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#385 迎撃準備

 


 アクトラス山脈の積雪が少しずつ麓に広がって来た時、変化が現れた。

 山脈の北に集まっていた2つの集団が合流してその内の1つが山脈を越えたのだ。

 残った集団は、アクトラス山脈の北の麓に異動したのだが、忽然と消えてしまった。

 

 「…レイガル族の単独行動みたいね。警告と力の誇示かしら。」

 姉貴が、情報端末の画像を見ながらそう呟いた。

 

 「灰色ガトルをモスレム側に追いやって、帰って行ったという事だね。」

 「そうなんだけど、単純に追いやった訳ではないわ。…合流地点から既に20kmは移動しているけど、群れが散開していないでしょ。そして、その進路は真っ直ぐにこの村を目指しているわ。」


 俺と、嬢ちゃん達は食い入るように画像を見た。

 確かに、合流地点と現在地の延長にこの村がある。群れは100m程の範囲に固まっているのだ。

 

 「ガトルは群れるが、このように小さく固まる事はない。200匹を越えるのであれば、少なくとも3M(450m)程の広さになるぞ。 

  ガトルの群れの単位は10匹前後じゃ。それが集まっても、元の群れ単位で行動するから必然的に群れは広がるのじゃ。」

 

 アルトさんの言葉が通常の群れであれば、やはり何らかの人為的な操作が成された事になる。前の亜種の時は変な針が首に埋まっていたが、狩猟期に突然現れたグライザムの群れにはそんな痕跡が無かった。

 となれば、レイガル族は他の方法で獣を制御する術を持っている事になる。


 「とりあえず、アテーナイ様とセリウスさんを呼んで来てくれ。」

 俺の言葉に、ミーアちゃんとリムちゃんが慌てて外に飛び出した。

                ・

                ・


 「ほほう…。動いたか。」

 「確かに、村へ真っ直ぐだ。…どれ位で到達する?」

 「後、4日と言ったところでしょうか。レイガル族と一旦合流しましたが、レイガル族はその後麓に移動して、突然に消えました。」


 セリウスさんの質問に姉貴が答えた。

 「という事は、灰色ガトルの群れが200匹以上この村を襲う事になる。灰色ガトルはガトルよりも大型で強暴だ。飛びかかられて倒されたら、その場で首を食い千切られるぞ。」

 「幸いな事に、村の東と北門は丈夫に作り直しておる。…問題は南門じゃ。そして、この村を素通りしたら麓の町が危ない。

 至急、南門を補強して、麓の亀兵隊に連絡をするが良い。…で、現在村にいるハンターは何人じゃ?」

 

 「我等以外にミケランとスロット夫婦、それにアンディ夫婦、村在住ではないハンターが4人です。」

 「足らぬのう。亀兵隊を1分隊呼ぶのじゃ。それと、ジュリーの村にも知らせて、警戒させた方が良いじゃろう。可能であれば魔道師の助力を願うのじゃ。

 そして、セリウス。村長に告げて明後日以降の損害への出入を禁止にするがよい。灰色ガトルが近付いたら戸口をしっかり閉ざせ、とあらかじめ告げた方が良いかも知れぬ。」


 早速、分担して作業に入る。

 俺は、南門の補強だ。会社に寄るとチェルシーさんとユリシーさんに訳を話して協力を仰ぐ。

 「面白い話じゃな。…チェルシーよ。冬の帽子の材料が来るそうじゃ。型紙を作って待っておれ。」


 そんな事を言いながら、会社の男集を集めて俺と一緒に南の森に材木を切り出しに出掛ける。

 南門は村の農作地帯に出入する農民用だからそれ程強度が無い。イネガルが体当たりしたら抜けてしまうくらいの門だ。ガトル程度には有効だが灰色ガトルには心持とない。


 10本近くの木材を担いできたら、男衆は俺とユリシーさんそれにドワーフの弟子2人を南門に残して、再度南の森に向かった。

 「さてと…。南の塀の高さは東が12D(3.6m)で西が10D(3m)じゃ。東は、まぁ安心じゃが西は心配じゃのう。」

 

