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#039 キャサリンさんの故郷

 この別荘は、8畳程の部屋が2つと16畳程のリビング・ダイニングそれと10畳程のロフトで出来ている。それに風呂とトイレだ。

 大きな暖炉はリビングのアクセントだし、テーブルの背中には簡単な流し台があった。


 料理は暖炉の横に小さな釜戸が付いている。目障りにならないように暖炉のレンガで前面からは巧妙に隠されている。


 「アキト。どうだった?」

 「申し分なし、ロフトにフトンを敷いて皆で寝られるよ。でもフトンが無い」


 「外に井戸があったわ。とっても素敵なとこよ。外に行って御覧なさい」


 姉貴の薦めで外に出て別荘の裏に回る。……そこは、湖だった。

 此処の土地は湖に張り出した土地みたいだ。其処を40m四方に石積を行って造成し、この別荘を建てたのだ。

 だから、3方向が湖で村には南側の林で区切られている。その林だって、魔道を用いたカラクリで入口を閉ざしている。


 なるほど、別荘なわけだ。俗世間と隔絶した生活を送ることが出来る。

 石積みから水面までは50cm位ある。

 この地方の気候はまだ良く分からないけど、冬になり雪に閉ざされたら、ゆっくりとボートでも作ってみよう……。


 家に入ると、ミーアちゃんが暖炉に火をいれていた。

 その時、ふと気がついた。この部屋はどうして明るいんだ?

 部屋をざっと見渡して、その原因を突き止めた。暖炉の煙突の上の方に左右に丸窓がある。

 窓には透明な樹脂みたいなものがガラスのようにはめ込まれている。

 そういえば、この家って意外に涼しな。湖からの風が流れ込んでいるみたいだ。

 さて、どこから入って来るのか?と探してみると部屋の4隅に鉄の格子が入った小さな扉があった。

 夏はこの扉を開いて風を入れるのだろう。そういえばロフトにも同じような扉があったような気がする。

 

 ミーアちゃんが点けた暖炉の火でお湯を沸かす。暖炉にはスイングする鉄の吊り下げ金具がついており、その先のフックにポットをぶら下げれば焚火の真上まで移動できる。結構便利な仕掛けだ。

 

 シェラカップでお茶を飲みながら、入手すべきものを3人で考え始めた。 

 「え~と……。明日そろえるものは、布団とカーペットと食器類でいいのかな」

 「あと、鉈と斧も欲しいな。暖炉の薪を集めなくちゃならないし……」


 「薪は家の西側に積んであるわ。でも、冬にどれだけ必要か分からないから集めることは必要ね」

 「カーペットは暖炉の前に厚手のが欲しいな。寝転べるし、このテーブルにいるより楽なんじゃないかと思うんだ」


 「分かった。それにクッションも必要ね。……ミーアちゃんは欲しいのある?」

 「いまは、にゃい」


 「じゃあ、明日ギルドに出かけてこの辺の状況を聞きながら、お店を聞きましょう」


 その後は、皆で食事を造り、夜はロフトで雑魚寝となった。まだポンチョに包まって寝られるけど、後一ヶ月もしたら、フトン無しではちょっときついかも知れない。

 

 次の日の朝、家の外にある井戸からツルベで水を汲み、バシャバシャと顔を洗う。

 朝日が湖に当たってキラキラと輝いている。この土地は予想以上に湖に張り出しているみたい北側にしては日当たりもいいみたいだ。


 「凄くいいところでしょう」


 家に入ると姉貴が自分のことのように言う。


 「あぁ、気に入ったよ。今日は、ギルドからだよね」


 ミーアちゃんが固焼きの黒パンサンドとお茶を出してくれた。


 「そうね。この辺りの状況とお店を教えて貰えばいいと思う。依頼をこなすのは、まだ先でいいわ。当面の生活費は確保してるから」


 朝食を済ませて、ギルドに出かける。

 家を出て林の中の石畳を歩くと村の通りに出た。姉貴が石像の口に鍵を差し込むと、林が閉じていく。

 密集した木々は容易に人を寄せ付けない。十分な保安機能だと思うけど、普通ここまでするかねぇ……。

 

