席を立つと、ロフトに上がって魔法の袋を取り出す。3倍収納タイプだから、結構な種類が入っているぞ。

 テーブルに袋を開けて、種の種類を説明書と共に読み始めた。


 「それは、種じゃな。農業を始めるのか?」

 「変った作物なら売れるかも知れないし、農家の人に迷惑も掛けないと思ってね。」

 

 「モスレムはそれ程雨が降らぬ。そして気候はあまり暑くならぬ。その辺は考えているのじゃろうな?」

 となると…、これかな!


 「姉さん。焼きトウモロコシの屋台が出来るかも知れ無いよ。」

 「えぇ!!…ホントなの?」

 姉貴に頷くとトウモロコシの種を片手に取り出した。

 姉貴が感動して目をうるうるさせているが、これは焼きトウモロコシを思い浮かべているに違いない。決して、これで学校運営資金を賄う事が出来ると考えた訳では無いと思う。


 「変った種じゃが、食べられるのか?」

 アルトさんが、平べったい種を摘んでジッと見ていた。

 「あぁ、焼いても、茹でても食べられる。パンみたいにする事も出来るし、お菓子も作れるんだ。」


 お菓子と聞いて嬢ちゃん達の顔が輝き始めた。

 「どこに播くのじゃ。そして、何時食べられるのじゃ?」

 サーシャちゃんの問いは具体的だ。


 「来年の春に、セリウスさんの畑を貸してもらおう。少しずつ種を増やさなくてはね。」

 トウモロコシは南米の主食にもなった物だ。

 ライ麦だけでなく違う穀物もニーズはあるだろう。

 

 「ところで、毛皮をどうするのじゃ。サーシャとミーアは王子達の分を考えれば丁度良いが、我とリムは1枚あれば十分じゃ。それにミズキとアキトは持っておる筈じゃが…。」

 「それなんだけど、テーバイに土産として持って行こうと思うんだ。…スマトルの脅威は連合王国だけでは無い。テーバイも対象だ。そして、その東に暮す狩猟民族もね。リザル族は相手を限定した形で協力してくれそうだけど、俺としてはテーバイの東の狩猟民族にも手伝って貰いたいと思っている。」


 「あのカンガルーに乗ってる人達だよね。1度乗ってみたい気がする!」

 「カルートって言うんだよ。たぶん亀兵隊並みの機動力があると思うんだ。」


 「面白そうじゃな。我も付いて行くぞ。リムも一緒じゃ。」

 アルトさんの言葉にリムちゃんは嬉しそうだが、サーシャちゃんとミーアちゃんは沈んでるな。

 でも、亀兵隊の増強と訓練は急務だ。近くに婚約者がいるんだから、寂しくは無いと思うぞ。

 

 「あの人達、武器が棍棒と石の槍です。もし、会いに行くのなら武器をお土産にした方が良いと思います。」

 リムちゃんは補給の都度、彼等を見る機会があったんだ…。

 確かに、薙刀とモーニングスターをありがたく貰っていたな。

 

 「それが良いね。でも、狩猟民族の戦士ってどの位いるんだろう?」

 「200人はいるんじゃないかしら。テーバイ戦の時はテーバイの正規兵は東に展開していたんだけど、その側面を援護していたって聞いたわ。2,000を越える獣に側面攻撃するには少なくともそれ位の兵力は必要だわ。」


 「とは言え、テーバイには断わる必要があるな。そう言う意味でも灰色ガトルの毛皮は役に立つと思うんだ。」

 

 俺が、種の入った袋を片付けると、早速姉貴が情報端末を取り出した。スイッチを俺が入れると早速、テーバイの状況を眺めている。


 「あのジャブローだとは思えないわ。」

 テーバイ戦の補給基地ジャブローは、その姿を大きく変えていた。

 豊富な水量を今でも湧き出している泉と、大きな用水池はそのままだが、南に大きく水田が広がっている。

 水田の周りには桑畑が広がり、緑の絨毯のようにも見えるぞ。

 王宮とジャブローの間は畑が広がっている。そして、ジャブローも町の様相を見せている。

 

 「国民が一丸となって国造りをしておるのう。我等が戦った甲斐があったというものじゃ。」

 「ここに、溝が掘ってありますね。」

 ミーアちゃんが目聡く東西に走る溝を見つけた。これだけ目立つんだから結構大きなものに違いない。


 「たぶん、鎧ガトル用の溝じゃないかな。俺達もジャブローにいた時に掘っていたよね。あれを大規模に作ったんだと思う。農作物を作るには鎧ガトルが害獣だからね。」

 色々と見てみたい物があるな。

 

 「確かに、その後のテーバイは見ておくべきね。そして、その東の種族も仲良くすることに越した事は無いわ。

 冬は、王都に戻って士官学校を開かなくちゃならないから、出かけるのは来年の春に成ってからよ。

 サーシャちゃんとミーアちゃんは、その頃に休暇が取れるように亀兵隊の訓練を頑張りなさい。アキトはお土産の調達と通信器の手配をお願い。潜水艇と武装商船も早めに形にして訓練をしないとね。」

 

 そう言えば、海軍をどのように位置付けるか、まだ決めていなかったな。

 本拠地と補給基地、連絡手段、部隊構成…。

 これは、のんびりと王都で過ごす事等出来ないぞ。王都からあちこちと出掛ける事も多そうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