 これは油断したな。かといって今からでは間に合わない。

 西を見渡すと、そこは長屋街だ。長屋の屋根は高いから、長屋を塀にして迎え撃つ事になりそうだ。


 「ユリシーさん。あの長屋の建屋の間に柱を立てて塀にしましょう。そしてこの南の広場への道を閉じれば立派な塀になりますよ。」

 「…確かにそうじゃが、この広場に奴等が向かって来そうじゃな。」


 確かにそんな感じだな。

 俺とディーでここを守るしかないだろう。

 「お前等、長屋の間に策を作るんだ!…西の塀に沿って家の間を塞げ。良いな!!」

 

 ユリシーさんは大声で弟子達に指示すると、会社の事務所に向かう。

 「ほれ、付いて来んかい。」

 俺に振り返ってそう言うと、スタスタと事務所に入っていった。

 何だろうと思って後を追い掛ける。


 事務所には、嬢ちゃん達と同じような革の上下を着て腰には片手剣を刺したチェルシーさんがクロスボーを背負ってボルトを数えていた。


 「まさか、チェルシーさんも戦うって言うんじゃ無いでしょうね?」

 「まさかのまさかよ。灰色ガトルの帽子が手に入るんだから、邪魔しないでね!」


 邪魔はしないが、邪魔にはなりそうだな。

 ユリシーさんを見ると、戦斧を取り出して刃先を見ている。

 「ユリシーさん!」

 そう言ってチェルシーさんを指差した。


 「チェルシーなら、大丈夫じゃ。屋根の上に乗せておけば良い。クロスボーを製作した後の、照準器の調整をしていたからそれなりに使えるぞ。」

 そんな仕事をしていたのか。ならば、十分戦力になる。


 「明日、長屋の屋根に物見台を作ってやる。あの長屋だ。丸太と板を組み合わせれば数人が上に乗れるだろう。そこで南門の西側を見張れば良い。」

 「助かります。…ところで、クロスボーは残っていますか?」


 「数丁はあるはずだ。ボルトも王宮からの注文で製作中だ。300本はあるぞ。」

 これは助かる。民兵を組織する為に先行してクロスボーを作っていたようだ。たぶん大量に作るための見本にしようとしていたのだろうが、見本と言えども本物だ。

 

 「それより、これじゃ。…中々じゃろう。」

 そう言って凝った彫刻の入った木製の小箱を暖炉の上から取ると、俺の座るソファーセットに持ってくる。

 前の小箱だよな…。そう思って、小箱を開けるとメロディーが鳴り出した。

 オルゴール…完成したんだな。


 「きちんとメロディーになってますね。金属加工は大変だったんじゃないですか?」

 「それなりに細工の技術は持っておるわい。ただ、一番苦労したのはその中のゼンマイというカラクリじゃな。渦巻きバネの加工は試行錯誤じゃったが何とか形にした。

 組み込んだカラクリの元はアキトのものじゃ。同じもの5個で良いか?」


 パテント料という事だな。とりあえずそれだけあれば嬢ちゃん達が喧嘩する事も無さそうだ。

 「良いでしょう。それとは別に依頼したいものがあるんですが…。」

 「なんじゃ?」


 「少し大型のクロスボーを作ってください。対空クロスボー位の強さが欲しいです。」

 「そんな強さだと、引けるのはトラ族でも無理じゃ。リザル族でどうにか…。リザル族が参戦するのか?」

 

 「はい。南では無く北の大国です。」

 「待て、ノーランドはお前達が王宮を破壊したと言っていたな。そしてお前が北の大国と言うと…。」


 ドワーフもダリル山脈に本拠を持つ古い種族らしい。何か知っているのだろうか?