 通りをギルドまで歩いてると数人の村人にすれ違った。「おはようございます!」って挨拶を交わす。

 村人と長い付き合いになるんだから、第一印象は大事だと思う。


 ギルドに入ると、見たことのあるハンターがホールのテーブルでお茶を飲んでいた。

 向うも、此方に気付いたらしく、立ち上がって此方にやってきた。


 「お久ぶりですね。もう、忘れたかもしれませんがキャサリンです」

 「ミズキとアキト、それにミーアちゃんです。ほんとにしばらくですね。あれから3ヶ月近くになりますか……」


 「もう、一人前のハンターですね。……ところで、それは本物ですよね?」


 キャサリンさんが俺達のピアスを確認する。


 「えぇ、試練に通りました。皆さん驚いてましたけど」


 その答えにキャサリンさんが驚いてる。


 「ところで、座って話しませんか。色々と教えて欲しいこともありますし……」

 

 キャサリンさんが座っていたテーブルに移動すると、姉貴とキャサリンさんが話を始める。


 キャサリンさんの話だと、キャサリンさんの実家がこの村ということだ。この村中心に活動していて、マケトマム村には例の黒レベルに課せられた義務で派遣されたとのことである。


 村に滞在しているハンターは3人で、キャサリンさん以外に赤8つと赤6つの男女のハンターがいるとのことだ。


 「ハンターが少ないということは、あまり問題がないということですか?」

 「そんなことはありません。皆、ある程度レベルが上がると町に行ってしまうのです。ここでは私が筆頭ハンターとなっていますが、対応できない依頼も多いんです。

 ギルドではそれらを町のギルドに送ってますが、距離があることと、報酬が少ないとのことで、依頼を受けてくれる人が少ないんです」

 

