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#381 狩場の偵察

 


 「アキト…本当なのか?」

 偵察から帰って来るなり、俺の横に座り込むとグレイさんが聞いてきた。マチルダさんもきつい表情で俺を見ている。


 「本当ですよ…。ただ相手の都合もあるでしょうから、時期を特定する事は出来ませんが、10年以内という点では、間違いないと思います。」

 マチルダさんは俺の言葉を聞くと、溜息をついてコゼットやミューさんと一緒に遅い昼食を作り始めた。


 「だが、テーバイ戦ではボロボロに負けたと聞いたぞ。そんな国が10年で他国に侵攻出来るのか?」

 サラミスの差し出したお茶のカップを傾けながら、俺に問い掛ける。

 「それ程、不自然な話ではないんです。俺達はテーバイで実際にスマトルと戦闘をしたんですが、その時の彼等の戦の仕方が不自然だったんです。

 どう考えても1万を超える軍勢を、一度に投入せずに小出しにして俺達に当たらせるのか…。

 俺達は、あの戦いにもう1つの思惑があると考えました。

 それは、スマトルが併合した周辺2カ国の軍に対する粛清です。

 スマトルにとっては、勝てば儲けもの、負けても反乱の芽を潰す事が出来る訳です。

 そして、その計画はスマトル側の思惑通り進んだと見るべきでしょう。

 俺達は勝ちはしましたが、スマトル側もその恩恵は得ているのです。そして、併合した2カ国の反乱を昨年鎮圧しています。

 今のスマトルは完全に1つの国家として機能しています。そして強力な軍事国家として南方の海の向こう側で力を蓄えているんです。」


 グレイさんはパイプにタバコを詰めて、焚火で火を点けた。

 「場合によっては、モスレムいやテーバイ、エントラムズ等の国々も被害を受ける事になるな…。」

 「総力を挙げて進攻してきた場合は防御しようがないでしょう。…姉貴は半数程度を考えているようです。それでも20万を越えると俺は思っています。

 となれば、綿密な対策を立てねばなりません。」


 「ある程度は理解した心算だ。…帰ってからカンザスと相談することが増えたが…、とりあえずは爆裂球や矢の備蓄を相談してみよう。」

 「そうですね。宜しくお願いします。」


 その後の昼食は、会話も弾まずに味気ないものになってしまった。

 それでも、偵察中に見かけたハンターの話に話題が移ると、3Mの範囲で数チームのハンターが狩りをしていると教えてくれた。


 「まだ、大型獣を狩るのが慣れていないように見えたぞ。平気で群れの前に立つなぞ、見ていて信じられなかった。」

 「跳ね飛ばされていたが、大事には至らなかったようだ。あれに懲りて2度と前に立たねば良いんだが…。」

 初心者チームの狩りの様子を見ていたようだ。

 「この分だと、確かに私達が必要になりそうね。」

 

 マチルダさんの話だと、緊急出動ではなく救急出動が俺達の出番になるような感じだな。

 「アルトさん。この事を姉貴にも伝えておいて。初心者の狩りはかなり危なっかしいとね。」

 「勿論じゃ。だが、そうなるとここに【サフロナ】使いがもう1人欲しいのう…。それも合わせて伝えるのじゃ。」


 食事の後の休憩を取ると、今度は俺達が偵察する番になる。

 サラミス夫妻とコゼットは短い投槍を持っている。

 コゼットは背中にクロスボーを背負っているが、身長程の投槍は山歩きの杖にも利用出来るからね。

 

 「アキトは投槍を持たないのか?」

 「あぁ、武器がこれだからな。」

 そう言ってショットガンを持ち上げる。

 

 「変な槍だな。…鉄棒の先に短剣を付けただけで役に立つのか?」

 「強力だぞ。でも使う機会が無い方が良いけどね。」 

 サラミスはショットガンを撃った所を見ていないからな。確かに変な槍に見えるかも知れない。


 サラミスが先頭になってグライトの谷沿いに森を進んでいく。直ぐ後ろにミューさんが続き、その後はコゼットだ。殿は俺になる。

 サラミスも殿の大事さを理解したようだが、本人はやはり先頭になりたいようだ。

 勘の良いミューさんがいるから、まぁ安心して先頭を任せられる。

 ミューさんの後を遅れ無いように、一生懸命に歩いている。そんなコゼットをミューさんが姉妹のように面倒を見ているようだ。まるで、ミーアちゃんとリムちゃんを見てるような錯覚を覚える。


