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#359 選抜試験

 


 荒地に整列した4千の亀兵隊は精鋭そのものに見える。

 大型の盾を組み合わせて作った演台に乗ると、全兵員が俺を注目するからちょっと緊張してきたぞ。

 下から俺を見上げているミーアちゃんをチラって見たら目が合った。心配そうに俺を見ていたぞ。…ここは頑張らねばな。

 

 しんと静まり返る亀兵隊を前に俺は話を始めた。

 「良く集まってくれた。連合王国の精鋭達よ。

 3年前のモスレム国境紛争時に編成した100人の亀兵隊は、その機動力と打撃力において並ぶものは無かった。

 その後のテーバイ戦、そしてカナトール戦においても絶大な戦功を上げている。

 それを鑑みて、連合王国は亀兵隊の充実を図る計画でいる。

 だが、亀兵隊は誰もが成れる訳ではない。亀兵隊には他の兵種と異なる資質が必要なのだ。

 これから、お前達の資質を改めて問う事になる。

 この資質は特殊なものだ。資質が無ければ例え王国で随一の武芸を誇る者でも。亀兵隊には成れない。

 試験は2段階に分けて行う。

 先ず、資質を問う。この試験は亀兵隊の理念である、機動力と打撃力を持っているかを調べるものだ。

 この試験に合格した者のみが亀兵隊としてガルパスに乗る事が出来る。

 次の試験は個人の技量を評価するものだ。

 技量を評価する事により、個人の適正に合った部隊に配属する。

 既に、教導隊の連中は全ての試験を済ませている。

 教導隊の指示に従って、試験を開始する。

 以上だ!」


 そう言って演台を飛下りると、直ぐにエイオスが台に上がる。

 「夜襲部隊から開始する。その後は襲撃第1中隊から順次だ。右手の白い旗が最初になる。終了したものは、赤い旗の会場に向かえ。

 見学は自由だが、試験を妨害する行為は許さん。場合によっては即刻資質無しと判断する。

 以上だ。…解散!」

 

 そう言ってエイオスは飛下りると、ガルパスに乗って白い旗を目指して走って行った。

 

 「さて、我等も見学しようぞ。エイオスが場所取りをしておろうからの…。」

 「お兄ちゃん。私達もやるんでしょ?」

 「あぁ、一応受けておいてくれ。問題は無いけど、資質と言った以上ね。」

 

 俺達も国王と一緒に白い旗を目指して歩く。アテーナイ様とサーシャちゃん達はガルパスを笛で呼び寄せて背中に乗って俺達の後に付いて来た。

                ・

                ・


 白い旗の下には小さな机と椅子を置いて、3人の教導隊の兵隊が座っている。

 机の上には例のストップウォッチモドキが3個と分厚いノートが載っていた。

 

 スタート地点は、2つの杭が20m程の距離を置いて立っている。その杭の間を白い粉を使って白線を引いていた。

 亀兵隊は邪魔をしないように、杭から数m距離を開けて並んで見ている。受験者は白線の後ろに下がってガルパスに乗りながら待機していた。


 俺達には旗の傍に椅子が10脚程用意されていた。

 そこに、国王達が着席したのを見て、エイオスが白線付近に足を運ぶ。


 「最初の試験は、いかに速くガルパスを駆れるかだ。…向こうになびいている旗は大きな杭に縛り付けてある。その杭を回ってこの場所に戻ってくる時間で判定する。

 杭と杭の距離は20M(3km)。俺達なら4分で掛けられる。これに5分以上掛かるようでは亀兵隊とは言えない。

 …良いか。5分以上掛かるなら亀兵隊を辞めてもらうぞ。」

 

 そう言ってエイオスが白線を離れると、最初の4人が現れる。サーシャちゃん、ミーアちゃんそれにリムちゃんとアテーナイ様だ。

 「我も一応、駆けてみるぞ。時間は計らずとも良い。我は亀兵隊ではないからの。」

 嬢ちゃん達3人は帽子に赤と白それに緑の布を巻いている。ガルパスに乗って革の上下を着ると皆同じに見えるからな。

 

 4匹のガルパスが白線に並んだ所を見計らって、エイオスが手旗信号のような旗を持って現れた。

 20m程前方でガルパスの進路を塞がぬように場所を見極めて発光式信号器で前方の旗に合図を送る。直ぐに返事が帰って来た。

 どうやら、折り返し点にも誰かがいるらしい。

 サーシャちゃん達に向かって頭の上で旗を数回振る。

 そして高く掲げた旗を一気に振り下ろした。

 

 4匹のガルパスが一斉に踊り出る。たちまち砂塵を上げて遠ざかって行った。

 時間の経過が気になるところだ。

 2分も経過せずに砂塵の向きが変わった。杭を回り込んでいるらしい。

 そして、砂塵がこちらに近付いてくる。


 「白線の後ろを空けておけ。サーシャ様達だ全力で突っ込んで来るぞ!」

 大声で誰かが注意するとたちまち白線の周囲に30m程の空間が出来た。

 そして、4匹のガルパスが殆ど同時に白線を越えて急停止する。それでも爪跡が10m以上続いていた。


 「時間は?」

 「3分40秒…4人殆ど同時です。」

 ミーアちゃんの質問に時計係が慌てて答える。

 それって、殆ど時速50km位で走ってる事になるぞ。

 

 エイオスが旗の方と短い通信を交わす。

 「全員杭を回っています。合格ですね。」

 サーシャちゃん達にそう告げると、いよいよ一般の亀兵隊達の番だ。

 