 それは、問題だと思うぞ。

 依頼を出してそれが解決されなければ村人は困ることになる。

 だけど、ハンター側にしてみれば、必ずしも人道支援が目的ではない。ハンターとして依頼をこなしその報酬で生活しているわけだ。

 遠くて、報酬が低ければ、ここまで来て依頼を処理するよりも近場で十分稼げる町のギルドに所属していたほうがいいのだろう。


 「それに、此処の冬は長くて、その間は依頼もすくなくなります。私のようにこの村に家が無いハンターは暮らしていけないのです」

 「その点、私達は大丈夫よ。この村の家を頂いたの。それで、この辺りの状況と買い物のためのお店を教えて貰いに今朝は来たのよ」


 「ちょっと、待ってください。……この村に誰も住んでいない家等ありませんよ」


 キャサリンさんは驚いて大声を上げた。


 「1軒だけあったのよ。誰も知らない秘密の場所にね。……所で、もし暇だったらお店を案内してくれない?帰りに私達の家に案内するわ」

 「何を買うの?」


 「お布団3組と、厚手のカーペット、食器類。それに斧が欲しいの」

 「難しい注文ね。この村のお店は雑貨屋さんだけですし……でも無ければ、町に注文することになるわ。それだと、少し時間がかかるかもね」


 そう言って、キャサリンさんが立ち上がる。俺達も席を立って雑貨屋に出かけた。


 雑貨屋は俺達の家に戻る途中にあった。マケトマムの村よりも大きな店構えだ。他に店が無いため扱う商品も多くなってしまうのだろう。


 「「今日は」」と俺達は店に入る。

 「はーい!」って元気な声が奥から聞えて、ミーアちゃんよりちょっと年上の女の子がやってきた。

 早速姉貴が欲しい品物を告げると、女の子は首を振り出した。


 「待ってください。順番にお願いします。先ずは、お布団とカーペットですけど、……町に注文しなければなりません。

 そうですね、1週間程掛かると思いますよ。食器は此方にあります。それとなんでしたっけ?」

 「鉈か斧が欲しいんだけど」


 「それは、あちらになります」

 「食品類はないのかな?」


 「ライ麦粉と塩はあります。野菜類は1の付く日に村人の市場が開かれますから、そこで購入なされてはどうでしょうか」


 ということで、布団とカーペットを町に依頼して、10日後に取りに来ることになった。食器類と鉈等は新たに背負い籠を購入しその中に入れて俺が背負う。

 食器類の代金と布団の前金を払い終えると、約束通りキャサリンさんを家に招待する。


 通りを歩いて林のそばを通り石像の口に鍵を入れる。林が左右に分かれて石畳の道が現れたのを見てキャサリンさんは吃驚していた。

 曲がった道を進んで石造りの別荘に案内する。ドアを開けて中に招きいれると、早速ミーアちゃんがお茶の準備を始めた。


 「素敵な家ですね。私の家はこの先にあるんですけど、此処にこんな家があるなんて思ってもみませんでした」

 「庭に出るともっと驚くわよ。後で見てみるといいわ。……ところで、ギルドで依頼がたくさんあるようなことを言っていたけど、私達も直ぐに活動したほうがいいのかしら?」


 テーブルに4人で座りながら姉貴はこれからのことを話しだした。


 「出来れば、明日からでもお願いします。それで、厚かましいお願いではあるんですけど……。私と一緒に依頼を処理する人を1人預けて頂けると助かるんですが」

 「キャサリンさんは、どちらかと言えば支援型のハンターなんだよね」


 「はい。他の2人のハンターはレベルに応じた依頼をしていますので問題ありません。でも私1人だと、どうしても採取系の依頼に偏ってしまいます。ある程度柔軟に依頼を処理できるチームが2つできると思うのですが」


 「期間限定ならいいでしょう。アキト、キャサリンさんと行動しなさい。それと、キャサリンさん。冬前まででいいですよね」

 「十分です。冬はこの村は雪に閉ざされてしまいます。その前に緊急性のあるものから処理したいと思っています」

 

 「……にゃんか、キャサリンさんてギルドの人みたいだね」


 じっと姉貴達の会話を聞いていたミーアちゃんが言った。

 確かに、ハンターが気にするような話ではない。ハンターは自分にあった依頼を、淡々とこなして行けばいいはずだよな。

 

 「そうですね。ちょっとギルド側の視点で話してました。

 でも、此処は私の故郷なんです。村人は皆顔見知り、そんな村人が困っているなら、やはり力になってあげたいじゃないですか。

 それと、ギルドのカウンターで働いているのは私の妹なんです。色々と困りごとを聞かされてますので、そんな考え方になってしまったのかもしれませんね」


 キャサリンさんは俯きながら話してくれた。


 「でも、それは大事な事だと思いますよ。存分にアキトを使ってください」

 「ありがとうございます」


 キャサリンさんは丁寧に俺達に礼を言って、この家を後にした。最も、裏庭からの湖の眺めに、「ウワァー……!」て感動してたけど……。


 「さて、明日からは私とミーアちゃん。アキトとキャサリンさんの変則チームで活動するからね。

 私達はのんびり近場の依頼をこなすことにするけど、アキトはキャサリンさんが選んだ依頼に口出ししちゃダメよ。そして、全力でやりなさい」


 テーブルについたとたんに、姉貴に言い聞かされた。

 そして、ミーアちゃんが食事の支度をしている間に、装備の準備をする。


 たぶん、日帰りの依頼が主だろう。シェラカップと携帯燃料、それに予備の食料を少し。念のために、タグ討伐に使った爆裂球をポーチに入れておく。これで、明日の朝に水筒の水を補給すれば準備完了だ。

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[一言] 〉そういえば、この家って意外に涼しな。湖からの風が流れ込んでいるみたいだ。→‥意外に涼しいな‥。
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