 サラミスが突然立止まると、槍先で左前方の森の斜面を俺達に教える。

 そこを見ると…。

 いるいる。ハンター達の狩りの様子が良く見える。

 草を食む数匹のリスティンを遠巻きにして、少しずつ輪を狭めているようだ。

 はたして、ちゃんと狩れるかなぁ…。

 そんな、素朴な思いに取られる狩りだった。

 彼等の得物は投槍と弓に長剣のようだ。長剣を持ったハンターがリスティンの前に立ち注意を引いている。

 そこを両脇から弓を持ったハンターが近付き、後ろは念の為にという事だろうが投槍を持ったハンターがいる。

 サーシャちゃん達ならどうやって狩るんだろうか…。

 そんな事を考えていると、ハンターの弓が引き絞られて、素早く矢が放たれる。その場で次の矢が放たれる前に、リスティンが後ろに反転して逃げようとする。

 その瞬間!…スティンに投槍が突き刺さった。

 そして、彼等の狩りが終る。…どうやら2匹を倒したようだ。逃げた1匹には矢が刺さっていたから、追って止めを刺すことは出来そうだが足場が悪い。彼等も諦めたようだ。


 「…一瞬で2匹かよ。」

 サラミスがヒューっと口笛を吹く。コゼットは吃驚して目を見開いたままだ。

 だが、ミューさんはそんなハンター達をジッと見ている。

 まだまだって感じで見ているのかな。俺としても、得物を引き摺っていくハンター達にはまだ先が遠いと思って見ていた。

 少なくとも逃げ道にロープを1本張っておくだけで良い。それで手負いのリスティンは得られた筈だ。

 狩ると決めた相手なら、確実に仕留める。簡単なようで中々出来ないんだよな。


 俺達はそんなハンター達を後にして先を急ぐ。

 1時間程歩くと、今度は東に進路を変える。森が消え去り潅木と荒地が山肌に広がっている。

 確かこの先をずっと行った所にザナドウがいて、その更にずっと先にサルがいたんだよな。

 だが、俺達の歩く場所は見通しが良く、怪しい獣の影はない。

 そして、こんな所にもハンター達が来ていた。


 「今日は!」

 サラミスが腕を大きく振って森の近くで焚火をしているハンター達に声を掛ける。

 向うも手を振って、俺達にポットを見せている所を見ると、お茶を飲んでいけと言ってるのだろうか?

 

 俺達はそのハンター達の焚火にゆっくりと近づいて行った。

 「やぁ、今日は!…どうですか狩猟期は?」

 「とりあえず明日には一旦、得物を運んで貰おうと思ってる。まぁ、座ってくれ。」


 俺達が焚火の周りに座り込むと、直ぐにポットを俺達に渡してくれた。丁度のどが渇いていた俺達は有難くお茶を自分たちのカップに注ぐ。そしてそのポットに水筒の水をたっぷりと満たして焚火の傍に置いた。


 「すまんな。確かに水が残り少なくなっていたんだ。でも、こんなに貰ったらそっちが困らないか?」

 「今夜は南の湖の近くで泊まりますから、大丈夫ですよ。」

 