 再び、エイオスが白線まで足を運ぶ。

 「良いか。…これから10組ずつ走る事になる。…分隊毎と言う訳だ。時間で3種に分ける。

 上位は4分20秒以内。中位は4分40秒以内。そして下位は5分以内だ。

 5分以上この距離に時間を要する者は、亀兵隊たる資質が無い!」


 そして、試験が始まった。

 ぎりぎりの時間でどちらか迷う場合は上の評価にしているようだ。本人の努力で上げる事が出来るだろうとの親心だな。

 それでも、5分を越えた者には容赦が無かった。

 午後一杯を使って250人を試験し、脱落者が2人出たが、その時間は6分以上という情けないものだ。これではね…。


 王族は常に誰かが試験場にいてくれた。この選別に10日も掛かったのだから、ご苦労様と言う外はない。

 それでも、王族の立会いにより資質を問う試験が厳密なものだという印象を皆が持ってくれた。

 2日目からは、もう1つの試験が始まる。

 走るに問題が無くても、思った所に爆裂球を飛ばせなくては、やはりお荷物以外の何ものでもない。

 今の所こっちの方での脱落者はいないようだ。

                ・

                ・


 俺とアルトさん、それにディーの3人で相談しながら部隊編成を考えていると、大天幕にアテーナイ様が入って来た。

 「婿殿。邪魔をするぞ…。」

 そう言って、テーブルの前に座っているアルトさんの隣に腰を下す。

 「だいぶ、フルイが進んでおるな。先程エイオスに聞くと、今日迄で100人以上の者に、その場で除隊を指示したそうじゃ。王族の前での命令はそう簡単に覆せるものではない…。」

 「わざわざ臨席して頂き、有難うございます。」


 「何の、我等は全線に出ぬ者が殆どじゃ。出来る事は可能な限り協力致すつもりじゃ。

 それと、例の件、連合王国で承認されたぞ。

 亀兵隊の指揮官はミーアじゃ。そして、歩兵部隊はダリオンが勤める。その両者を束ねる総指揮官はサーシャが勤める。

 アキトとミズキを推す者もおったが、2人はサーシャ達の後見人であると言い包めておいた。

 後、3年は力になってくれ。…その後はサーシャ達に運命を委ねる。」


 やはり、サーシャちゃん達の就任は簡単ではなかったようだな。

 それでも、3年の期限付きであれば何とかなるだろう。ユング達はのんびりと東に向かっている。

 あいつの事だ。コンロンや日本の事も調べるに違いない。ロシアだって俺の知らない場所を知ってる可能性があるし、北米は調査場所に事欠かないだろう。

 …後、5年以上は大丈夫だと思うな。


 「ここは、我等とエイオス達教導隊に任せておけば良い。ミズキも士官候補生達に色々と教えているようじゃ。

 婿殿には大至急サーミストに行って貰いたい。そこで国王が工房の長と王国一の船大工を招集しておるはずじゃ。」

 例の潜水艦だな。小さいから潜水艇になるのかな。

 あの話をした時にかなり乗り気だったから、早速これはと言う者達を集めたに違いない。

 

 「そのような話であれば、直ぐにも出かけますが…、ここは任せて宜しいのですか?」

 「構わん。我も閑じゃ。…良い退屈しのぎにはなる。」

 

 俺達は一斉に席を立った。

 「お願いします!」

 そう言って、天幕を出る。

 そして笛を吹くとバジュラとアルタイルがやって来る。

 バジュラに飛び乗ると、直ぐ鞍にディーが乗り込んできた。

 

 「行くぞ!」

 アルトさんにそう告げると、俺達のガルパスは荒地を東に向かって砂塵を上げて駆け始めた。

 街道に出ると王都を目指す。そして王都が見えたところで南東に進路を変えた。未だ荒地が続いているから畑を荒らすことは無い。

 そんなところで日が暮れてくる。


 サーミストに向かう街道の休憩所で小さな焚火を作った。

 ディーに夕食のスープを任せて、俺は小さな天幕を張る。季節は冬だから薄い生地の天幕はタダの風除けにしかならないが、毛布で作った寝袋を持っている。これに包まって更に毛布を被れば何とか凌げるだろう。

 

 「ところで、我等がサーミストに向かっている事をミズキ達に伝えておらぬぞ。」

 アルトさんが食後のお茶を飲みながら俺に告げた。


 確かに伝えてなかったな。試験場から飛び出して来たし…。

 「ディー…。移動式通信機は持って来たか?」

 

 俺の言葉を聞いてディーがバッグから通信機を取り出した。

 早速、電鍵とアンテナを接続すると、アルトさんが電鍵を操作する。


 カタカタと電鍵を操作して、少し待つ。これを数回繰り返していると電鍵を止めて待っている時、電灯がチカチカと瞬いた。

 

 「誰か通信機を開いているようじゃな。返事が来たぞ。…これは、ミクじゃな。」

 そう言いながら、アルトさんはミクに姉貴に知らせるように電文を送っていた。


 結構便利だな。王都からそれ程離れていないから、通信機の操作を学んでいた双子がアルトさんの通信を受けたみたいだ。

 

 「兵舎からじゃった。近衛兵がミズキに伝えてくれると言っておった。」

 「結構便利に使えるね。」

 「じゃが、誰かが常に通信機の前にいなければこうもいかぬ。今回は運が良かったと見るべきじゃな。」


 それを考えると、早く大型の通信機による通信網を整備する必要があるな。

 大型の通信機の受信と送信の範囲は極めて広い。

 

 そんな事を考えながらテントの中で一夜を明かす。

 3人で寝袋を連結して寝たんだけど、ここで1つ発見した。

 ディーには体温がある。俺達より少し高い体温だから、くっ付いて寝ると暖かいぞ。


 

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