 「トラ族よりも獰猛で石器を使う種族と我等の祖先が鉱山の利権を掛けて争ったと聞いた事がある。

 我等が採掘する鉱山に、突然地底から現れたと言い伝えられている。

 深い穴を掘らぬような戒めだと思っていたが、本当じゃったか。」

 

 ドワーフ族にもそんな過去があったのか。これはクオークさんにも調べて貰った方が良さそうだな。


 「リザル族と言えども対空クロスボーは2人掛かりじゃ。前のように強さを変えて何個か作ろう。それで確認して作れば良いじゃろう。」


 有難うございます。とユリシーさんに頭を下げると、やる気満々のチェルシーさんを横目に事務所を後にした。

               ・

               ・


 亀兵隊1分隊はその日の内にやって来た。

 しかも、全員胴丸姿で旗を背負っている。そんな姿で薙刀を引っさげて東門に爆走して来たんだから、門番さんもさぞかし驚いたろう。

 旗の紋章は赤字に白い縁取りの黒十字…。ミーアちゃんの部隊だな。

 こいつ等、ミーアちゃんの危機だといって駆けつけてきたんだろうが、少し鎧が傷ついてるし、背中の旗や薙刀が破れているし汚れている…。

 まさか、誰が救援に向かうかで仲間と一戦して来たんじゃ無いだろうな。


 「月姫の危機を知り駆けつけてまいりました。月姫と共に我等どこを守れば良いでしょうか?」

 アテーナイ様も引いているぞ。

 姉貴はポケーっと口を開けたままだし…。

 「中々な面構えよ。1班は我と共に北門じゃ。もう2班はサーシャと東門じゃ。」

 

 アルトさんの言葉を聞くと1班の連中が、ごそごそと腰のバッグから爆裂球を取り出して2班の連中に渡し始めた。

 「何を始めたのじゃ?」

 「いや…、サーシャ様ならではの戦に備えて武器の分配をしているのです。」

 1人がそう言うのを聞いて、サーシャちゃん意外が皆頷いている。

 俺も、そう思うぞ。絶対にこれでもか!って感じで使う筈だ。


 「となれば、東門にはアンディ達に我とリムで望むか。」

 そう言ってアテーナイ様が東門の担当を志願した。

 

 「北門は、私とアルトさんにミーアちゃんにセリウスさん夫妻で行きます。」

 「南門は、俺とディーにスロット夫婦、それにユリシーさんにチェルシーさんだ。それと工場の男衆がクロスボーで手伝ってくれそうだ。」


 俺の言葉に姉貴が驚いた。

 「チェルシーさんって、会社の事務員だよね?」

 「そうなんだけど、灰色ガトルの帽子を作るんだって、片手剣を腰にクロスボーを背負ってた。止めたら、俺が的になりそうな感じだったぞ!」

 

 「確かに、女子は欲しがるかも知れぬが…。まぁ、屋根に乗せて落ちぬように紐をつけておけば良かろう。」

 アテーナイ様は前向きだな。

 

 「とは言っても、亀兵隊とアキトにディーは、最初は北門にいるが良い。灰色ガトルの群れが分かれてから駆けつけても良いじゃろう。上手く行けば北門で殲滅出来るやも知れぬ。」

 

 そんな感じで俺達は灰色ガトルの接近を待つ。

 次の日の夜に情報端末で確認した所では、グライトの谷を大きく西に回り込んだところだった。

 「この速度ですと、明日の昼には北門に着きます。」

 

 ディーの計算だとそうなるのか。

 上手い具合にリオン湖を東に回りこんだ灰色ガトルはいなかった。全て真直ぐに北門に向かっている。

 

 「明日の朝に再度確認しましょう。場合によっては、東門の守りを少し北門に移動できるかも知れないわ。」

 全部は無理だとしても、亀兵隊だけでも北門に廻す事が出来れば、だいぶ守りが楽になる筈だ。

 

 

 

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