 そう言ってタバコを取り出してジッポーで火を点けた。

 「この近くのハンターなのか?」

 「えぇ、村在住ですよ。アキトと言います。こっちはサラミス、ミューさんそしてコゼットです。」

 「俺達は、トリムにマイクそしてマリーネにジャネットとビオレだ。赤9つにビオレが赤6つになる。」

 「俺が黒2つで、ミューが黒3。コゼットは赤4で…アキトは…確か銀6だったな?」

 俺が頷くのを見て、5人が驚いて俺を見た。


 「確かに、虹色真珠だ…。始めてみるよ。俺達より対して歳が違わないように見えるが、実力は遥か上なんだな。」

 「一緒に狩りをした連中が特殊な人達でね…。そう言えば、俺達も狩猟期に参加して2回目の時にこの先に行ったことがある。

 そこで狩った物は、ザナドウだった。余りこの先には行かないほうがいい。ザナドウ、サル、そして人狼…。とんでもない奴ばかりだ。」

 「銀6つの貴方が言うのでしたら、本当の事なのでしょう。確かにこの辺りには得物が多いのですが、他のハンターは余り見掛けませんでした。

 ところで、お勧めの場所を紹介してくれませんか?」


 トリムと名乗った青年が俺に言った。

 「そうだな…。獲物を持って一旦、村に戻るんだろ。だったら亀に乗った嬢ちゃん達を探せ。村にいなければ、北門を出て森を抜けたら西に荒地を歩けばいると思う。

 彼女達にアキトから聞いて来たと言えば、狙いやすい場所を教えてくれるだろう。」


 「有難うございます。早速、訪ねてみます。」

 「それじゃぁ、頑張れよ!」


 そう言って、立ち上がった時だ。

 「あのう…。アキトさんは色々な場所に行ったと思うんですが…、ユングとフラウと言う2人組みのハンターに合った事はありませんか?」


 思わずその言葉を発した、ビオレと紹介された少女に顔を向けた。

 「知ってると言うより、俺の小さい時からの友人だ。俺の頼みで今は旅に出ている。何年掛かるか分からないけど、必ずここに帰ってくる筈だ。」


 「そうですか…。でも、戻って来るんですね。なら、毎年訪ねてきます。」

 「なら、10年経ったら訪ねてくれ。どう考えても数年では帰らないだろう。そんな依頼を彼は受けたんだ。」

 

 「彼…??」

 「あぁ、ユングは男だ。あんな体をしてるけどね。事故で体を失ってあの体に魂だけが入ってるんだ。見掛けはあんなだけど、俺なんか足元にも及ばない程に強い筈だ。」

 

 そう言って、ポカンっと口を開けてままのハンターを後にして、偵察に戻った。

 しかし、…確かにそうだよな。

 ユング達だってハンターをしていたんだから、他のハンターと交流があったに違いない。

 そんな、ユングの旧知のハンターと合う事も、たまにあるんだろうな。

 あいつの歴史という訳だ。それもひとつの楽しみだと思う。

 

 少し長めの偵察から帰ってくると、もう夕方だ。

 直ぐに、サラミスとグレイさんが罠を仕掛けに出掛けていく。

 マチルダさん達が急いで夕食を作り始める中、俺とアルトさんは谷底で狩りをしているハンターの様子を見に行った。

 小さな焚火が2つ見える。双眼鏡で覗くと、笑いながら焚火を囲んでいる。今日もそれなりの獲物を手に入れたようだな。


 夕食を食べながら偵察の状況を話し合うと、食事の後にお茶を飲みながらアルトさんが通信器で状況を姉貴達に報告する。


 「アルトさん、ちょっと代わってくれないかな。」

 「む…、アキトはこれを使えるのか?」


 散々、海兵隊の皆さんにお世話になったからね。最後には通信兵として俺の隊に来い!とまで言われたからな。

 軍曹さんが、俺の書類をどうやって偽装するか悩んでいたのを覚えている。


 ホイっと、俺の前に出された通信器のレシーバーを方耳に当てて、電鍵を叩き始める。

 直ぐに帰って来た。この几帳面な信号の相手はミトだな。

 姉貴にユングの知り合いに出会った事と、安全な狩場を嬢ちゃん達に尋ねるように言い聞かせた事を伝えて貰う。

 了解との返事が返って来たので、その後はアルトさんに通信器を返した。


 「しかし、黒にもなっていないハンターがいたとは驚きだ。昔は最低でも2人はパーティにいたんだがな。」

 グレイさんがそんな事を言ってるけど、昔は…と言う言葉を使う辺りで年寄りじみてるぞ。

 

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